第43話 ヴァンパイア殲滅作戦
夜空を漆黒の竜のようなうねりとなって群れをなすヴァンパイア。
漆黒の竜が異世界の車を追っていた。
俺達8人を乗せて爆走するM93 フォックス兵員輸送車
異世界のなかでこれだけが異質な光を発している。
「操縦がうまくなってきましたね。」
マリアに声をかける。
「無我夢中ですがコツはつかめてきました。」
「よかったです。」
M93フォックスの燃料タンクのメモリは最大だった。
「やはり銃の弾丸やロケットに火薬が含まれているのと同様に、乗り物の軽油もフルにつまっているようだな。という事は800Kmくらいは後続可能・・か・・。給油は出来ないだろうから使い捨てだが・・30日で消えるしな。」
俺はひとり検証した結果を呟いた。そしてマリアに告げる。
「マリアすみません後方に行って作戦を立てます。助手席はミーシャと変わります。」
「わかりました。」
マリアは俺とは阿吽の呼吸が出来上がりつつある。上手く動いてくれるようだ。俺は後部座席にうつりミーシャに声をかける。
「ミーシャ!マリアの隣の座席にすわってもらえますか!」
「わ・・わかりました!」
「狭い所を通りますが・・」
ミーシャは慌てて俺が通ってきたところを通り、前の座席に移った。
「ゴーグ、大丈夫ですか?」
「平気とは言えないけど、傷はふさがったし戦える!」
「いえゴーグは寝ていてください。ミゼッタ!母さん看護を頼みます!」
「わかったわ。」
「わかりました。」
ゴーグは貴重な戦力だ、こんなところでロストするわけにはいかない。
「ギレザム、ガザム、傷はどうですか?」
「我もガザムも大丈夫です、ポーションで回復しております。」
ふたりは傷跡が残っているが流血は止まったようだった。
「よかった。」
これからどうするのかを彼らに説明をするので、簡単に理解してもらう。
「これから僕は武器を出します。ですがそれを出すと僕は失神するでしょう。」
「そのような、ならば、我々が剣で迎え撃ちますが・・」
「いえ、それだと、きりがないと思いますし、二人が危険です。」
「・・・・・」
とりあえず剣での戦闘には限界がある。大量に落とす必要があった。
「これから俺は武器を出します。気を振り絞って失神しないようにしますが・・たぶん時間の問題でしょう。」
「はい。」
ギレザムとガザムがとにかく集中して聞こうとしている。
「ガザム、ポーションはヴァンパイアには毒なんですよね?」
「はいアンデッドですので、体内に入ればわずかでも効果はでます。死にもするでしょうが・・自ら飲むヤツはいませんので難しいでしょう。」
「わかりました。」
ふう・・一回で理解できるかな?
「二人に僕と一緒に屋根の上に出てもらいます。」
「わかりました。」
「僕が最後の魔力を使って武器をだします。」
「はい。」
「武器を出して僕の意識が保てるのは数十秒でしょうから、その時の指示をよく聞いてください。」
「はい。」
「ギレザムにはその時、武器の扱い方を説明しますので1回で出来るようにしてください。」
「わかりました。」
次はガザムだ。きっとここが重要なポイントになってくると思うので慎重にやってもらう。
「ガザムにはその武器の右側に座ってやってもらう事があります。」
「はい!」
「銃の中に弾丸が入っていきますので、その弾丸ベルトリンクというものにこれをかけてください。」
と俺はガザムにポーションの箱を差し出す。
「ポーションを・・ですか?」
「はい、1本切れたらすぐに次のポーションを開けてすべてを使い切るように。」
「わかりました。」
「二人とも質問はありますか?」
簡単な事なので二人は納得したようだった。
「僕が失神しても落ちないようにガザムに俺を括り付けます。」
「はい。」
「撃ちきってしまったら僕と武器ごと車内に戻ってください。俺に出来ることはここまでです。」
二人は理解したようだった。
「では行きましょう。」
俺達は天井のトビラを開き外にでる。
80キロ近いスピードで走る車で風が強く吹き付けてくる。どこまでも続く草原は暗く不気味だ。
吹き飛ばされそうになりながらも踏ん張る。ガザムが俺の首根っこを捕まえて支えてくれた。
ギレザムも天井から抜けてひょっこり顔を出す。
「まだ追ってきています。」
「そのようですねラウル様」
「わずかに飛んでいる奴らの方が早いようです。」
「そのうち追いつかれます。」
「では急ぎましょう」
そして俺はギレザムを銃座付近にそのとなりにガザムが膝をつかせる。
しかしさすがは魔人この揺れと風でも微動だにしない。安定感がハンパないな。
「ではいきます。」
俺は魔力があとどのくらいあるか分からなかった。どの程度のものが呼び出せるのかもわからない。失敗したら武器も出せないで気を失うだろう。付け加えて言っておかねば・・
「あの・・なにも出なかったら、あとはよろしくお願いします。」
「わかりました、安心してください。」
「ではいきます!」
俺は武器データベースからそれを選んだ。複雑な兵器で全部呼び出せなければ使えなかった。
検索で出てきたのは銃器と三脚、バッテリーと弾丸ベルトの箱だった。
「よし。」
俺はふーっと息をはいた。
ドサッ!ドサッドサドサ!
