第460話 聖都壊滅
煙の中から現れたカースドラゴンが放つ黒炎から、俺達は寸前で逃げ延びる事が出来た。シャーミリアの声が無ければ俺は被弾していたかもしれない。カースドラゴンはバサバサと風を巻き起こして、空中にホバリングしてこちらを見下ろしている。
「あれがカースドラゴンか。」
顕現したカースドラゴンを見てオージェが言う。
「あの黒炎は恐ろしいほどの温度だ。絶対に受けないようにな。」
「わかった。」
「尻尾からも黒炎を吐くから気をつけろ。」
「尻尾からもか…」
「ああ。」
以前シャーミリアがかなりの損傷を負った事からもその威力がうかがえる。さらにあの黒炎にやられてしまうとシャーミリアの再生は追いつかなかった。もしかするとエリクサーも効かない可能性がある。
「おびき寄せよう。」
「できるだけ味方がいる森の方向とは反対方向が良いだろうな。」
「ああ。」
俺が返事をするやいなや…
バシュゥッ
「おっと!」
まだ落ちて来た黒炎に俺達が飛んで逃げる。俺達がいた一帯にクレーターが出来てゴウゴウと黒い炎が立ち上る。
「南西へ!」
俺、オージェ、ファントム、シャーミリア、マキーナが同じ方向に向かって走り出す。
ギャォオオオオオン
怪獣のような鳴き声を上げて俺達の方を向いているが…
「追いかけてこないな…。」
「どういうことだ?」
「わからん。」
カースドラゴンが俺達を追いかけて来る気配は無さそうだ。
「なら、こっから撃つ。」
俺は再びM777榴弾砲を召喚した。
ドン
「よし、クラスター弾にしてみるか。」
方向と射角をあわせて榴弾砲の向きを変え、クラスター弾の砲弾をファントムに装弾させる。
ドン!
ヒューン
バガガガガガガガン
到達する前に小分けになった爆弾がカースドラゴンに降り注ぐ。
ギャガオアアア
バサバサと翼を羽ばたかせてさらに高い場所に浮かび上がり、俺達にめがけて黒炎を撃って来た。
全員がすぐさま逃げるが、M777榴弾砲は黒炎の直撃をあびてしまい大破して燃えていく。
オージェが俺のところにやって来た。
「あいつ来ねえぞ。」
「妙だな。」
「離れらんない理由とあんのかね?」
確かに、離れられない何かがあるのか、カースドラゴンは俺達を追ってこないようだ。
「いずれにせよ、動かないのならやりようがある。シャーミリア!」
「は!」
「爆撃する。高度を取ろう。」
「かしこまりました。」
「オージェ達は出来るだけあいつの注意をひきつけておいてくれ。」
10メートル間隔でM777榴弾砲を5基ほど召喚した。
「気をつけろよ。」
「お前もな。」
俺はオージェにサムズアップをして上空へと飛び立った。カースドラゴンよりさらに高く高く昇って行く。
「この光の柱はどこまでも続いているな。」
都市の中に立ち上る光を柱を見て言う。これがあるだけでかなりこちらの攻撃が制約を受けてしまうのだった。
「はい。」
下ではオージェ達がカースドラゴンに対してM777榴弾砲を撃ちこみ始めた。カースドラゴンも反撃するように黒炎を吐いて応戦している。1基また1基とM777榴弾砲がやられているようだった。
「ひきつけ成功だな。」
「知能は無いのでしょうね。」
「そのようだ。」
「では。」
「おう!爆撃開始だ。」
俺がBLU-118サーモバリック爆弾をシャーミリアの手に召喚して渡す。既に信管などは設定した状態にしてある。シャーミリアはその爆弾をカースドラゴンにピッチャーのように放り投げた。投げてすぐさま次のBLU-118サーモバリック爆弾を渡す。
計5発
まるで核弾頭が落ちたような破壊力で、カースドラゴンのあたりで爆発していく。
「落ちた。」
「はい。」
カースドラゴンはほとんど燃えカスのようになって、聖都の中へと落ちていくのだった。すぐさま追いかけて俺達も降下していく。
ドン!
