第455話 光柱の特異な性質
ドラン隊が数千の騎士を殲滅したところに大量の光の柱が立ったと報告を受けた。北のラインを確保したと思ったが不安要素が残ってしまった。
今の所、西に現れた光柱が立ち登った拠点からは何の伝達も無い。
《あれはいったい何なのか?》
光柱だけが謎だった。
「いまの所、全く悪さはしておらんようじゃがのう。」
モーリス先生が言う。
「はい、しかし私がひっかかった砂漠への転移罠のような物もあります。とにかくどんな作用があるのかさえ分かればいいのですが。」
「そうじゃのう。じゃが手を出せないのじゃから、今のところは仕方ないじゃろうな。」
「はい。」
「必ず何らかの意味があると思うのじゃが。」
「ただのこけおどしという事はないのでしょうね…」
「恐らく必ず意味はあるじゃろ。」
もちろん何の意味も無いわけがない。そうであったらいいという俺の願望だ。が、モーリス先生の言う通り、敵は何らかの意図があってやっている事は間違いなかった。敵はこちらが光柱に容易に手が出せない事を知って仕掛けているように感じる。
「何と言いますか…。」
「なんじゃ?」
「勘としか言いようが無いのですが、焦りを感じるのです。」
「焦りじゃと?」
「何というかアレを早く対処しないと何か大変な事が起きそうな気がするのです。」
「ふむ。予知夢的な感覚かのう。」
「分からないのですが、悠長に事を構えていられないような気がするのです。」
「直感じゃな?」
「はい。」
するとモーリス先生があごに手を当てて何かを考える。
「西の収容所じゃがの。」
「はい。」
「わしが3拠点とも結界を張ったのじゃ。」
「そうお願いしました。」
「光柱はの、結界を突き通して立っておった。」
「やはり防げないものと思っていいのでしょうか?」
「ふむ。結界によってあの光を遮断する事は出来んかった。」
「はい。」
「あれは…魔法とは全く無関係のものじゃと思うとる。」
「魔法とは無関係なものですか?」
「あれは言って見れば、ラウルの銃弾のような物かの。」
「私の銃?」
「まあそうじゃな。意味がわからんか?」
「どういう事でしょう?」
「なら実践してみよう。」
モーリス先生はおもむろに腰かけた車のハッチから降りて歩き出す。俺も泥棒髭を操って先生の後ろをついて行った。
スッ
先生が杖を上にさし出してすぐに、俺達が乗っていた車全体に結界が張られる。瞬間的に魔法を発動させるのはモーリス先生ならではだ。今まで大勢の魔法使いと戦ってきたが、この速度で魔法を発動させる人間を見たことが無い。強いて言えばモーリス先生の教え子である、カトリーヌの回復魔法の発動速度が速いが、モーリス先生の魔法発動には遠く及ばないだろう。
「そしてな。」
ボッ
すぐに結界に火魔法を放つ。するとファイヤーボールは結界に当たってはじけ飛んだ。
「これも。」
次に氷魔法を放った。アイスランスが結界の張ってある車に飛ぶがこれも弾かれる。
属性の違う魔法を重複してポンポン発動するのも、モーリス先生ならではの技だ。普通は1属性扱えるのがやっと、2属性ならかなりの技術を要する。それが軽々といろんな魔法を使う。
《洞窟では光魔法で俺達を誘導してたしな。一体この人は何種類の魔法属性を扱えるんだろう。》
「そしてこいつも。」
次に石弾を放つ。これも結界に弾かれて砕け散ってしまった。
「どうじゃ?」
「はい、凄い結界です。」
「頑丈じゃろ?じゃがおぬしの銃で撃ってごらん。」
「ギル!銃を貸してくれ。」
「はい!」
俺はギレザムからデザートイーグルを借りて車に向けて打ち込む。
バンッ!
ガイン!
