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第480話 聖都奪還パリピ祝賀会

聖都近郊の駐屯地に到着した後、俺とオージェ、エミル、グレースの転生組と、モーリス先生、サイナス枢機卿、聖女リシェル、カーライル、ケイシー神父が集まって話をしていた。いろいろな話をし、陽が落ちて夜の帳が下りてくる。


「魔人達の安全確認調査はまだ時間がかかりそうです。」


「ふむ。かなり広範囲にわたっての調査であろうからな、すぐには終わらないだろうよ。」


サイナス枢機卿が言う。


「明日以降は聖都周辺に詳しい人に参加してほしいのです。」


「ならば、リシェルとケイシーは聖都出身じゃし詳しいじゃろ。」


「かしこまりました。」

「はい!分かりました。」


「聖女リシェル、ケイシーよろしく頼むよ。」


「はいラウル様、僕はこの周辺でよくさぼって遊んでましたからね。」


「ケイシー神父!そのような事を堂々と発表する物ではありませんよ!」


ケイシーが聖女リシェルに叱られている。


「ふぉっふぉっふぉっ。ケイシーはさぞ悪ガキじゃったろうな。」


モーリス先生が言った。


「そ、そんなに悪くはありませんよ。」


「ケイシーよ、どの口が言うのじゃ。」


サイナス枢機卿にまで窘められている。


「子供の頃から知っている人にそう言われると何も言えませんよ。」


ケイシーがばつが悪そうに言う。


「ふふっ。」


カーライルが笑うと、誘われて俺達皆が笑ったのだった。


ケイシーの存在は救いだった。この絶望的な状況のファートリア聖都を前に、ほんの少しだけ嫌な事を忘れる事が出来る。


「ケイシーよ、おぬしの才能じゃな。」


モーリス先生がポツリという。


「才能ですか?」


「おお、才能じゃ。」


「あ、ありがとうございます。で良いんですかね?」


「いいんじゃ。」


皆が少し疲れたような表情で少し黙り込む。壊滅した首都は既に復旧困難な状況にあり、国内に巣くった残敵を掃討せねばならず、国として再び営みが始まるまでは相当な年月がかかるだろう。さらに国内には不可解な光の柱が乱立しており、それが何を意味するのかも分からないまま復興作業を続けなければならない。恐らくは壊滅したユークリットやグラドラムよりも復興は困難かもしれなかった。


「まずは腹ごしらえとかどうですかね?」


オージェが言う。


「そうですね!それがいい!」


グレースが言った。


「グレース、収納に出来立ての料理をしまってあるよな?」


「ああ!そうですね!ラウルさん、とうとうあれを食べる時が来ましたね。」


グレースは収納庫からテーブルを出して、さらにその上に食器を並べ始める。


「おお凄い物じゃのう!」


モーリス先生がグレースの収納に目を輝かせる。


「先生、グレースの収納はもっとすごいですよ!」


グレースはそのテーブルに鍋やパンを取り出していく。


「ん?その鍋は…煮えておるのか?」


「熱いですので気を付けてください。」


「なん…じゃと…。」


「どうです?先生!グレースの収納、ぜひ研究したいと思いませんか?」


「それはそうしたいが、なにがどうなっておるのか見当もつかんぞ。」


「確かに。虹蛇の本体に入る事が出来れば先生でも調査できると思うのですが、グレースはまだ本体の具現化が出来ないようなのです。」


「そうか…わしが生きている間に出来ればよいがの。」


モーリス先生が言う。


「が、がんばります!」


グレースが申し訳なさそうに言った。


「いやいや、神様に頑張らせるというのもなんじゃな。」


「僕自身は神様とか思ってないんですよね。」


「ああ、俺もだよ。」

「同じく。」


オージェとエミルが同意する。


そういえば俺も既に受体しているはずなんだが、神様だとかこれっぽっちも思っていない。武器好きのただの少年のままだ。いや…おっさんか。


あっというまにテーブルの上には料理が並び、湯気が立っていた。


「ここに来るまで、この料理たちに一度も手を付けていないんですよ。ここまでは魔獣を現地調達して対応してきたんです。」


「ラウルさんにファートリア聖都を解放したらパーティーをしようと言われていたんです。」


「フラスリアのトラメルに頼んで用意してもらったんですよ!」


俺とグレースのサプライズはどうだろう?


