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第493話 小さな命

残敵掃討のため各魔人部隊の駐屯地へ補給にいく前に、俺達は未だ見ぬ東方地域の哨戒行動を行うことにした。そして最初にたどり着いた街に生存者は皆無と思われたが、子供の生存者がいたのだった。


《なんというか、哨戒行動をした途端に生存者を発見してしまうとはな。運が良いんだか悪いんだか。》


《ご主人様の天運の強さのではないかと思っております。》


《まあ、そういうことにしとこうか。》


俺は念話でシャーミリアに優しく諭されながらも、前を歩く子供たちについていく。森に到着すると子供達は恐る恐るといった感じで奥へと進んで行くのだった。その後ろにグレースとケイナがつき、俺が周辺を警戒するように最後尾を歩いていた。


《アナミス、残りの子供達は見つけたか?》


《それが気配はするのですが、どこにいるのかが分からないのです。》


《了解だ。いずれにせよ今からそこに向かう、マキーナと二人で待機をしていてくれ。》


《はい。魔獣が多いのでお気を付けください。》


《わかった。》


この森は魔獣が多いのか?そんなところに子供たちが居る?


《シャーミリア、念のため最大警戒だ。》


《は!》


《ファントムも戦闘が始まったら来い!》


《‥‥‥》


俺はシャーミリアとファントムに警戒態勢を取らせる。


もしかしたら普通の子供たちのように見えていてデモンの一種だったりする?まあシャーミリア達がデモンと人間を間違えることは無いと思うが‥‥もしかしたら子供たちがデモンに騙されているのかもしれない。とりあえず今のところは子供達におかしなところは見あたらなかった。俺が見ている先でもきょろきょろ周りを警戒しながら森の奥に進んでいく。


そして俺は木の上にアナミスとマキーナの気配を確認する。


《このあたりで間違いないか?》


《はい。》


アナミスが答えた。


「あの、ここです。」


一番背の高い子供が言う。しかし”ここ”と言われても、どこにも建物らしきものは見当たらなかった。


「建物が無いようだけど?」


ケイナが子供たちに聞くと、子供たちはおもむろに地面の枯れ葉をかき分け始める。すると枯れ葉の下から板のような物が出て来た。


「扉?」


ケイナが聞く。


「うん。ここは森で狩りをした時に、一時的に獲物を保管する場所だったんだ。」


その扉をあけて中をのぞくとハシゴがかけられていた。入り口から見た中はそこそこの広さがあり、獲物を投げ入れるようになっている場所だと推測される。


「こんな場所があったんだ。」


「冒険者は一度の狩で何体も狩るから。」


背の高い子供が言う。


なるほどな、狩った魔獣を放置していたら血に誘われて寄ってくるからな。きっと冒険者の知恵というものなんだろう。


子供たちがハシゴを降りていく。


「ラウルさん…どうします?」


「危険かな?」


「ちょっとまってください。」


ケイナの肩にいた小人が地面におりて、すうっと子供たちの後ろを追いかけて下に降りて行った。


「お姉さんたち!下に降りて来ていいですよ!」


下から子供たちが声をかけて来る。


「どうだケイナ?」


「‥‥‥。」


ケイナが集中するように目を瞑る。


「酷い…。」


「どうした?」


「子供たちが憔悴しきって…もう動かない子もいるみたい。」


「‥‥。」


「どうします?」


「入ろう。」


俺は軍用ランタンを召喚して灯りを点けた。


《ご主人様、危険ではございませんか?》


《いやシャーミリア。俺の勘が大丈夫だと言ってる。》


《私奴もファントムもいつでも突入できますので。》


《わかった、それとアナミスは俺達が進む間に、中の子供たちにデモンの干渉が無いか調べてくれ。》


《わかりました。》


そして俺達は子供たちの後を追いかけ、ハシゴを伝って地下に降りていく。


「異臭がしますね。」


「凄いな…。」


地下に降りたとたん物凄い異臭が漂っており、何かが腐ったような臭いがする。


《ラウル様。ここにデモン干渉を受けている者はおりません。》


《了解だ。》


アナミスの術で見てもデモンの干渉を受けている子供はいないようだった。


地下は石造りの床と壁に囲まれて魔獣の処理施設も含めた場所になっていた。俺のカンテラで照らしながら暗い奥に入っていくと、先に入って行った子供たちがランプに火を灯した。すると灯りに照らされた場所には子供たちが居た。


