第47話 魂を喰う現代兵器
レッドヴェノムバイパーの森で朝飯を食った俺たちは、そのまま休息を取りながら話をした。
今後どうやって行くかだ。
飯を食ったゴーグはそのまま寝てしまった。傷の回復の為に必要らしい《俺の時と同じだ》ついでに俺はギレザムにも休んでもらう事にした。ガザムは自ら護衛をかって出てテントの外で見張りをしている。
「・・というわけで、ヴァンパイアの2人が俺の配下になった。」
「そうなの?なんだかよくわからないけど、あなたの言う事なら何でも聞くという感じなのね?」
「そうなんだ母さん。実は俺も半信半疑だけど、なんでも魂の系譜とかがつながってるらしくて。」
イオナも半信半疑で聞いている。俺はみんなが夜気絶している間に起った事を説明した。実際は俺も良く分からなかったので、分かっている事だけを説明してみた。
「不思議な話です。そんなことがあるなんて・・ラウル様にそういう素質があったという感じでしょうか?だからラウル様は1日にしてそんなに成長してしまったのですか?」
「それはわからない。」
ミーシャが不思議そうに俺に尋ねてくるのだが俺にもわからない。
「私はなんとなくですが・・気づいております。」
マリアがそれについて何かわかる事があるという。なんだろう?
「マリア?なんだい?」
「ええ。ラウル様と狩りに行っていた時の事を覚えていますか?」
「はっきりと。」
「あの時、ラウル様が狩りをしない日が何度かありました。私に武器の扱いや戦い方を教えてくれただけの日です。」
「戦略の立て方や行動計画、銃の扱いを教えていた時か?」
「ええそうです。あの時、私が数匹のファングラビットを狩って帰った時の事なんですが、その夜に一緒にお風呂に入り気が付いたんです。」
「なに?」
「ラウル様が狩りをしている時は、体を動かしているから筋肉がついたと思っていたんです。ところが・・私しか狩りで動いていない時でも、うっすらと筋肉が増えるような感じだったんです。初めは気のせいかな?と思っていましたが、旅をするにつれてそれが確信になりました。いつも一緒にお風呂に入っている私だから分かったと思うんです。」
「確信?」
「皆でグレートボアに乗った騎士に襲われた事がございましたよね?」
「ええ、あったわね。」
イオナも思い出しているようだった。ミゼッタが少し青い顔をしながらうなずく。
「あの時、ラウル様は一人も殺していませんでした。魔獣も倒していません。」
確かにそうだ、グレードボアにロケットランチャーをぶっこんだのはイオナだった。騎士にとどめを刺したのはマリア、俺はほとんど手を下していない。
「その後なんですが、ラウル様は成長なさっておりました。」
「そういえば・・そうだ・・」
「ファートリアの兵士に襲われたときは如実に現れたと思います。あの時は直接手を下されたのと、全員で何人も相手を倒しました。」
マリアは良く俺の事を見ていてくれているみたいだ。俺を守ると言ってくれたのは嘘じゃないんだな・・
「あ、そういえばあの後、急に力が強くなってましたね。」
ミーシャも覚えていたようだ。すごい力だと声をかけられている。
「そして・・レッドベアー2匹との戦いの時も私とミーシャ、イオナ様でレッドベアーにとどめを刺しました。」
「その後も・・ラウルは成長していたわね。」
イオナもどうやら思い出してきたようだ。
「ええ。レッドベアーを食べたからかとも思ったのですが、それとは違う気がしたんです。」
ああ、レッドベアーを食ったから成長したと俺も思っていたな。
「と、いうことはだ・・俺はなんでデカくなったんだ?」
「はい私の推測なんですが、ラウル様が出した武器は誰が使って敵を倒しても、ラウル様の能力として吸い上げられている気がするのです。」
・・・どういうことだ?俺が出した武器で誰が戦っても俺が強くなる?・・
「そういえば・・ヴァンパイアの群れと戦った時・・俺は、ギレザムとガザムにM134ミニガンという武器を渡したんだ・・そしてそれを使って彼らはヴァンパイアを壊滅させた・・」
「なるほど、とすればマリアの推測が当たっているかもしれないわね。その後ラウルは急激な謎の成長を遂げた。ラウルが出した武器・・・もしかしたらご飯なんかも関係しているかもしれないわね。」
そうだ・・皆でご飯を食べ終わたいま・・めちゃくちゃ血がたぎる。俺も食べたがそんなに量を食べたわけではない。それなのに力がみなぎっている。
「確かに・・ヴァンパイア戦で一度魔力切れで気を失った時、すぐに意識がもどった・・体はすぐに動かなかったが、どんどん回復していくのが分かって、気が付いたら俺はヴァンパイアを殲滅していたんだ。」
でも・・そんな事があるのか?
