第470話 無様な逃走 ~アヴドゥル視点~
西に居座る敵が国内に侵攻して来た場合、各所に配備しているデモンの集団が敵を排除する予定になっている。かなり大量なデモンを召喚しているので、おそらくは聖都まで敵は侵入して来れないとカラス頭は言っていた。
そして最初に接触したのは盗賊が引き連れて来たゴーレムの集団。これが敵なのかどうか分からなかったが、かなりの強さのドラゴンが1匹やられたらしい。女の力で姿を消したドラゴンがあっさりと殺されたという一報に俺はうろたえる。
「そんでよ。その敵はいったいどこに行ったんだよ!」
「山を越えてデモンの居る都市の先にある、ニホンジン達が率いる兵士たちの駐屯地に現れたらしいな。どうやらデモンの都市を迂回して現れたらしい。」
「そんでどうなったんだよ。」
「石で出来たデクのぼうを破壊したらしいぞ。」
「ふーん。やっぱあいつらはすげえんだな。」
「力はあるだろうな。」
「せいぜい役に立てよって感じだな。」
「ふふふ。もちろん悪魔を成敗するために躍起になっているだろうさ。」
「で、他の日本人は何してんだ?」
「キチョウカナデはドラゴンを一匹やられて後方に下がった。ホウジョウマコは恐らくあちこちで噂をばらまいて村人をくぎ付けにしてるはずだ。」
「あの魔法石の粒がもっと大量に出りゃいいんだがな。大量の人間に飲ませてどうなるか見てみたい。」
「そう言っても仕方あるまい。あの魔石はそうそう大量には生まれんようだ。」
「まったくムカつくぜ。」
まあいい。
俺はその間も集めて来た人間を餌に使って、この聖都をデモンで埋め尽くす仕事をすればいいだけだ。あいにくこの都市の地下には広大な広さの空間があるからな、そこにデモンを大量に召喚して溜めておけばいい。
そうしてしばらく俺は、人間を大量に餌にしてデモンを召喚する日々が続いた。あくる日もあくる日もデモンを召喚し続ける。
それからしばらくの間は何も動きが無かった。
ある日…
「敵が侵攻してきた。」
カラス頭が言う。
「おうマルヴァズールよ、本当に大丈夫なんだろうな?」
「過去これだけのデモンを呼び出して戦った事など前例がない。むろん赤子の手を捻るようなものであろう。」
「本当かねぇ?」
「かなり強い力を持つものも呼び寄せているからな。また前線でやられてしまったら、ここから転移魔法で補充できる強みが我らにはある。」
「まあな。」
聖都と前線を転移魔法陣でつないでいるため、いざという時はここからデモンを送ってやればいい。
だが…
それから数日後。
カラス頭の言う通りにはならなかった。
「おい!どういうことだよ!」
俺がカラス頭に詰め寄る。
「分からん。大魔法にも耐えうるデモンがいたはずだが…。」
「だけどメルカートとか言う都市は制圧されたんじゃねえのか?」
「不可解な事が起きてるようだ。」
「不可解な事?おいおい!お前腑抜けてんのか?どう考えても不味いだろ?」
「黙れ。お前の馬鹿な頭では分からんのだ。」
まあ俺よりカラス頭の方が頭がいいのは事実だ。俺が何を言ったところでコイツよりいい考えなんて浮かばないからな。だが一気に北の大陸を制覇した時とは全く違う。どの地域でも勝利が無いのはいったいどういう事だ?
「グラドラムで負けてから、俺達に勝ちがないぞ。本当に大丈夫なんだろうな?」
「お前はただ我の言う事を聞いていれば良いのだ。」
「くそ!とにかく俺はデモンを大量に呼ぶからな、お前はお前の仕事をしろよ!」
「ふん。言われんでも!」
カラスがいつにも無く冷静さを欠いているようだ。コイツは本当は馬鹿なんじゃねえのか?そう思っても俺はろくな事が思いつかず、毎日ひたすら女を抱き人を餌にしデモンを呼び続けた。
それからまたしばらく日がたち、カラス頭は俺とあまり話をしなくなった。
いったい何だってんだ!俺は俺の仕事をきちんとしているのに、あいつはいったい何をやっているんだ?
