第434話 女の捜索と陽動作戦
カーライルが目覚めた。
俺は早速いまガザムがいるであろう位置を伝え、その周辺の様子を聞いてみる。
「それでしたら恐らくは二通りの道筋が考えられますね。」
「二通り?」
「南に流れる道と西部に行く道、そして東部に戻る道があります。おそらく相手は魔人軍の動向をある程度知っているようですから、西に行く事は無いんじゃないでしょうか?もし西に向かえばガザムさん達の隊と遭遇していたでしょうし。」
「なるほど、だとすれば南にいくか東に戻るかだな。」
「そう考えられます。」
「南に行くとどうなる?」
「ギレザムさん達が監視を残した、光の柱がある村へと続きます。」
「なるほど、すぐに先行しているギレザムに伝令を出すように言おう。」
「そして東に行けば中規模の都市、メルカートがあります。」
「中規模都市か…。」
中規模都市となればおそらくは敵の餌食となり、デモン達が発生している可能性が高い。謎の女がそこに戻ったのだとしたら明らかに敵という事になるだろう。
「恐らくはもうダメかもしれませんがね。」
カーライルが残念そうに言う。
「そうとも限らんさ。だいぶ西にあるからそこまで手が伸びていないかもしれない。」
「気休めはいりません。とにかく行くとすればそのどちらかだと思われます。ガザムさんの隊はそのまま東へ行けば追いつくかもしれませんし、ギレザムさんが別れた分隊と遭遇する可能性もあるかと。そして私のつたない案ですがよろしいですか?」
「言ってみてくれ。」
「メルカートに行くなら、前線基地から向かっているドランさんの隊を分けて進軍させ、西と北から攻めてはいかがでしょう?」
「ラウルそれがいいぞ。今の所、北のラインは中腹まで安全が確保されている。メルカートとやらがどうなっているか分からないが、斥候を出して調べたのち挟撃するのが良いんじゃないか?」
オージェが言う。
「わかった。ドランとリュート王国の兄妹、エミル、ケイナはそのまま北に向かわせよう。そして500いる隊を分け、200をメルカートに向かわせる。」
「ああその方が良い。」
デモンがいるならその方が有利に展開できるだろう。ガザムの隊は100名ほど今いる村に駐屯させて兵站線を確保させているから、200で進軍する事になる。ドラン隊の分隊と合わせて400であればデモンに後れを取る事は無い。
「問題はギレザムの残して来た分隊か。ホウジョウとか言う女がどんなもんか分からんが、光の柱を監視させている50で対応できるかどうかだな。」
「ラウルさん。前線基地からの部隊を急がせるべきじゃないですかね?」
グレースが言う。
「だな。急行させるとしよう。」
とにかく安全を期すために後続部隊を急いで進めさせることにする。
「メルカートは大きな市場のある都市でした。人も大勢いたため格好の生贄になったかもしれません。もしデモンがいたなら徹底的に潰してください。」
カーライルが俺に強い目線を向けて言う。
「そのつもりだ。1匹も逃すつもりはない。」
「ありがとうございます。」
そして俺は今決まった作戦を、ガザムとドランへと念話で伝える。くれぐれもデモンとの戦闘は細心の注意を払うようにと念を押した。ギレザムへは光の柱監視部隊に伝令を出すように伝え、それらしき女を発見した場合速やかに伝えるように指示を出す。
《そしてギル。》
《なんでしょう?》
《そこから東へ向かうと俺とシャーミリアが確認した村が一つある、そこを制圧したら50名の魔人を駐留させろ。残りの200で進軍するんだ。更に東へ向かうと透明なドラゴンがいた都市へと繋がる。ギルの部隊とゴーグの部隊で攻撃をしかける。ギルが西から侵入しゴーグ部隊が南から攻めるんだ。無線は繋がるな?》
《大丈夫です。それではゴーグ部隊と作戦を詰めましょう。》
