第427話 潜入部隊の消耗
俺がシャーミリアと一緒に見えない敵に手榴弾を放り続けていると、見えなかった敵がだんだんと浮かび上がってくる。手榴弾の連続攻撃により体のあちこちから体液を流しているのが分かる。そこに浮かび上がったのはギチギチに穴に嵌って、顔を手榴弾で穴だらけにしたドラゴンのような怪物だった。
《死んだかね?》
《いえ、意識がとんでいるだけでまだ生きているようです。》
《てか手榴弾の攻撃だけじゃなく窒息したんじゃ無いか?こいつ。》
《そうかもしれません。》
酸素の無い洞窟に体を入れて、自分で蓋をしてしまったのが仇となったようだ。
《だが目覚めて、また体を消されたら厄介だな。》
俺は泥棒髭を操ってゴーレムに命じる。
「お前!これを両手に持って口に入っていけ!」
俺はゴーレムの両手にピンを外した手榴弾を二発もたせる。
《じゃあ両側を持って口を開けよう。》
《はい。》
「お前たちも口を開けるのを手伝え!」
すると4体のゴーレムたちが両サイドに分かれて、意識の無いドラゴンの口を押し上げた。
「よし!入れ!行けるところまで行ったら手を離して、後は思う存分暴れ続けろ。そのあたりを引きちぎって殴って、とにかくやり放題し続けるんだ。」
手榴弾を手渡されたゴーレムが口の中に入って行く。
「よーし!みんな放していいぞ。」
バグン!
化物の口が閉じられてしばらく待っていると、体の奥底から音が聞こえた。
ボゥン
ボァン
どうやら体内で手榴弾が炸裂したようだった。破裂音と共にドラゴンのような生き物は目をカッっと見開いた。
「ギャァァァァァス!!!」
もがきたいのだろうが体が洞窟に押さえつけられており見悶えている。きっとゴーレムが体の中でめちゃくちゃに暴れまわっている事だろう。
「カァァッカアァァッ」
体の中に入った異物をどうにか吐き出したいようだが、ゴーレムには掴んで暴れて引っ掻き回すように指示しているので、簡単には出てこないだろう。
「エギィィィィィ」
バズゥゥゥン
ドラゴンのような奴がいきなり止まってぴくぴく言い出した。
《心の臓を破ったようです。》
《おお!でかした。》
「みんな!両サイドをまた持ち上げてくれ!」
またドラゴンの口の両サイドを持ち上げてみると…
ドバァァァァァァ
大量の血が鉄砲水のようにあふれ出て来た。その血の鉄砲水と一緒に中に入ったゴーレムも押し流されて来たのだった。
「ごくろうさん。」
べっちゃべちゃだった。泥棒髭も河童も他のゴーレムもその生き物の血にまみれて赤黒くなってしまう。
《さて…これはこまったぞ。》
《はい。》
そう…なにが困ったかと言うと、そのドラゴンのような生き物の死骸が洞窟いっぱいに挟まってしまったからだった。
《これは簡単に出れそうにない。》
《そのようです。》
「おい!ゴーレムたち!このトカゲの端を押しのけながら外に出てみるぞ!」
するとゴーレムたちが片方に寄って行って、そのトカゲの肉を押し始める。
《弾力があってダメだな。》
《そのようです。》
肉に弾力があって通れそうにもなかった。
《うーん。しかたないから洞窟の奥に進んでみるか。》
《左様でございますね。既にレッドベアーの親子は窒息してしまったようです。》
《可哀想な事をした。》
《致し方ございません。》
俺達の操る泥棒髭と河童、そして血まみれのゴーレムたちはレッドベアーの死骸の横をぬけて、さらに洞窟の奥へと進んでいく。しばらく進んでいくと洞窟の奥に水辺があった。そこは行き止まりになっていてこのまま奥に行くには、その水に入らねばならないようだ。
「みんな!とりあえずここで体を洗おう。」
泥棒髭と河童とゴーレム5体が水浴びを始める。ものすごい汚い絵面の水浴びだった。髭面とハゲの筋肉隆々の顔色の悪いおっさんと、石のゴーレムがバシャバシャと体を洗っている。
《この水たまりの奥は何になってるんだろうな?》
《それでは私が見てまいります。》
《わかった。それじゃあ俺達はここで待ってる。》
《は!》
ドプン
河童が水たまりに潜って行ってしまった。俺達はとりあえず水に浸かりながらもシャーミリア操る河童の帰りを待つ。さすが河童のような髪型だけに泳ぎも上手いのだろうか?