「お、おお。なんとありがたい事じゃろう。わしらは本当に良き隣人に救われているの。」


「はい、枢機卿。このような気遣いをされるような事は何もしておりませんのに。」


「彼らは、本当に良き心根の持ち主です。」


枢機卿とリシェル、カーライルが言う。お世辞ではなく本心からの言葉のようで、少し涙を溜めているようにも見える。聖女リシェルは間違いなく涙しているし。


「ささ!はやく食べましょう!」


とちょっと空気を読まずに手もみをしているのは、もちろんケイシー神父だ。


「だね。ケイシー、早く食おうぜ。」


俺が答える。


「ならもっとにぎやかな方がええじゃろ。マリアとカトリーヌとケイナ、オンジとトライトンも呼べばええ。」


「ですね!」


モーリス先生に言われて、俺は彼女らを迎えにいくために大型テントから外に出た。外は陽が落ちて少し気温が落ちてきたようだった。あたりは静かで虫の音が鳴っている。


「虫の音?」


聖都にデモン達が巣くっていた時には聞こえなかった虫の音が戻っていた。俺は虫の音がなる野を歩き、彼女らのテントへと向かう。


「カトリーヌ、マリア、ケイナ。」


「ラウル様。」

「はい。」

「はい。」


「一緒にご飯食べよう。」


「よろこんで!」

「ありがとうございます。」

「いいんですか?」


「いいよ。」


俺は彼女らとトライトンとオンジを呼び、来た道を戻るのだった。


「あれ?虫の音が聞こえます。」


カトリーヌが言う。


「そうなんだよ。昨日までは聞こえなかったように思えるんだ。」


「ええ、聞こえておりませんでした。」


「ラウル様、もしかしたら生き物が戻って来たのでしょうか?」


マリアも重ねて言う。


「もしかしたらそうなのかもしれないね。」


僅かな変化ではあるが、その虫の音に俺はささやかながらも復興の兆しを感じるのだった。


そしてみんながいるテントに戻ると皆が外に出ていた。


「みなで外に出て、どうしました?」


「虫の鳴き声が聞こえる。」


オージェが答えた。


「ああ。」


どうやら彼らも皆で外に出て虫の鳴き声を聞いていたらしかった。心を鎮めるような悲しくも美しい鈴のような虫の音が一斉に鳴り響いた。


「ラウルよ、復興は叶わんものかのう…。」


モーリス先生がポツリという。


「全てが解明すればあるいは。」


「そうじゃの。ならば、わしはこの老いさらばえた命を賭しても、様々な要因の解明をせねばならんな。」


モーリス先生が力強く言う。


「ふ、ジジイの命など賭けんでもええわい。」


「な、なんじゃと!ジジイにジジイと言われる筋合いはないわ!」


「笑止。ぬしゃあわしより年寄りじゃろが。」


「わしのほうが若かったと記憶しとるがの!」


「とうとうボケたか。」


「なんじゃ!ボケ老人扱いをジジイにされるとは思わなんだ。」


二人がいつもの調子でやり合っている。


「まあまあ、料理が冷めてしまいますよ!はやくみんなで食べましょう!この日の為にとっておいた料理です。」


「そ、そうじゃな!とにかく今日はこのぐらいにしておいてやるわい!」


「いつでも受けてたとうではないか!」


そんな二人の背中を俺とマリアが押してテントの中に押し込んだ。テントの中にはうまそうな匂いが漂い、鍋を開けるとふわりと湯気がたった。


そしてグレースはさらにとっておきのサプライズをテーブルに並べていた。


「おお!なんと酒じゃと?」


「本当じゃな!」


酒を見た二人がテンションを上げる。


「どうです!果実酒です!味は保証します。」


「やはり優秀な教え子は違うのう!」


モーリス先生が俺の頭をくしゃくしゃとなでる。


「ありがとうございます!」


皆の前に盃が並べられた。


「い、いえ。私は…。」


聖女リシェルが言う。


「なんじゃ?リシェルよ!このような時くらいええじゃろう!」


「モ、モーリス様…リシェル様には…。」


「カールよ!お前も飲むのじゃぞ!」


「わ、私もですか?」


「当然じゃ。」


「えっと私はお茶を。」


「カトリーヌ!ダメダメ!俺達も飲むんだから一緒に。」


「ラ、ラウル様。」


と、一通りパワハラ的に酒を勧めた後でそれぞれの盃に果実酒を注ぐ。


「まずはファートリア聖都陥落を祝って、で良いですかね?」


「おお、ラウル祝辞を述べよ。」


「私がですか?」


「立役者が言わんで誰が言うのじゃ?」


「わかりました。」


皆が俺を見ている。


「みんなの協力があってようやく聖都を奪還する事が出来ました。これから大変な事もあると思いますが、必ず復興すると信じています。そして何よりここにいる神を名乗るやつらが諦めておりません。もちろん私も諦めてなどおりません、諦める気などこれっぽっちもありません。この大陸を正常な状態に戻すまで、これからも皆で協力しあって復興させましょう。」


