第469話 召喚した人間の涙 ~アヴドゥル視点~
ファートリア国内紛争が始まった頃の大聖堂の最深部。
大きな魔石に取り込まれた人間を眺めながら、俺とカラス頭はこれからの未来を話していた。
「アブドゥルよ。どうだ?面白いであろう?」
マルヴァズールが言う。
「まあな。だけどよ、ファートリアの国境に送ったリュート人たちを餌にして召喚したデモンはやられたんだろ?」
「準備が足らなんだ。出現したばかりところをいきなり大軍で叩かれたとみて間違いない。」
「どんだけの軍が来てるんだか?そもそもデモンなんてそんな強いもんでもないんじゃねーのか?今までも失敗続きだったと思うがな。」
「シュラーデンもユークリットもおそらくは大軍が攻めてきたのであろうよ。でなければネビロスほどのやつがやられたりはせん。カースドラゴンまでやられてしまうとはな、恐らくは敵に古代の大魔法を使うやつがいたのやもしれん。」
「お前が言う、レヴィアサンとやらが地上に顔を出す場所に魔法陣を仕掛けたというのに、易々と切り抜けやがったじゃねえか。」
「わからんが、レヴィアサンが来なかったのかもしれぬな。」
「そもそも大魔法で何とかなるもんなのか?」
「人魔大戦のはるか昔、古の魔法ならばそれもあり得るだろうな。」
大魔法と聞いて俺はグラドラムで見た火器を思い出す。寸前のところで逃げたが恐らくあれは間違いなくロケットランチャーだ。
「前から言ってるけどよ、ありゃあ恐らく俺の居た世界から来た奴だぞ。」
「それは、数年前に呼び込んだ異世界人と同じ人間か。」
マルヴァズールは俺達が偶然召喚した前世の人間の事を言っている。
「そうとしか思えねえ。」
「この前こっちにきたニホンジンとか言うやつらと同じ?」
「敵が日本人かどうかは分からねえが、向こうの武器を使っていやがったんだよ。」
「そういえばこっちに世渡りをしてきた者どもの魔力はかなりのものじゃったのう。強力な魔法を使うという事なのか?」
「まあ偶然向こうから召喚した日本人達は、かなりの魔力が備わっていたみてえだしな。転生した俺よりは魔力が少ないみたいだがな。」
「ふむ。しかし意志が薄弱で我の言う事を簡単に信じおった。」
「前の世界の奴らなんてそんなもんよ、特にあんな一般人はな。」
「笑えるなあ。異世界にはあんな奴がゴロゴロいるのか?」
「向こうの世界ではあんな力ないぜ。恐らく世界を渡って身に付けてきたんだろ。」
「まったく面白いな。」
「まあな。」
俺とマルヴァズールはまた魔石に取り込まれた人間を見あげる。青い巨大な魔石に取り込まれて赤子のように丸まって眠っている女。
「そんで…コイツが生み出すあれ。あれがあの柱を生み出してんだろ?」
「間違いない。あれはコレが生み出す魔石を使えばドンドン増やせる。」
「これはめっけもんだったな。」
「だろうな、おそらくこやつは何か特別な存在だ。」
「しかしあれはなんだ?」
「なんだろうな。我も詳しい事は知らんが、とにかくばら撒けるだけばら撒いたらよい。」
「そうだな。」
あれは数年前、俺達がファートリアを掌握して少し経った時だった、カラス頭がなにやら頭を抱えているので、いき詰ったのかと思い声をかけたら、おもいきり笑っていやがった。カラス頭がこの聖都の地下の深部にあった魔法陣を見つけたからだ。マルヴァズールが言うにはこの国の神が記した魔法陣らしい。
俺はその魔法陣を試行錯誤し、人の魂を大量に使って発動させることができたのだった。発動の結果は想像していなかったが、魔法陣の光が消えた後に6人の人間が現れたのだった。言葉は分からなかったが、服装や喋り方からして東洋のきたねえ日本人か中国人だろうと思った。
そしてマルヴァズールは奴らの精神に直接話しかけ、勇者として悪魔を倒すべく敵に仕向けるようにした。あとはファートリアとバルギウスから連れて来た兵達に、あいつらを鍛えさせて魔法を使えるようにし、剣や体術を覚えさせたのだった。異世界人たちはかなりの強さになって増長していった。人間の兵や魔獣なんか目じゃねえ感じになって行った。弱いデモンを消しかけたがあっさり殺す事も出来ていた。
