第46話 巨大蛇の森で朝食を
俺達はM93フォックスで走り続けた。2刻(約6時間)ほど走り続けて朝になった。
2人のヴァンパイアは、遮光もできるテントにくるまって床にうずくまっている。
「ラウル様、まもなくグラドラム国境にございます。」
「もう着くのか。」
「はい、この乗り物は速いですね。馬車ならもっと時間がかかるはずでしたが。」
「ギレザム。流石にこれで国に入れないようなきがするんだが…」
「まあ目立ちますでしょうな。このような凄い乗り物など見たことはございません。」
「入国できなかったりしない?」
「おそらくそうかもしれませんが、ラウル様の物に文句を言うようなものがいれば処分しますゆえ、ご安心ください。」
いやいやいや!ご安心できねぇ〜!そんな事で処分しちゃだめだめ!
「いや、それはやめておこう。父に会うというのに血で汚したくはない。」
「不粋な申し出をいたしました。申し訳ございません。」
で、M93フォックス輸送車…どうするかな?流石に捨てるに捨てれないな。国境を越える時には念のため全員徒歩のほうが良いような気がする。
「ギレザム、この乗り物を人に見つからないように捨てたいんだけど、火山とかない?」
「こんな素晴らしい物を捨てるんですか?」
「ああ、実はそろそろ燃料というものがなくなって動かなくなるんだよ。」
「そういうことですか。しかしこれより国境までは火山も湖もありません。」
そうなのか・・じゃあ壊してしまうしかないか。ただし目だだないところでやるしかないな。
「じゃあ、このへんに森はあるかい?」
「あります。」
「そこに向かおう。」
「わかりました、そちらへ向かいます。」
ギレザムがハンドルを右にきって草原に入っていく。
しばらく走っていると、森が見えてきた。
「あそこです。」
「この車が森の中に入って行けそうなところはないかな?」
とりあえず森のまわりを走らせてみる、すると木が倒れて獣道のようなものがあった。
・・いや・・獣道・・というにはでかすぎる。
「停めてくれ。」
車はその森の幅の広い獣道の入り口に停まった。大木が折れて道ができたようになっている。ロードローラーでも通ったように、木も地面にめり込んでここなら通れそうだった。
「ギレザム。獣道?この倒木の跡はなんだ?」
「はい。これはおそらくレッドヴェノムバイパーの通った跡です。」
「レッドヴェノムバイパーって?ギレザム勝てる?」
「問題ないかと。」
凄え自信だなあ。でも強いしタフだしきっと問題ないんだろうな。だけどレッドヴェノムバイパーとかめっちゃカッコいい名前だ。
ラウルはのんきにカッコイイなどと言っているが、なんとこの魔獣はSランクモンスターなのである。M93フォックスで走破してきてしまったため気が付いていないのだが、グラドラム付近には強力な魔獣が多数いるのだ。人間の生存領域に近づくことはないが、グラドラムのような辺境の地周辺の山や森はこんな強力な魔獣の住みかとなっていた。普通はこのあたりで街道をそれる人間はいない。
「ところでレッドヴェノムバイパーってなんだ?」
ギレザムが木にひっかかった塊を持ってくる。何かのウロコみたいだが禍々しい赤だ。
「これがウロコです。」
「ウロコがこんなにデカイの!?」
ウロコが・・デカすぎる。俺の顔よりもずっとデカイ。
「巨大な毒を吐く大蛇です。このあたりでもあまり見かけない魔獣ですが、この大きさですとここら一帯の主かもしれません。」
えっ!?こんなデカイ毒蛇がいるの?デカすぎない?鯨ぐらいの幅の広さがあるでしょ、もっとかな・・これ。
「そうとうデカいな。」
「はい、ただ・・その巨大さよりも毒が厄介です。」
おれは興味本位で聞いてみた。
「このレッドヴェノムバイパーが通った道を進んだらどうなる?」
「森には入らぬ方が良いかと思われます。」
