第446話 拠点攻略断念
ジャングル戦は一進一退を繰り返していた。
最初の銃撃による戦闘では俺達が圧倒した。その攻撃で敵が撤退したため、俺達は体制を整えその勢いを保ったまま追撃する。しかし敵は自軍の味方を囮にしての石槍の攻撃を敢行してきた。危険な攻撃を察知した俺達は、間一髪で逃げる事が出来たのだった。再度相まみえた時には、敵が強力な防御魔法を使用して銃での攻撃が通らなくなっていた。
…そんな状況下でひとつ、俺達はホウジョウマコにより人心掌握した騎士たちを、敵に紛れ込ませる事に成功した。
「あの結界は厄介だな。」
「はい、まさかラウル様の銃が通らないとは、思いもよりませんでした。」
「日本人の魔力量が多いのかもしれないな。あとは特殊能力を身に付けているって事か。」
「どうにか突破する方法は無いのでしょうか?」
「ネタは仕込んだが、あの結界がある以上そう簡単に思惑通りに進むとは思えないな。」
俺とギレザムが話をして、魔人達がそれを聞いていた。
俺は敵の日本人魔法使いを倒すために、ホウジョウマコの能力を使い傀儡となった騎士を敵に潜入させたのだが、あの結界がある以上騎士の剣戟が通る可能性は低かった。
「うーん。やるなら特攻かな。」
「と、特攻でございますか?」
「この泥棒髭か河童で特攻をかければ敵に隙が出来る。その隙をついて親衛隊による魔法使いの殺害、もしくは総攻撃による殺害を敢行する。親衛隊の剣撃が通らなければもう一度一斉射撃を行ってみるんだ。乱戦となれば敵も容易にあの石槍を出してこないだろう。」
「なるほど。」
「それでもダメなら、ルピアとアナミスで空中からの掃射で敵を足止めしつつ、退却するしかないだろうな。」
「わかりました。」
「じゃ、行こうか。」
「「「「「は!」」」」」
「全員左舷に回り込んで1方向からの攻撃に集中しろ。くれぐれも石槍の攻撃には注意するように。」
「「「「「は!」」」」」
魔人達が銃を構えて走り出す。
《万が一の時の為、アナミスはゴーグに乗せたホウジョウマコについていてくれ。》
《かしこまりました。》
《ご主人様。敵の数が増えているようです。》
シャーミリアが言う。
《援軍か。じゃあ二人で特攻かけようか?》
《はい!私奴はどこまでも一緒にまいります!》
あれれ、シャーミリアのテンションがめっちゃあがった。俺と一緒に特攻するのがそんなに嬉しいのだろうか?
泥棒髭と河童が頭陀袋の中から手榴弾を取り出し、両手に1個づつ持って準備をした。
《ギレザム、俺達に極力当てるなよ。》
離れて行ったギレザムに念話で言う。
《《《は!》》》
俺とシャーミリアの泥棒髭と河童が走り出した。ぐんぐん加速して敵に突っ込んでいく。
やはり敵には俺達の位置が分かっているようだ、全軍が側面から回り込んだ隙に、俺達が正面から突っこんだというのにこちらからは兵士たちが見えない。さらに魔法の攻撃も飛んできた、どうやら後方にいた魔法使いが前衛に混ざっているようだ。
《さっき俺達の銃撃が通らなかったから、魔法使いにも防御魔法をかけて前に出して来たようだな。》
《はい、その様でございます。》
《シャーミリア!拳闘士がどこにいるか分かるか?》
《敵兵の更に奥へと居るようです。》
《なるほど、騎士たちを使って俺達の戦力を削ってから出て来るつもりなんだろうな。》
《いかがなさいましょう?》
《騎士は全て無視だ。斬ってきたら致命傷にならないように避けて進め。多少の傷は問題ない。》
《はい。》
最初の騎士と魔法使いが見えて来た。俺達に斬りかかろうとするが、それを避けて魔法使いを突き飛ばしながら先に進んでいく。それから何人もが俺達を止めようとするが、体を傷つけられてもお構いなしで突進していくのだった。
パララララララララ
パララララララララ
パララララララララ
魔人達の援護射撃が始まった。やはり銃撃が通らないらしい、敵兵に当たる直前に金色に光るようにベールに弾かれている。
《通らんな。》
しかし敵は銃撃にまだ慣れていないようで、攻撃に対して木に隠れるように動いた。騎士と魔法使いが遮蔽物に隠れてくれたおかげで、俺達のまえに障害となる騎士たちが居なくなる。
《ナイスアシスト!ギル!》
《は!》
俺達は兵達がいない森の道を一直線に走る。シャーミリアが既に敵の拳闘士の気配を察知しているらしいので、俺はその後ろを遅れないように走って行った。
《いました。》
《どこだ?》
《あの、蔦の這う木の後ろです。》
《了解!》
ゴオゴオと風切り音を立てて、泥棒髭と河童は一気にその木の左右にまわりこむ。
「くそ!俺狙いかよ!」
ボッ
木の陰からシャーミリアの河童に対して拳が突き出されたが、それを躱し河童がカウンターで腹にケリを入れた。あっさりと交わされてシャーミリア河童が俺とぶつかりそうになる。泥棒髭の俺はそれをすり抜けて、拳闘士の後ろから背中に頭突きを繰り出す。しかしリョウジと呼ばれたその拳闘士は身をかがめて、真下から俺の顔面にめがけて蹴り上げて来た。
スパン!