だが女たちはもっと面白い技が使えた、人を自分の駒として操れる能力を持つやつ。もう一人は魔獣を使役し、さらにドラゴンまで服従させ、周囲の魔獣を透明にする能力を持っていた。
だが…最後に残った女。
コイツだけはかたくなに俺達の言う事を聞かなかった。あんまり言う事を聞かねえもんだから、俺とマルヴァズールで話し合い、使えないなら殺してしまおうと、この深部に来たとき…既にこの魔石に封じ込められて眠ってしまっていたのだった。
「この女いったいなんなんだろうな。」
「それはわからん。我の魅了も効かぬし言う事も効かぬ、挙句の果てに勝手に魔石に封じ込められてしまったのだからな。」
「おかげで副産物が出たけどな。」
「そうよな。この巨大魔石から生み出される粒を飲ませるとあんな風になるとはな。」
「だがよ、あの柱はいったい何なんだ?」
「まだ結果が出とらんのだから分からん。」
「ふーん。まああれはあれで邪魔になってよさそうだけど。」
「ふはは。目くらましにはなるだろうの。」
魔石に飲みこまれて眠ってしまった女。この魔石は何をしても砕けず聖都の深部に浮いたままだ。だがある日、その巨大な魔石は小さな粒状の魔石を生み出すようになった。それの使い方は良く分からなかったが、人体実験してあれを飲ませた人間が死ぬと、光の柱が上がるようになった。俺とマルヴァズールは敵の目をあざむくようになると考え、いろんな人間にあの魔石の粒を飲ませたのだった。
「だが敵は西に陣取っているんだよな。あいつらをどうにかしなきゃならねえぞ。」
「あの柱が何かわからんうちは、敵も簡単に手出しはしてこないだろう。」
「だがいずれは侵攻してくるんじゃねえのか?」
「国内におびき寄せて叩けばよい。」
「それで本当に大丈夫なのか?」
「ふはは、これまでこれほど大規模なデモン召喚を行った事などないわ。呼び出したデモンどもが世界の人間を食らいつくさぬか心配なくらいよ。」
まあコイツの言う事は半分半分聞いておけばいいだろ。いざとなったら仕掛けてある転移魔法でトンズラすればいいんだからな。確かに大量のデモンならば、いくら何でもひとたまりもないはずだと俺も思う。
「この国のかなりの人間を殺したからな。大量のデモンを呼び出す事が出来たようだし、敵が攻めてきたら迎撃態勢を取ればいいわけだ。」
「数か所の巨大都市の人間は全てデモンの餌にしたからのう。」
「あんなに呼び出して大丈夫なもんか?」
「我らがデモンのヤツラを御せねばかなり不味い事になりそうだ。」
「そん時はトンズラするまでよ。」
「ふむ。南の果てにでも逃げるか?」
「だな。そこでまた悠々自適に人殺しでも楽しんで暮らすさ。」
「まったくお前は殺しが好きだな。」
「だって面白いじゃねえかよ。」
「まあ良い。我もつきあってやろう。」
「面白い事は、まだまだあんだろ?」
「そのつもりよ。」
カラス頭は俺の欲望を良く理解しているようだ。さらに生贄を使ったデモン召喚の儀は最高だった。炎のベールに包まれた人間どもの恐怖に歪む顔がたまらねえ。一網打尽になった男も女も、ジジイもババアも、子供も赤子も皆恐怖に顔をゆがめて消えていく。
出て来たデモンはその大量の供物に対して俺に礼を言うのだった。
《恐怖のオンパレードを満喫した後で、お礼まで言われるんだからな。麻薬をやるよりずっと気持ちが良いぜ。》
「デモンが敵を全部殺した後はどうなるんだ?」
「この世の覇者となり、デモン同士の争いが起こるであろうな。」
「ははは、結局殺し合いか。」
「やつらの生業だからのう。」
「ふーん。生まれながらにしての殺し屋か…。」
「おぬしも似たようなもんだろう。」
「ちげえねえ。」
「「ははははははは」」
俺とマルヴァズールが高笑いした。きっと俺のこの性質がデモンという生き物とマッチングしてんだろう。そのおかげで俺は欲望を満たす事ができている。
「しかしよ、この魔石に取り込まれた女。コイツはいったいなんだよ。」
「まだ気になるのか?」
「俺の言う事もまったく聞かねえし、むかつく奴だったな。思いっきり犯してから殺してやろうと思っていたが、こんな石っころの塊なんぞになりやがって。じっくり殺してやろうと思っていたんだがな。」
「それほど気に入らなんだか?」
「ああ、気に入らねえ。俺に絶対服従しねえなんて絶対に許さねえ。」
