第49話 巨大蛇を喰らう
旅客機みたいな太さの馬鹿でかい蛇が死んでいる。
長さはざっと見積もっても100メートルはある。
「ギレザム?この蛇どうしような?」
「はいラウル様、まず魔石を取りましょう。」
「魔石?なにそれ。」
「魔獣の核となるものです。いろいろな使い道がございます。」
「えっ?魔獣ってみな魔石を持ってんの?」
「魔獣なら持っています。」
「レッドベアーにもある?」
「ええ、あると思いますよ。」
え!そうだったのか!レッドベアーの解体のときもあったんだろうか?俺見てなかったから、マリアとミーシャで解体してもらったしな…後でマリアに聞かなきゃな。
「ファングラビットには?」
「小型の魔獣にもありますが、細かかったりもろくてすぐ砕けたりします。」
そうだったのか・・しらなかった。
「ガザム!ゴーグ達を呼び戻してくれ。マリアとミーシャも頼む。」
「は!」
ガザムは霧のように消えた。まるでニンジャだな・・
「レッドヴェノムバイパーとなれば素材としても超高級品となるはずです。」
「そうなのか?」
「はい、おそらくは。我も人間の相場などはよくわかっておりませんが、強い魔獣になればなるほどそのウロコや皮、肉は貴重なものですから。」
なるほどな。ギレザムは魔人だから人間の事はよくわからんか。それでもこんなバカでかい魔獣の肉ってどうやって運べばいいんだろう?
「とりあえず。魔石見せてよ。」
「では我がバイパーの魔石をとりだします。」
「え?すぐ場所わかるの?」
「おまかせ下さい。」
ギレザムはレッドヴェノムバイパーのウロコをはがして肉を削りだした。いままで俺は魔獣が誰かに解体されて、調理されたものしか見た事なかったけど、はじめて見る光景で好奇心にかられ見入ってしまう。
うわぁ・・グロいなあ・・内臓がでろんっとでてきた。次の瞬間、ギレザムが上半身をズボッとレッドヴェノムバイパーにつっこませる。
「うぇ!」
俺がひいているとさらに体を押し込んで腹に入ってしまった。
「ギレザム!?」
すると割れた腹からなにやら出てきた。
ズッ・・ズズ・・
少しずつ姿をあらわしていくそれは岩のようだった。ギレザムが押し出しているようだ。半分くらい出たところでゴロンと転がり出てきた。軽自動車より小さいくらいの紫色の岩だったが、内部から輝いており光を放っていた。
「これが魔石です。」
「これが・・。光ってる。」
「魔力が秘められております。」
紫色の馬鹿でかい宝石みたいな岩が、鼓動する様に輝いていた。
「凄いな。」
「ええ、森の主でしたからね。」
「珍しいんだろうな…」
「かなり。」
それよりも気になることがある・・・ギレザムが血と脂でぬとぬとのべちょべちょだ。生臭くなってしまった。彼はぬたぬたになりながら隣で凄いでしょう!みたいなドヤ顔をしている。
みんなが戻ってきた。
「これは…」
「!?」
「・・・・」
「わあー」
女性陣がそれぞれに感嘆の声をあげる。
「これがレッドヴェノムバイパーだって、でっかいだろ?」
皆に説明する。
「大きいなんてもんじゃないわね」
「こんなバケモノを倒すなんて…」
イオナとマリアが感想をのべているが、ミーシャは青い顔で座り込んだ腰がぬけたみたいだ。ミゼッタはイオナを乗せたままの狼ゴーグの背にしがみついている。
「ラウル様、レッドヴェノムバイパーの肉はうまいですよ!」
ゴーグがよだれをたらしていう。
「毒は大丈夫なのか?」
俺が聞くとガザムが答える。
「毒は頭と毒腺にしかありません。私が取り除きますのでご安心ください。」
「体は食っても大丈夫ってこと?」
「はい。」
俺は、そうなんだってみんな!って顔で女性陣を見渡すが…みんな、顔に斜線が入ったようになって
うへぇ〜
って感じになってた。
「あの…母さんにお願いがあるんだけど。」
「なあにラウル?」
「母さんの水魔法でギレザムを洗いたいんだけど、頼めるかな?」
「あらほんとだわ?ギレザム!ベトベトじゃない!」
ギレザムは、えっそうですか?みたいな顔をしている。
「我はなにも問題ございませんぞ!」
「いや、俺たちが問題あるんだよ」
「も、申し訳ありません。」
イオナがゴーグから降りる。ミゼッタも一瞬におりてゴーグの側に立つ。
「じゃあ、いまテント出すからこれに着替えろよ。」
俺は、フランス軍F1テントと陸上自衛隊の迷彩戦闘服II型を出した。
「ラウル様お気遣いありがとうございます!では!」
ギレザムは女性陣がいる前でガバッと服を脱ぎ出した。なんつーかそんなとこもイケメンなのな。マリアとミーシャはお年頃だぞ!