皆の顔に精気が戻って来たように思えた。


「それじゃあ!乾杯!」


俺が言う。


「「「「「「「乾杯!」」」」」」」


チン、チン、チン、チン


盃をかわし皆が果実酒を口に入れた。


「ぷっはぁぁぁぁ!うまいのう!」


「本当じゃな!ラウルのグラドラム凱旋以来じゃなかろうか?」


「そうじゃな!」


二人のおじいさんが上機嫌になってくれている。


「みなさん、酒はたーっぷりありますよ!」


グレースが言って、大きな酒樽をドンと出した。


「うほ!」


「なんと!」


モーリス先生と枢機卿のテンションがマックス盛り上がる。


そして皆が飲み始めたのだった。


料理を食べて酒を飲み、皆が嫌な事を忘れるように語り始めた。


しばらく時間が経った時…


「ら・う・る様ぁ。」


すっごい甘ったるい声で俺を呼ぶ声がする。


「か、カトリーヌ。どうしたんだい?」


「このぉ酒ぇとーっても美味しいですぅ。」


皆がいるというのにカトリーヌが俺の首に手を回した。


「お、おいおい!カティ!みんながいるんだけど。」


「だからなんなんですぅ。」


「カトリーヌ様!」


マリアがカトリーヌを俺から引き離す。


「あらぁ。マリアはやきもちかなぁ?」


「い、いえ!そう言う事ではございません。」


マリアが困っている。


「ふぉっふぉっふぉっ。良いではないか!カトリーヌのこんな一面を見たのは初めてじゃな!もっと飲ませよ!」


「せ、先生!」


「なんじゃ?マリアも飲みが足りないのではないか?」


「いえ!私はほどほどに。」


「飲め飲め。」


モーリス先生がトポトポとマリアの盃に酒を注いだ。


「ああ!そんななみなみに!」


「良いではないか。」


「そうだぞ!マリア!お前も飲んだ方がいいぞ!」


俺がモーリス先生を後押しする。


「ほれ!おぬしの主もそう言うとろうが。」


「わ、わかりました!」


マリアがくぴくぴと飲み始める。


「あー負けてられないわぁ。」


カトリーヌも飲んだ。


そしてテーブルの反対側でもおかしなことが起こっていた。


「枢機卿!」


「な、なんじゃ?」


「私のお酒が飲めないって言うんですか!?」


「り、リシェルよ、わしはそんなこと言うとらんぞ。」


「じゃあ早く盃を空けてください!」


「わ、わかったのじゃ!」


ぐびぐびぐび!


枢機卿が飲み干す。


「カール!あなたは何をボーっとして見ているのです!あなたも空けなさい!」


「り、リシェル様!飲みすぎでは?」


「あら?カール!飲みたくないからそんなことを言っているんですか?」


「も、もちろん飲みます。」


「ケイシー!何をあなたは食べてばかりいるのです!はやく盃を出しなさい!」


「え、ええ?僕もですか?」


「ほー、あなたは特別だと言いたいのですか?教皇様の甥だからと?」


「いえそんなことは言っておりません。」


「空けて。」


「は、はい!」


ぐびぐびぐびぐび。

ぐびぐびぐびぐび。


カーライルとケイシーが二人そろって盃を空ける。


どうやら聖女リシェルが酒奉行になってしまっているようだった。相当飲んでしまったようで目が座っていた。俺はそっとカーライルに近寄って聞く。


「ねえ、カーライル。リシェルって大量に飲むとああなるの?」


「いえ…私も初めて見ましたよ。」


うん…ひょっとして飲のませてはいけない人に飲ませてしまった?


「あら?ラウル様?」


ヤベッ見つかった!