‥‥‥


「‥‥大丈夫か!」


俺は咄嗟に駆け寄ってしまう。


《ご主人様!》


無防備に子供たちに駆け寄った俺を心配して、シャーミリアが念話で制止しようとする。


そこにいた子供たちは横たえられ、息をするのもやっとの者、壁に背を預けてうつむいている者、ガイコツのようにやせ細った者、そして…体にウジが沸いている者もいた。俺は咄嗟に体にウジが沸いている子供を抱き上げ、ポケットから取り出したエリクサーを振りかけた。既に虫の息で1時間も生きられないような状態だ。


パアアアアアア


子供の体が光って一気に回復していく。ポロポロとウジが取れて体の傷が治っていくのだった。


俺の行動を見たグレースが、収納から一気にエリクサーを取り出した。それをグレースは他の子供に振りかける、ケイナも床のエリクサーを拾って寝ている子供に振りかけていくのだった。


パアアアアア

パアアアアア


あちこちで光を発しながら体を回復させていく子供達。10名ほどいた子供はどうにか命を取り留めて深く息をし始めるのだった。


「グレース!水だ。」


「はい。」


グレースが収納から数個の水瓶を取り出して、盃を一気に並べていく。


トクトクトク


それを受け取ったケイナが盃に水を注いでいくのだった。それを持って子供を抱き起し、盃を口に持って行くと弱弱しくも水を口に含んだ。グレースも他の子供に同じように水を飲ませていく。俺もその盃を取りウジが沸いていた子供に飲ませようとするが、息はするもののピクリとも動く気配は無かった。


5歳くらいか…既に生きる気力が無いんだな。


俺は水を自分の口に含んで、その汚れた唇に口を重ねて水を飲ませる。


コク


飲んだ…


「グレース!ポーション!」


「はい。」


俺はグレースからハイポーションをもらって体力回復を試みてみる。


パシャ


すると薄っすらと顔の色が戻って来た。俺は再び口に水を含んで子供の唇に口を合わせて水を飲ませる。


コクコク


俺が口を離すと子供の目がほんの少し開いた。


「大丈夫か?」


子供の返事は無いが、薄っすらと笑みを浮かべた。


「いいか!生きるって思え!お前は生きれる!俺達が助けに来た。」


俺がそうハッキリ言うと目を開いて俺をじっと見つめた。薄汚れたその顔からのぞく二つの瞳は、ほんの少しだけ光を灯したように見えた。


「これ、飲めるか?」


俺は子供の口にハイポーションの瓶の口をつける。


コク


飲んだ。すると顔、喉と薄っすらと色づいて来たのが分かる。


「グレース!フラスリアでもらったカスタードクリームがあるよな?」


「はいこれ。」


グレースが床に鍋を取り出した。ふたを開けて俺は人差し指でカスタードクリームを指で救い上げ、子供の口に突っ込んだ。


ピチャピチャ


俺の指についたカスタードクリームを舐め始めた。


「‥‥お、おい…し。」


「もっとあるぞ!その前にこれをもっと飲んでくれ。」


ハイポーションの瓶を口につけた。


クピクピクピクピクピ


全ての液体を飲み干してくれた。どうやらだいぶ復活して来たらしい。すると俺の腕から体を起こして、カスタードクリームの入った鍋をじっと見ている。


「食べろ。ただゆっくりだ、手に取ってゆっくり口に含め。」


「うん。」


そして子供は手でカスタードクリームをすくって食べ始めた。すると隣の子供がそれをじっと見ている。


「お前も食べろ、ゆっくりだぞ。」


子供は頷いて鍋に手を突っ込んだ。すると周りの子供たちも鍋に集まってクリームを舐め始めるのだった。


「みんな!クッキーもあるんだよ。」


一緒に来た背の高い子供が言う。


すると子供たちは一斉にその声の方を振り向いた。歩ける者は一斉にその子供の方に向かう。


「あ、あ。」


一番重傷だった、俺が見ていた子供はまだうまく歩けないようだった。


「グレース、もうひとつバスケットを出してくれ。」


「はい。」


そして俺はそのバスケットから、焼き立てのまま保存された菓子を一つ取って子供に渡す。


「ゆっくり溶かすように食え。」


子供はコクリと頷いてクッキーを食べ始める。それからしばらくは皆が一心不乱にお菓子を食べ続けた。これ以上の食料もあるにはあるが、まだ胃がビックリして受け付けない可能性もあるので、まずはお菓子に留めている。


