第45話 元始魔人の系譜
う・・うう・・。
俺は完全に意識がとんでいたようだ・・
少しずつ目覚めていく感覚の中でギレザムの声が聞こえてきた。
「ガザム・・ゴーグ!よく耐えた・・」
ここは・・どこだ?俺は体を起こす。
「ラウル様!ご無事でなによりです。」
ギレザムが声をかけてくる。
気が付くと、M93フォックス兵員輸送車の周りにみなが横たえられている。
「ギレザムがみんなを助けてくれたのか?」
「いえ、ヴァンパイアを殲滅したのはラウル様ですが・・」
やっぱりそうだよな。無意識じゃなく意識があったけど体が自由効かなかったんだよなあ・・どうやってやったのか全くわからない・・
「お目覚めでございましょうか?」
ん!女の声がして振り向くと、あの貴族風ヴァンパイアともう一人がひざまずいていた。
!!!うっ・・うわ!!
ぶ・・武器を!!ヴァンパイアだ!!おれが慌てていると貴族風女ヴァンパイアが言う。
「落ち着きくださいませ!私に反意はございません。すべてはすばらしきあなた様の御心のままに。」
「お・・お前は?」
「私奴などには、あなた様のような素晴らしき御方へ語るような名などございませぬ。」
俺は・・改めて周りを見渡した。
イオナ、マリア、ミーシャ、ミゼッタは横たえられているが寝ているようで寝息を立てている。ガザムとゴーグが肩で息をし瀕死の重傷という感じで座っている。ギレザムだけが俺のそばにいて普通に座っていた。
ギレザム・・タフだな。若頭とかいう位置にいるのもわかる。
「ギレザム。これはどういうことだ‥」
「もちろん、魔人は全てすばらしき御方様に従うよう魂が定められておりますゆえ」
「魂・・とかじゃなくて、俺の家族は無事か?」
「はい、もちろん無事でございます。」
「そうか・・よかった・・」
あ!!そういえば、俺の体!!どうなった!?武器がにょきにょき生えまくっていたんだっけ!!すっげえグロテスクだったぞ!気持ち悪すぎだ!暴走ってやつだろ!あれ!と思いだし、体を見てみるが手も足もある。
・・武器が消えて・・元の子供の体・・いや、何だがひと回り大きくなっていないか?
よかった・・とにかく治ってる。あのへんな暴走も止まったのか・・
「ギレザム・・それで、こいつらは?」
「ヴァンパイアでございます。」
「そりゃ見りゃわかるって!なんでこいつらおとなしくしてんの?」
俺はあまりにも状況が飲みこめず、矢継ぎ早にギレザムを質問責めにしていた。
すると、今度は貴族風の女バンパイアが答える。
「これまでの非礼をお許しください。私たちはこのまま朝を待ち炎に焼かれて消滅いたします・・・それがせめてもの罪滅ぼしでございます。」
「へ?いや・・ギレザム・・彼女どうしたの?」
俺はよくわからずに間抜けな声を上げた。ギレザムが答えようとするが、ヴァンパイアが答えた。
「あなた様が元始の魔人である事も知らずに、命令とはいえ牙をむけてしまったのです。死よりほかに謝罪のしようがございません。」
「元始の魔人?ギレザム?どういうこと?」
俺がギレザムに聞くので、ギレザムが答えようとするのだが、またヴァンパイアが遮って答えた。自分が聞かれていると思っているらしい。
「はい・・我々はあなた様のお目覚めと共に、魂の系譜による連結がなされました。すべてはあなた様の仰せのままに。」
「目覚め?俺の言うまま?」
「はい」
どういうことだ?元始の魔人ってなんだよ?よくわかんないんですけど。
「ギレザム、あれからどのくらいたったんだ?」
「まだ半刻ほどかと。」
やっとギレザムが答えた。
1時間半くらいか、まだ深夜ってところだな。
「えっと、おまえ・・なんて呼べばいい?なんて名だ?」
俺が話をするのに不便なので、貴族風の女ヴァンパイアに名を訪ねる。
「あなた様に名を名乗るなど・・私にはとても・・」
「いいから、言えって」
「はい、名を名乗る事を許される寛大な御心に感謝いたします。お耳汚しになりますが私奴はシャーミリア・ミストロードと申します。」
「で、そっちは?」
シャーミリアと名乗るヴァンパイアの後ろには、女のヴァンパイアが頭を地面にこすりつけてひれ伏していた。
「こ・・この者などは、私奴の眷属にござりまする。とてもあなた様のお耳を汚すようなことなどできかねますゆえ」
シャーミリアが俺に頭を下げて言ってきた。
「面倒だから、お前自分の名前直接言えよ。」
「マ・・マキーナ・アサリスタにござりまする。」
地面に顔がついている。
「ちょっと顔をあげてくれよ。話しづらいからさ」
「ご勘弁くださいまし!あなた様のお目を汚してしまいます!」
「あー!もういいから頭を上げろ!」
「は!はい!!」
後ろのヴァンパイアが頭を上げた。
美人だった。シャーミリアと同じように顔は真っ白で唇だけがやたら赤いのは同じだが、切れ長でシャープな顔立ちのクールビューティーだった。あれかね・・ヴァンパイアってのは美人がおおいのかね?