もちろん痛みはないが視界が歪んだ。どうやら顔面が歪んでしまうほどの威力があるらしい。
「は!顔が削れても死なねえのか!」
リョウジは俺を見て言う。顔面が歪んだんじゃなくて、目が一個取れた事に俺が気づいていなかったらしい。
「お前達!こいつらをやれ!」
周りから騎士が殺到してきて俺達に斬りつけてくる。しかしリョウジとは違い、騎士たちの動きは見切る事ができた。スピードのレベルが全然違う。
スパ!
なのに斬られた。
どうやら目を1個持っていかれたおかげで、距離感がくるってしまったらしい。斬ってきた騎士を思いっきり蹴り飛ばすと、きちんと蹴りは当たって騎士が吹き飛ぶ。
「斬れ!斬れ!」
リョウジが言うと騎士たちが間髪入れずに斬ってくる。そして森のあちこちから次々と騎士たちが駆けつけて来るのだった。
うじゃうじゃと。
《引き寄せられたぞ!アナミス!》
《準備は出来ております。》
アナミスにはホウジョウマコに指示を出させて、親衛隊騎士を動かしてもらう。
その間も泥棒髭と河童に斬りかかってくる騎士たち。騎士が邪魔になって魔法の攻撃が飛んでこないのが逆に助かるが。
「なんだ?全然とまらねえなこいつら。ゾンビって言うのは頭をやれば止まるんじゃねえのかよ!」
リョウジが悪態をついて俺達を見る。
「うわ!」
森の向こうの方から声が聞こえてきた。
「どうしたんだ!お前ら!」
ハルトとか言う剣士の声だ。
ホウジョウマコの親衛隊が魔法使いのキリヤに攻撃を仕掛けたらしい。向こう側で気配が乱れているのが伝わってくる。
「なんだあ?」
俺達を相手しているリョウジが、その異変を感じて魔法使いのキリヤの方に向かおうとする。
《シャーミリア止めるぞ!》
《はい!》
泥棒髭と河童がリョウジとの間の騎士を蹴り飛ばし、リョウジに追撃を加える。
「く!なんだあ?お前達このくらいのゾンビ押さえろよ!」
「も、申し訳ございません!」
リョウジが河童に対して、振り向きざまに回し蹴りを繰り出して来たので、河童の後ろにいた俺は横にいた騎士の背中を蹴り出して人間ミサイルを発射した。
ボグッ
つんのめった騎士の頭にリョウジの蹴りがクリーンヒットすると、鎧兜ごと頭が吹っ飛んでちぎれた。
ドサ
騎士が首から血を噴き出して倒れる。
その事でリョウジの蹴りの軌道がずれてしまう。その蹴りの下をシャーミリア河童がくぐってかわす事が出来た。
「邪魔なんだよ!」
蹴った騎士の死体に怒鳴り声をあげて、くるりとコマのように体を回し反対の足の後ろ回し蹴りをくりだした。しかし上半身ががら空きになっていたので俺がラリアートをくらわす。
バッ
なんと回し蹴りを途中で止めて後方にひいて躱す。その動きが早すぎて目で追う事が出来なかった。
《すばしこいヤツだな。》
《私奴が動きを止めます!》
すかさずシャーミリア河童が左手のパンチを繰り出した。もちろんリョウジは素早い身のこなしでそれをかわす。
…が、次の瞬間。
パン!
リョウジの顔と河童の手の間に手榴弾が出てきて爆発した。
「うお!」
リョウジがのけぞる。
爆発の被害は…
なかった。
どうやら顔面の前にあった光のベールがその爆発を防いだようだ。逆に河童の左腕が飛び散って無くなってしまう。
だがリョウジがのけぞったおかげで動きが鈍った。その隙をついてシャーミリア河童がリョウジの胴体にしがみついた。
「この!」
リョウジが至近距離から河童の顔面に右フックを繰り出す。
バガン!