しばらくすると
《ご主人様。》
向こうに着いたシャーミリアから念話が入る。
《そっちはどんな感じだ?》
《水を抜けるとまた陸地の洞窟が続きます。いかがなさいますか?》
《みんなでそっちに行く。》
《はい。》
「お前達!この水の中を歩いて向こう側にいけ!」
ドボン!
ドボン!
ドボン!
ドボン!
ドボン!
「よ!」
ドボン!
ゴーレムが歩いて水の中を進んで行った。俺が操る泥棒髭は一番後ろのゴーレムの首に腕を回して、歩くのにそのままくっついて行く。水底を何事も無いようにズンズンと歩いて行くゴーレム。
洞窟内の水は物凄い透明度なのだろう、先を進むゴーレムの体が見える。暗視能力があるため完全な暗闇でも見通す事が出来た。
ザブー
俺がしがみつく最後尾のゴーレムが水を上がると、カッパとゴーレムたちが陸地で待っていた。
《この水たまりはかなりの距離があったな。》
《長い間をかけて溜まったものではないでしょうか?》
《この洞窟はまだ先があるんだな。》
《そのようです。》
《真っ暗だ。》
《左様でございます。光は入らぬようです。》
《とにかく先に進んでみるか。》
ドスドスドスドス
それから半日以上は歩いたと思うが、洞窟をさらに奥へと進んでいくと道が二つに分かれていた。
《ご主人様。》
《なんだ?》
《おそらくは左かと。》
《何かわかるのか?》
《かすかながら大気が動いているようです。》
《わかった。》
「おい!お前達このまま進むぞ!」
更に洞窟を進んでいく。
しばらく進んでいくとどうやらシャーミリアの言う通りらしかった。視界の向こうに光が射すのが見えた。
《外だ。》
《そのようです。》
ゴーレム隊は光に向けて進んでいく。そして光の穴までたどり着いて外を見ると、そこは崖の中腹に開いた洞窟の入り口だった。
《おお!外だ!》
眼下に広がるのは森だった。森の先には草原が広がっている。
《ご主人様。村が見えます。》
シャーミリアの河童が指さす方向には小さい村が見えた。
《本当だ。村か…とりあえず近くまで行って見るか。》
《かしこまりました。》
《シャーミリア。ゴーレムにしがみつくと結構楽かも。》
《それでは適当にしがみついてみます。》
泥棒髭と河童のハイグールがぴょんと飛びあがってゴーレムの頭にしがみついた。筋肉隆々の顔色の悪い悪党たちが、かわいらしくゴーレムにおぶさっているのだった。
「ゴーレムたちよ!崖を降りろ!」
ズリズリズリズリ
ゴーレムがお尻で斜面を滑り出すと、あっという間に森まで降りる事が出来たのだった。
《じゃあシャーミリア。俺は一旦意識を放す。》
《村の側に到着次第、お知らせいたします。》
《よろしく。》
ゴーレム隊をシャーミリア河童に任せて俺は再び意識を戻すのだった。
ガシャンガシャンガシャン
《ヴァルキリー。》
《お戻りですか我が主。》
俺が着ているバルキリーが返事をしてくる。
《進んだか?》
《見えていた丘陵を二日かけて下っている所です。》
《オッケー》
周りを見渡すと皆が黙々と森を下っている。マリアがオージェにおぶさり、マキーナがグレースをお姫様抱っこして進んでいた。グレースは睡眠を必要としないはずなのだが、歩くのが遅いためマキーナが連れているのだった。
「まもなくだな。」
俺はオージェに言う。
「ああ、ただなそろそろ人間は限界だぞ。」
「そのようだな、だいぶ都市からは離れたようだしこのあたりでビバークするか。」
「その方が良いだろう。」
オージェが頷く。