「シャーミリアちょっと聞きたいんだけど、お前ら前の村を全部屍人にした?」
「名を・・名を呼んでいただけるとは・・。はい、もちろん!私が全てアンデッドにいたしました!」
「なんでだよ?」
「オーガが3人、人間を連れて旅をしているのを察知しまして、力を削るために村全体をアンデッドにして罠を仕掛けたのでございます!」
やっぱりそうか。てか罠の為に村の住人を全てアンデッドにするとか・・やっぱり魔人は人間とは相入れぬようだ。
「そうか・・・」
「どうしてオーガが旅してるのを見つけたんだ?」
「グラドラムから追跡しておりました。」
「グラドラムから・・だれの指示でやった?」
「ルゼミア・ザウラス王にござりまする。」
ここで、ガルドジンに惚れて俺を抹殺しようとした張本人の名前が出てきた。俺はてっきりバルギウス帝国とファートリア神聖国、西の軍団が差し向けた敵なんだとばかり思っていた
「なんて言われてきたんだよ。」
「オーガがつれた魔人の子を生きて捕まえてこいと」
「なんでそんなことするんだ?」
「はい・・ルゼミア・ザウラス王はガルドジンという魔人に恋心を寄せておりますゆえ、そのお子をさらってくれば自分の元へガルドジンが来てくれるとおっしゃっておりました。」
えー!私的な問題!!じゃあ本当にバルギウス帝国とか関係ないのかな?
「バルギウス帝国とか関係あったりしますか?」
「いいえ、人間の国など意味もございません。」
意味がない・・だろうな・・。
「わかった。とりあえずそこに座ってろ。」
「はい!」
俺はガザムとゴーグがどうなったのか気になった。
「ギレザム!・・ガザムとゴーグはどうだ?」
「かなり傷を負っておりますが、死ぬことは無いと思います。」
「そうか・・」
「この者どもはいかがなさいましょう?」
うん・・どうしよう。まあこちらに死人はでなかったしな。というか俺の実の親父が原因の半分かもしれないと知ったし・・どうするか?
「お前たち、死ぬくらいなら俺の部下になれ。」
「!?私どもがあなた様の部下に?そ・そそ・・そんな滅相もございません!」
シャーミリアがうろたえるように頭を地面につけてずりずりと後ずさる。
「ギレザム・・こいつを配下にしたいんだが、いいかな?」
「はい、あなた様がそうおっしゃるのであれば問題ございません。」
「ギレザム。そのあなた様というのやめて、前のようにラウルと呼べよ。」
「はい、ラウル様。」
俺は何も変わっていないのに、魔人たちのこの怯えようはなんなんだ・・。とにかくギレザムには普通でいてもらわないとやりづらい。
「ってわけで、お前たちヴァンパイアは俺の部下な。」
「なんという慈悲深き御心。私共があなた様の部下だなどと、使い捨てていただいて結構でござりまする。なにかのお役に立つことができるのならば本望でございます。」
シャーミリアが頭を地面につけたまま、ずりずりとさらに後ずさった。
「お前たち、朝が来ると燃えるんだよな?」
「左様にございます。」
「なら、まずあの車に乗ってもらう。」
「わかりました。」
イオナとマリア、ミーシャとミゼッタはまだ意識を取り戻さない。
「彼女らはどうして気絶してるんだ?」
「元始の魔人の叫びを直接聞いてしまいました。通常の人間であれば死ぬこともありますが、ラウル様のお出しになった、この耳に詰める物のおかげで命拾いをしたのだと思います。」
彼女らはスマート耳栓のおかげで助かったらしい・・というか俺が殺してしまうところだったの!?そりゃないよ。とにかくTCAPSスマート耳栓を出しておいてよかったわ。
「とにかく、彼女らを車にのせよう。」
俺の魔力はいつのまにか復活したようだったが、早いな!なんでこんなに早く魔力が復活した?なんか滅茶苦茶、体を動かしたい気分だし!
