第465話 東の村の信者
俺が5分ほど東に飛ぶと小さい村が見えて来た。
だが、その村では何やら異変が起きているようだった。その村の真ん中あたりに白い翼を大きく広げて浮かんでいる人が居るのだ。
そうルピアだ。
そのルピアの下には周りを囲むようにして村人が膝をつき、胸の前で手を組んで祈りを捧げているように見える。
《ルピア。コレどうなってんの?》
念話で聞いてみる。
《ラウル様。西の村の時のような事が起きました。》
《西の村の?あのユークリット王都に連れて行った村人の時のやつか?》
《はい。私がふいに眠ってしまい、その間に村の皆さんが私を祭壇のようなところに寝かせてくれたようです。》
《それで?》
《あの時のようにアナミスが魂核を触ったわけでもないのですが、目が覚めたら私が崇め奉られておりました。》
《俺がそこに降りて行っても大丈夫かな?》
《よろしいかと思います。》
《わかった。》
シュッ
あまり音を立てないようにそっと村はずれに着陸する。
《ヴァルキリー鎧から出してくれ。》
《はい我が主。》
ガパン。
建物の陰の方に隠れてヴァルキリーを脱いだ。
《じゃあ村の外で待っててくれるか?》
《はい。》
ヴァルキリーは俺を置いて村の外に出ていった。俺はすぐさまルピアの居るところに向かった。
ルピアを囲んだ村人の後ろの方から俺が近づいて行くと、ルピアの真下にいたオーガ2人とオーク2人が村人をかき分けて、俺の元に来て地面に膝を着け頭を下げる。
すると村人たちが俺に気が付いたようで、みんなが振り向いた。
バサバサ!
そこにルピアも羽音をたてて下りてきて、俺の前に膝をついて頭を下げる。
「て、天使様が頭をさげられた!」
「あ、あの…あなた様は?」
村人に聞かれる。
「えっと、このルピアを迎えにきたんですが。」
「なんと!天使様をお迎えにいらっしゃったのですか?」
どうやらルピアを天使だと思っているらしい。まあ白い羽を生やした美少女だし、天使と言えば天使に見えるが、この国では天使とはそういう物なのかな。
するとホウジョウマコの呪縛から助け出したひとりの男が近寄ってくる。
「失礼ですがあなたは?」
あ、そうか。俺はこの人とは泥棒髭の姿でしかあってないんだった。そりゃ俺を見ても誰か分からないか…面識が無いんだもんな。
「ルピアを迎えに来た者なんだけど、彼女を連れてって良いかな?」
「あの…すみません。こちらは天使様でございますよね?」
「どうしてですか?」
すると後ろにいた年寄りが本のような物をもって近づいて来た。この世界で本はかなり高価なものなので、貴族や商家の娘などしか持っていないはずだが、ファートリアという国はそうではないのかもしれない。
「村長のンダベガと申します。」
俺に跪いた。
「あ、こりゃどうも。」
「あの、アトム神様でございますか?」
いきなりアトム神と間違えられる。俺はアトム神とやらに似ているのかね?