「勝てるんだろ?」
「我らは問題なく、しかしイオナ様や他の方を守りきれるかは別です。」
「わかった。」
なるほど、オーガとはいえかなり厳しい森なんだな。
うーむ。
とりあえず俺は車を降りて外に出てみた。朝もやの森は少し肌寒く感じた。木々の背丈は見上げるとかなり高く、森に踏み込めば日光が遮られ少し暗い。すでに季節は秋口、冷たい空気が肺に入り朝の清々しさを感じることができた。
「まずは皆を起こすか。」
俺は後方にまわり後部ハッチを開ける。冷たい空気が車内に入り込む。
「ヒッ!」
あ、ヴァンパイアが軽く悲鳴を上げたな・・日光か。とりあえずハッチを閉めて中に入り込んだ。
「わるいな。」
「い、いえ。私共のことなどお気になさらずに・・」
シャーミリアが震えながら答える。
さて。
「マリア。」
俺はマリアの肩に手を当てて軽く揺らす。
「ん・・はい。」
マリアが薄っすらと目を開けて俺を確認した。すると急に目をパチクリとさせて、俺のかたをつかんできた。
「ラウル様!ラウル様!!大丈夫ですか?お怪我はございませんか?ヴァンパイアはどうなりました。」
「ああ、ヴァンパイアは殲滅したよ。2人ほど味方にした。」
「・・・・」
マリアは言われている事が分からないようだった。
「あの・・」
「マリア、びっくりすると思うけど、そこにある布にくるまれてるのがヴァンパイアだ」
「えっ・・」
「大丈夫だから。」
「そうなんですか・・」
言ったあとマリアが俺をじーっとみている。なんだ?恥ずかしいな照れるじゃないか。
「あの・・ラウル様・・大きくなられましたよ・・」
「そうかな?」
やっぱりそうか。なんか目線が高くなったと思ったんだよな。8才だけど目線が昨日の昼間とは違う・・なんでいきなりデカくなったんだろ?
「なんでか分かんないんだけど。」
「はい・・あと言葉遣いが、いや・・見た目も男っぽくなったというか・・」
あ・・そうだったんか?変な感覚だ。なんか知らんが暴力的な気持ちが芽生えてきたみたいで、抑え込まないといけない感じになってる。何か俺の中にいつもと違う魔力が渦巻いていて常に滾る感じだ。なにかを欲するような熱が体の中に溜められている気がする。オーガやヴァンパイアが言ってた元始の魔人とかいうのが原因かね?
「自分でも強くなった感じなんだよ。」
「体つきが全く違います。」
「そうなんだ・・」
自分で鏡に映してみないとわからない。
すると他の人たちも起きてきた。ゴーグだけはまだ横たわったままだが、目を開けてこっちを見ていた。
「ゴーグ、大丈夫か?」
「すみません。ラウル様・・腹が・・へりました。」
ゴーグは俺がレッドベアーにやられたときのように腹が減ったと言っている。やっぱりそうだ!魔人の体の治し方は食べる!これだ。
「おはようラウル・・ラウル?あなたなんだか大きくなったわね。」
イオナも俺の異変に気が付いたようだった。
「母さん、なんだか変なんだよ。体が熱くてさ・・」
「ふふっ、言葉遣いもなんだか子供らしくていいわ」
イオナは破顔して笑った。なんか超美形がこんなに屈託のない笑いをすると癒されるな。
ミゼッタがゴーグにしがみついている。
「ゴーグ!大変・・大丈夫!?」
「ん、なんとかなるさ。とにかく腹が減った。」
ゴーグが無事なのを確認したミゼッタが泣き笑いみたいになる。
ミーシャが起き掛けに俺に聞いて来た。
「あの!ヴァンパイアは?」
「ああ、あの・・殲滅したけど。ただ・・そこに二人、仲間にしたヤツがいるよ。」
「えっ!な・・仲間って・・」
「大丈夫問題ない。俺の配下だ。」
「あれ?なんだかラウル様が・・」
ミーシャが俺の変化に気が付いたらしい。俺も気を使って話ができないほど気持ちが高ぶっている。子供の体・・軽自動車にモンスター級のハイパワーエンジンが積まれた感じがするのだ。
