第485話 巨大魔石の涙粒
俺達が聖都に戻ると魔人達の安全確認が終わっていた。
シャーミリア、カララ、マキーナ、アナミス、セイラ、ゴーグ、ラーズ、ウルドが俺の周りに集まっている。
他の魔人達と冒険者、日本人達は拠点づくりに精をだしていた。
「魔人は聖都に入るな。聖都地表部の調査要員はこちらで用意する。」
「「「「「「「は!」」」」」」
「じゃあエミルいいか?」
俺が言うとエミルが前に出る。
「えーと、これから聖都の調査要員をこちらに連れて来ようと思います。アナミスさんとセイラさんは私と一緒にルタン町へと向かってもらいます。」
「「はい。」」
二人が返事をする。
「マキーナは護衛につけ。」
俺が言う。
「かしこまりました。」
「ラウルよ、まだ国内にはデモンがいる可能性も高いんじゃないか?」
「うーんそうだな…。」
《確かにオージェの言うとおりだ。戦闘力的にはアナミスとセイラはそれほど強くはない。マキーナの戦闘力は高いが、飛翔タイプのデモンと接触したらヤバいか…。》
「ラウル。俺が高位精霊を召喚できるから、それほど心配しなくてもいいぞ。」
「エミルは、ここまでサイナス枢機卿を連れて飛んでこれたんだもんな。」
「そうだ。」
「ラウル、俺とトライトンもエミルに同行できるがどうする?」
「行ってくれるのか?」
「かまわんよ。俺が仕込んだ兵達だ、久しぶりに会って見るのもいいだろう。体がなまっていないか調べてやろうかね。」
そう、聖都地表の調査に駆り出すのは、シュラーデンでオージェに鍛え抜かれた上に、アナミスから洗脳を受けた精鋭の兵士達だ。
「助かる。それじゃあオージェが同行と言う事で、トライトンは一緒でいいのか?」
「わいは龍神様のお付きなので問題ありません。」
「じゃあよろしく頼む。」
俺がトライトンの手を握る。トライトンの手は大きく力強く握り返して来た。
「じゃ、オージェ。道中よろしくな。」
「ああエミル、大船に乗ったつもりでいていいぞ。」
「乗せるのは俺だけどな。」
「そういう意味じゃねえ。」
「冗談だ。」
いつもの淡々としたじゃれ合いをしている二人。俺との会話とも違う、二人の独特の間が絶妙で面白い。
「ではラウル様、行ってまいります。」
《アナミス、分かってるな?》
《はい、オージェ様には兵士の洗脳はバレないようにいたします。》
《オッケ。》
《セイラもいますし、兵士たちの癒しをさせて穏やかにさせましょう。》
《セイラも頼むぞ。》
《久々に人間に歌を聞かせるのですね。》
《えっと念のために言っておくけど、二人とも…聖都の調査要員を連れて来るだけだからな!くれぐれも食うなよ。》
《ふふっ。ラウル様分かっておりますよ!》
《私達を何だと思っているのです!》
サキュバスとセイレーンだと思ってる…
《う、うん!分かってるけどな!まあ冗談だ!》
《はい。》
《うふふ。》
大丈夫だよな…
《お二人がそのような事をしないように、私が見張っておりますわ。》
《そうだな!マキーナ、よろしく頼む。》
《あら?マキーナも言うようになったわね。》
《本当ねー》
《ラウル様の指示が守られなければ、私がシャーミリア様に叱られてしまいますので。》
《まあ…そうね。》
《冗談が冗談じゃなくなっちゃうわね。》
《あら…誰が冗談じゃなくなるって?》
キッっとシャーミリアがアナミスとセイラを睨む。
《怖いわ。》
《シャーミリア、冗談よ。》
《わ、分かってるわ!》
シャーミリアが顔を赤らめている。
「とにかく!マキーナ!上空ではお前とエミルの精霊頼みだ、みんなの護衛を頼むぞ。」
「は!」
「ケイナさん、エミルをよろしく頼む。」
「もちろんです。エミルは私がいないとダメですから。」
