第441話 武装解除を勧告
俺とシャーミリアがハイグールの中に入り込んで中央の森に戻っていた。ギレザムたちを進軍させずに森の中に待機させていたので、指示を出してすぐに進軍を開始させることにする。
「5人はここで待っていてくれますか?」
俺はホウジョウマコに連れて来られた男たちに言う。
「魔獣が来たら?」
「部下を二人置いて行きます。」そして俺はオーク二人を男たちの元に置いて進み始めた。
ホウジョウマコはアナミスが眠らせており、きっと今ごろは幸せな夢でも見ている頃だろう。ギレザムの肩に担がれて目を瞑っていた。
《じゃあ行くぞ!》
《はい!》
俺の泥棒髭を先頭にして森の中を進んでいく。
《みんな!敵には俺達がいた世界から来た者たちが居る。この世界とは関係のない者たちだから、一度武装解除するように説得を試みるがいいか?》
《ラウル様の思うがままに。》
《いいと思います。》
《いざとなればどうにかなるでしょう。》
ギレザムとゴーグとミノスが答える。
まあ見知らぬ日本人に義理立てすることはないが、一応オージェやグレースと話したからな。勧告して武装を解除するなら良し、戦うって言うなら容赦はしない。
俺達が先を歩いて行くと、日本人たちに破壊されたゴーレムたちの残骸が見えて来た。
《ほう。見事に壊されましたなあ。》
ミノスが念話で言う。
《ああ、どうやら敵の3人はかなりの使い手だ。剣と武術と魔法だがな。》
《ラウル様の居た国から来たのに銃ではない?まるでこちらの世界の者のようですなあ。》
《まあ、兵器を呼び出せるのは俺の幼少からの記憶が関係しているらしいしな。敵の日本人は子供の頃に武器に興味が無かったんだろ。さしずめアニメや漫画の影響だと思うがね。》
《あにめ?まんが?》
《ああ、すまない。こちらの世界にはそんなものはないが、寸劇のようなものだな。とはいえ魔人国では劇もなかったか?》
《ですな。見たこともございません。》
《まあ、おとぎ話の様な物さ。御伽噺が心の底にあればそれが影響する可能性が高い。》
《なるほど。という事はこちらの世界の騎士や魔法使いのような話が、ラウル様の昔の世界にはあったという事でしょうかな?》
《そうだ。あとはゲームって言う、自分がそれに成りすまして体験できるようなものがな。》
《そういう事ですか。ならば我々の土俵という事になりませんかな?》
《とは思うが、向こうの世界のおとぎ話に出て来る奴らって言うのは、えらく強いのが多いんだよ。まさかそれを体現させることができているとは思わないが、ある程度注意していった方が良いだろうな。》
《は!》
今の俺とミノスの話は既にみんなが聞いていたので、気を引き締め直すのが伝わってくる。ゴーレムをほぼ瞬殺した力は侮れない。ただ…ギレザムとゴーグとミノスならば問題ないだろう。
ゴーレムの残骸を過ぎてしばらく進んでいくと…
「おう!また何か来たみたいだぜ!」
「ゴーレムか?」
「いや違うな…。」
「お前ら気をつけろよ。」
「へっ!問題ねえ。」
そんな声が聞こえて来た。
俺達は既に敵の気配を察知していたがあえて攻撃をしなかった。敵は戦闘になるかもしれないというのに悠長なことだ。いきなり奇襲攻撃をかけてもいいとは思うのだが。…と言うよりも敵が察知してくるのが思いの外早い、結界のような物が張り巡らされているのか、あるいはこいつらの誰かが察知能力を持っているのか…
「止まれ!」
相手の1人が言う。
それを聞いて俺達の隊が止まった。
「あっ!あれ…オークじゃねえか?」
「こっちにはオーガがいるみたいだぜ?」
「人間も混ざってるみたいだけど…。」
3人の日本人が言う。3人はどう見ても若かった、年の頃は17~25歳までのようだった。
「おい!おまえたち!俺達になんの用だ!」
泥棒髭の俺が3人に声をかける。
「な、なんだ!ゾンビがいるぞ!」
「ゾンビが喋ってる!」