「おねえちゃんはかみさま?」


ひとりの4歳くらいの子供が、グレースに向かって言う。


「おねえちゃんじゃないけど、神様だよ。」


「やっぱりかみさまだ。わたしのえほんにね、かみさまがでてくるの、おかしをいっぱいくれるの。だからわたししってたよ、かみさまだって。」


「ははそうかそうか。」


すると他の子も近寄ってきて言う。


「あのね、かみさま。ぼく、かみさまがぜったいくるってしってたよ。だってずっとおいのりをつづけていたんだもの。かみさまはおいのりをするとたすけてくれるんだよ。」


ぽろぽろぽろぽろ


グレースの目から大粒の涙があふれて来た。


「うん、ぐすっ。そうだよね、君が祈ってくぅれたからぁ。僕はここに来たんだ。」


「おかしいよ!かみさまがないちゃおかしいよ。」

「ほんとうだ!かみさまはなかないんだよ。」

「でもぼくたちのいのりをみつけてくれてありがとう!」

「やっぱりかみさまはいたんだね。」


「うん、うん…。」


グレースはもうぐちゃぐちゃだ。鼻提灯がパンッと破裂する。俺が横を見ているとケイナも涙を流していた。


だが泣いている場合じゃない。


「グレース、ケイナ!とにかくこの子達をここから連れ出そう。」


「…わ、わかりました。」

「は、はい。すぐに。」


そして俺は最初に知り合った領主の子供の所に行く。


「俺達は君たちを助けに来た。もっとたくさんの仲間がいるんだが、ここに連れて来ても良いかな?」


「はい。」


どうやら俺を信頼してくれたようだ。お菓子の力は偉大だ。


「ちょっとだけ見た目が怖い大男がいるけど、何もしないから大丈夫だよ。」


「…わ…わかった。」


「あとちょっぴり怖いお姉さんも来るかも。」


「だ、だいじょうぶ。」


《シャーミリア!ファントム!アナミス!マキーナ!すぐ来い!》


そして俺達の後ろにはすぐに4人の姿が現れた。


「わ!」

「なんで?」

「どこから?」


子供達が驚く。


それほど急に現れた。少なくとも子供達にはそう見えているはずだ。


「大丈夫!仲間だから。とにかく全員を助けたい、いいか?」


「う、うん!」


「全員を上に運べ!いいか!優しく運ぶんだぞ。」


「「「はい!」」」

「‥‥‥。」


そして魔人達は、思うように動けない子供たちを抱き上げて地上へと上がっていく。俺はボロボロで動けなかった5歳くらいの子供を抱き上げて地上へと登っていく。グレースとケイナも小さい子をおんぶして梯子を登るのだった。


全員が地上に集まったので、俺は号令をかけた。


「よし!とりあえず都市に戻る!」


「ま、まって!」

「いや!」

「こわい!」

「たべられちゃう!」


子供達が一斉にざわめきだした。


「食べられる?何か来るのか?」


「夜になると来るんです。」


「何が?」


「怪物が。」


「怪物がか‥‥。」


「だからダメです!」


「わかった。」


俺は直ぐにカララに念話を繋いだ。


《カララ。》


《はい。》


《エミルに、全員を乗せて都市の東側に来るように言ってくれるか?》


《かしこまりました。》


「みんな!今から俺達の味方である鉄の龍がここに来る!それに乗れば安心だ!美味しい食べ物だってまた食べられるぞ!」


「ほんと?」

「てつのりゅう?」

「それもかみさま?」


「そうだ、もう一人の神様だ。良い神様だぞ!」


子供達が緊張した目つきをしながらも、俺の言う事を信じてくれているようだ。そして俺達は子供達を連れて森から外に出てヘリの到着を待つことにした。


ヒュンヒュンヒュンヒュン


上空にはすぐにCH-53Kキングスタリオンの機影が現れた。


「龍だ!」


一番大きな子が叫ぶ。


「あれが、かみさま?」


一人の子供が聞く。


「ああ、神様が操っているんだよ。いまゆっくり降りて来るからね。」


キングスタリオンがその機体を揺らすことなく、安定した姿勢で地面に降り立った。


「よし!全員載せろ。」


俺が指示を出すと、魔人のみんながヘリに次々と子供たちを乗り込ませていく。緊張と不安からか震える子供もいるが強制的に連れ込んでいくのだった。全員が乗ったところでエミルに言う。


「出してくれ。」


「了解!」


ヘリは子供達を乗せて上空へと飛び立つ。怯えていた目をしていた子供たちは、飛ぶヘリに興奮したのかそれぞれに騒いでいるようだった。


「まずは西の草原にテント村を作る。」


「なら北西に向けて飛ぶよ。」


「頼む。」


俺がエミルに指示を出す。子供たちの怖さを少しでも軽減する為なのだろうか、いつのまにかケイナがヘリの中に小人をたくさん出していた。小人は子供達を撫でたり遊び相手をしていた。


しかし…子供たちを襲う奴って言うのは何なんだ?


残敵の可能性も否定出来ない為、俺は化物が現れるという夜を待つことにするのだった。

次話:第494話 化物の正体


いつもお読みいただきありがとうございます。

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