《頼む。相手は透明ドラゴンだが1体は俺達で殺した。死なない相手ではないようだが何体いるかは確認できていない、くれぐれも注意してくれ。》
《かしこまりました。》
ギレザムに指示を出して俺はそこにいるみんなを見る。
「いよいよだな。」
「ああ、オージェ。あいつらが暴れれば恐らくこのあたりのデモンや兵士は移動するはずだ。その間隙を縫って聖都のそばまで侵入する。」
「ふう。ぞくぞくしますね。」
「グレースもオージェも受体したからと言って無茶はするなよ。前の虹蛇が言ってたけど、その分体が壊れると1000年は復活しないらしいぞ。オージェは本体なんだから無理だけはしないでくれ。」
「1000年。その間僕はどうなるんですかね?」
「えっと…知らない。」
「聞いてないって事ですね?」
「聞きそびれた。」
「わかりました。」
こいつら神だから死んだらどうなるんだろう?そもそも神様が死ぬって事あるのかどうか分からんが。
「カーライルもオンジさんも前線に出なくてもいいですから。」
「それではグレース様を守れません。」
「ああ、オンジ。僕も前線に出るつもりはないから大丈夫だよ。」
「は、はい。」
「グレースには俺の武器がいっぱい詰まってるんで死んでもらったら困るんですよ。」
「ラウルさん、武器だけが心配なんですか?」
「いやいや、そんなことはない。もちろんグレースが心配だから言ってるんだ。」
「怪しいですね~。」
「プッ!」
オージェが吹き出す。
「笑うなって。」
「まったくお前らは変わらないなあと思ってな。」
「お前もな。」
「オージェさんもね。」
3人が含み笑いをする。
「まもなく開戦の火ぶたが切って落とされるだろう。その時が俺達の行動開始だ、それまでは恐らくもう1日以上かかるだろうから、全員の装備の確認や役割を再度見直ししておこう。」
俺達は深部へと侵入する為の準備をし始めるのだった。
行軍時の兵器は既に渡してあるものを使う。俺がグレースから出してもらったのはデイジーやミーシャが作ってくれた、薬品と武器の数々だった。
人間に渡す物は次の通り。
竜化薬×2 戦闘時に危険が迫った時だけ使用。
狼化薬×2 究極に危険な状態から逃げる時に使用。
鏡面薬×10 侵入時必要な時に使用。
氷手榴弾×5 逃げる時に相手の足止めに使用
炎手榴弾×5 氷手榴弾と同じ用途
エリクサーカプセル×5 延命時に使用
ハイポーションカプセル×10 負傷時に使用
それらを小さいリュックに詰め込んでもらう。
デイジーとミーシャが小型化してくれたため、余裕で小さいリュックに全て詰まってしまうのだった。重量も軽くかなりの効果を発揮するのでとてもありがたい。とにかく人間達には護身のために使ってもらうつもりだった。
魔人達には兵器とエリクサーだけを渡し、シャーミリアとマキーナには兵器のみを支給している。
「人間の皆には逃亡の時の物ばかりだが、とにかく重要なんだ。死なない事だけを心掛けてくれるとありがたい。」
「わかりました。」
「はい。」
「不甲斐ないですが、この身を第一に考えます。」
「助かります。」
カトリーヌ、マリア、カーライル、オンジの人間組が各自の備品を確認しながら言う。
そして魔人達とオージェ、トライトン、グレースと共に乱戦になってしまった場合のフォーメーションを確認し、魔人達にはそのサポートに全力で入ってもらう事にする。本拠地への最初の攻撃のために連れていたマリアは、かなりの遠距離からシャーミリアとマキーナが運ぶストレッチャーに乗って飛び、聖都への狙撃をしてもらう事になる。
「あとは潜伏先だな。」
「なるべく安全な場所をキープしたいがな。」
「進軍した部隊がどれだけ敵をひきつけるかにかかってますね。」
