第435話 敵国深部への侵入
西のガザムからの連絡が入った。
結局はホウジョウと名乗る女は、都市メルカートに到着するまで見つけられなかったらしい。そしてメルカートは想定した通りデモンに支配されている状態だったそうだ。ガザム隊は都市から西に距離をとった場所に駐屯し、ドラン隊から別れた北からの200人の魔人部隊との合流を待っている。
それとほぼ時を同じくしてギレザムからも念話が繋がり、透明ドラゴンのいた都市近郊へと到着したようだった。光の柱を確認した村へ伝令を出したが、謎の女の影はつかめないとの報告された。
そこでゴーグ隊の到着を待っている。
「どうやらホウジョウとかいう女は見つからなかったらしい。」
「ラウル様。となれば恐らくメルカートに行ったのではないでしょうか?」
カーライルが言う。恐らくはその通りだろう、となるとホウジョウは敵であることがほぼ確定だった。
「デモンなのかね?」
オージェが言う。
「それは分からん。デモンがわざわざシン国の人間に成りすます必要もないだろうし。」
ホウジョウという黒髪の女が何者かは分からないが、敵でメルカートに入ったのなら一緒に始末するだけだ。
「何らかの情報を持っていそうですけどね。」
「そうだな…しかし生かして捕らえられるような状況でもないようだ。」
「ですね。」
グレースが言うように情報を持っている可能性はあるが、生かしたまま捕らえて尋問する余裕はなさそうだった。メルカートがデモンの手に落ちている以上、最初から全力で攻撃するしかない。その攻撃に紛れて死ぬのならそれは仕方のない事だった。
さてと…あとは北からの200の援軍と、ギザム隊のメルカートの襲撃を待つだけか。ゴーグの隊の到着次第だが先にメルカートでの戦闘が始まりそうだな。
「どうぞ。」
そんな話をしているところでマリアが俺達にスープを配る。戦闘が始まらないと身動きが取れないため、作戦開始前に腹ごしらえをしておこうという事になったのだ。
「うまい。」
「ああ。」
「絶品です。」
グレースとオージェ、カーライルがスープを咀嚼しながら言っていた。
「シャーミリアさんからは?」
「いまだ連絡はない。先の都市には動きは無さそうだ。」
すでに斥候としてシャーミリアを先の都市を監視させているが動きは無いようだ。先にあった都市も既にデモンにやられているらしく不用意に手を出さずに監視している。
「オンジさんもどうぞ。」
マリアがオンジにスープを渡す。
「かたじけない。」
しかしこの人たちは凄い。こんな状況でも食べ物が喉を通るところをみると、いろんな修羅場を潜り抜けてきた事を容易に想像させる。まあそう思う自分自身も余裕で飯が食えるんだが。
「トライトンさんも。」
「美味そうです。」
皆がマリア製のスープを飲み、魔人軍からの連絡を待っていた。
《ラウル様。》
《ガザム、どうだ?》
《北からの200が配置につきました。》
来た!
《よし!時刻合わせ。》
《は。》
《今、12:45だ。13:00に襲撃しろ。榴弾砲をたらふくお見舞いしてやれ。》
《かしこまりました。》
《深追いはするな。だが潰せるものは極力潰せ。》
《は!》
「みんな!メルカートの侵攻が始まるぞ。」
「来たか!」
「いよいよですね!」
「待ちくたびれました。」
オージェとグレース、カーライルが立ち上がって言う。
「みんな!そろそろ移動準備に入るぞ!」
「はい!」
「今から10分後13:00に行動開始する。」
それを聞いてオンジとトライトンがスープをかきこんだ。
「ファントム!」
ファントムが俺の意志をくみ取り自衛隊の野外炊具車両を破壊した。そして俺はすぐさまヴァルキリーを装着する。俺の元にマリアがやってくる、マリアは俺が背負って走る事になっていた。
シャーミリアが斥候として出ているため、オージェがセイラを、マキーナがグレースを、カララがカーライルを、ファントムがオンジを背負う事になっている。カトリーヌはルフラをまといそのまま走る予定だ。トライトンは一人で殿を走ってもらう事になる。
「全員、鏡面薬を使用しろ。」
「「「「「「了解!」」」」」」
デイジー&ミーシャ製の鏡面薬を割って体にパシャッと振りかけると、皆の体が消え始める。1分もたつと皆が完全に見えなくなった。