市壁の上に降り立って落ちたカースドラゴンを見るが、ピクピクするばかりで抜け殻のようになってしまっていた。
すると俺の所にオージェとファントム、マキーナがやって来た。
「やったか?」
「油断は出来ない。復活する前に総攻撃だ。」
「わかった。」
俺はSMAW-NEサーモバリックロケットランチャーを次々に召喚して、市壁の上に並べていく。オージェとシャーミリアとマキーナが、次々にロケランを担いでカースドラゴンの残骸に打ち込んでいく。
強烈な爆発音とともに炎に包まれていくカースドラゴン。
しばらくするとすべての残骸が消えさった。
「消えたな。」
「そのようだ。」
「だけどカースドラゴンに手間取っているうちに…。」
「…ああ、うじゃうじゃだ。」
市壁の中の市内にはデモンとしもべがわさわさと湧いていたのだった。まるで地獄のようなその光景にうんざりしてしまう。もしかしたらこいつらを消されるのを、カースドラゴンは阻止していたのかもしれない。それほど大量のデモンとしもべがいた。
「ラウル。もうここまで来たらあれじゃないか。」
「なんだ?」
「爆弾でやった方が早いだろう。」
「わかった。皆は避難してくれ。」
俺の言葉を聞いてオージェとファントムとマキーナが避難していく。
「ミリア。もうガンガンやっちゃおう。」
「かしこまりました。」
俺とシャーミリアは再び上空へと飛びあがり、BLU-118サーモバリック爆弾をじゃんじゃん放り投げていく。物凄い爆発と共にファートリア聖都は炎に包まれていった。
「また…。」
「はい…まだ人間がいたのですね。」
次々投げる爆弾で街を燃やすたびに、光の柱がちらほらと上がるのだった。隠れたり逃げた人間がいたのかもしれない。しかし俺達はかまわずにサーモバリック爆弾を大量投下していくのだった。
15分ほどかけて聖都の周りを回りながら、100発ほどの爆弾を投下し終えると、聖都は崩壊し完全な焼け野原になってしまった。
「もっと攻略が難しいと思ったけどな。」
「ご主人様の兵器の威力が段違いに上がっているようです。」
「やっぱりか。前線基地の攻略からラーズ達のデモンとの戦い、そして今回のファートリア侵攻におけるガザム隊やドラン隊の戦い、ギレザム隊とミノス隊の日本人部隊との戦い。皆が戦闘を行えば行うほど、大量の魔力が入って来たんだよ。」
「その恩恵を受けている我々もかなりの力を得ております。」
召喚兵器で人間を大量に殺害すればするほど魔力が入ってくる感覚、そしてデモンとしもべを殺せば殺すほど漲る力。常に俺はそれを感じ取っていた。俺の兵器が人やデモンを殺せば殺すほど、俺がレベルアップする仕様は健在のようだ。
「そういう事だよな。ガザム隊やドラン隊やラーズ達が西で戦った時も、かなりあっさり制圧できたなと思ったんだよ。」
「恐らく一般兵の力もかなり向上しつつあると思われます。」
「魔人軍の総魔力が上がってるって事だな。」
「それもひとえにご主人様のご威光のおかげかと思われます。」
「俺は魔人みんなのおかげだと思うがな。」
「そのお言葉だけで皆も喜ぶと思います。」
「落ち着いたら皆を労ってやらんとな。」
「そのような事は必要ございません。ご主人様は当たり前にその恩恵を受けられるべきなのですから。」
「俺がそうしたいんだよ。」
「かしこまりました。」
すでに爆撃をやめて、立ち上る光の柱を見ながら俺とシャーミリアが空で話していた。
「オージェ!」
無線を繋げる。
「ラウル。静かになったな。」
「こちらからはデモンは見えない。だがまだ出て来る可能性はあるから十分警戒していてくれ。」
「わかった。」
「グレース。」
俺は次にグレースに無線を繋いだ。
「はい。」
「一旦デモンとの戦闘はめどがついたようだ。だがまだ予断を許さない状況でもある。そのままその場所で待機していてくれるか?」
「わかりました。」
そして俺とシャーミリアは聖都の周辺を飛びながら、市内に変化が無いか哨戒行動を始めた。
「転移魔法陣はわかないようだな。」
「デモンの気配は無いようですが。」
「瓦礫だらけで見えないのかもしれないけどな。」
「あの光の柱が無ければ市内に突入できるのですが。」
「不用意には出来ん。」
「はい。」
「一度、戻るか。」
「はい。」
そして俺はオージェとファントムとマキーナにも拠点に戻るように言う。
拠点に戻り皆の元に来るとカトリーヌが駆け寄って来た。
「ラウル様!ご無事で!」
「ああ、カティ大丈夫だ。」
俺はヴァルキリーに命じ鎧を脱いで出て来る。俺の表情を見たカトリーヌが安心したようだ。後ろでマリアも微笑んでいる。