前線の情報が入らなくなってきたのでカラス頭に問い詰めた。
「おい!あれからどうなってんだよ!敵は仕留めたのか?」
「‥‥。」
「黙ってないで言え!」
「あまりうまくはいっていない。」
「はあ!?」
「西のニホンジン部隊から連絡が途絶えた。戦闘になったようだがその後の状態がようわからん。」
「なんだよそれ。」
「それと北の街道で向かえ討つために送った、デモンと人間の兵士達が戦闘に入った後から連絡がつかないようだ。」
「おいおい!おまえ馬鹿じゃねえのか?」
「馬鹿だと!」
「逃げなきゃダメだろ!どう考えてもやられてんじゃねえか!」
「まだ情報がとれておらんぞ。」
「はあ?ここに敵が来たらどうすんだよ!」
「大丈夫だ、警戒態勢は万全にしておる。魔獣兵に見張らせておるし、デモンも大量におるのだ!ここで万が一はないわ!」
こいつは何を言ってるんだ?だって前線の軍隊と連絡が取れねえんだろ?いつ西から敵が襲って来るか分からんだろうが!
「とにかくなんか手を打たねえとダメだろうが!」
「も、もちろんだ!カオスドラゴンの準備がある!ここに呼び寄せたデモンがしもべと人間を糧にして、カオスドラゴンを呼び寄せる手筈になっておる!」
「カオスドラゴンとやらは強いんだろうな?」
「おお!1匹で国が滅ぶわ!」
「わかった。とにかく逃げられる準備だけはしておくぞ!マルヴァズールはデモン達の統率を頼む。」
「分かっておる!」
「とにかく連絡が取れなくなったのはいつからだ!」
「お、一昨日?昨日だ!」
なんだ?不確かなんじゃねえかよ!
「とにかく!ここに敵が来るまではまだ時間があるな!」
俺とカラス頭が怒鳴り合いをしている時だった。
カっカッカッカッカッ!
コンコン!
「あの…誰かがいらっしゃったようです。」
俺が侍らせている女がドアのところで言う。
「だれだ?」
「失礼します!何者かが翼竜を打ち落とし、都市の中に巨大な石のバケモノが現れました!」
「なに!」
「どういうことだ?」
俺とカラス頭の声がそろう。
「わかりません!とにかく石のバケモノが強い魔法であたりの兵士を殺しまくっております。」
「魔導士部隊と兵士を向かわせて破壊しろ!」
「それが…。」
「なんだ?その数が数十体もおりまして。」
「す、数十体?そんなにか?」
「魔法使いもどんどん殺されており、石のバケモノを仕留め損ねております!」
「デモン部隊を向かわせろ!」
「は!」
兵士は俺達の指示を聞いて走り去る。
「おい!逃げるぞ!」
俺が言う。
「もうか?」
「あたりまえだ!とりあえず地下に潜るぞ!」
「しかたあるまいな。」
そして俺は、逃げる事を知ってしまった侍らせた女たちを見る。
「こいつら俺が逃げた事を言いふらしそうだな。」
「ふむ。」
「ま、まさか!誰にも言いません。」
そして俺はそう言った女の首をナイフで斬る。
「あ、ああ!お許しください!」
もう一人の女も言うが躊躇なく殺した。
そして俺とマルヴァズールが外に出ると、衛兵二人がいきなり出て来た俺にビックリする。
「おい!敵が来てるってのに何やってやがる!いますぐ全隊に指示しろ!礼拝堂を死守するように言うんだ!」
「そうだぞ!わかっとるな?我らは最終防衛の準備をする。」
「「は!」」
衛兵2人は急いで廊下の先へと走っていくのだった。
「まったく気が聞かねえ奴らだな!死んで役目を果たせってんだ!」
俺は叫んだ。
そして俺とカラス頭は礼拝堂の地下の最深部にある、あの魔石に包まれた女の所に行く。
「とにかくさらに奥にいくぞ!」
「こ、この女はどうするのだ?」
「こんなもんおいて行くしかねえだろ。」
「我の計画が。」
「死んだら終わりだろうが!」
カラス頭はアホなのだろうか?こんな女などどうでもいい。死んだらこれから大量に殺す計画がおじゃんになるだろ!
「ま、まて!とにかく今集められるだけの、生まれた魔石を拾っていくぞ。」
マルヴァズールが言う。
「そんなもん!‥‥いやわかった。」
確かに俺は、この光の柱を作る魔石の効果をまだ見届けていない。コイツを人間に食わせて死ねば光の柱ができるんだが、その後どうなるのかどうしても知りたかった。
俺とカラス頭は石ころを集めて回る。
ドン!