イオナ、マリア、ミーシャ、ミゼッタを車内に運び、座席に座らせてベルトをかけて体を固定する。イオナだけは床の部分に座らせて壁にもたれかけさせた。さすがにお腹が大きくて締め付けるのは良くないと思ったからだ。
「じゃあ、ガザム!ゴーグ!歩けるか?」
「は・・はい。」
「大丈夫です・・」
ガザムもゴーグもよろよろと立ち上がり辛そうだった。
「ギレザム!ガザムに肩を貸してやれ!」
「は!」
俺はゴーグのそばに寄って行って肩を貸そうとした。
「いえ!ラウル様のお手を煩わせるわけには・・」
「いいって、ゴーグもさ!いつも通り普通にしゃべってくれよ。」
「そのような・・」
「とにかく肩につかまれよ」
「はい」
ゴーグは俺の肩につかまりようやく歩き出した。そのまま車に乗り込んでガザムと一緒に座席に座る。
「じゃあさ、悪いんだけど、シャーミリアとマキーナも乗ってくれよ。」
「「は、はい!」」
二人も急いで車に乗り込む。
「じゃ二人は床に座り込んでくれ。ちょっと太陽対策をするから。」
「かしこまりました。」
ヴァンパイア二人が床に座ったので、おれはあるものを召喚する。
ドサドサ!
俺が召喚したのはDSA-100-3840 米軍テントだ。これなら遮光性もあるのでヴァンパイアも燃えないんじゃないか?しらんけど・・
「お前たちはこれで完全に体をくるんどけ。夜のうちはいいが日光が出てくる前に必ずやっとけよ。」
「かしこまりました。あなた様の導きに従います。」
シャーミリアとマキーナは俺からテントを受け取った。
「一応言っておくけど暴れるなよ!」
「そんな・・滅相もござりませぬ。あなた様の大切な方々を守る事こそすれ暴れるなど。」
さっきまで、さんざん痛めつけてくれてたじゃないか!
「わかった。じゃあガザム!ゴーグ!ボロボロのところ悪いんだけど、一応見張っててくれな!」
「わかりました。何かの時はどうします?」
「まかせる。俺じゃどうしようもないしな。」
俺がそんな会話をしていると、シャーミリアが震えながら言う。
「あなた様に背くなどあり得ませぬ。末席に加えられただけでも光栄にござりまする!何卒ご安心くださいますようお願い申し上げまする!!」
「わかったよ。とりあえず日が出てきたら、それかぶれ。」
「仰せのままに。」
さてと・・とにかくマリアも寝てしまっているしな・・ギレザムしか動ける者がいないな・・操縦はギレザムにしてもらう事にしよう。
「あのー、ギレザムお疲れのところ悪いんだけどさ。」
「いえ、我は疲れてなどおりませぬ!ラウル様のお言葉を遂行するだけでございます。」
ギレザムは体がデカいから前のドアから入ってもらおう。
「じゃ、こっちきて。」
ギレザムを外に連れて運転席のドアの前に立って説明をする。
「ここを引っ張ってドアを開けて乗り込んで。」
「はい。」
ギレザムはデカい体をM93フォックス兵員輸送車に押し込んだ。バン!とドアを閉めて後ろへ回る。そして後部ハッチを閉めて反対側のドアに行き車に乗り込む。
「じゃあいいか、ギレザム!これが、左右に曲がるときに使うやつ。そして足元を見るといちばん端がこれを進めるやつ、そしてその隣がこれを止めるやつだ。じゃあエンジンをかける。」
チュブブブブーゥン
よかった、エンジンは普通にかかったようだ。
「グラドラム方角は大丈夫だな?」
「問題ありません。」
「じゃあ、進むほうのペダルを踏んでくれ。」
M93フォックス兵員輸送車は、再び異世界の夜の草原を走り始めるのであった。
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