すると・・横になっていたギレザムが起きた。
「ラウル様、今のお話聞かせていただきました。おそらくは元始の魔人・・系譜の力かと思います。」
「げんしのまじんのけいふのちから?」
「はい。魔人は系譜の連なりがございます。異種族で争いはあるものの、元始の魔人がすべての魔人の祖であると言われております。系譜の末端までの魔人の力は、全て元始の魔人の強さとなります。」
「えーっと。ということは君たちが俺の力の源になっているかもしれないってこと?」
「我々の力がさらに上の物のちから、我々であればガルドジン様の力となります。ガルドジン様は魔人の長の戦いにやぶれ、今は配下がはるかに多いルゼミア・ザウラス王に力は集まっておりますが、ラウル様の力はそれとどこか関係しているのではないかと愚考します。」
「ん、でも今はギレザムもガザムも、ゴーグもガルドジンの配下だよな。俺に力は来ないんじゃないかな?」
「その、おそらくですが・・ラウル様が出される武器が、ラウル様との系譜に連なるものとなって魂を吸い上げているのかと思われるのです。」
・・召喚した武器が俺の配下・・なんだかしっくりくる。俺の可愛い子供たちがみんなの手を借りて頑張っている!って感じは確かにしてるもんな。
「俺の召喚したものが命を奪う、命を救う、それらが俺の糧になっていると?」
「はい、我があのミニガンという武器を撃った時に感じた物ゆえ、それほど遠くはないと思われます。」
俺の武器は魂を喰うのか。呪いの武器ってわけじゃないけど、俺の武器で上げた成果は俺に戻って来るってことか・・今までの経緯から考えても合点がいくな。
「私も小さい頃からラウル様を見てきましたが、ギレザムさんの言う事が近い気がするんです。」
「そうか・・」
マリアにも心当たりがあるらしく、納得している様子だ。
ギレザムが続けて話す。
「はい、あと先ほど話されていた、人間を倒した時に力が強くなったということですが、人間の魂は魔人や魔獣にとっては糧になりやすいのです。」
「人間の魂のほうが魔人には恩恵があると?」
「はい、そうです。魔人や魔獣を倒してもそれなりには魔力が増えますが、人間のそれはもっと大きいのです。」
「恐ろしいな。」
まあ・・ギレザムとマリアの話を合わせると間違いなさそうな気がする。しかし・・子供の頃は何も倒したりしていない・・それでも魔力は増えてた・・
「母さん、魔力は知識で伸びると思ってたよ。」
「ええ、それは人間の話だわ。もしかするとラウルには二つの力が宿っているのかも・・」
・・子供の頃には・・学べば学ぶほどに知力が増え、魔力が大きくなっていった。あれが人間の魔力の伸び方だとモーリス先生も言ってたよな。まてよ・・イオナの言うとおり、確かモーリス先生は・・俺の中に大賢者と魔獣が一緒にいるように感じると言っていたな。
「俺がモーリス先生に聞いたのは、俺の中に賢者と魔獣が一緒にいるような感じという事だった・・その魔獣の側に元始の魔人の系譜の力が働いてるって事かな?」
「すみません・・そこまでは。」
「でも、みんなの意見から察するに間違いないように思える。」
「はい。私もそう思います。」
「マリア・・ありがとう。今まで俺をしっかり見ていてくれて。」
「それは、当然の事ですから。」
俺の力は、俺の武器が敵を殺傷すればするほど、俺に力が集まってくるらしい。さらに俺の戦闘糧食で人を助ければそれもわずかながら力に変わる。不思議な力の増え方の謎はここにあるとみて間違いないな。
「みんな。このことはここだけの話にしてもらえるかな?」
みんながうなずいた。
「で、その話はだいたい理解できたんだけど、これからどうするか?を話したい。」
「ええ」
「はい」
「わかりました。」
「わかった。」
「いままで乗ってきたM93フォックスはそろそろ燃料というのが切れて動かなくなるんだ。いったんグラドラムの国境までは徒歩で進もうと思う。ただ・・母さんのお腹が大きくかなり母体に負担がかかってしまう。これをどう解決したらいいだろう?」
「それなら問題ないです。俺が背中に乗せます。」
寝ていたゴーグが寝たまま言う。
「背に乗せる?」
「はい、俺は変身ができますから、俺の背中につかまっていくといいです。」
「ゴーグはライカンゆえ狼になるのです。魔人の時と違い大きくなるので乗せていけると思います。」
ギレザムが説明してくれた。
「そうか・・わかった。母さんそれで良いかな?」
「はい、気遣いありがとう。ゴーグ君もね」
といってイオナはゴーグの頭を撫でた。
「で、M93フォックスは処分しようと思う。30日あれば消えるんだけど、追手がきて見つかるのを避けたいんだ。だからこの森で破壊しようと思っている。森の奥で粉々にすればいいだろう。」