「け、ケイナ?お前は俺のかあさんか?」
「あら、いつからあなたのお母さんになったのかしら?私はあなたのお付きよ。」
「まったくだ、エミルは何を言ってるんだ。」
「や、やめてくれラウル、なんか俺がケイナを意識してるみたいじゃないか。」
「あら?やだ!エミル、私を意識してるのー?」
「とにかく!行くぞ!」
「はーい。」
もちゃもちゃとエミルとケイナのいちゃつきが終わり、CH-47Fチヌーク大型ヘリに乗り込んでいく。マキーナ、アナミス、セイラ、エミル、ケイナ、オージェ、トライトンがルタンの街へと向かって飛び立っていったのだった。
「よし、聖都地表の調査部隊はこれで何とかなりそうだな。」
「はい、ご主人様。」
「それじゃあ俺達は、聖都の地下の調査に潜るぞ。」
「かしこまりました。」
「シャーミリア、カララ、ゴーグ、ラーズと護衛用の兵5名が地下に潜る。モーリス先生、サイナス枢機卿、聖女リシェルには傷ひとつ付けるなよ。…あ、それとついでにケイシー神父もな。」
「「「「はい!」」」」
「そしてウルド、魔人達を率いて周辺の護衛を頼む。」
「はい。」
そして俺は魔人達を連れて、先生達がいるテントに向かった。
「先生。」
「む、いよいよかの?」
「はい。」
テントの中にはモーリス先生、サイナス枢機卿、聖女リシェル、ケイシー神父、カーライルがいた。
「どれ、それじゃあ巨大魔石とやらを見にいくかのう。」
「ええ、ぜひ検証をお願いします。」
「うむ。」
そして俺達は市壁の隠し扉から地下に通ずる通路へと入る。
「ラウルよ、どうしてこの扉の存在を知っとるのじゃ?」
サイナス枢機卿が聞く。
「アスモデウスが知ってました。」
「なるほどのう、この都市には脱出経路や隠し扉が設置してあるのじゃが、宗派などの勢力争いなどで逃げる為なのじゃよ。聖都などと神聖な感じなのじゃがな、血塗られた歴史の上にある都市なのじゃよ。アホらしいじゃろ?」
「まあ…そういう場所なんですね。」
「うむ。わしゃそれが嫌でラシュタルに、ずーっと出張しておったのじゃがな。」
「そういった理由だったんですか。」
「だっていやじゃもん。」
サイナス枢機卿が嫌そうに言う。
「なーにが、いやじゃもんじゃ!おぬしは年端もいかぬ子供か!」
「嫌なもんはいやじゃ。」
「教皇候補と言われた枢機卿が聞いてあきれるわい。」
「ほう。おぬしも大賢者などと言われておるが、いまだ悪ガキ冒険者のままではないか。」
「わ、悪ガキとは人聞きの悪い!わしゃ真面目に校長などやっとたわ!」
「校長先生がこんな冒険にワクワクするとはの、こっちこそ聞いてあきれるわい。」
「む、おぬし!巨大魔石に興味が無いというか?」
「もちろんあるわい!」
二人のいつものやり取りのおかげで緊張しなくて済む。
「ささ!とにかく地下へとまいりましょう。」
「そうじゃな。」
「いこういこう。」
二人は率先して隠し扉に入っていく。
「シャーミリア!ラーズ!ゴーグ!カララ!」
「は!心得ております。」
「御意!」
「はーい。」
「わかりました。」
「聖女リシェル、カーライル、ケイシー。行こうか。」
「はい。」
「行きましょう。」
「ドキドキしますね。」
そして5人の護衛の魔人達も一緒に隠し扉に入っていく。
中に入るとモーリス先生が光魔法であたりを照らしてくれるので、暗視ゴーグルなどが無くても安全に進むことができた。
「えっと、こっちです。」
ケイシー神父が言う。
「ん?こっちじゃないの?」
「ああ、こっちの方が近いんですよ。」
「詳しいな。」
「僕はこの地下道なら熟知しています。子供の頃からあちこち侵入して遊んでましたから。」
ケイシーなんかが頼りになっている!凄い!
