第471話 地下の戦闘
ファートリア聖都の地下はかなりの広さがあった。光は差し込んでおらず普通の人間では真っ暗闇を歩くことになる。3人の日本人にはENVG-B暗視ゴーグルを着けさせているで、問題なく俺達について来ることができていた。
《だけど俺でもこのくらいの暗闇になると見えないはずなんだけどな。》
《我が主。我が見やすくなるようにしております。》
ヴァルキリーが答える。
《えっ!ヴァルキリーそんなことできるの?》
《我が主の魔力を少々お借りしておりますが。》
《いい、いい。全然いいよ!ちっとも魔力消費してる気がしない。》
《ええ、ほんの微量で済んでおりますので。》
《前から出来てた?》
《いえ、我が主の召喚した暗視ゴーグルを解析しました。》
驚いた。
まさか俺が召喚した兵器を解析してこんなことができるようになるなんて…むしろENVG-B暗視ゴーグルより自然に見える分、見間違いなどをすることは無さそうだ。
《もしかしたら俺の分体だから、俺が召喚している武器が分かるのか?》
《先日デモンを大量に消滅させた後から、より一層強く感じられます。》
《なるほど、俺に連動してお前も進化したのかもしれないな。》
《そういう事なのでしょうか?かなりの理解が進んだのは事実です。》
《えっと他に何が出来そう?》
《兵器に合わせた鎧の形状変化が可能かもしれません。》
《ええ!てことは加工無しで兵器を取り付けられる?》
《そうなるかと。》
《マジか…。》
《マジです。》
まさか俺に合わせて分体も進化するとは思わなかった。
待てよ…もしかするとオージェやグレースやエミルにも、俺の進化と同等の何かがあるかもしれない。それをクリアすれば虹蛇を呼び出せたり、リヴィアサンを召喚出来たりするのかも。
《ラウル様。》
《どうしたシャーミリア。》
《どうやら地下には物理的な罠が見当たらないようです。》
《まあ本来は要人の逃亡用の通路だったり、戦争が起きた時の隠れ場所だったりするだろうからな。罠があったら危なくてしょうがないか。》
《引き続き調査はします。》
《わかった。》
そして俺は暗闇の通路をさらに奥へと進んでいく。カララも糸を使って鏡面薬で魔法陣罠が仕掛けてないか調べているが、どうやら俺達が進む通路には仕掛けは無いようだった。
進んでいくと4つの方向に分かれる十字路に出た。
「みんな止まってくれ。」
俺が言うと皆が足を止める。
《シャーミリア、戻ってこい。》
《は!》
シャーミリアは一瞬で俺のそばに現れる。
「カララ。巨大魔石がある方向はどっちだ?」
「右です。」
「そっちに向かうか。」
「そちらにはまだ、ある程度の数のデモンらしきものが残っております。」
「わかった。」
地下の爆破によってかなりの数のデモンを殺傷したが、巨大魔石を壊さないようその周辺は破壊せずにいた。そのためその付近にいたデモン達が生き残ったのだった。
辺りは大量の爆弾によって、壁が壊れている場所もあり瓦礫が散乱しているところもある。
「ラウル。どうするんだ?正面から行くのか?」
オージェが聞いて来る。
「どうするか…」
「ラウル様、ここを真っすぐ進んでから回り込むことも出来そうですが。」
カララが糸でつかんだ経路を言う。
「みんなはどう思う?デモンは俺達の侵入に気が付いていないと思うか?」
「ご主人様。我々がここまで侵入したことは、既に敵も認識している可能性があると推察されます。」
「カララとアナミスはどう思う。」
「私もシャーミリアと同じです。」
「そう思います。」
「そうか。」
デモンは俺達に奇襲をかけることなく、じっと身を潜めて待ち構えているって事か。既にバレてんなら小細工しても仕方がないかな。
「よし、ここで全員武装を整える。」
「了解。」
「かしこまりました。」
「「はい。」」
「あ、あの私たちはどうすればいいでしょう?」
「えっとハルト君だっけ?君は剣でやるかい?」
