第487話 ルタン町の絶品料理 ~エミル視点~
まったくうちの隊長は人使いが荒い。
ラウルから言われたのは聖都の調査のための人員を連れてくる事だった。既に前世のヘリの飛行時間はゆうに超えている。いまは俺と、マキーナ、アナミス、セイラ、ケイナ、オージェ、トライトンと共にヘリの中にいる。既に山脈は超えたので安全だろうと皆がヘリに搭乗していた。
「山脈越えの際は助かりましたよ。」
俺はマキーナにお礼を言う。
「いえエミル様、むしろ翼竜などがいるだろうとシャーミリア様がおっしゃってましたので、装備をしていたおかげで楽に倒す事が出来ました。」
「そうだったんですね。シャーミリアさんは山脈の事を知っていたんですか。」
「はい。一度単独で飛んでいらっしゃいますので。」
「単独で…、シャーミリアさんってホント凄いですよね…」
「はい。」
マキーナは誇らしげに言う。
「シャーミリアは私達が存在するより、はるか昔からおりましたから、かなり能力が高いのです。」
「そうです。でも昔はあんなに優しい一面は無かったんですけどね。」
アナミスとセイラが言う。
「いつから変わったんです?」
「ラウル様のしもべとなった時からでしょうか、ラウル様はしもべではなく仲間とおっしゃいますが。」
「本当に、ラウル様の系譜に属してから、シャーミリアは自分をおさえられるようになったようです。」
アナミスとセイラがしみじみと言う。
「そうそう、アナミスさんセイラさん。俺は本気の彼女を知っていますよ。」
オージェが腕をさすりながら言う。
「あのときオージェ様がいなければ、彼女は単独でファートリア神聖国に突入していたでしょう。」
「そう言えばそうでしたね。その際は龍神様に多大な迷惑をおかけしました。」
「いやいや、腕一本怪我しただけだから。」
「その際は私も申し訳ございませんでした。」
マキーナがオージェにペコペコしている。
「いや、マキーナさんはシャーミリアさんにそう言われたら、体が動くようになっているんでしょう?仕方ありませんよ。」
「それでもオージェ様は、私たちを傷つけぬように制圧してくださいました。」
「あれはギリギリでしたよ。あのあとカララさん達が来てくださって助かったって感じです。」
オージェが首を斬られるようなゼスチャーをして肩をすくめてみせる。
「そう言えば、カララも古の時代から存在しているんですよ。」
「それもそうね。」
アナミスとセイラが続けた。俺はヘリを操縦しながらも彼女らの会話を聞いている。
「シャーミリアさんとカララさんってどういう関係なんですかね?」
「まあ…なんていうか、シャーミリアが暴走したらカララが止める感じでしょうか?」
「あと、シャーミリアと太刀打ちできると言ったらミノスくらいしかいないでしょうし。」
「なるほど。ラウルは凄い人に好意を寄せられているんだな。」
「ふふ、オージェ様。ラウル様に好意を寄せているのは、シャーミリアだけではありませんよ。」
アナミスの声に急に色気が漂い始める。彼女はサキュバスなので素でも、とても煽情的な雰囲気を持っている。
「セイラさんは?」
オージェが聞く。
「あの…私は…。」
セイラは少し口ごもる。
「違うんですか?」
オージェが聞く。
「龍神様には申し上げられません!」
「まあ…言いたくないなら無理に言わないけど。」
「は…はい。」
セイラは少し顔を赤くして、はにかむような顔をした。
ははーん。俺はピンときた。
「しかし、シャーミリアさんとファントムの攻撃は凄かった。俺が本気で戦ったのはこの世界に来てから始めてだったかもしれない。」
オージェがまだ戦闘の話を続けている。おいおい、オージェよ…今の空気感で気が付かないのか?この脳筋め。
「はいオージェ様。眷属になってかなりの年月が経ちましたが、本当に素晴らしい方です。」
マキーナが普通に答えた。
「そのようだね。」
ヘリの前方にはルタン町が見えて来た。既に出迎えの為に魔人達が草原の方に出ているようだった。
ヘリを着陸させてハッチを開くと魔人達が出迎えてくれた。
「お待ちしておりました。」
「ありがとう、えーっとダークエルフの…」
見たことがあるんだが名前が思い出せない。
「ダラムバにございます。」
「ごめんね失念してた。」
「いえ、魔人がたくさんいますし、覚えるのも一苦労だと思います。当然皆の名前を覚えるなど難しいかと思います。」
そしてダラムバの側に若いダークエルフがいた。
「そっちの君は…。」
「マリスです。」
「マリス君、これから少しの間滞在するけどよろしくね。」
「はい!‥‥あのラウル様は。」
「アイツは来てない。」
「そ、そうですか…」
マリスが残念そうにしている。
「エミル様すみません。コイツはラウル様に心酔しておりまして、もしかしたら来るんじゃないかと楽しみにしていたようです。」