「車に当たった。」
デザートイーグルの放った弾は結界を貫通して装甲車の外装に当たる。
「ふむ。やはりわしはその銃の理を知らんらしい。ただの鉄の弾じゃと思うんじゃがのう。」
「なるほど。先生それは私がなんとなく分かります。」
「なんじゃ?」
「実は昔は出来ていなかったのですが、私の武器には私の魔力が…いえ魔人達の魔力の総力が付加されているのです。」
「なんと。」
「ちょっと昔話なのですがいいですか?」
「なんじゃ?」
「今の魔力とは関係の無い話なのですが…昔、ルゼミア母さんに差し向けられたヴァンパイアの群れに襲われたことがあったんです。」
「ふむ。」
「ヴァンパイアというのは不死の魔人ではあるのですが、カトリーヌが使う回復魔法や、エリクサーやポーションなどの回復薬に弱いのです。」
「そうじゃったな。」
「そこで私は弾丸にポーションをかけてヴァンパイアに撃たせたことがあるのですが、見事その狙いは的中して殲滅する事が出来たんです。」
「面白い事を考えるのう。」
「はは。まあ必死でしたから。」
俺の頑張った昔話を目を細めて聞いているモーリスおじいちゃん。その顔はとにかく優しそうで本当に俺の事が可愛いんだなと思う。
だが、次の瞬間…泥棒髭の俺の顔を見て引き攣った。
はやく実物で会いたい。
「‥‥それで…私の連結という能力なのですが、いまはそれを常時接続させている状態です。私の魔力の付加が常に全兵器にかかっているのです。以前その魔力の連結が切れてユークリット王都のデモン戦では部下を失いかけました。それから考えると、そのポーションをかけた時のような効果が、魔力の付加によってあるのではないかと思うのです。」
「なるほどの。ならばわしの結界が効かぬ道理もわかる。」
「そうなのですか?」
「ラウルの魔法は普通の魔法とは違う。」
「違いますか?」
「違うのう。というよりも解析が困難なようじゃ。解析すればあるいはとも思うが、しかし新たな魔法の解析となるとまた数十年の月日が必要となる。」
「では解析すればなにか分かりますか?」
「わしゃおそらくそんなに長く生きれんじゃろ。」
「いえ、先生には生きてもらわねばなりません。」
「どうかのう。ラウルにはどう見えておるのか分からんのじゃが、わしは魔法によってかなりの長寿を得ているのじゃ。」
「そうなのですか?」
「そうじゃ。じゃが新しい魔法にまで時間を割いとったら、わしも生まれ変わらねば追いつかんじゃろうな。」
「‥‥‥。」
もしかしたらそんな日が来るのかと考えたら急に寂しくなってきた。先生にはずっと生きていてもらいたい、しかしモーリス先生は人間で俺は魔人…いずれ見送るときがくるのだろう。
《やだな。》
俺がつい意識で漏らしてしまう。
《ラウル様。それは…魔人に生まれた宿命にございます。》
ギレザムが言う。
《分かってるつもりなんだけどな。》
「なんじゃ?おとなしくなりおって。」
俺が黙り込んでいるとモーリス先生が言う。
「いえ!なんでもありません。それで私の魔法に似た何かが、あの光柱にあると言う事でしょうか?」
「うーむ。実はそこまではよくわからんのじゃ。」
「そうですか。」
そんな話をしている時に俺はふとある事を思い出していた。それは、アナミスとやった魂核の書き換え作戦の事だ。あれで俺は輪廻の旅に出たような錯覚に陥った。
なんとなくあれにニュアンスが似ているような気がするのだが…
「先生。魂核の話なんですが。」
「うむ。」
「私の何の根拠もない推測で申し訳ありません。あの光柱は魂核や輪廻などとは何か関係が無いでしょうか?」
「‥‥‥‥」
モーリス先生が目を瞑って考え始めた。
しばらく黙って考えているのを俺達は待った。
「…あるやもしれんな。」
「そうですか?」
「面白い推測じゃが、人の死体に生える光柱じゃしの。その可能性は十分にあるかもしれんぞ。」
モーリス先生の目に爛爛と光が灯り始めた。
「あ、あの!先生!ですが何卒あの光にはお近づきにならないようにお願いします。」
「ふぉっふぉっふぉっ!心配せんでええ。ラウルの作戦の邪魔をする様なマネはせんわい。」
「本当にお願いします。」
「わかったわかった!」
モーリス先生がうっかり光の柱の解析に行くんじゃないかと思って慌ててしまった。さすがにそんな危険な真似は許すわけにはいかない。
