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第463話 眠ってしまった魔人

暗闇の中を北へ飛んでいくとギレザムたちの気配を感じた。俺がどうにか意識を保ちながら飛び続け、墜落するようにギレザムたちの所に落ちたのだった。


ズゥゥゥゥン


砂ぼこりを上げながら車両部隊のただなかに立つ。どうにかカララを負傷させずに着陸する事が出来たようだ。どうやらヴァルキリーがすべての制御をしてくれているらしい。


するとふらふらしながらアナミスの肩を抱き、ギレザムがこちらにやってくる。


「起きててくれたのか?」


「はい。」


「ラウル様…カララはどうしたのです…。」


ヴァルキリーの腕の中で寝ているカララを見て言う。


「進化が始まった。」


「やはりそうでしたか…、こちらも兵が全て眠ってしまいました。」


「やはりこちらまで影響がでたか。」


「そのようです。」


「すまん一気に大量のデモンを消してしまった。考え無しだったかもしれない。」


「大量にですか?…どれほどの…。」


「30万体ちかくのデモンとしもべを。」


「そんなに…」


ギレザムが驚いている。


「…私もすでに…ギリギリです。」


アナミスが言う。


「ミノスとラーズ、ミノスとルピアの4人は?」


「ゴーグとミノスは既に眠りに…ラーズは今の今まで意識を保っておったのですが…眠ってしまいました。ルピアはまだ村から戻ってきておりません。」


「ルピアは戻っていないのか…。」


「はい。申し訳ございません…迎えにもいけずに…。」


「いや、むしろお前達も良く耐えている。」


「アナミスを…眠らせてはいけないと感じたものですから…」


ギレザムが言った。精神力だけでこの睡魔にあらがっているようだが、凄い精神力だと言わざるを得ない。


「アナミス。やはり眠ると催眠が解けるのか?。」


「普通は私が眠っても解けないのですが…相手はニホンジンというラウル様達がいた世界の人間ですから…進化の深い眠りについた場合は…その限りではないかもしれません。」


「わからないって事か?」


「そうです…ギレザムのおかげで気を保っておりましたが…」


「そうか。」


アナミスはくらくらしており、そろそろ限界のようだった。ギレザムもとぎれとぎれながらも説明してくれる。


「ラウル様…すみません…。」


ギレザムも限界が来ているようだ。


「仕方がない。」


すると後ろから泥棒髭を連れてモーリス先生が来た。


「ラウルかの?」


「はい…鎧を着たままですみません…。」


ヴァルキリーを着たままなので、モーリス先生が一応俺を確認してくる。


「問題ないのじゃ。それよりも魔人達がみな眠ってしもうたようじゃな。」


「すみません…進化が始まってしまったようでして…。」


「なんと!進化とな!このようなことになってしまうのか!?」


「そうなんです。私もそろそろ限界が…ですが日本人を捕えているので…慌ててここに…」


ようやく話をしようとしていたところでモーリス先生の後ろから、ホウジョウマコの束縛から俺達が助け出した4人の男たちがやって来た。


「これはいったい…どうしたことです?」


男の1人が近寄って来る。


「恐らく戦闘疲れでも出たのじゃろうな。」


モーリス先生が俺の代わりに話をしてくれた。もちろん戦闘疲れなどというのは方便だ。


「戦闘疲れ?」


「そうじゃな。じゃから気にせず皆さんも寝てくださったらええのじゃ。」


「だが…。」


頼む…モーリス先生の言う事を聞いてくれ。俺もそろそろ寝落ちしそうなんだ。


「とにかく大丈夫です。」


俺がきっぱり言う。


「わかった。」


