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第492話 戦争孤児?

俺達が息を殺して待っていると街道を歩いて来る人影が3つあった。しかし、その人影は俺が想像していたものでは無かった。


どう見ても…子供。


《ミリア、あれ子供じゃないか?》


念話で話す。


《ご主人様、そのようです。》


《なんで子供が?》


《いかがなさいましょう。》


《どうするか…。》


《捕えますか?》


《まて。接触すると発動する罠かもしれん。あいつらがなんなのかを見極めよう。》


《は!》


3人の子供で背丈の高いのは10歳から12歳くらい、もうひとりは8歳かそこらで、最後のひとりは3歳くらいの子だった。髪はぼさぼさなので性別が良く分からない、手には薬草のような物と根っこのようなものを持っていた。3人の子供は先ほど俺達が潜入した建物へと入って行った。


《入ってったな。》


《そのようです。》


《俺が接触を試みてみるか。》


《ご主人様!それはいけません!私が行ってまいります。》

《シャーミリア様が行くのであれば私が!》


二人が俺の身を案じて自分たちが接触すると言うが、うまく話を聞き出せるか心配だ。もっとルピアやセイラのように、ほっこり優しそうな感じだといいのだが、シャーミリアは金の巻き髪に赤い目のドレスを着た貴族風、マキーナはその従者のようないでたちのクールビューティだ。どう考えても警戒されそうな気がする。


《まあファントムは論外だしな。グレースとケイナを連れて来るか?》


《彼女らが危険ではありませんか?》


《いやシャーミリア、グレースは彼女じゃないぞ。》


《は、失礼しました。》


《とにかく、一旦ヘリに戻る。》


《は!》

《わかりました!》

《‥‥‥》


俺達は高速移動で都市外1キロほどに配置したヘリへと戻る。ヘリの側でエミル、ケイナ、グレース、オンジ、カララ、アナミスが待っていた。草原にドカンと巨大ヘリが置いてあるので目立つっちゃ目立つ。


「どうだったラウル?」


「ああエミル。人が居たんだが…。」


「人?」


「うん3人だけ。」


「3人だけ?」


「ああ。それも子供が3人だ。」


「子供か…どうするんだ?」


「接触を試みたいんだが、シャーミリアやマキーナだと怪しまれそうだからな、出来ればグレースとケイナにお願いしたいんだ。」


「ああ、かまいませんよ。」

「私も大丈夫です。」


「ただ一つだけ注意してほしい事があってね、俺がひっかかったような転移罠が人間に仕掛けてあるとも限らないんだ。絶対に相手に触れないようにしてほしいんだよ。」


「ああ!なるほど。それだと相手が急に飛びついてきませんかね?」


「グレース様、その時は私が確実に阻止します。」


「シャーミリアさんが護衛につくなら安心ですが、相手の子供は生きていられますかね?」


「十分に気を付けます。」


うーむ。それだと万が一があるな…と俺が思っていると、


「じゃあ俺が風の精霊術で、二人に触れられないように加護を与えるよ。」


エミルが言う。そんな便利な事が出来るのなら最初に言ってほしい。エミルが二人に手をかざして何やら唱えたと思ったらすぐに終わった。


「もう大丈夫。」


「本当ですか?」


グレースがケイナに触れようとする。


ビュッウ


「うわぁぁぁ」


グレースが突風と共に吹き飛ばされる。


「グレース!気を付けないと自分も飛ぶよ。」


「エミルさん。そ、それを先に言っていただけると嬉しかったです。」


草むらに転がるグレースが、七色の髪の毛を草まみれにしながら言う。


「いずれにせよ、これなら安心だ。グレース、俺も魔導鎧を脱ぐから収納を頼む。」


「わかりました。」


ガパン


俺がヴァルキリーから出るとグレースがスッと撫でる。するとヴァルキリーは収納へと消えていくのだった。俺が持っていた武器やシャーミリアとマキーナの機関銃も収納してもらう。


「じゃあ行くか。カララは引き続きみんなの護衛を頼むよ。」


「問題ございません。それよりもお気を付けください。」


カララが心配顔だ。


「大丈夫。間抜けに転移させられたりしないから。」


「はい。」


「それとアナミスは一緒に来てくれ、もしかしたらアナミス案件になりそうなんだ。」


「かしこまりました。」


「じゃあまた行って来る。」


俺達は再び街に向かって歩き出す。今度はグレースとケイナを連れているため、高速移動が出来ないので徒歩で行く事になる。15分ほどで都市の門にたどり着いた。


「ファントム!この市壁の上に乗ってあたりを警戒しろ。敵が来たらすぐに俺に知らせるんだ。」


「‥‥‥。」


シュッ


ファントムはジャンプして市壁の上に飛び乗った。


「じゃ行こう。」


「はい。」

「わかりました。」


グレースとケイナは恐る恐る歩き出した。人の居ない都市に入るのはやはり恐怖を感じるらしい、二人はあまり戦闘には慣れていないのでこれが普通の感覚だ。


「念のため俺から離れないように。」


グレースとケイナは俺から離れないように歩き出す。しばらく歩いて行くと先ほど確認した建物が見えて来た。


「シャーミリア、マキーナ、アナミスは離れたところで待機。」


「は!」

「かしこまりました。」

「わかりました。」


シャッ


シャーミリアとマキーナが消える。アナミスはそれほど早くは飛べないのでスゥっと浮かび上がって屋根の上に消えていく。


「グレース、あの家に子供たちが居るはずだ。俺も離れたところから見ているから、二人は一応これを持って行ってくれ。何かあればすぐに合図を。」


俺はワルサーPPSコンパクトハンドガンを召喚した。手のひらサイズのこの銃ならポケットに入るし持っていても目立たない。ただ、この二人に子供を撃つ事なんて出来ないだろうけど…。