「ラウル様もまだまだ飲みが足りないんじゃないでしょうか?」


「い、いや。飲んでるよ。」


「じゃあ空けてください。」


「え、えっと。」


「空けてください。」


ぐびぐびぐびぐび


トクトクトクトク


俺が飲んで注がれていると、カトリーヌがやって来た。


「あら?リシェル?ラウル様にお酌するのは私よ?」


「えー何をおっしゃってるのかしら?カティも飲みが足りないんじゃなくて?」


「あら?あなたも足りないんじゃなぁーい?」


二人の間に火花が散る。


ぐびぐびぐびぐび


リシェルが飲み干す。


「はい。」


ぐびぐびぐびぐび


カトリーヌが飲み干す。


「はい。」


二人はお互いの盃に酒を注ぎ始めた。


「あらあ?枢機卿の盃空いてます?」


今度はカトリーヌが言う。


「も、もちろん飲むぞ!」


ぐびぐびぐびぐび


「司令?モーリス司令?なにを他人のように座っているのです?」


「は?リシェルよ、わしは他人のようになぞ座っとらんよ?」


「空けてください。」


「も、もちろんじゃ!」


ぐびぐびぐびぐび。


そしてマリアがそそくさとケイナの所に逃げた。


「け、ケイナさん。どうしましょう。」


「あの…できるだけ大人しくしてればいいと思います。」


「は、はいそうします。」


二人が気配を消そうとした時だった。


「あら?マリア!はやくこっちに来て!」


カトリーヌから招集がかかった。気配を消そうとなんてするから見つかるんだ。


「は、はい。」


「ケイナさんも何一人で飲んでいるのかしら。こっちに来て頂戴。」


聖女リシェルから招集がかかった。


「は、はい。」


結局二人も彼女らの毒牙にかかってしまったのだった。


そこから離れて見ている者たちが居た。


「エミル…俺達はしずかーに飲もう。」


「そうだな。そうしたいな。」


「わいも静かに飲みたいですわ。」


「私もですな。」


オージェとエミル、トライトンとオンジが気配を消すようにしているのだった。


「ちょーっと!まったぁぁぁあ!」


その後ろで大声を出したのは…


グレースだった。


そうだ。コイツは前世の時から仕事以外では滅茶苦茶はっちゃけてしまうんだった。普段はプログラミングなど地味目の仕事をしているのに、飲みとなるとパリピになるやつだった。


「きょうもお酒がのめるのはぁぁぁあ!」


グレースが叫ぶ。


‥‥


始まってしまった。グレースの飲みコールが。すると飲みコールなんて知らないはずのカトリーヌと聖女リシェルが声を合わせて言う。


「今日もおさけが飲めるのはぁぁぁぁぁ!」

「きょ・う・もお酒がのめるのはぁぁぁ!」


「「「ラウルさんのおかげですぅ!!!!」」」


はあ!?


「そーれ!一気一気一気一気!」


分けも分からず二人が調子を合わせる。


「「一気一気一気一気!」」


皆は自分のペースで飲みたいからなのか、酒の手をとめて俺を凝視した。俺が犠牲になればいいとでも思っているのだろう。


ぐびぐびぐびぐびぐびびびびびび


「ぷっはぁぁぁぁ!」


「「「「「「おお―――――」」」」」」


パチパチパチパチ


頭きた。


「きょうもお・さ・けがのめるのはぁぁぁぁ!」


俺が言う。


「「「今日もお酒が飲めるのはぁぁぁあ?」」」


「エミルさんのおかげですぇう!!」


「はぁぁぁぁぁ?」


エミルが声を上げる。


「一気一気一気一気!」


「「「「「「一気一気一気一気!」」」」」」


「くそ!」


ぐびぐびぐびぐびぐびびびびびび


「ぷっはぁぁぁぁ!」


するとエミルが言う。


「今日もお酒がのめるのはぁぁぁ!?」


だいたい予想がついた。


「オージェさんのおかげです!」


「「「「「一気一気一気一気!」」」」」


ぐび!


オージェが飲むのは早かった。


「もう一杯!」


そして自ら盃を出して来た。


「「お強ーい!」」


パチパチパチパチ


カティと聖女リシェルの声がそろう。


そんな酒を水のように飲む飲み会は…なんと明け方まで続くのだった。


そして…俺達がパリピ飲みをしているあいだも魔人達はせっせと安全調査を続けるのだった。

次話:第481話 二日酔い解消と光柱の考察


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引き続きこの作品をお楽しみ下さい。

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