「おい、ギレザム。」
「はい?なんでしょう?」
「テントの意味ないだろ。」
「まあまあラウルいいんじゃない?」
イオナは堂々とギレザムを見ているが、マリアとミーシャは赤い顔をして、後ろを向いていた。ギレザムは腰布1枚になった。
「体は色以外、人間と変わらないんだな。ただ筋肉量はグラム父さんとは比較にならないほど多い。」
「凄いわ・・・」
「マリアとミーシャも見てみろよ!」
俺がふたりに促すと同時に答えた。
「「結構です!」」
いつの間にか人間に戻ってたゴーグがケタケタ笑っているが、ゴーグは首に鎧がぶら下がっているだけで、なんとフル○ンだった!下にもぶら下がっている。
「えっ!」
「きゃあ!」
ミゼッタが赤い顔をしていた?
「おいおい!」
「変身すると服が破れちゃって…」
「じゃあ、これ着ろよ」
俺はゴーグにも陸上自衛隊の戦闘服II型を出してやった。
「じゃあ」
イオナはギレザムに水を浴びせていた。汚れがおちてゆくが…水圧で腰布が外れた…おおう!デカいにも程がある。
「イオナ様洗っていただいてありがとうございました。」
洗い終わったギレザムが水気をきって、俺が出した陸上自衛隊の迷彩戦闘服を着てみた。オーガが自衛官の服を着るというシュールな絵面ではあるが、さまになっている。ゴーグも迷彩戦闘服を着たが何というか・・女自衛官のようにも見えるくらいかわいい。
「では我々で薪を採ってきます!ラウル様この布をお貸しください」
「ギル!早く行こう!」
着替え終わるか終わらないかのうちに急にオーガ二人がはりきりだしてせわしなく動く。迷彩服のオーガが二人、テントの布をもって森に突っ走っていった。
「行っちゃったよ。」
俺が言うと、マリアとミーシャがこっちを振り向いた。
「すみません・・取り乱しました。」
「‥‥」
マリアとミーシャが申し訳なさそうにしている。
しばらく待っているとギレザムとゴーグが山ほどの薪をテントにくるんで運んできた。相当な重量がありそうだが普通に走って戻ってくる。
「じゃあ、木を組み上げます!」
オーガ3人が器用に木を組み上げて焚火を準備を始めた。なんだかレッドヴェノムバイパーを食べることになったらすごく段取りが良いような気がするが・・気のせいか?