「えっ…いえ、銃の方が危なくないかなって…。」
「カナデさんと、マコさんはどうする?」
「あ、あの撃ったことが無いんですけど…。」
「わたしも。」
「うーん。じゃあ…ハルト君ごめんね。俺達に流れ弾が当たったら危ないし銃はまた今度。」
「わ、わかりました!」
「とりあえず剣で戦ってみて。」
「やるだけやってみます。」
「二人は何もできないかな?」
「えっと、私は騎士とかがいれば戦わせることができます。」
「マコさん。そりゃあ無理かな、ここに騎士とかいないから。」
「わかりました。」
「カナデさんは?ドラゴンとか魔獣とか使役するんだよね?」
「近くに居ればできます。」
「‥‥じゃあ無理かな。ネズミとかも全部爆弾で燃やし尽くしちゃったし。」
「あ、居たらの話なので忘れてください!」
「できればデモンを使役出来ないかな?」
「やった事ありません。」
「なら戦ってみて相手を使役できるんならやってみる?」
「ぜひやらせてください!」
「まあ出来たらね。」
「はい!」
そして俺は皆に変更する武器を配り始めた。
俺はM134ミニガンとバックパック
シャーミリアにはM134ミニガンとバックパック 手榴弾5個 氷手榴弾2個 炎手榴弾2個
アナミスにはM240中機関銃とバックパック 手榴弾5個 氷手榴弾2個 炎手榴弾2個
オージェにはM61バルカンとドラム缶のような弾倉
カララにはUZIサブマシンガンを100丁
ファントムにはM9A1火炎放射器を持たせ、基本は俺と同様に皆の弾丸の補給を担当する。
「すげえ…。」
ハルトが言う。
「まあな。」
「え、映画で見た事があります。」
「ああ、元の世界でって事ね。」
「そうです。」
「この戦いが終わったら銃の訓練させてやるよ。」
「本当ですか?」
「まあとにかく役に立つところを見せろ。」
「わかりました!」
うーん…俺が彼に指示を出してみて思うけど…
アナミスの術…めっちゃおっかない。全くの別人になっているぞ。直接触れ合ってみて分かるそのすごさに鳥肌がたつ。
「じゃ行くぞ。」
通路を右に曲がり先に進む。
「殿はファントムとアナミス、オージェとシャーミリアが先行してくれ。俺とカララは日本人を護衛しつつ進む。」
皆は返事をせずに俺が言ったフォーメーションをとった。
《通路の先にある扉の向こうに敵がおります。》
《オージェに伝えろ。》
先行しているシャーミリアがオージェに敵の存在を伝えた。
しかし俺達がその扉に到着する前に敵が動いた。扉を押し開けて大量のしもべがなだれ込んで来たのだった。しもべは3メートルもあるゴリラのような巨体に角を生やしたバケモノだった。口からは鋭い牙が見えている。
ガガガガガガガガガガガガ
キュィィィィィィィィィィ
ババババババババババババ
シャーミリアのM134ミニガンとオージェのバルカンが火を噴いた。
しもべたちは扉を出てこちらに走り寄る事も出来ずに、バラバラにちぎれ飛んでいくのだった。それでも次から次へと大量に湧き出て来るしもべに、容赦なく降り注ぐ銃弾。
《ラウル様、後ろからも。》
《アナミス!ファントム!やれ!》
パララララララララララララ
ゴォォォォォォォォォォォォ
アナミスがM240中機関銃を掃射し、ファントムが火炎放射器で次々来るしもべたちを焼き払う。
その隙をついて突破して来ようとするしもべは、カララが糸で操るUZIが縦横無人に飛び回りとどめを刺していた。
「お前たちはここを動くな!」
「「「はい!」」」
3人の日本人の声がそろう。
俺は武器の補充のために、オージェとシャーミリアの元へと向かう。カララは日本人たちの側に居ながら、前と後ろで撃ち漏らしてしまったわずかな敵を攻撃する。
「オージェ。残弾はどのくらいだ?」
「残20%ってとこか。」
「取り替える。」