「良かった…。」
俺はカトリーヌの頭を撫でて微笑んだ。
「あの…恥ずかしいです。」
カトリーヌが周りを見て赤くなる。
「あ、すまん。」
カトリーヌの頭から手を離す。
「それで市内はどうなっているんです?」
グレースが言う。
「ああ、カーライルには申し訳ないのだが、デモンだらけだったから…焼き尽くしてしまった。」
「そうですか…。しかし致し方ないでしょう。」
「光の墓標がかなりの数、立ち登ってしまったようだよ。」
「しかし状況が状況ですので、人間を助ける事など出来なかったと思います。」
「すまない。これが精一杯だった。」
「いえ。」
カーライルは表情に出さずに返事をする。しかし救えなかった命の事を考えればその心中は察するに余りある。
「だがまだ終わった訳ではない。」
「ああ、市内の確認をどうするかだな。」
オージェが答える。
「それなんだが、グレース。」
「はい。」
「俺が偵察ドローンを出すから、それで市内を偵察しようと思う。しかし瓦礫が凄くてな、確認するにも確認しづらい状況になっているんだ。ゴーレムを数体一緒に都市内に入れて瓦礫の撤去をしてほしい。」
「わかりました。何通りかのコマンドを入れますので、しばらく待っていてもらっていいですか?」
「ああ。」
そして俺達は一時待機する事になった。
「みんなは警戒を解いてくれ。ファントムは周囲の警戒を続行しろ!異変があったらすぐに教えるんだ。」
「‥‥‥‥。」
もちろんファントムは今の命令でやるべきことは十分理解している。すぐに森の中に消えていくのだった。
「一度補給しよう。」
俺は大量のペットボトルと戦闘糧食を召喚して置いて行く。俺が拾い上げて食べ始めると皆も一緒に食べ始めるのだった。
「それでここにデモンを送って来ていた敵の所在については何かつかめたか?」
「それがまったくだ。」
「真の敵は他にいるって事か。」
「そう言う事だな…。」
「この都市自体が罠だったと言う事だろうな。」
「かなり仕掛けはあったな。インフェルノが発動するんじゃないかと思ったが、それは設置されていないようだった。」
「まだ何かあるかな?」
「それもこれから分かってくるだろう。とにかくグレースのゴーレム隊とドローンを使って、内部を調査しない事には何も見えてこない。」
「うむ。」
俺達が話しているとカーライルが口を開く。
「聖都の地下には、地下堂や地下水路などがありますが、そこに何かが隠れている可能性はありますか?」
「そんなものがあるのか?聖都の地下はどのようになっているんだ?」
「かなりの広さがあり、そして迷路のように入り組んでおるようです。ですが私は地下がどうなっているのかほとんど知りません。実は大聖堂の地下に入った事があるくらいで、全容を知らないというのが実情です。」
「そうか。」
もしかすると地下に何かある可能性はある。しかし今は瓦礫の撤去や調査が先だった。
「カーライルさん。地下から外に出れる通路があったりしますか?」
オンジが聞いた。
「そこまでは分かりません。」
「いや、私の一族の隠れ家などには、地下の逃げ道などが用意されたりしていたものですから。」
「いや…待ってください。」
「どうしました?」
「ケイシー神父は…、ケイシーは地下通路から逃げて来たと言っていました。」
「あるのですね。」
俺達はその事実を知り考え始める。
その抜け道などを調査するにしても、かなりの広範囲となるのでこの人数では発見するには時間がかかるだろう。
「でも…逆に言えば、脱出路を出口から反対に進んで地下から安全に中に入る事も出来る?」
俺が言う。
「確かに。そこはノーマークになっている可能性もあるだろうな。」
オージェが答える。
「ドローンを侵入させればいいのか?」
「まあ確かにな。だが地下通路の出口を探す必要があるぞ。」
「出口は分かりづらいところに作るんじゃないか?」
「‥‥この森か?」
「可能性はある。」
そして俺はカララを見る。
「かしこまりました。すぐにそれらしきものを探しましょう。」
カララは大量のUZIサブマシンガンをまとめて一か所に置いた。
そしてカララは森の中に消えていくのだった。
次話:第461話 秘密の出口へ
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ラウル君もようやくここまでこれました。
みなさんの応援のおかげです。
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