「なんか・・すごく段取りがいいな・・」
「そうね・・はりきってるわね。」
俺とイオナが唖然としながらつぶやく。
レッドヴェノムバイパーを見てみると、いつの間にかガザムの解体作業が進んでいて、ウロコを皿にしてまるで焼肉のように並べていた。
「ガザムまで・・」
着々と食事の準備が進んでいた。気が付いたらもう太陽は真上には無かった。
「もう午後か・・」
俺達は特に何もすることがなかったので、オーガ3人に任せて待っていた。
「それでは!マリア!火をくべてください!」
「は・・はい!」
ギレザムに言われマリアが火魔法で焚火に火をつけた。少しずつ火が大きくなりめらめらと燃えだした。
「マリア、ミーシャ!枝に肉をさして巻き付けてもらえるかい?」
ゴーグもやたらてきぱきと二人に指示を出している。
焚火の脇にどんどんレッドヴェノムバイパーの串をさして立てていくオーガ3人。香ばしいにおいが漂ってきた。
「んー!いい匂い!」
俺が言うと、食欲なさそうにしていた女性陣が話し出す。
「本当ね・・この香り嗅いだことはないわね。」
貴族のイオナも嗅いだことがないという。
「なんというか・・恥ずかしいですがお腹が鳴ってきました。」
マリアも顔を赤くして言っている。
「ほんと!おいしそうな匂い!」
ミーシャもさっきまでの青い顔が治り興味津々らしい。
「早く食べてみたい!」
ミゼッタは食べる気満々のようだ。
焼けて肉汁がたれている。すっごい良いにおいだ・・なんか嗅いだことあるな俺。なんだっけ?なんか食った事あるきがするんだが・・前世の記憶だな。
「そろそろ焼きあがります!ラウル様イオナ様!先にどうぞ!」
じっくり焼けたレッドヴェノムバイパーの肉が差し出された。俺とイオナは・・それを受け取り恐る恐る口に入れてみる。
!!!!!!!!!!
「うまい!」
「おいしいわ!!!」
これは!!!思い出した!間違いない白焼きだ!!!味はウナギの白焼き、でも食感はウナギじゃないな・・歯ごたえがあるけど嚙み切れる・・霜降り和牛の感じか!!うわあ・・かば焼きのタレで焼いて欲しい!ご飯が無性に恋しくなる!
「さあ、マリア、ミーシャ、ミゼッタも!」
ガザムが焼きあがったレッドヴェノムバイパーを差し出す。3人は串焼きをほおばる。
「わぁ!!おいしい!!初めて食べました!」
「本当だ!!何これ?食べた事ないわ!」
「わあ・・おいしい。ふわっと広がる脂の甘味と、この何とも言えない食感!唇でも噛み切れちゃう柔らかさ。こんなにおいしいお肉があったなんて!?」
マリアとミーシャは普通においしいという感想だったが、なぜかミゼッタが食レポのような感想になっていて、前世の記憶がある俺は吹き出しそうになってしまった。
オーガの3人も食べだした。
「やっぱうまいわ!」
ゴーグが第一声の感想を述べた。
「だな。十数年ぶりに食べたがやはりうまいな。」
ギレザムも相当うまそうに感想を言う。
「シビウが欲しい所だ。」
シビウ・・シビウって何だろう?
「あと酒もほしいな。」
ギレザムがいろいろ欲しいって贅沢をいいだした。
「うまい・・・」
ガザムは静かに食べている。
しばらく無言になってレッドヴェノムバイパーを食っていた。まるでカニを食べている時みたいにみんな黙々と食べていた。飲み物はイオナが出した水だが十分だった。それにしてもうまい・・こんなに上手いのが100メートルもある。
「そろそろお腹一杯だわ。」
「満足です!」
「ああ・・しあわせ・・」
「ぷぅーもう無理―」
しかし・・女子勢はそろそろ腹がいっぱいになってしまったみたいだ。
「え、もう?」
オーガ3人と俺はまだ食べ続けている。だっておいしいんだもーん!