「ずいぶん静かだったようだが、ラウルは大丈夫なのか?」
「あ、ああ。俺はこの鎧が自動的に動くからな。恐らくこの中で一番体力を温存出来てるんじゃないか?」
「ならいいんだが。」
実際はずっと泥棒髭を操っていたから少しクラクラしていた。
俺達はテントを召喚せずに、そのまま森の倒木などに腰を掛けて座る。
「ラウル様。あちらは大丈夫なのですか?」
マリアが隣に座ってこっそり聞いて来た。
「ああ、今はシャーミリアが行動中だ。」
「ラウル様の体調が気になります。」
なんとマリアは魔導鎧越しに俺が疲れているのが分かるらしい。さすが赤ちゃんの頃から俺と一緒だっただけに、俺の異変にいち早く気が付くようだ。
「大丈夫だよ。ちょっと酔ったようになるというか、やっぱりなかなか難しいんだよね。」
「そうですか。とにかく少しの間でもお休みになられてはいかがでしょう。」
「そうするか。」
俺は一度ヴァルキリーから出て来る。
ガシャン
「ふう。」
カトリーヌが俺の顔を見て心配がっているようだ。
「ラウル様の目の下のクマが。」
「そんなこと言ったら、カティもボロボロだぞ。」
「それは…。否定はできません。」
いくら疲労したらオージェに背負ってもらったり、ルフラが自分で走って行ってくれるとはいえ、2日も睡眠無しで移動したのだ。かなり堪えているはずだった。
「とにかく少し眠ろう。」
「そうですね。」
「はい。」
「ファントム!マキーナ!周辺の警護に当たれ!残りの者は休息をとる事にしよう。」
俺は戦闘糧食を召喚してみんなに渡す。これまで数度はこっちに意識を戻して戦闘糧食を配っていたが、ほとんど落ち着いて食べてはいないはずだった。
ファントムとマキーナが周辺の見回りをしている間、全員が睡眠をとる事にする。森の中で誰かが襲撃してくる事は考え難いが、既に大都市ではデモンの集団を確認しているのと、聖都までの距離が近い事を考えればここも安全とはいいがたい。
皆が戦闘糧食を食べ始めるが、マリア、カトリーヌ、オンジ、が食べながらもウトウトし始める。食欲よりも睡眠の方が強烈に襲ってきているらしい。少しするとカーライルもうつむいて動かなくなった。
「敵地の緊張感と寝ずの行軍でかなりまいっている。」
オージェが言う。
「オージェは大丈夫か?」
「ああ、受体してから休息が必要なくなった。」
「オージェさんもですか?」
「グレースもか?」
「はい。」
グレースは受体したばかりの時はまだ眠れるとか言っていたのだが、さらに神格化が深まって来たらしく、休息がいらなくなってきているらしい。
「だからトライトン!お前も無理をするな。」
「わいは無理など。」
「いや、かなり気が落ちている。ひとまず俺達に任せて休め。」
「わかりました。」
「じゃあオージェ、グレース。俺も休ませてもらうよ。カララとルフラとセイラも今のうち休んでおくといい。」
「「「かしこまりました。」」」
恐らくカララとルフラはほとんど疲労はしていないと思うが、休める時間があれば休んだ方が良い。これからの作戦行動でまだまだ過酷な状況となるだろう。その時に身動きが出来なくなってはどうしようもない。
恐ろしい強さの14人ではあるが、敵の強さや数が分からぬ以上無理は禁物だ。無理をしなければならない状況ではあるが、束の間の休憩とポーションで体力を回復させるのだった。
次話:第428話 簡単な罠を踏む
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