確かに泥棒髭はだいぶ傷んでしまっているので、ゾンビに見えるかもしれないが、これはれっきとしたハイグールなんだがな。まあ相手からすればそう見えるのも無理は無いか。
「ゾンビはなんて言った?」
「わかんねえ。」
泥棒髭は驚くほど活舌が悪いのでもう一回ギレザムに言い直してもらう。
「おまえたちここで何をしているんだ?」
「はあ?そりゃ俺達の台詞だよ。なんでお前みたいな人間と魔物が一緒に居るんだよ。」
剣を持った男がギレザムに言う。
「我は人間では無い。」
「なに!やっぱお前も魔物か。」
「魔物ではないが、まあいい。」
すると敵の一番後ろに構えた魔法使いのやつが言う。
「味方を呼んだ方が良いな。」
「けっ。オークとかオーガなんてゲームの序盤の敵だろ!問題ねえって。」
いやいやいやいや。そりゃ油断し過ぎってもんだろう。俺達の素性も能力も知らないのに何で簡単にそんなことが言えるの?俺が気を使う義理だても無いが、平和なこった。
「ちげえねえ。俺らはあのデカい熊や鹿、猪だって瞬殺だった。ゴーレムだってあっというまだったしなあ。」
「だな。」
いや、そんな悠長に喋ってんなら攻撃を仕掛けたらいいのに。てか相手も俺達を警戒して動いてないのかな?何かの準備をしている?
《ギル人質の事を。》
《は!》
「ここにお前たちの仲間だと思われる女がいる!」
ギレザムが肩に抱えた女の眠った顔を見せる。
「あ!」
「眞子!」
「どうして!?」
いやいやいや。安易に自分の味方の名前を言うんじゃない。何があるか分からんだろうが。
「この女を返してほしくば武装を解除しろ!」
「はあ?」
「やっぱ魔物はきたねえな。」
「眞子を…ゆるさない!」
あらあ、やっぱギレザムがイケメンすぎるからいけないんじゃない?相手の闘争心にめっちゃ火がついちゃったみたいなんだけど。
《ギル、続けろ。武器を捨てなきゃ殺すって言え。》
「武器を捨てねばこの女を殺す!」
「くっ!」
「はは、やってみろよ。」
「おりゃどっちでもいいがな。」
「お前達!」
魔法使いだけが苦悶の表情を浮かべて、剣士と武闘家が全く動揺しなかった。
「いいのか?仲間なんじゃないのか?」
「まあ俺達と一緒に来たってだけだよ。」
「おい、キリヤ。お前が惚れてんなら助けてやれよ。」
剣士と武闘家があっさりと見限って魔法使いに言う。
「お前ら、どうにかしてくれよ!」
「まあ、魔法しか使えないお前が攻撃したら、眞子もろとも殺しかねないもんな。」
「そうだ。何とかしてくれ。」
「まあ一個貸しな。」
「あとから礼はする。」
どうやらこの3人は一枚岩になっていないようだ。そしてキリヤとか安易に名前を言うんじゃない。
《ちょっと切り札を出してみるか。》
「お前達、どこの国から来た?」
ギレザムが聞く。
「はあ?お前に関係あんのかよ?」
「お前たちのような原住民族の思いもつかないような近代都市からだよ!」
魔法使いのキリヤが叫ぶ。やはりこいつらは日本からやって来たのは間違いなさそうだ。
「キリヤ!とにかく味方を呼べ。」
「わかった。」
キリヤは手を上にあげると、手のひらから空に向かって光の玉が上がる。
パシュ―
「ふはは、まもなく大軍がやってくるぞ!お前たちに勝ち目なんてねえんだよ。」
「まったくだ。まあ俺達だけでもやれそうだがな。」
なるほど、日本に居た時は何の力もなかった奴が、こっちの世界に来て強力な力を得て増長している感じだな。自分たちの力が万能だとでも思っているんだろう。
「どうしても武装を解除するつもりはないのか?」
「はっ!どうせ魔物なんて俺達が武器を捨てたとたんに殺しにくるんだろ!」
「そんなことはしない。我が王の名のもとに約束は守る。」
「王?王ってのは?」
「我らの主の事だ。」
「ふーん。」
「そんな見知らぬバケモンの言う事が聞けるかよ。世界の半分をやるから命を助けるみたいな事いいだすんだろ!」