「いやいや。違いますよ。」
「ですが、天使様を迎えにいらっしゃったとか。」
「ああ、私の仲間ですので迎えに来ただけです。」
すると村長は手に持った書物を開けてパラパラとめくり始めた。ある頁で止めて俺に見せてくる。
「あの、こちらの絵を。」
書物には白い羽を生やした少女のような絵が描いてあった。なるほどルピアに似て美しい。
「これがなにか?」
「これは経典の書き写しでございます。そしてこの絵は天使様の絵なのでございます。」
なるほどなるほど。そりゃルピアを見たら天使だと思うよな。
《ルピア。どうしてこうなった?》
《すみません。不覚にも眠ってしまったらしいのですが、その際に翼をだして自分をくるむように寝てしまったらしく、この姿を見せてしまったのです。》
《なるほど。進化の眠りに落ち、無防備にならないように翼で防御したわけだな。》
《無意識ですが。》
《なら納得だ。》
やる事は決まった。
「なるほどなるほど!みなさんは天使の正体を既に見抜かれていると言う事なのですね!すみませんそれならそうと早くおっしゃっていただけましたら!」
「言いましたけど?」
「コホン!ああそうでしたね。そうなんです!私はある人に言われて天使を迎えに来た使いなんですよー。ほほほ。」
「おお!神のお使いでございますか!?」
「まあ、神には何人か知り合いがいますけどね。」
嘘じゃないよ。
「は、ははぁー!!」
俺が言うと村人が一斉に地面に手をついてひれ伏するのだった。神って言ってもエミルとオージェとグレースだけど。まあ本当の事だしいいか。
「皆さんは敬虔なアトム神様の信者なのですね?」
「その通りです。この国はいつの間にかこんなに退廃してしまいましたが、我々はそれに屈することなく耐えておりました!」
「それは素晴らしい!それではなぜこの村に天使が来たと思ったのですか?」
「この村から消えた男を無事に連れて戻られ、いろいろなお話をしている間に眠られてしまわれたのです。そしたらこの美しいお姿になりまして、きっと神が我々に遣わされた救いの神子だと確信しました。」
俺はチラリとホウジョウマコから救った男を見る。
「そうです!物凄い力を持った方たちがこの村の西の方に集まっているのです!しかしこのお美しい姿になった時、村長が天使様だというので私はようやく気が付きました。この国をお救いにいらっしゃった天使様なのだと。」
ああ…だいぶルピアに心酔してしまっているようだ。これは…無償の愛だな…愛。
「さすがは皆様、ファートリア神聖国の敬虔な信徒でいらっしゃる。」
いやあ…申し訳ない。俺はどちらかというと魔神の関係者なんだけどね。とりあえずこの勘違いに便乗して利用してしまおう。
「天使様を見間違う事などありましょうか?」
「そうでしょうそうでしょう!」
「はい!」
「ということは、皆さんは神のお使いの役に立ちたいとお考えなのですか?」
「も、もちろんでございます!神がこの国をお救いにいらっしゃったのであれば、我々は出来るだけお役に立たなければならないのです!それこそが神に対するご奉仕でございます。」
「なーるほどなるほど!素晴らしいですね!私は本当に感激しておりますよ。」
「はい!」
「それじゃあ…ご飯作れます?」
「ご、ごはんでございますか?」
「天使のお仲間達は美味しい物を食べる事によって力を得て、この国を救うために頑張れるのです。」
「も、もちろんです!ファートリアの田舎料理ではございますが、村の女たちにはそれこそ料理の得意なものが多いのです。」
よっしゃ!ファートリアの名物が食えるぞ!
「どんな料理?」
「材料さえそろえば、聖都の料理屋に引けを取らないほどの物を作る女もいるかと思います。」
「そりゃ凄い!それじゃあ早速なんですが、西に住み始めた天使の仲間達の為に炊き出しをお願いできますかね?もちろん魔獣の肉や薬草、木の実などは天使のお仲間達が獲ってくると思います。」
「そう言う事でしたら喜んで!」
「もちろん皆さんも一緒に食べていただいていいのですよ!」
「いいのですか!?肉や木の実をですか?」
「果実などもあれば食べれると思います。」
「そ、それは願ったりかなったりです!この村を出ないようにと通達が来ておりましたので、畑で取れる農作物と罠を仕掛けて取れた鳥などを食べてしのいでおりました。」
「それは辛かったですね!それじゃあ今すぐに村人全員で天使のお仲間がいる場所へと行きたいのですが、しばらくそこに住んでいただくと言う事で良いですか?」
「い、いまからですか?」
「はい、その前に西から天使のお仲間を呼びたいと思います。皆さんの事を良く知りたいのでね。」
「なんと!天使様のお仲間がわざわざこちらへ!?」
「そうです。」
「わかりました。」