《ヴァルキリー!頼むぞ。》
《は!我が主!》
13:00以後はガザムと念話で連絡を密に取り、必要となったら通常連結LV2をLV3にあげる予定だ。デモンの強さ如何では銃を最大威力に高めなければならないからだ。
時計は13:00となった。
「メルカートで一斉射撃が始まった!」
鏡面薬で見えないみんなに俺が言う。あとはシャーミリアからの連絡待ちだった。
長く感じる時間だったが13:17にシャーミリアから念話が入る。
《動きました。》
《デモンか?》
《はい。西へと向かい進軍を開始したようです。》
《街道をか?》
《はい。》
《了解。》
「みんな、じきにこの先の街道をデモン軍団が西へと進軍していく。それがいなくなり次第すぐに出発だ!」
みな不用意に返事はしない。敵に悟られないよう指示は俺からの一方的なものとするように事前に確認済だった。
ゴゴゴゴゴゴゴゴ
地鳴りのようなものが聞こえて来た。ここは森の中なので街道からはだいぶ離れているが、かなりの数のデモンとその配下が移動しているようだった。
13:32
地響きが収まりデモンが移動していったようだ。
《ご主人様。今です。》
「出発!」
シャーミリアからの合図を受けて俺達が森を飛び出して走り出す。鏡面薬をふってあるので見える事は無いのだが、デモンなどに遭遇したらどうなるかは分からないので急ぐ。
《そこから10分ほどで人間の騎士隊と接触します。》
シャーミリアから順次報告が来る。10後街道沿いの草むらで皆を止める。
「止まれ!」
すると俺達の目の前の街道を、人間の騎士や魔法使いの大軍が行進していった。やはり人間には鏡面薬を使った俺達は見えていないようだった。以前オンジに使った時には気配を悟られたが、性能がアップしたようで気配を察知される事は無かった。
全ての兵士をやり過ごして俺達はまた進軍を始めた。
「進め!」
また俺達は進んでいくのだった。
14:15
《ラウル様》
《ガザム!どうだ?》
《敵デモン沈黙しました。》
《抵抗はあったか?》
《ございましたが、すべて速射砲にて射抜きました。このままメルカートに侵入いたしますか?》
《いや、まて。何か罠が仕掛けてあるかもしれない、ユークリットの時のように新たなデモンが出現する可能性もある。待機せよ。》
《かしこまりました。》
ガザムとの話をしながらも俺達は進む。とにかく奥へ、深部へと突き進んで行くのだった。先の都市は既にデモンにやられ壊滅していた、そして先ほどの兵士の大軍を見てからは人間を見る事はない。
14:48
《ラウル様!》
《ギル!》
《《《《ラウル様!!》》》》
《ゴーグ、ミノス、アナミス、ルピア!》
どうやら透明なドラゴンに遭遇した都市にも、ギレザムとゴーグの隊が到着したようだった。
《よし!その都市には透明なドラゴンが数匹潜んでいる可能性がある。地上部隊が潜入後、敵に動きがあったら航空部隊を投入しろ!ある程度の被害を受ければあのドラゴンは姿を現す。敵の位置を把握したら榴弾と速射砲の一斉掃射を浴びせるんだ!》
《は!》
《《《《は!》》》》
ギレザムとゴーグの軍に西と南からドラゴンがいた都市に突入を開始させる。あの都市に他の罠が無い事は、泥棒髭と河童のゴーレム隊で潜入した時に確認済みだ。
俺達はそのまま南東に向けて疾走する。
15:02
《ご主人様。》
《どうした?》
《一般の市民でしょうか?人間がいる都市があります。》
先行していたシャーミリアから再び連絡が入った。どうやら聖都の東の都市に生存者を発見したらしい。
《状況は?》
《光の柱が御座います。》
《近寄るな。》
《は!》
《先行して俺達が潜伏できる山岳地帯か森を見つけてくれ。》
《は!》
シャーミリアに指示を出してひたすら疾走する。
15:37
《ラウル様。》
ギレザムから念話が繋がった。
《どうした?》
《敵の気配がありません。》
《姿を消しているのでは?》
《我も、ミノスもゴーグもアナミスも感じ取る事が出来ないでおります。》
あのドラゴン、シャーミリアは河童にログインしていても、ある程度感じる事が出来ていたんだっけな…ギレザムたち本人が潜入して感じないとなると、都市はもぬけの殻?