「しかしこの魔石が解けぬのよ。我もコレには憎悪を抱いておる。」
「何とかしたいもんだな。」
「そうよの。」
俺達がそんな話をしている時でも、ただそこに浮かびながら青く輝き続ける魔石に包まれた女。眠っているように見えるが俺達の話は聞こえているんだろうか?いずれにせよ、いつかこの石っころから取り出して思いっきり犯し殺してやる。
そして俺達はこの巨大魔石が生み出してくる小さい粒をいろんな奴らに飲みこませた。人間に飲み込ませても糞になって出てくる事は無かった。どうやら体に吸収してしまうようなのだ。何年もかけて大量の人間に飲ませて来た。これからもまだまだ飲ませる予定だった。
死ねば立つ光の柱。あれも良く意味がわからねえ。
マルヴァズールに聞けば体の奥底に何かを書き込んでいるようだという。しかしそれが何かはマルヴァズールにも分からないようだ。
それから‥‥
あんまり楽しすぎて数日だったような気さえする。国内では着々と計画を進ませてきた。
そして大量の移民リュート人を使った生贄デモン召喚作戦は失敗し、敵はどうやらフラスリア領との国境に陣取ったようだった。
光の柱を生む魔石の粒はそれほど大量には取れない、のべつ幕なしばら撒くわけにもいかなかった。魔石の粒は全てには配れない為、いろいろな村でデモンによる洗脳を行わせ、敵が来たら人の盾として使おうと策略していた。まあ魔石の節約ってやつだな。
だが…西の村々の人間どもは跡形も無く消えたのだった。その調査のために魔石を飲ませた兵士たちを向かわせたが、その兵士たちも戻ってくる事は無かった。
「カラス頭よう…。」
「言いたい事は分かっておる。」
「どうなってんだ?」
「西にやった兵達はどうやら捕えられたようだな。」
「捕らえられた?」
「まああれを飲ませておる。ある意味敵の邪魔にはなるだろうな。」
「うまく警戒してくれるといいがな。」
「ふふ。敵のいままでの行動を考えればだいぶ警戒しておるぞ。迂闊に国内に侵攻してこないところを見ると、我らがやっている事をだいぶ警戒しておるようじゃな。」
「そんなもんかね?」
「あとは国に入って来た敵を、呼び出した大量のデモンによって抹殺するのみよ。」
「期待してるぜ。」
「まあ任せておけ。」
そりゃそうだ。俺があちこち駆けまわって大量の人間を生贄にして、苦労して呼び出したデモン達だ。めちゃくちゃ頑張ってもらわねえと俺の苦労が割にあわねえ。もちろん大量の民の苦痛を見れた事は最高だったが、それでも本丸までせめて来られちゃあまた振り出しに戻る。
「とりあえず敵も油断はしてねえと思う。二重三重に罠をかけておくのはあたりめえだぞ。」
「ああ、あの日本人達もだいぶ成長したようだし、かなりの戦力となるであろう。」
「そうらしいな。でもよう…」あいつら俺に歯向かったりしねえよな。」
「おぬしの事を、由緒正しいこの世界の大神官様だと思っておる。敵はゴブリンやオーク、オーガどもだからな。どう考えても敵は向こうだと思うだろう。」
「確かにな。とにかくあいつらには働いてもらわねえと。」
「あ奴らには報酬も約束しておる。そしてこの国の高位な地位を与えると言っておる。」
「そんなことして戦争が終わって俺の周りに来たら、俺の命を狙うんじゃねえのか?」
「お前は馬鹿か?あいつらの役目を終えたら殺すに決まっておるであろう。」
「なるほどな。でもあいつら俺より使えるんじゃねえのか?」
「お前の気性は黄泉の国との相性がすこぶるいいのだ。使える魔法も獄から呼び出すものばかり。我もおぬしと殺しをするのが楽しくなってきておっての。」
「ふーん。裏切ったらトンズラするぜ。」
「好きにしろ。」
その言葉が本気なのかどうかは怪しいが、俺は俺の好きなようにさせてもらう。最後に俺に歯向かうような奴がいたら、何重にも罠をかけて焼き殺してやる。
俺はマルヴァズールとの話を終えて、今日の夜に俺の相手を務める女のいる部屋へと向かった。
ホントこの国は殺し放題、犯し放題のパラダイスだぜ。
次話:第470話 無様な逃走 ~アヴドゥル視点~
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