いやいやいやいや。確かになんかのゲームのエンディングにそんな感じのあったけど、俺は日本人だから言ってあげてるだけで、そんな気持ちさらさらないし。
「捨てぬか?我らの主は温情を持って言っているのだぞ。」
ギレザムが俺が言わなくても、ある程度俺の気持ちを汲んで言ってくれている。
「知らねえよ。てか俺達の仲間が来たようだ。お前達は皆殺しにする。」
「キリヤ頼む。」
「わかった!」
キリヤが手を差し出して剣士と武闘家に何かをしている。すると二人の体が光るように輝いた。どうやらバフをかけているらしい。やっぱ幼少の頃にゲームとかをやってた類のような気がする。俺のような武器マニアな幼少期とはかけ離れているようだ。ゲームっぽい能力を身に付けているみたいだ。
「いくぜハルト!」
「ああ、リョウジ派手に暴れよう。」
二人の前衛はめちゃくちゃやる気のようだった。だけど安易に自分の名前をバラすんじゃないって。
《全軍撤退!一時森の中に急速に移動せよ!》
俺は全軍に今来た道を戻るように伝えると、ギレザムがハンドサインで全員に合図をしていた。これは自衛官のレンジャーだったオージェに教えてもらったサインだ。
ザザザザザザ
魔人軍たちが一目散に森の中へと退去していく。
「はあ?逃げんのかよ?」
「どうするハルト!」
「いや深追いするなリョウジ。」
「なんでだよ!追いかけろよ!」
やはり3人の足並みはそろっていないようだ。
「敵は森の奥だ!追え!」
ハルトという剣士の叫び声が森の中にこだました。あとから入って来た兵士たちに指示を出しているらしかった。
《うーん、やっぱ交渉とかしないで奇襲かけてればよかったかな?》
《ラウル様。今回ばかりは致し方ないと思います。》
《まあ、そうだよなー。》
ギレザムに言われて無理やり納得した。
《とにかく奥へ!》
《《《《は!》》》》
魔人達と人間では森を移動するスピードが格段に違うため、ぐんぐん距離を離していく。間違いなく追いつかれる事は無いだろう。森の中なので敵も容易に魔法を使う事が出来ないでいるようだった。
《あの程度なら、ギルとゴーグとミノスで蹴散らせそうだけど、問題はあの3人の日本人だ。あいつらの強さは未知数だからな一旦距離を置くしかないだろう。透明なドラゴンの所在が分かればすぐに応戦したんだがな。》
《はい。》
《わかりました。》
《御意。》
念話で意思疎通を行いながら森の中へと進んでいく。
10分も進むとさすがに人間達の気配は感じなくなった。だいぶ距離が開いたらしい。
《よし!ここで敵を待ち伏せする!各自最適な位置取りをして迎撃に備えろ!》
俺の指示を受けてギレザムがハンドサインで指示を出す。するとまるで特殊部隊のように魔人達が動いて身を隠していく。木の上に、土の中に、枯れ葉をかぶりカモフラージュしていくのだった。
凄いな。オージェの訓練がこんなに行き届いているなんて。さすが元自衛隊のレンジャーだった男だ。
魔人が息を殺して敵部隊の到着を待つだけとなった。
《ミリア!袋をくれ!》
《は!》
河童がもっている頭陀袋をもらって俺の腰にぶら下げる。二つの袋がぶらぶらと揺れていた。
《ギル!シャーミリアに女を渡せ。》
するとギレザムが無造作にホウジョウマコを河童に投げた。
シャーミリアはボロボロの河童をうまく操作して、簡単に人間を受け止めて肩に背負う。
《ミリア!女を人間とオーク達のもとまで連れて行ってくれ!人間達にこの女に危害をくわえさせないようにな。》
《は!》
河童のハイグールは片手でホウジョウマコを担いで森の中に消えて行った。
《さてと。》
俺が操る泥棒髭は頭陀袋からおもむろに手榴弾を取り出すのだった。
一応武装解除は勧告したし、役目は果たしたよな?
そう言って敵が来る方向を見つつ息をひそめるのだった。
コイツ息はしてないけど。
次話:第442話 密林の死闘
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