ダラムバが言う。
「そうか、あいつは今ファートリアの聖都を調査していて忙しいんだ。代わりに俺達が来たんだよ。ガッカリさせてごめんな。」
「い!いえ!私はそんなことを思っておりません!もちろんエミル様オージェ様にもお会いしたく思っておりました!」
「ふふ。そうか。」
「俺にも会いたいなんて変わったやつだ。」
「い、いえ。」
マリスが赤い顔をして下を向く。
「これはこれは。」
「おお、パトス町長!」
オージェが言う。
すげえ…オージェは町長の名前覚えていたんだ。
「オージェ様が来るとお聞きしていましたので、美味しい料理をたくさんご用意しております!」
「本当ですか!それは嬉しいな!」
なるほど、オージェのやつはどうやら料理で町長の名前を憶えていたらしい…
「兵士たちはどこにいますかね?」
「はい、エミル様。今は開拓や狩り、薬品の素材などを回収しに全員が出ています。」
「いつ頃戻るかな?」
「陽が落ちるとともに村に戻り、食事をとってから宿舎に戻られると思いますよ。」
「そうかありがとう。」
「はい。ではよろしければ、それまで皆様でお食事を。」
「わかった。」
パトス町長の後を、俺とケイナ、オージェ、トライトン、マキーナ、アナミス、セイラがついていく。ダラムバとマリスも後ろからついて来ていた。
「ルタンはすっかり大都市になりましたね。」
「はいエミル様、魔人様達のおかげでかなり潤っております。グラドラムやラシュタル、シュラーデン、サナリア領、フラスリア領からの人の流入や、物資の流入なども増えました。出荷する物資もかなりの量になりまして、戦争前とは大違いの特需に活気づいております。」
「ここは分岐点だからね、かなりの物流があるだろうね。」
「はい、行き来の無かったシュラーデンやラシュタルの商人なども戻ってまいりました。」
「凄いな。」
そして俺達がパトス町長に連れられて来たのは、迎賓館のような立派な建物だった。
「凄い立派な建物だね。」
「エミル様やオージェ様のような特別な方が来た時にと、ラウル様から助言をいただいていましたので。」
ラウルは何だかんだと抜け目がないな。
「なるほどね。」
建物の中に入ると物凄くいい匂いがしてきた。
「おお!これこれ!この匂い!」
オージェがテンションを爆上げしている。
「おまえさ、俺達は飯を食う目的で来たわけじゃないぜ。」
「馬鹿、そりゃ知ってるよ。だがな、ここに来たら飯を食わせてもらえるって決まってんだ。」
「そうですぞエミル様。かなりの腕前の料理人も集まってきております。ぜひご堪能いただけましたらと思います。」
「わかりました。パトス町長お気遣い感謝します。」
うん。オージェじゃないけどちょっと楽しみになって来た。パトス町長はそそくさと部屋を出て厨房の方に行った。
「なんか到着早々、私達だけこんな贅沢していいのかしら?」
ケイナが言う。
「まあ、その分大変な仕事を任されてるんだ。少しぐらいはいいんじゃないの?」
「まあエミルが言うなら私は何も言わないけど。」
「アナミスさん達はよろしいですか?」
「私とセイラはよいのですが、マキーナは食べないですわ。」
「ああそうでした。マキーナさんすみません。」
「いえ、私は護衛としてついて来ておりますので、入り口に立たせていただきます。」
「悪いわねマキーナ。」
「いいわ。」
アナミスさんとマキーナさんは仲が良さそうだ。そう言えば飛行部隊として結構な頻度で一緒に戦ってたんだっけ。あと…殺戮天使のルピアさんか…。俺達の間ではルピアさんが一番戦闘が似合わないと結論づいている。あの天使のような少女がM240で敵を一斉掃射している姿を見ると、夢か現実なのかと疑いたくなる。
「失礼します!」
メイドさん達がぞろぞろと入って来た。その中には獣人のメイドも含まれている。
「獣人さん達も戻ってこれたんですね?」
するとメイドに続いて入って来たパトス町長が答えた。
「ええ、元通りとまではいかないですが、獣人達と人間は昔のように差別も無く暮らしております。」
「このメイドさん達は町長が雇っているんですか?」
「はい、人間も獣人も給金は全く同じです。」
「素晴らしいです。」
「いえいえ。当たり前です。」
パトス町長は、なかなか年期の入った笑いじわをさらに寄せて笑う。
「美味そうだ!」
オージェが運ばれて来た料理を見てゴクリと喉を鳴らした。
「どうぞどうぞ!来た料理からいただいてください!」
「ではいただきます!」
祈りも捧げないうちに、オージェが料理にがっつく。
「うまい!うまい!うまいぞ!これも!」
物凄い勢いで皿が空になって行った。
「相変わらず素晴らしい食べっぷりですなあ。料理は十分に用意してございますので、遠慮なく平らげてください!」
「そいつは嬉しい。」
オージェに続いて俺達も食う。
パクッ
うんまぁぁぁぁ!