「まあ気にしないで。」
「はい。」
「てかみんなで朝飯にしよう。外が清々しくて気持ちいいぞ。」
みなで車を降りて外に出てみると、ミゼッタからあらためて言われた。
「やっぱりラウル大きくなった。」
ほんとうだ、ミゼッタより15センチくらい大きくなってる。ミーシャよりもまだ少し低いが8才の身長じゃない。こんなデカイ小学2年生はいない。
「ほんとうですね・・私も抜かれそうですね。」
ミーシャもやっぱり俺がデカくなったという。
ギレザムに肩を借りて歩くゴーグが言う。
「ラウル様、魔力が凄まじいですね・・」
そんなに変わったんかな?確かに体が熱いきがするが・・
「やはり元始の魔人の生まれ変わりなのでしょうか?」
ガザムが俺を元始の魔人だというがね・・元始の魔人の生まれ変わり?違うよ、俺は高山淳弥31才ミリオタで童貞の冴えないサラリーマンの生まれ変わりだよ。
「じゃあ、おまえたち。悪いが車の中で待っててくれ」
「わかりました。」
ヴァンパイアへ森の脇に停めたM93フォックスに乗って待っているように声をかける。
バタン!
後部ハッチを閉めて森に出来た獣道の入り口に集まる。
「ギレザム、ここに人間はくるかな?」
「ここには人間は立ち寄らないと思います。」
「危険という事でか?」
「はい。ですが昼間であれば魔物が森を出ることは滅多にないです。」
魔物の通り道だけどな。
「でもさっきのウロコからすると、レッドヴェノムバイパーとやらが通ったんだよな。」
「それがラウル様・・逆にレッドヴェノムバイパーがいることで、他の魔獣が怖がって寄り付きません。夜になるまでは安全と言えるでしょう。」
「レッドヴェノムバイパーもこないかな?」
「やつらの活動は夜です。」
「ならよかった。じゃあここにテントを張る!」
俺は拠点用の軍事テントを召喚した。30平方メートルに及ぶ軍隊の拠点などに使われるテントで、全員が入れる大きさがある。森のそばに設置するため迷彩柄を召喚した。それをみんなで協力し合って立てる。
「これほどの大きなテントなんて見たことないですね。」
ミゼッタが言う。
「ほんと大きいわ、そしてこの柄・・どうやって色を付けているのかしらね?」
イオナも感心しきったように言った。迷彩柄なんて異世界にはないだろうからな・・
「じゃ、入ってくれ。」
みんながテントに入る、さてと・・
一気に10カ国の戦闘糧食を召喚した。
自衛隊、米軍、フランス軍、イタリア軍、カナダ軍、ドイツ軍、イギリス軍、ロシア軍、ノルウェー軍、ポーランド軍などの、俺が前世で食べた戦闘糧食で美味かった物、10種類でどれが皆の口に合うかどうかわからんので全部出してみた。
夜の戦闘に疲れ、皆狭い車中で揺られてきた疲労感は半端ないと思う。とにかく何でもいいから食べたいものを食ってもらうために、いろんなバリエーションを出してみる。
「こんなに・・」
イオナが唖然としている。
「それでは私たちも準備を手伝いましょう。」
「「はい」」
マリアの号令にミーシャとミゼッタが返事をして食事の準備を始める。
「とにかく、食ってくれ!たぶん・・どんどん出せると思う!遠慮はいらないので腹がパンパンになるまで食ってくれていい、チョコやケーキが欲しいならそれだけでもだせるから、おかわりしてほしい!」
みんなに全く遠慮しないようにいう。
「それではお祈りを」
イオナが皆に言うので、俺とマリア、ミーシャとミゼッタだけがお祈りを捧げる。ギレザムたちはどうしていいか分からず俺を見ていた。
イオナはどこまで行っても礼儀正しいのである。
「じゃあいただきましょう。」
戦闘糧食で悪いんだが、俺達のささやかな食事が始まった。
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