《わかった。恐らくそこに敵は居ないのかもしれないが、とにかく周辺をくまなく探してくれ。》
《は!》
あのとき一匹殺したから、どこかに逃げてしまった?いや、そんな弱い奴らではなかったようだが…今はそれを解明する事が出来ない。とにかくあの都市に駐留して確認してもらうしかない。
そんなやり取りをしながらも俺達はひたすら疾走する。
《スラガ!ドラン!》
《《は!》》
《そちらに、デモンの軍勢と人間の兵団が向かった。村の先で迎撃態勢に入ってくれ。》
《わかりました。》
《了解です。》
《恐らく2日とかからないで出現するだろうと思う。》
《《は!》》
ガザムが戦った場所まで一気にデモンは抜けようとするはずだ、その手前でスラガとドランの部隊が迎撃する。あの村はデモンの干渉を受けていなかったので、そこに戦力が集中しているとは予測していないはずだった。
15:45
《ご主人様!》
《どうだ?》
《その位置より南に50キロほどの場所に潜伏可能な場所があります。》
《分かった。周辺に敵兵やデモンの存在が無いか索敵を行ってくれ!》
《は!》
「みんな!ここより南に50キロ、潜伏可能な場所を発見した!」
《ラウル様。》
カーライルを背負っているカララが走りながら念話してくる。
《どうした?》
《直進すれば聖都にかなり近づいてしまう可能性があるそうです。》
《カーライルが言っているのか?》
《はい。》
《わかった。》
という事は迂回したほうが安全か。シャーミリアの速度なら敵に発見される危険は無かったろうが、俺達の速度なら感づかれる可能性もある。
《セイラ!オージェに伝えろ!殿を走っているトライトンが俺達を見失う事の無いように、ここより東へと向かい迂回したのち南に向かうと。》
《かしこまりました。》
念話で通話をして全員に方向を伝える。固まって走っていると思うが、皆鏡面薬をかぶっているため魔人達は気配を追って走る。しかしトライトンはオージェの気配を目標に走っているはずだった。万が一はぐれる事が無いように伝えた。
16:25
シャーミリアと俺達は無事に合流する事が出来た。かなりの巡行速度で3時間も走ったためかなりの距離となった。シャーミリアが見つけたのは山岳地帯にある森だった。森はかなり鬱蒼と生い茂り木々の背丈もかなり高く潜伏するには丁度いい場所だった。
「お疲れ様でございます。ご主人様。」
「ああ、シャーミリアご苦労さん。」
「周辺に敵はおりませんでした。」
「そうか。」
「この樹木の上にあった太い木の枝を削り、監視所のような場所を作っております。」
「わかった。」
俺達の部隊は敵に見つかることなく、聖都が見渡せる山岳地帯の森に潜伏する事が出来たのだった。薄っすらと鏡面薬の効果が消えてみんなの姿が見えて来る。
すると透明だったみんな行動が見える。
既にマリアが狙撃の準備に入っており、グレースがゴーレムを10体ほど収納から出して命を吹き込んでいた。
「オージェ!」
「おう。」
俺はM134ミニガンとバックパックを召喚し装着させる。
「シャーミリア!マキーナ!」
「「は!」」
負傷者搬入用のストレッチャーを召喚してシャーミリアとマキーナに渡す。これにマリアを乗せて狙撃をする予定だ。
ルフラを纏ったカトリーヌは両手にデザートイーグルを持ち待機していた。
「セイラ!」
「は!」
俺はセイラに長距離音響発生装置LRADを召喚して渡す。マイクをもたせて指向性をもたせて調整をした。これでセイラの歌で敵兵を眠らせる事が出来るかもしれない。
「トライトン!カーライル!オンジさん!セイラの護衛をお願いします!」
「は!」
「わかりました!」
「はい!」
そして最後にカララだ。
少し魔力を使うが・・・
「カララ!」
「は!」
ザラリと出したのは100丁のUZIサブマシンガンだ。マガジンにも満タンに弾丸が入っている。
俺が召喚したそばからサブマシンガンが次々と浮かび上がっていく。カララが糸で操っているのだった。既にどこからでも攻撃が出来る状態だ。
「ラウルさん!」
「グレースありがとう。」
グレースが収納から出したのは、ヴァルキリー用の外骨格バーニアだ。これを装着する事でヴァルキリーは飛翔する事が出来る。
《我が主!》
《いよいよ飛べるぞ!》
《楽しみでございます!》
俺達の聖都攻略戦が始まるのだった。
次話:第436話 見えない敵
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