目の前に三脚に乗った状態で出てきたのは、M134ミニガンだ。
M134ミニガン、7.62mmを毎分4000発はきだすモンスター兵器だった。6本の銃身が回転しながら給弾ベルトより装弾される弾を大量に射出していく。バッテリーも含め総重量100キロに俺はくらくらし始めた。
「・・で・は・・ガザム・・僕を支えてください・・」
俺は弾の装填準備をし、バッテリーに線をつないで電源を供給する準備を終えた。
「・・ギ・レザム・・敵が、近づいてきたら・・」
「はい。」
「この先を・・やつらにむけて・・ねらいを・・さだめ・・」
「はい・・」
「ここのボタンを・・押す・・弾がでます・・」
「わかりました。」
「ガザムは・・ここに・ポーションを・・かけて・・」
「仰せの通りに。」
「まかせまし・・」
俺は暗黒に飲まれるように意識を手放した。暗く沈んでいくようだった。
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ギレザム視点
ラウル様は・・気を失ってしまわれた。
ガザムが自分の体に腰ひもでラウル様を括り付けていた。
「ガザム、ラウル様をお守りするぞ!」
「ああわかってる。いざとなったら我らの誰かを犠牲にしても連れ帰るのだ。」
「ああ。とにかくラウル様を信じこれをやってみよう。」
我がヴァンパイアの群れを見上げると、さきほどよりも近づいているようだった。
「まるで黒龍のようだな・・数が多い。」
ガザムは黙ってうなずいた。
「ラウル様はひきつけて先をあの群れの頭に向けて、ここを押せと言った。」
「そうだな。」
「もしかするとまたあの炎をはく筒のように何かが出るのであろうな。」
「おそらくそうだろう。」
「ガルドジン様のお子は不思議な力をお持ちだ。」
魂の根幹は間違いなく主のガルドジン様のものと同じ、しかし不思議な魔力の流れを感じる。人間に備わっている魔力と同じようなものも一緒に流れている。今は人間側の魔力の流れがなくなってしまったようだ。それで失神してしまっているようだった。
「ガザム・・ラウル様は・・」
「ああ、魔力の流れが二つあるな・・」
「魔人の流れはまだ消えていないが、人間側の魔力だけ今は感じ取れない」
「そうだなギル・・魔力があるのになぜ気を失ってしまわれたのか。」
「わからんな・・」
そう、ラウル様は魔人の魔力はほとんど使っていないようなのだ。人間の魔力が全く感じられなくなった。それが原因で気を失ってしまったようなのだ。
「来たぞ!」
ヴァンパイアの群れがそこまで来ていた。
「ギル・・うまくいくのか?」
「わからん。わからんがラウル様を信じろ。」
「ああ・・」
我はラウル様が言っていた通り武器の先を、ヴァンパイアの群れで出来た黒龍の頭に向ける。
「よし!ポーションをかけろ!」
「わかった。」
ガザムがポーションをベルトとラウル様が言っていたところにかけたのを確認して、ボタンを押した。
シュッブドドドドドドドドドドドドドドドドドドド
M134ミニガンが火をはいた!ポーションがかかった7.62x51mm弾が秒100発の速度で吐き出されていく。
ヴァンパイアの群れの黒龍の頭に着弾すると燃えるように頭が消えていく。次々と後ろからやってくるヴァンパイアも何が起きているのか分からず燃えて消えていく。
「凄まじいな・・」
我はその驚異的な暴力に恐怖していた。
「ギル・・恐ろしいな・・」
「ああ・・」
ドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドド
ヴァンパイアの群れの頭がどんどん火になって飛び散っていく。うねりを上げてこちらに向かって来るヴァンパイアの黒龍はそれでもあきらめなかった。
「あの女ヴァンパイアがおそらくは奴らの頭だ。だがまだ死んではいないようだな。」
「おそらくは一番後方にいるのだろう・・」
ガザムが何本目かのポーションを開けてかけながら答える。
「どう思うガザムこれほどの大群。我は初めて見た。」
「ラウル様をどうにかして捕えたいのであろうな。」
ドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドド
オーガ二人が話をしながらも、車の後方上空ではヴァンパイアが燃えて飛び散っていた。
黒龍はだんだんと短くなっていた。黒龍の長さも5メートルもないほどだった。
ドドドドドドドドドドドドドドドガチ!
ん?
「おい!ガザム出なくなったぞ!」
「ああ、このベルトというやつがなくなってしまった。」
我らはヴァンパイアの群れを見上げた。なんと!あれほど大量にいたヴァンパイアの群れがあと少しとなっているではないか・・
「ギル、ポーションももうない。」
「わかった。とりあえずこの武器とラウル様を連れて中に戻ろう。」
我々は中に戻り、皆の顔をみた。
「ラウル!」
イオナ様がラウル様に寄り添う。
「大丈夫です。ラウル様は魔力切れで寝ておられるだけです。」
「そう・・良かった・・」
イオナ様は震えながらも安心されたようだった。すると隣にいたミゼッタが言う。
「あの・・イオナ様・・ラウル様が・・」
「これは・・」
ミゼッタとイオナ様が、ガザムに腰ひもでつながれたままのラウル様をみて驚いているので、我もラウル様をよく見てみる。
「これは・・元始の・・」
ラウル様の体全体に紋様。
痣が浮かんでいた。
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