河童の顔面が容易く吹き飛んでしまった。しかし頭を無くしてもシャーミリア河童はリョウジを離さなかった。
《ご主人様!》
シャーミリアが俺に合図を出す。
《離すな!》
次の瞬間、リョウジの両掌が河童の胴体に添えられた。
バシュゥウン
河童の腹が吹き飛んで胴体がちぎれ足が地面に転がる。どうやら気功のような攻撃を繰り出したらしかった。しかしシャーミリア河童は、頭も無くちぎれた腕ともう一本の腕だけの状態でまだしがみついている。
「この!」
リョウジが引き離そうとする。
俺はそのリョウジに対して思いっきり右ストレートを繰り出した。だが泥棒髭の背中には何本もの剣が刺さっているため届かなかった。
しかしリョウジも河童の残骸がしがみついているので動きが鈍ったようだ。
俺はそのままリョウジに食らいついて、奴の頭の両側頭部に手榴弾を押し付けた。
「こっ…。」
それ以上リョウジは言葉を発さない。
バン!
バン!
ゼロ距離から側頭部への手榴弾の爆発をお見舞いする。両手に挟まれた中の手榴弾は同じタイミングで破裂したのだった。
ドサ
シャーミリア河童は既に意識を共有させることができなくなってしまったらしく、地面に落ちて動かなくなってしまった。そこには河童の残骸だけが残っていた。
ドサ
そしてもう1体。
リョウジは口から上の頭が消えて、血をピューピューと吹き出しながら地面に転がった。俺の泥棒髭は頭を半壊させ、両手を手榴弾の爆発で無くしながらも辛うじて立っている事が出来た。
しかし…あれだけの至近距離で連結LV2の手榴弾の爆発を受けて、頭だけしか削れなかった。この結界はかなりの強度を持っているようだ。
「連結LV2の手榴弾の味はどうだ!」
活舌の悪い泥棒髭で叫ぶ。
《ギル!ゼロ距離だ!ゼロ距離からの射撃なら有効だ!》
《は!》
それをギレザムに伝え、俺の泥棒髭はその場から物凄いスピードでギレザムの居る隊にめがけて、猛スピードで離脱していくのだった。さすがに目の前で強い拳闘士をやられた兵士たちは身動きが出来ないでいた。
「河童…無駄死にではないぞ!」
俺はそう言って戦場を駆け抜けていく。
途中で何度か魔法の攻撃を浴びせられるが、どうにか切り抜けてギレザムたちの隊に合流する事が出来たのだった。
《洗脳部隊はどうなった?》
《全滅です。》
《ダメか!》
《日本人の剣士に斬り殺されたようです。》
《やはり無理だったか。》
《相当な強さですね。》
《とにかく俺とシャーミリアで拳闘士をやったぞ。おそらく距離を無くした状態での銃撃なら結界を破れるぞ。》
《その事なのですが、申し訳ございませんラウル様。援護射撃の結果、既に残弾が残りわずかとなっております。》
《そうか…ならこのまま北へ抜けよう。弾薬が無いならこれ以上の戦闘はこちらが不利だ。》
俺は素早く判断をする。無理をするつもりは毛頭ない。
《この拠点は?》
《失敗だ。既にシャーミリアの操る河童も失い、俺の泥棒髭もこんな状態だ。無駄に魔人を消耗するわけにはいかない。》
《かしこまりました。》
《アナミス!ゴーグ!ミノス!ルピアも聞いたか?この拠点は放棄する!ルピアとゴーグは直ぐに男たちを守るオーク達の元へ!北へと離脱せよ!》
《《《《は!》》》》
そしてギレザムのハンドサインを見た魔人達が、一斉に北へと撤退を開始した。
シャーミリアの操る河童ですら精一杯の相手だ。もしかするとこちらの誰かに被害が出る可能性がある。日本人剣士と魔法使いは要注意だった。聖都攻略のための陽動のつもりだったが、デモンより厄介な伏兵がいたことにより作戦は失敗に終わった。
《ラウル様!いくらか死体が手に入りますが?》
ミノスが言う。
《わかった!ミノス!泥棒髭を補強するために持ってきてくれ!》
《は!》
うへえっ‥‥またあれをやらなきゃいけないのぉ!!いやいやいや、そうだ一度意識を離してシャーミリアに頼もう。
流石にこれ以上精神を削ることは遠慮させていただこう。
次話:第447話 戦局
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