スッ


グレースは収納庫にしまう。ケイナはポケットに入れた。


「じゃあ行ってきます。」


「くれぐれも気を付けて。」


「はーい。」


グレースとケイナは、ゆっくりと先ほど子供たちが入って行った家に近づいて行く。


コンコン


グレースがドアをノックした。


‥‥‥


シーンとしている。


グレースがこっちを見て首を傾げる。


《シャーミリア、子供達は中にいるか?》


《おります。》


俺はグレースに身振り手振りで、もう一度ノックしてみるようにジェスチャーする。


コンコン


・・・・・・・


やはり、出てこないようだ。


するとケイナがスッと手をさし出した。手の先に小さな光が宿ったと思ったら、小さな小さな小人が現れた。それをそっと床に置いてドアをほんの少しだけ開いた。小人たちはそのドアの隙間から中に入っていくのだった。


それから待つ事5分ほど。


カチャ


中からドアが開いた。


「やあ!こんにちは!怪しい者じゃないよ!」


グレースがめちゃめちゃ明るい声で、某テーマパークのネズミキャラの如く言う。


ガチャ


閉められた。


グレースが呆然と立っている。


コンコン


今度はケイナがドアをノックすると再び開いた。


「あのお姉さんたちは旅をしているの。この街の人たちはどこに行ったかわかる?」


ケイナが優しく声をかけると、一人の子供が外に出て来てドアを閉めた。10歳から12歳くらいの子供だった。どうやら中にいる子供を守っているようにドアを背にして立っている。


「お姉さんたちは悪魔?」


「ううん。違うわ、旅人よ。」


「連れて行かない?」


「連れて行かないわ。」


「どうしてここに来たの?」


「旅の途中で立ち寄ったの。そしたら街の人がひとりもいないのよ。でもあなた達がいるのを見つけたので声をかけてみたの、あなた達のような子は何人いるの?」


「私たちは3人だけ…。」


子供は口ごもるように言う。


「そうなの?あなたはこの街の子かしら?」


「うん。」


「みんな、いきなりいなくなっちゃったの?」


「悪魔が来てつれていっちゃった。」


「どこに?」


「わからない。」


すると隣にいたグレースがおもむろに、収納から焼き菓子の入ったバスケットを取り出す。


「ほら!食べていいよ!ははっ!」


子供を安心させようと必死だ。


「これは?」


「お菓子さ。」


「いいの?」


「いいよ。」


すると子供は床に置かれたバスケットを手に取って、ドアを開いて中に入って行ってしまった。しばらくするとまたドアが開く。今度は小さい子供二人も外に出て来た、その肩には小人が乗っていた。


「これ、お姉さんの仲間?」


小人を指さして言う。


「ええそうよ。」


「お姉さんは神様なの?」


「違うわ。私は神様じゃない。」


「じゃあ何なの?」


「ただの旅人。そしてこの小さな小人の友人よ。」


「入って。」


子供はいきなり心を許したのか手招きをしている。二人に対して中に入れと言うが…


ちょっとどうすっかな?


グレースがチラリと俺を振り向くので、俺がそっち行っていいか聞いてくれのジェスチャーをする。


「あのさ、仲間がいるんだけど呼んでいい?」


「仲間?」


そしてグレースとケイナがこっちを向くので、俺は建物の陰から姿を現した。しかしながら、俺の魔力に反応して転移魔法陣が発動しないかが気がかりだった。しかし姿を見せたからには子供たちの下へと行くしかない。