俺はすぐさまM61バルカンと弾倉ごと召喚した。するとオージェはまだ弾丸が残っているM61を捨てて新しいのを拾って撃ち始める。シャーミリアのM134ミニガンもそろそろ切れそうなので、そのまま新しいのを召喚して渡してやる。
《ファントム!12.7㎜を取り出して地面に置け。アナミスはそっちを使うんだ。》
後方のファントムとアナミスに指示を出す。
《‥‥‥》
《かしこまりました。》
バババババババババババババ
12.7㎜重機関銃の音が混ざり始めた。
それからしばらくそこで動かずに応戦していたが、いつしか敵の進撃は終わり静かになった。
《全員集合!》
一度俺の居る場所へと全員が集まってくる。
「先へ進むぞ。」
俺の号令と共に扉に向かって歩いて行くのだった。
扉をくぐるとその先には広い空間が広がっていた。どうやらここは大聖堂の地下あたりに位置する場所らしい。広い空間から下が吹き抜けになっており周りに通路がある。何カ所か下に下りれそうな階段があるようだ。
「少し明るいな。」
「はいご主人様。壁面に光る魔石が埋め込まれているようです。」
「なるほどな。」
その広い空間のあちこちに緑色の魔石の光が輝いていた。おかげで全体が見渡す事が出来るようになった。
「ラウル様。例の魔石はこの空間のかなり下です。」
「下の階層か?」
「そうです。」
カララが糸で調べた場所はこのさらに下にあるらしい。
「俺が先に行く。」
オージェが言う。
「気をつけろ。」
「問題ない。」
「では私奴が上空から援護を。」
「ありがたい。」
オージェが階段を下りていくと、シャーミリアが吹き抜けの空間に飛び立って周辺を警戒する。
「よし、お前達もついてこい。」
「「「はい。」」」
オージェの後ろを俺、日本人3人、カララ、アナミス、ファントムの順番に付いて行く。
《ご主人様敵が来ます。》
シャーミリアから念話が来る。
「全員かまえ!」
すると下の方から、羽の生えたデモンとしもべが飛びあがって来た。
デモンの長は馬の顔に人間のような体とコウモリのような羽を生やした奴だった。しもべはガイコツの顔をした猿に羽が生えたやつだ。
「撃て!」
ガガガガガガガガガガガガ
ババババババババババババ
キュィィィィィィィィィィ
飛んできたやつはパタパタと落下していく。
俺はAT4ロケットランチャーを召喚して、向かって来るデモンに対して撃ち込んだ。
バシュー
スッ
避けやがった。
《カララ!あいつを押さえろ。》
《は!》
カララの蜘蛛の糸が音も無く伸びてデモンを拘束した。
「なっ!なんだ!」
いきなり動かなくなった体に驚いているようだ。
俺は再び、AT4ロケットランチャーを召喚して撃ち込む。
バシュー
ドゴン!
命中した。
爆発の煙の中から現れたのは胸から下を消滅させてしまったデモンだった。
「ぐあぁぁぁぁぁぁ!な、なんなんだ!その魔法は!」
まあ俺はそれに答える義理は無い。
すぐにM134ミニガンで馬頭に向けて掃射する。
「ぎゃぁぁぁぁぁぁぁ!」
散り散りになって分散されていく馬頭。
それからしばらくガイコツ頭の猿を撃ち落としているうちに、登ってくるしもべはいなくなった。
「よし!降りる前に一度集まれ!」
皆が集まったので直ぐに代わりの武器を召喚して渡す。
「ラウル。さっきから使い捨てみたいに武器を置いて来てるけど大丈夫なのか?」
「問題ない。俺の連結という能力下にあるから、配下以外の俺が認識していない者や許可していない者は使う事が出来ない。」
「そんな能力を持ってるのか?」
「ああ、俺も何度かレベルアップしてるのさ。」
「鍵付きなら大丈夫そうだな。」
「ああ大丈夫だ。戦闘が終わったら全てファントムが場所を覚えて回収する。」
「わかった。」
そして再び俺達は地下へと下りて行くのだった。
地下からは飄々と風が吹きあがってくるのだった。
次話:第472話 地下でオーブンの蒸し焼き
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