そう、この人たちがデモンの干渉を受けているかどうかを調べる必要がある。恐らくこの村はファートリア神聖国でもかなり東にあるので、俺達の侵攻ラインに無い事を考えると、干渉を受けている可能性は限りなく低い。しかしリスクはあらかじめ排除しておかなければならなかった。
《アナミス。》
《はいラウル様。》
《東の村まで来て。》
《かしこまりました。》
アナミスに念話で伝える。
「それではみなさん。お仲間が到着するまでここでお待ちください。」
「いえいえ!出来る限りおもてなしをさせていただきたく思います!」
「ダメです。私達は貧しい者には施しをする身です。皆様から施しを受けるわけにはいきませんので、そのままここに待機していただけるとありがたいです。」
だって味のうっすい料理だもん。別に無理して食べなくてもいいし。
「わかりました。」
「ここにいる人で村人全員ですか?」
「はい全員です。」
村長が周りを見渡して言う。
若い男が少なく、女と小さい子供達と老人が目立つ。おそらく聖都に兵士として取られていったのかもしれない。
まもなくアナミスが到着した。
《アナミス。ここにいる全員がデモンの干渉を受けていないか検査する。》
《かしこまりました。》
皆に聞こえないように念話で伝える。
「では!皆さん!神のご加護がありますように、この新たな使徒の元に一列にお並び下さい!」
「これまた…天使様のお仲間もお美しい…。」
村長さんが目を見開いて言う。そりゃそうだアナミスも人間離れした美しさを持っているサキュバスだし、人間から見れば神が作った傑作だと思うだろう。
「とにかく並んで。」
そしてアナミスの元に一列に並ぶ。
「では!一人一人そこに座って頭を下げてください。」
「「「「「「「はい!」」」」」」」
村人が一斉に返事をするのだった。
《じゃアナミス、手短にやろう。》
《はい。》
アナミスは一人一人の頭に手をかざしながらチェックしていく。一列に並んでいるのでゆっくり歩きながら調べていた。
アナミスは村人全員を調べ終わって俺の方を見ている。
《ラウル様。この村の民にデモンの干渉はございません。》
《やっぱりな。》
《敵はこちらからの進軍は無いとみたのでしょうか?》
《間違いなくそうだろうな。とにかく調べてくれてありがとう。》
《いえ、私もかなり魔力も上がっているようで雑作もございません。》
《じゃあみんなの元に連れてくかな。》
《魂核の書き換えはいかがなさいましょう?》
《うーん。あれは俺がかなり疲弊してしまうからな。》
西の村ではかなり疲弊したのでちょっとためらう。
《そうでしょうか?ラウル様の魔力の増大はかなりのものだと思われますので、それほど影響は無いように思えるのですが。》
《うーん。あれって、たぶん魔力だけの問題じゃないような気がするんだよな。とりあえずこの男と村長と、偉そうなやつ数人の魂核だけイジっておこうか?》
《それがよろしいかと。》
アナミスとの密談が終わった。
「えーっと。今の加護を受けていただいた結果、更に私達から授けたいものがありますので、村長とあなた、そしてあなたとあなたと、そしてあなた。」
俺は村長以下偉そうなやつをチョイスして指名していく。もちろん狙ってやっているわけではなく、だいたいで決めている。
「はい!」
「俺ですか?」
「私も?」
「わしも?」
「僕も?」
「そうです!あなた達は選ばれました!」
すると選ばれた人たちは、他の村人達から羨望の眼差しを向けられるのだった。
パチパチパチパチ
なんと拍手までしている。
「じゃあ選ばれた皆さんは、天使とお仲間と私と共にちょっと離れたところに行きます。」
「わかりました!」
「はい!」
「やった!」
「なんという誉れ。」
「うれしいです。」
そして選んだ村人たちを村はずれまで連れて行く。
《このくらいの人数なら余裕だな。》
《はい、それではどういう風に書き換えましょう?》
《まずはルピアを完全に天使だと思わせる事。そして西にいる魔人達は全て神の使徒だと思わせる事。魔人達を絶対だと思わせて好きでいさせる事。俺や魔人達がやっている事は全て正しいと思わせる事。生涯俺達に身を捧げた者には素晴らしい世界が待っていると思わせる事。。村人に疑念などが生まれたら全力で説き伏せて、変な軋轢を生ませない事。》
《容易い事でございますね。》
《じゃあやろう。》
俺は早速アナミスに魔力を流し込み始める。アナミスは選ばれた村人の頭に手をかざして、魂核の書き換えを行い新しい人間を作り出すのだった。
アナミスの言う通り、西の村をやった時と違い苦痛は無かった。魔力もぬかれているのだが減っているような感覚が無い。
もしかしてさらに魔神に近づいたのかな?
ふと思うのだった。
次話:第466話 敵日本人捕虜の処分
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