「えっと、ラウル様。いまとっても失礼なこと考えてませんでした?」
「い、いや!何も考えてないぞ。」
「わかりました。とにかく皆さんついて来てください。」
「悪ガキの遊びも役に立つもんじゃの?」
サイナス枢機卿がポツリと言った。
魔人達に護衛されながら、ケイシー神父を先頭にして地下道を進んでいく。しばらくは無駄話をせずん黙々と歩くのだった。
「こっちです。」
「え!こんなところに扉が?」
ケイシーが通路の脇の岩の部分を引くと、がらりと開いて少しかがんで歩くような通路が出て来た。
先頭にシャーミリア、ラーズ、魔人3人、人間達をはさみ、俺、魔人2人、ゴーグ、カララの順に通路に入っていく。
「なんと…わしもこの通路は知らなんだ。」
サイナス枢機卿が言う。
「えっそうなんですか?」
「うむ、ケイシー。よくこんな場所知っとったな。」
「暇でしたから。」
「おぬしは…少しは勉強をせい。」
「あ…はい。」
ケイシーが叱られながらも奥へと進んでいく。
そして隠し扉のあった通路の反対側に出る。
「あれ?もうここ?」
下に降りる場所に続く通路に出た。ここを行けば確か…
「はや!」
俺はただただびっくりするのだった。ケイシーが選んだ道を来た結果、俺達が潜入した時よりずっと早いペースで地下に続く部屋にたどり着いた。
「では降りましょう。」
なんだろう…ケイシー神父だというのに、めっちゃ頼もしく感じる…
「ラウル様。もしかしたらいま物凄く失礼な事考えませんでした?」
「い、いや!ケイシー!そんなことは無いぞ。凄いなあと純粋に思っていたよ。」
「それならいいんですが。」
あと暗闇ではなく、常にモーリス先生の光魔法で照らされているため歩行速度も速かった。
「ファートリア聖都の地下にこんな場所があったとはのう。」
モーリス先生が言う。
「本来、部外者の立ち入れる場所ではないのじゃがな。既にファートリア聖都の民も信徒もおらず、形骸化したものじゃ。このような地下道に意味はないわ。」
「ふむ。しかしこんなに深い場所に一体なにがあるというのか。」
「教皇と取り巻きしか知らん場所じゃ。」
そして通路を進んでいくと、俺がインフェルノ対策で日本人を入れたストライカー装甲車が現れた。
「ラウルよ、ここで何かあったのかの?」
「インフェルノで焼かれそうになりました。」
「なるほどの。」
「日本人を連れていましたので、この中に避難させたんです。」
「ラウルがいなかったら骨も残らんじゃろうな。」
「少なくとも焼け死んではいたと思います。」
「じゃな。」
更に奥へと進んでいくと、いよいよあの部屋にたどり着いたのだった。
「‥‥。」
「‥‥。」
「‥‥。」
「‥‥。」
モーリス先生、枢機卿、聖女リシェル、ケイシー神父が絶句している。彼らが見上げているのは、驚くほど巨大な魔石の塊だった。巨大な魔石がなんの支えも無く浮かび、青い光を放ちながらゆっくりと回っている。
「先生。あれです。」
俺は巨大魔石の下に落ちている魔石粒を指さした。
「魔石粒か?」
「はい。」
皆で近づいて行くとかなりの量の魔石粒が転がっていた。
「この魔石が生み出したというのか?」
「そうです。」
「何と‥‥こんな巨大な魔石は、僕が侵入したころには浮かんで無かったですよ。」
「もともとはどんな感じだったんだ?」
「床一杯に魔法陣が刻まれていて、他には何もない不思議な空間でした。」
「そして今はその魔法陣は無いと…。」
「そのようですね。」
モーリス先生は地べたに四つん這いになり、魔石粒を見たり床をくまなく見つめたりしていた。
サイナス枢機卿は巨大魔石に手をかざして目を瞑っている。聖女リシェルはその隣で胸の前で腕をくみ祈りを捧げている。ケイシー神父は魔石粒を拾い上げて手でころがしていた。
「枢機卿。いかがでしょうか?」
「魂の流れを感じる…。」
「魂の流れですか?」
「ふむ。なんと悲しいものじゃろう…。」
「悲しいですか?」
すると今度は聖女リシェルが言う。
「この魔石…悲しんでおられます。そして…泣かれている?」
‥‥えっと。
「泣いているのですか?」
「そう感じます。」
すると魔石粒を眺めていたケイシー神父が言う。
「聖女リシェル。もしかして‥‥この魔石の粒は涙じゃないですかね?」
「ええ、そうかもしれません。」
「涙ですか?」
「はい。私にもそのように感じられます。」
どういうことだ?魔石が泣いている?いや…泣いているのは内包している人間か?エドハイラが泣いていると言う事なのだろうか?
「この者…おそらくいきなり連れて来られたのじゃろうな。」
「そう聞いてます。」
「その現実に憂慮しておるように感じる。」
聖職者たちは声をそろえて魂を感じるという。しかもこの魔石は泣いているらしい。
「ラウルよ。」
「はい、先生。」
「わしの推測じゃがな。」
「はい。」
「これは我々が見たことのない結界かもしれぬ。」
「魔石ではなくですか?」
「うーむ。魔石と結界の間と言ったところかのう‥‥。」
「だとすれば…最後の日本人の…。」
「能力かもしれん。」
なるほど。日本人にはそれぞれ特徴があった。
剣と魔力を駆使したハルト
体術と魔力を合わせたリョウジ
人間を自分の近衛兵として使役するマコ
魔獣を使役し透明化するカナデ。
そして自分の身を護るために、巨大な魔石結界を張るエドハイラと言う事なのだろうか?
しかしこの能力は謎が多い。この魔石粒が涙だとすれば、なぜその涙をのんだ人間が死ぬと光の柱が立つのか?次々に生み出されるとすれば、今も生きていて泣き続けていると言う事なのか?
ふと全員で浮かぶ魔石を眺めるのだった。
次話:第486話 偶像の魂
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