《ラーズ!そしてみんなも聞いてくれ。》
《《《《《は!》》》》》
ギレザム、ミノス、ゴーグ、ルピア、アナミスが答える。
《先生を絶対にあの光の柱に近づけさせるなよ。どんなに駄々をこねても絶対だ。俺の最大の命令だと思ってくれ。》
《《《《《かしこまりました!》》》》》
念を押しておかないと不安でしょうがない。なにせ好奇心オバケなおじいちゃんだからな。
「でもあの日本人の魔法を解除出来たのは何故です?」
「あれは、こちらの世界の魔法じゃ。話を聞いてピンときたのじゃよ。おそらく誰かに師事して学んだものじゃろうなと。」
「なるほど。」
「ただしあの魔力量は凄まじいものじゃった。こちらの世界にはあれほどの魔力量を持ち合わせている者は、魔人以外におらんのじゃないか?」
「それほどの者でしたか。」
「じゃな。」
「先生よりも?」
「おぬしはわしを買いかぶりすぎておる。わしの魔力量は人並みより少し多いくらいじゃ、効率と精度を上げて最小限の魔力でやっておるだけよ。」
「重ね掛けもできますよね?」
「そりゃもちろんじゃ。これだけは多少の才能も必要かの?」
「カトリーヌは回復魔法の重ね掛けをしますよね?」
「あの子は天才じゃ。あんな才を持って生まれてくる子はそうおらん。」
「そうだったのですね。」
「ふむ。」
先生との話が一段落した時、ルピアから念話が繋がった。
《ラウル様。》
《どうだ?》
《まもなく村に着きます。》
《そうか、全員武器を構えて警戒しろ。万が一があるからな。》
《かしこまりました。》
そしてそろそろ俺も聖都の俺本体へ戻らなければならない時間が近づいて来た。
「先生。それではここで魔人達と基地の設立をお願いします。結界での補強をお願いできたらありがたいです。」
「ふむ。任せておれ!」
「ありがとうございます!」
「ラウルはそろそろ戻るのであろう?」
「はい。」
「わしはおとなしくしとるよ、のう…ラーズよ。」
「はい。恩師様はいつも節度を持って行動されておると思います。」
「と、いうわけじゃ。安心しておくれ。そして…。」
「はい。」
「必ず無事にわしの元へ、そしてイオナの元へ帰ってくるのじゃぞ。」
「必ず。」
泥棒髭の俺は深々とモーリス先生に頭を下げた。
「よし!ギレザム!この体は預ける。別に護衛なんか付けなくてもいいぞ。」
「は!」
ギレザムに泥棒髭を託して聖都の体へと意識を戻す。俺はヴァルキリーの中に居てスタンバイ中だった。
《ヴァルキリー。こっちはどうだ?》
《我が主。特に変化はないようです。》
《そうか…出してくれ。》
《はい。》
ガシャン
俺はヴァルキリーから出て来る。聖都侵攻作戦の開始時間からきっかり1時間前、監視場の木の根元には全員が集まっていた。
「カトリーヌ、マリア休めたかな?」
「はい、セイラのおかげで深く眠れたようです。」
「私もスッキリしてます。魔力も回復しております。」
「よかった。カーライルとオンジさんは?」
「私もイケます。」
「もちろん私も問題ありません。」
セイラの催眠効果で究極の深い眠りについたため、3時間ではあるが十分な休息をとったのと同じ効果がある。瞬間で深い眠りにつかせて目覚める瞬間まで深い眠りについているという不思議な能力だ。おかげでみんなスッキリした顔をしている。
オージェもグレーズも、シャーミリア、カララ、セイラ、マキーナも勢ぞろいしている。
「よし。それじゃあみんな!作戦決行1時間前だ!時計合わせ!」
皆が腕時計を見る。
「10、9、8‥‥1!」
ピッ
全員が腕時計を合わせる。
「よし!結局、敵に動きは無かったようだな。予定通りに作戦を決行する!せいぜい派手に暴れてやるとしようぜ!」
俺が声高らかに言う。
「「「「「「オー!」」」」」」
オージェとグレースと人間達が雄たけびを上げた。
「身命を賭して!」
「はい!」
「かしこまりました!」
「敵の慌てふためく様が見ものですわ。」
魔人達がそれぞれに返事をした。
さて、この作戦。吉と出るか凶と出るか…
俺は全員に向けて作戦の最終確認を行うのだった。
次話:第456話 ファートリア聖都侵攻
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