俺の強めの口調に男たちは不安げな表情で言う。それはそうだろう、こんな何も無い草原の中の街道の上で魔人達が眠り始めたのだ。


一体何が起きたかと思うよな…。


「と、いうわけじゃな。ささ、眠りにつかれよ。」


モーリス先生が男たちをテントの方に追いやろうとした時。


パタリ


アナミスが倒れて眠ってしまった。


「アナ…」


パタリ


ギレザムも眠ってしまう。


「おいおい!大丈夫なのか?」


男たちが倒れた二人を見て言う。


「‥‥心配には…及びません…。」


ヤバ…俺もギリギリ。


「そんな!こんなところで倒れるなんて、放っておけるわけがないだろう。」


一度立ち去ろうとした男たちが再びこちらにやってくるのだった。


いいから…。


「おい!おぬし!こやつらを連れて行くのじゃ!」


ふいにモーリス先生が隣にいた泥棒髭に命じると、泥棒髭ハイグールがギレザムとアナミスをかついでテントの方に歩いて行った。


「これでいいのじゃ。おぬしらも休めばよい。」


モーリス先生が男たちに言うと、納得がいかないような顔をしながらも、自分たちのテントに戻ろうとする。俺の手の中にまだカララがいるが、彼女も休ませてやらなきゃならない。


《どうするか…。》


《我が主、大丈夫です。我にお任せ頂ければ。》


《そうなのか?》


《やる事は分かっております。第一はモーリス様をお守りする事。第二に魔人達をお守りする事。第三に日本人たちが目覚めた場合すべてを制圧する事。》


《そ、そのとおりだが…。》


《お眠りいただければ、我が主の意向に沿うようにやります。》


ヴァルキリーと話をしていると、モーリス先生が男たちの後ろ姿を見つめながら話してくる。


「ラウルよ。おぬしももう限界なのじゃろ?わしが何とかする、寝るがよい。」


「…先生…。」


「心配するでない!わしがこの世界に来たばかりの、ひよっこどもに後れを取ると思うのかの?」


「…ですが…。」


「任せておれ。」


「…はい。」


先生の言葉は不思議と安心感があった。とにかくモーリス先生に任せておけばどうにかなるような気がするのだった。


「この鎧は自動なのじゃろ?ならラウルは着たままにしておくがよい。魔人の大将がこんなところで何かあっては、皆にもうしわけがたたんでのう。」


先生が言い終わると同時に、遠くから声が聞こえて来た。


「たすけてー!私を助けたくなるはずよ!はやく助けてちょうだい!」


その声はホウジョウマコの声だった。予想通りアナミスの眠りから解けて早速スキルを解放したらしい。


「…先生…男たちに…注意を…。」


「既に分かっておるわ。」


その言葉を聞いて安心した俺は意識を手放してしまうのだった。




――――――――――――――



どれだけ眠っていたのだろう。


俺が目覚めた時はヴァルキリーの中だった。目を開ければ外は既に陽が高く昇り、魔人達ももぞもぞと動き出す者がいた。俺より早く眠りについていたものが起きているようだ。


「えっと。」


ヴァルキリーを着たまま周りを見渡すと、ラーズがこちらに駆け寄って来た。


「ラウル様!申し訳ございません!恩師様を守らねばならぬ立場でありながら眠ってしまいました!」


「いやラーズ仕方ないよ。俺が考え無しでデモンを大量駆除したのが原因なんだ。」


「それでも。」


「いやいや。ラーズ、俺だって寝てしまったんだ。お前が起きていられるわけがない。」


「申し訳ございません!」


「お前の責任じゃない。」


ラーズは深々と頭を下げる。


後ろからモーリス先生とゴーグがこっちに歩いて来るのが見えた。後ろにはミノスがついて来ている。ラーズもゴーグもミノスも見た目に変化はないが…物凄い魔力の増加を感じる。