「どうやって?」
「俺の武器を使えば簡単だ。」
「ならば、我も森の奥まで護衛いたします。レッドヴェノムバイパーがでるやもしれません。」
「わかった。よろしく頼む。」
みんなが話は決まった!というような顔をしたので俺はもう一つ付け加えた。
「それでだな・・ヴァンパイアをどうしようかと思う。」
「ヴァンパイアですか?」
「ああ、俺の配下になったのだから何とかしたい。でも日光を浴びれば消滅してしまうんだろ?」
「それは・・あいつらに聞いてみねば分かりません・・」
ギレザムにも答えが見つからないようだった。
それもそうだな、ヴァンパイアの事なんてどうすればいいかなんてわかんないよな。
「じゃ、俺直接聞いてくるよ。」
俺はギレザムと一緒にM93フォックスに行って乗り込んだ。
「おい、起きてるか?」
「・・は、はい。大丈夫でございます。」
テントをかぶったシャーミリアが答える。
「この乗り物を処分しなければいけないんだよ。俺たちは足で国境を超える。そこでだお前たちをどうするか・・助けたいんだが方法が見当たらない。」
「それではそのままお見捨てになっていただいて結構でございます。陽で焼いていただければ足手まといにもなりません。」
「だーかーらー。俺は助けたいんだって。せっかく俺の配下になったんだからさ。」
「なんという・・お心の広さでございましょう。私目が迷惑をかけているのに・・それでは、ラウル様の血を少々いただけませんでしょうか?」
「血を?」
「私どもは血の臭いで、どこにいても駆けつけることができます。」
「なるほど。じゃあちょっとまて。」
俺はコンバットナイフのコールドスチールRecon Scoutを召喚した。それを手のひらに握りスッと刃をひいた。すると・・ぽたぽたと手から血がしたたり落ちる。
「ふぅぅううぅううぅ」
「はぁぁぁぅぅうっぅ」
テントの下で何か凄く怖い息をはく音がする。
「おい、正気を無くしたりしないでくれよ。」
「ラウル様に何かすれば斬るぞ。」
「は・・はい大丈夫です。」
「わ・私も大丈夫にございます。」
俺はシャーミリアのテントの隙間から手を突っ込んで血を滴らせた。そしてすぐ・・マキーナのテントにも手を突っ込んで血をたらす。
「ああ・・・・なんという・・」
「はぁ、はぁ。すごい・・ですぅ」
二人のテントからぴちゃぴちゃという音が聞こえる。俺の血を舐めているようだ。
「どうだ?覚えたか?」
「はい・・なんという甘美な、素晴らしい貴方様の血をわけていただけるなど・・」
「私のような下僕にまで・・」
「私だけでよかったですのに。」
あーそうなんだ。シャーミリアにだけ与えたらよかったのか。
「で・・どうすればいい?」
「私たち二人をこれにくるんだまま地面に埋めてください。」
「えっ?埋めて大丈夫なの?」
「本来は寝床があるのですが、仕方のない時は土の下に眠ります。普通の事ですのでお気兼ねなく埋めてください。」
「わかった。いったん穴を掘るから待ってろ。」
「深めにお願いいたします。」
「わかった。」
車を降りた俺は、陸上自衛隊用のスコップを5本召喚した。
ト ト ト ト ト
「マリア!ミーシャ!来てくれ!」
「はい。」
「わかりました!」
二人がきたので穴掘りを開始する。
「それでは!穴を掘りたいと思う!ギレザム!ガザム!マリア!ミーシャ!スコップをもってついてこい!」
「「「「はい!」」」」
隊列を組んで木の生えている森のほうへ少し入っていく。
「この辺でいいだろう!それでは!掘りかたはじめ!!エイサホイサ」
みんな不思議な顔で俺を見ながら穴を掘り進める。やはりオーガの掘り進むスピードはユンボ並みだった。地面に出てきた土をマリアとミーシャでどけていく。3メートルくらいの深さになった。
「よーし!掘かた辞め―い!」
「「「「はい!」」」」
「みな穴からでろ!」
「ギレザム!ガザム!あいつらをここへ放り込め!急げよ!」
「は!」
もちろん陽の光に極力当てないようにするためだ。なんか燃えちゃったら意味ないし。
二つの包みを持ってきたギレザムとガザムはテントごとヴァンパイアを穴に放り込む。
「土をかけろ!」
「えっ?えっ?」
「ラウル様・・味方にしたんじゃなかったんですか?」
「そうだが?なにか?」
「い・・いえ・・」
「土をかけろ!」
「「「「はい!」」」」
俺達はみんなでテントにくるまれたヴァンパイアに土をかけていく。
なんか・・2時間ドラマの死体遺棄シーンみたいだ・・
悪い事してる気になってくる・・・
いいことしてるはずなんだけどね。
次話:第48話 オーガvs巨大蛇