「潜伏先までは全員が鏡面薬を使って身を隠していく。だがこの薬も絶対とは言えない、人間の目は欺けてもデモンの目が欺けるかまではわからん。ゴーストにも効かんかもしれん。」
「とにかくこれまで通り森から森へと抜けるしかないな。」
オージェが言う。
「オージェさん。聖都付近にはそれほど森は存在していません。ある程度の距離は草原地帯を移動する事になるでしょう。」
カーライルが答える。
「その距離が今回の作戦の肝になりそうだな。」
「だな。」
「高速移動出来ない人は担いで運搬しよう。」
「俺も誰かをつれていくさ。」
「ああ、オージェ頼む。人間を運ぶのはオージェ、ファントム、シャーミリア、マキーナ、トライトン、ヴァルキリーを着た俺だ。カトリーヌはルフラを纏って走ってくれ。グレースとマリアとセイラ、カーライルとオンジさんもそれでいいかな?」
「いいです。女の人でお願いします。」
「はい。」
「私は魔人でありながら申し訳ありません。」
「異論はありません。」
「お手数かけます。」
それぞれが答える。セイラは水ならば究極の強さを発揮するが、陸上では他の魔人達に後れを取ってしまう。しかし彼女の癒しの力はここまでの行軍に絶対必要だった。おそらくここからも人間たちの休息には欠かせない。村人の洗脳の為にと思って連れてきたが、どちらかと言うと仲間の人間たちのメンテナンスに大きく役に立ってくれた。
カーライルは気を練る事で魔人に劣らないスピードを出す事が出来るが、いかんせん航続距離が問題となる。
「カーライルとオンジさんは武器はそれでいいんですね?」
「はい、銃は使い慣れておりません。この魔剣であればかなり使い込みましたから少しはお役に立つかと。」
「私もこの土属性の剣で十分です。どうもその銃というものは上手く使いこなせない。」
「わかりました。」
やはり幼少の頃から徹底的に体に叩き込んで来た武器が一番なのだろう。剣が彼らには合っているようだった。氷属性と土属性の魔法の様な攻撃も飛ばす事が出来るので、敵を牽制するには十分使えるだろう。
「では各自。もう一日ここで我慢してくれ。部隊からの連絡があり次第すぐに行動に移すからそのつもりで。」
俺が言う。
「「「「「「はい!」」」」」
「ご主人様。」
「シャーミリアお帰り。」
「得物を持ってきました。」
ドサ。
俺達の前にはデカい鳥が置いてあった。
「凄いな。」
「皆に英気を養っていただこうと思いまして。」
「上出来だ。」
「いいですねー。」
グレースが言って来る。
「ああ、グレース。たれを出してくれるか?」
「もちろんですよ。」
グレースが収納袋から甘辛く作ったたれを取り出す。俺が自衛隊の野外炊具車両を召喚して料理の準備を始めた。マリアとカララとセイラがそれを手伝い始める。
「焼き鳥か!」
「ああオージェ、最前線で焼き鳥だ。」
「ははは、ほんとラウルと居ると笑ってしまうわ。」
「それもこれもグレースのおかげさ。」
グレースの収納袋には武器以外にも料理の皿や鍋、調味料や野菜などがぎっちり詰まっている。そのおかげで俺達は前線でまともな料理にありつくことができるのだった。魔獣は魔人達が簡単に狩って来るので困る事は無かった。
シャーミリアによってあっというまにさばかれた鳥が焼かれていく。消煙効果のある煙突で煙は上がらないため、敵から察知される事も無い。本来は臭いで魔獣が寄ってくるのだが、オージェのおかげで周辺に魔獣は居なかった。
敵の懐に忍び込んでこんな快適に過ごせるのは、それぞれの力によるものが大きい。
俺達の鼻に焼き鳥の臭いが漂って来るのだった。
次話:第435話 ファートリア聖都戦開始
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