ズドン!
ドガン!
地上では大規模な戦闘が起きているようだった。だが前線に出るのなんてまっぴらだ、あいつらの中には現代兵器を持っているヤツだっているんだからな。
とにかく俺とカラス頭は必死に魔石の粒を拾い集めて、置いてあった袋に詰め込んでいく。
「マルヴァズールよぅ。」
「なんだ?」
「先に送り込んでいるあいつらは、きちんと準備してるんだろうな?」
「もちろんだ。我が魅了した奴らは既にあちらで準備しておるわ。」
「ふん。とりあえず早く集めろよ。」
「言われんでもやるわ!」
この地下にはまだまだデモンがいる、万が一敵が侵入してきたとしても俺達が逃げる間はこいつらが敵をひきつけているだろう。
あらかた魔石を拾い集め俺達はさらに奥の部屋へとむかう。俺は出口で振り返り魔石に取り込まれた女を見上げる。
「くっそ、犯しまくって殺してやる予定が狂っちまったじゃねえか!」
「女などいくらでもおるであろう?」
「なんかこの女…気になるんだよ!とにかく俺がこの手で犯して殺したかった。殺してあげたかったと言った方がいいかもしれん。」
「なんだその殺してあげたかったって言うのは?」
「けっ!お前には俺の気持ちが分かるわけねえだろ。」
「お前は全くおもしろい。」
「うるせえ!今はそれどころじゃねえだろ!」
「ふむ。」
そして俺とマルヴァズールはさらに奥の部屋へと向かう。そこには脱出用にあらかじめ設定してあった転移魔法陣が刻まれていた。
まさか…これを使う事になるとはな…
「よし、発動させるぞ。」
「ふむ。」
「ここのデモン達で敵が抹殺出来たら戻ってくるんだがな。」
「まだあの女が気になっているのか?」
「ほっとけ!」
そして俺はそこに刻んでいた緊急脱出用の魔法陣へと魔力を流し込んでいくのだった。
「へっ!向こうにもデモンを大量に召喚できる人間がストックされているんだ!向こうに行ったらじゃんじゃん送り込んでやるぜ!」
すると入り口の方から一匹のデモンが入って来た。頭に角を生やしてコウモリみてえな羽を生やした、スッキリした顔をした王様みてえなやつだ。
「はは!お前たちは尻尾をまいて逃げるのか?」
「アスモデウスよ、逃げるのではないわ!向こうに着いたらこちらに援軍を送る予定よ!」
「援軍?そんなもんがいるのかね?」
「ねっ念のためだ!お前たちが敵を迎撃さえすればすぐに戻ってくる!」
「まあ臆病者のお前らしい。だがマルヴァズールよ我らの力を見くびるな。」
「も、もちろんだ!お前たちの力を見くびってなどおらぬ。」
「ふん!まあいい。めざわりだ消えろ。」
そしてカラス頭が俺を見て頷く。
「じゃあな、必死で敵を殺せよ。」
「下等な人間に指図などされぬわ!」
アスモデウスとか言うデモンが生意気なことを言うが、俺は直ぐに転送を発動させるのだった。
目の前が白くなり次の瞬間風景が目に入ってくる。
城の地下だった。
天井が高い一室だ。大理石のような白い石で囲われており、位の高い者が居住している事が容易に分かる。
「出迎え無しか。」
「まあそうだろう、我らが緊急で来たのだ。」
「ファートリア聖都はどうなるかね?」
「あれだけのデモンを倒せるとは到底思えんが、ましてやカースドラゴンが2体もいるのだからな。」
「そうかねえ?まあ、俺は逃げて正解だったと思うがな。」
「とにかく行くぞ!あヤツらに状況を知らせねばならんだろうからな。」
「だな。とりあえず、一時的な撤退だと伝えるしかねえだろな。」
「もちろんだ。」
そして俺達は大理石の部屋から通路に出て、目的の場所に向かい歩くのだった。通路も大理石で出来ており美しい作りになっている。
俺達が部屋から出てきたのを見て、向こうから槍を持った衛兵たちが走り寄ってくるのだった。
まったく…このカラス頭に、このままついてていいもんだろうか?
俺はこれからどうするべきが、カラス頭にばれないように考え始めるのだった。
次話:第471話 地下の戦闘
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