「美味い!なんだこれ!」
「本当!エルフの里の料理より美味しいんじゃないかしら!」
俺とケイナが言う。
「最近では凄い食材や調味料がそろうようになりましてね、更にラウル様がどこかでとって来たという岩塩が流通しておりまして、それらを一流の料理人が腕を振るって作っております。」
凄かった…この世界に来て一番おいしい料理かもしれなかった。どうやら各地から魔人達が新鮮なまま食材を運んでくるようになったらしい。完全に食の改革が起きているようだった。
「こんなに変わるものなんですね。」
「シュラーデンからの兵士たちも凄く良くしてくださって、危険な森や洞窟に入っては食材を確保してくださるんです。」
「人間の兵士たちがねえ。」
「はい。」
「俺の鍛えた兵士達だ、そのくらいは当然だぞエミル。」
「まあ、そうだろうけど。危険な森や洞窟?大丈夫なのかね?」
俺が聞く。
「はい、エミル様。彼らはほとんど怪我をすることもなく、皆無事で帰って来られます。というよりも日に日に強くなっているように見受けられるのですが。」
「なるほどなるほど。俺が教えた鍛錬を怠ってはいないようだな。」
オージェが嬉しそうに言う。
「わいとやっているような鍛錬を?」
「バカ言え。トライトンとやっているような鍛錬を続けていたら、毎日死人がでるだろ。」
「ああ、それを聞いて安心しました。隙あり!」
パシッ
トライトンがどこからともなく槍を取り出し、神速の突きをオージェに突き入れるが、オージェは人差し指と中指でその突きを止めていた。
「うわぁぁ!」
パトス町長が椅子を転げ落ちる。
「未熟者めが!」
「えっえっえっ?」
「ああ、町長は初めてでしたね。コレ毎日何回も見る事になりますよ。」
「そ、そうなのですか?いきなり槍で突かれているんですか?」
「できるだけ油断しきったところにやるように言われてるんですわ。」
トライトンが言う。
うん…お前ら馬鹿だろ。
「そうなのですね。いきなり裏切りが起きたのかと思いました。」
「えっ?わいが龍神様を裏切る?ないない!あるわけないです。」
「そうなのかトライトン。」
「え、裏切っていいんですか?」
「本気ならやってみろ!」
「いえ、わいはまだまだ生きていたいです。」
「命拾いしたな、今の答え次第では首をとってやろうと思っていた。」
オージェが軽く殺気をたたきつける。
ガタガタガタガタ
パトス町長と室内にいるメイドたちが震えている。
「あ、あの!皆さん!今のはこいつらなりの冗談ですよ?」
俺が慌ててフォローした。
「じょ冗談ですと?心臓に悪いですぞ。」
「ああ、すみません!パトス町長!えっと、これお代わりいただけますか?」
オージェが空になったスープの皿を手に言う。
おまえ今の話し聞いてなかったな?
「お前、とにかく脳筋だよな。」
「バカ言え。俺は繊細だ。」
「はあ?お前が繊細?へそで茶が沸くぞ。」
「沸かしてみろ。」
「そのうちな。」
次々出される絶品料理にテンションが上がり、俺達は饒舌になるのだった。
強くなったと言われる人間達がどんなものなのかも興味がある。数千人の中からオージェが選りすぐりの50名を選別する事になっているので、料理の後に兵士達が帰ってくるのを宿舎で待つことになるのだった。
次話:第488話 龍神の指導と精霊神の加護 ~エミル視点~
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