「ラウルよ、目覚めたか?」


「先生!ご無事でしたか!」


「造作もない。」


「それは良かったです。」


「ふぉっふぉっふぉっ!」


「魔人達に何か被害はありましたか?」


「大丈夫じゃ。」


「ありがとうございます。」


「ラウルは寝ておったのじゃよな?」


「はい。」


「寝ながらも鬼神の如き活躍じゃったぞ。」


「この鎧がですか?」


「自動であんなにも動けるものなのかのう。」


「この鎧は自動学習機能がついておりまして、カーライルやオンジや魔人達との模擬戦でかなりの動きが出来るようなのです。」


「凄いものじゃのう!」


モーリス先生が目をキラキラさせてヴァルキリーを見ている。


「日本人たちは?」


「男たちを使って逃げようとしおったのでな。ちょいと懲らしめてやったわ。」


「死んだり?」


「まさか。大事な情報を持っておるのじゃろ?きちんと眠ってもらっておるぞ。」


「それはよかった。」


「じゃが…」


「どうしました!」


モーリス先生が少し悲しそうな顔で言う。


「髭のやつが怪我をした。」


モーリス先生が見る方向を見ると、泥棒髭が立っていたが…右腕がもげていた。


「ああ、あれは怪我じゃないです。シャーミリアに行って修理させますから大丈夫ですよ。」


「しゅ、修理とな?」


「はい。」


「どおりで血が出とらんわけじゃな。」


「そういうわけです。」


「とにかくこの鎧のおかげでだいぶ助かったのじゃ。」


「そうなのですか?」


「うむ。おかげで魔力の半分も使わずに制圧できたわい。」


「そうだったのですね。」


というかモーリス先生に魔力の半分を使わせてしまったんだ。日本人恐るべしだな。


「それなのに、あの髭ときたら勝手にわしを守ろうとしおった。そんなことをせなんだら、手がもげる事も無かったであろうに。」


「ああ、それは私の命令ですから致し方ございません。」


「ふむ。」


「あ、ちょっとまってください。」


《ヴァルキリー出してくれ。》


《はい。我が主。》


ガパン


ヴァルキリーの背中が開いて外にでてきた。


「おお!ラウルよ!ようやくおぬしの顔が見れたわい!」


「私も先生に直接お会いしたかったので嬉しいです。」


モーリス先生が下げた俺の頭をくしゃくしゃとなでてくれた。


「やはりラウルは可愛いラウルでなければのう。」


「か、可愛いですか?」


「わしにとっては目に入れても痛くない孫じゃわい。」


「はい!」


するととなりにいるゴーグがうらやましそうに俺を見る。どうやらモーリス先生の寵愛を受けていたらしく、俺が撫でられているのがうらやましいらしい。


「ゴーグも無事でよかった。」


「ははっ!はい!」


ショタのゴーグがにっこりと笑う。


うん…確かにゴーグは可愛いかもしれない。でも…俺は?


「ラウル様。」


ミノスが話す。


「なんだ?」


「我もまだまだ未熟で眠ってしまいました。」


「仕方ないよ。俺も寝てしまったしな。」


「はい。」


俺達が会話していると念話が繋がる。


《ご主人様!》


《ミリア!》


《ご無事なのですか?今はいずこへ?》


《ああ、今はモーリス先生とミノスとゴーグと話をしていたよ。》


《良かったです!》


《そっちは?》


《全員目覚めました。》


《了解。一旦待機だ。》


《皆にお伝えします。》


《頼む。》


シャーミリアとの会話が終わり次第ドランから念話が繋がる。どうやら皆が心配してくれているようだ。


《ラウル様!》


《すまん。連結を切らしてしまった。そっちは何か不都合があったか?》


《ございません。ですがラウル様の系譜が切れてしまい皆が不安を抱いておりました。》


《それは済まなかった。でももう大丈夫だ。》


《かしこまりました。》


ドランとの念話を切ったと同時に、ガザムからの念話が入る。


どうやら侵攻組にだいぶ心配をかけていたらしい。矢継ぎ早に繋がる念話に丁寧に状況を説明して安心してもらった。ガザムは未だ西よりの都市にくぎ付けになっており、転移罠などを監視させているのだった。


《とにかく全員、持ち場を離れずに与えられた仕事をこなしてくれるとありがたい。》


《《《は!》》》


とりあえず念話を切る。


「では先生。私はルピアを迎えに行ってこようと思います。」


「わかった。ここは問題ないぞ。」


「はい。」


俺はヴァルキリーに入り込む。


《東へ飛ぶ。》


《お任せください。我が主。》


俺がヴァルキリーに言うと物凄いスピードで上空に飛びあがる。


《すぐ着きます。魔人の気配を辿ればよいのですね。》


《わかるのか?》


《わかるようになりました。》


ズビュー


急加速で東へと飛ぶのだった。

次話:第464話 大賢者VS 3人の日本人 ~モーリス視点~


いつもお読みいただきありがとうございます。


おかげさまでブックマークしていただける方も増えました。

皆さまのおかげでここまで書いてこれました。

ぜひ★★★★★の評価をしていただければと思います。


引き続きこの作品をお楽しみ下さい!

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