《ご主人様!》


《まあ、慌てるな。》


シャーミリアは目の前で俺が転移したのを見ているので、気が気じゃないようだった。


「や、やあ!」


「こんにちは。」


「挨拶が出来ていい子だね。」


「ありがとう。」


子供達3人が俺に気を取られている。意識を集中させているらしく周りに気が付くことがなさそうだった。


《アナミスやってくれ。》


念話で伝える。


《はい。》


アナミスが子供たちの意識外から、赤紫のガスを漂わせて意識を操作し始める。子供たちはトロンとしたうつろな目になって立っていた。


《どうだ?》


《デモンの干渉はございません。》


《3人とも?》


《はい。》


《了解だ。術を解いて離れていいぞ。》


《はい。》


とりあえずアナミスの姿を消させる。子供達からしたらアナミスの格好は、煽情的すぎて教育上よくない気がするので見せないようにしようと思う。


「俺も旅人なんだ。よろしくな。」


「はい。では中に入ってください。」


そして俺とグレースとケイナの3人は、家に入り込むのだった。


《デモン干渉は無いが、念のため警戒をしておく。シャーミリアとマキーナは集中だ。》


《かしこまりました。》

《わかりました。》


シャーミリアとマキーナが集中するのが伝わってくる。


家に入ると何かを煮たようなにおいがする。どうやら台所で何かをやっていたらしい。恐らくは料理でもしていたのかもしれない。


「あの‥‥。」


一番上の子供が言う。いまだに女の子か男の子か分からない。


「なあに?」


ケイナが答える。


「これ、食べていいの?」


グレースが取り出したフラスリアの絶品焼き菓子を指さしている。


「どうぞどうぞ。」


グレースが言うと、バスケットの上の布を開いて焼き菓子を1枚ずつ手に取った。


「「「いただきます。」」」


3人が声をそろえて言った。浮浪者のような恰好をしているがとても行儀がいい。


パクパク


「お、おいしい。」


一番上の子供が言う。あとの二人は無心に食べていた。


「おいしいでしょ?」


グレースが言う。


「うん。お姉さんが作ったの?」


「お、おねえ‥‥。あ、ああ、これは知り合いに作ってもらったんだよ。」


そりゃそうだ。グレースはどこからどう見ても可愛いらしい少女だ。不自然なのは七色に色分けされた髪の色だけ。とにかくお姉さんと言われていちいち動揺するのをやめろ。


「お姉さんたちはどこから来たの?」


「隣の国からさ。」


「盗賊とかいなかった?」


「いたかな。でも強ーい仲間がみんなやっつけてくれたよ。」


「仲間?」


「そう、仲間がいるんだ。」


すると一番上の子供がじっと黙り込む。しばらく考え込むようにしてから再び口を開いた。


「あの…。」


「なんだい?」


「実は私達にも仲間がいるんです。」


「仲間が?」


「街に戻って食べ物を作って、外の森にある隠れ家で食べるんです。」


「森で食べてるの?」


「はい。」


「森には魔獣がいるんじゃないの?」


「でも、あいつらが来ないのでいいんです。」


「アイツらって?」


「恐ろしいバケモノ。悪魔です。」


どうやらデモンの事を言っているらしい。


「森にはもっと人が居るってこと?」


「はい。」


「3人だけじゃないんだ?」


「はい。」


なんと…都市の外にまだ人が居るらしかった。もしかしたらフラスリアのトラメル達のように、襲撃から逃れて隠れていたのかもしれない。


「あのいいかな?」


俺が言う。


「はい。」


「何人くらいいるの?」


「10人。」


「そこに大人はいるのかい?」


するとフルフルと横に首を振るのだった。どうやら大人はいないらしい。


「子供だけ?」


「みんなが連れて行かれる前に逃げたんだ。私のおとうさんが逃がしてくれた。」


「おとうさん?」


「うん。」


「お父さんは騎士とか?」


「ううん。この街の領主。」


なんだって…


ボロボロのいでたちからは分からなかったが、この子はどうやらこの都市の領主の子供だったらしい。


「お父さんは?」


「街の人ごと消えた。」


「どうやって。」


「分からない。森から街に光が見えて、収まった頃に帰ろうと思ったらここに悪魔がたくさんいたんだ。」


「悪魔?」


「人間じゃなかった。」


「捕まらなかったんだ?」


「うん、見つからなかった。」


どうやらここの領主は命がけで子供たちを逃がしたあとで、デモン召喚の生贄になってしまったらしい。都市に人がひとりもいないのはそれで説明がついた。


「みんなの所に案内してくれるかい?」


「うん。これをみんなにも食べさせていい?」


子供が焼き菓子のバスケットを持っていう。


「ああいいよ!是非みんなにも食べてもらおう。」


グレースがニッコリ笑って答える。


「ありがとう!お姉さん!」


「お、おねえ・・・」


「じゃ、グレース行こうか?」


「は、はい。」


俺達は子供たちの後ろに続いて家を出る。そのまま街道を東へと向かい門の外に出るのだった。


《みんないるか?》


《おります。》

《はい。》

《ここに。》


《どうやら東の森に子供達が逃げ込んでいるらしい。マキーナとアナミスは先に行って子供達をさがし、デモンの干渉を受けていないか調べてくれ。》


《はい。》

《調べます。》


マキーナとアナミスの気配が遠ざかっていく。


《ミリアは万が一のために警戒態勢を取れ。》


《かしこまりました。》


《ファントムは俺達の視界外に待機。》


《‥‥‥》


そして俺達は都市の東門を抜けた。東門の外側は草原になっていて、草原の向こう側には森が見えている。どうやらあそこに子供達が逃げ込んでいるらしい。


陽は傾き夜になろうとしている。こんな夜をどうやって森で生き抜いてきたのだろうか?魔獣の鳴き声の聞こえる森は鬱蒼としていたのだった。

次話:第493話 小さな命


いつもお読みいただきありがとうございます。

おかげさまでブックマークもたくさんいただけております。

よろしければ★★★★★の評価をお願いします。


引き続きお楽しみ下さい。

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