しばらく食べ続けていると・・誰もやめない。なんか一番最初に辞めるのは嫌だな・・・なんて思い始めた。まだ食べ続けよう・・
「ギルいつもより食うね」
「そんなことは無いぞ我はいつもこのとおりだ。」
「ガザム?この二人はいつもこうなのか?」
「いや・・まあレッドヴェノムバイパーがうまいからでしょうなあ、私もまだまだ!ラウル様こそそろそろいっぱいじゃないですか?」
「いや、俺はまだまだいけるぞ!」
「ゴーグももう限界じゃないのか?」
「いえラウル様、俺はまだまだです。」
「俺も今始まったばかりといった感じだ。」
しばらく食い続けていたが・・も・・もう・・ギブアップだ。
「も・・もう無理」
俺が一番最初に脱落した。
「私も腹八分目がならいですからね。これでやめます。」
ガザムもだいぶ苦しそうだった。
「ははガザムだらしないぞ!我はまだまだ。」
「そうだよガザム、まだ食べ始めたばかりじゃないか!」
ギレザムとゴーグがなぜか食べ続けている。もう見ているだけで・・うっぷ・・となってきた。
二人の戦いはしばらく続いたが、ギレザムの手が止まってしまった。
「わ・・我はもうやめておこう、まだ物足りないがな・・」
「へーまだあんなにあるよ。」
「わ・・分かった我の負けだ。」
「勝った!」
いつの間にか勝負になっていたらしいが、ゴーグの勝利で決着がついた。
愚かな男の戦いは終わり、くつろぎタイムとなった。
「あの?よろしいでしょうか?」
マリアが唐突に声をかけてきた。
お腹一杯過ぎて頭の回らない俺たちがマリアのほうを振り向く。
「マリアどうした?」
「あれは・・なんです?」
あれ???指さす方向をみたらレッドヴェノムバイパーの巨大な魔石があった。
「あれはレッドヴェノムバイパーの魔石です。」
ギレザムが答えた。
「ええ!!あんなに大きな魔石があるのですか?」
マリアがビックリしている。そういえば俺もマリアに聞いてみたいことがあったんだ。
「そういえばマリアに聞きたかったんだ。レッドベアーに魔石はなかったのかい?」
「ありましたが、ラウル様のロケットで砕け散っておりました。」
そうだったのか・・だから何も言わなかったんだ。
「マリア。レッドベアーの魔石・・まだ少しはありますか?」
「それも・・夜ヴァンパイアに襲われたときに、馬車にそのまま置いてきてしまいました。」
「ああ、なるほど。そういえばそうだ・・あの時は無我夢中で逃げたんだ。」
「すみません。」
「いやいや、謝る事じゃないよ。ただ気になっただけだ。」
しかし踏んだり蹴ったりだ。夜ヴァンパイアに襲われてその昼にはレッドヴェノムバイパーに追いかけられて・・。しかし・・皆本当にこんな生活に慣れてきたんだな、よく生き残ってるよ。
「しかし・・ラウル様!あれほどの魔石であれば相当な財産となりますよ!」
「本当かい?」
マリアが魔石をすごい財産だという。するとイオナが付け加えるように言った。
「あれほどの魔石・・フォレスト家の全財産をなげうっても買えないわ。」
「ええ!母さん!そうなの?」
「そうね、王家ならば買えるかもしれませんが、それでも大臣たちとの話し合いのうえ買うような代物ね。」
そうなのか。ギレザムが貴重だって言ってたもんな・・だと財産をなんにも持っていない俺たちにとっては願ったりかなったりだな。
「ラウル様やはり我の言った通りでございましたな。これは相当のお宝です。」
「お、おお。ギレザム取り出してくれてありがとう!」
「お安い御用でございますよ。」
そんなに凄い物だったんだ。いったい何に使われるというのだろう?王様が欲しがるような莫大な富が得られる石ね・・とりあえず何とか運んでいくしかないな。
「ささ、ラウル様お近くで見てみてください!」
ギレザムに言われ、レッドヴェノムバイパーの魔石に近づいてみる。
「ほんとうに・・綺麗だ・・。このうねりが魔力なのか・・」
「相当の魔力が秘められておりますね。」
綺麗だな・・見た目はでっかい宝石だがそれだけではなく中が光っている。それが全部魔力だというのだ、魔力って目で見るとこんな感じなんだな・・・
初めてみる魔石は爛々と光っていた。
巨大魔石から俺の体に赤い光が流れこんできた。
これはいったい?