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第425話 カトリーヌのジェラシー

俺とカトリーヌ、マリア、魔人達がテントの中で話していた。


どうやら泥棒髭と河童そしてゴーレムたちが窒息責めにあっているらしい。恐らくは盗賊に見える二人の魔術師が、ゴーレムを操っている張本人と考えての攻撃であろう。


「あいつら窒息しないんだけどな。」


「はい。」


「髭も胸毛も禿げもあるからかな。」


「人間だと思っているのかもしれません。」


「デモンがそれを分からないもんかね?」


二人の盗賊グールの人間臭さが功を奏したのだろうか?だが窒息責めをすると言う事は、人間じゃない事を確認出来ていないのかもしれない。


「ラウル様。」


「なんだいカララ。」


「戦っている最中に遠い距離から、生のある者かどうかなど判別がつけられるのはシャーミリアくらいです。」


「そうなの?」


「あなたもじゃない。」


シャーミリアがカララに言う。


すると、


「ふふ。ラウル様この二人は特別です。私達はラウル様との戦闘で進化させていただき、デモンの気配を読み、生者と屍人の判断がつけられるようになりました。ですが戦闘で緊迫した状態での見極めなど、そう簡単にできる芸当ではありません。」


セイラが言う。


「そうです。恐らくラウル様のお側で戦ってきた直属でなければ出来ない事かと。」


ルフラも合わせて言う。


「まあそうか…。」


それならばやはり敵は泥棒髭と河童を狙って窒息責めをしているわけか。だが膠着状態のときに敵にも時間はあったはずだし…。しかし今はそれを突き詰める必要は無いかな…


「窒息責めはどのくらい続くものなんだろうな?」


「モーリス先生の冒険談では、1日か数日燃やし続ける事もあるようです。」


まあ洞窟の酸素が尽きるまでだろうからな。とにかく敵は洞窟の中に入って攻撃するのを不利だと考えているらしい。


「敵が洞窟の中に入ってこなかった理由って何だろうな?」


「申し訳ございませんご主人様。そこまでは分かりかねます。」


「暗闇で目が見えないとかでは?」


カトリーヌが言う。


「うーんどうだろうな?夜になればはっきりするかもしれないけど。」


「とにかく洞窟に入れない理由があると言う事でしょうね。」


マリアが言う。


「そうだな。きっと何らかの理由があるんだろう。」


「ご主人様。これからいかがなさいましょう?」


「ああシャーミリア。動きが無いのであれば放っておいていいんじゃないかな。こちら側の進軍は俺が代わって指揮をするから、ミリアは河童に入って向こうの洞窟を見張ってくれ。ハイグールを操りながらもついて来れるな?」


「容易いかと。」


とにかく敵の正体が分からない以上はどうする事も出来ない。俺は一度向こうの戦闘を中断して、こちらの隊を進軍させることに集中するとしよう。


「作戦が決まりましたのなら、ラウル様はお休みいただいた方がよろしいかと思われます。」


カトリーヌが言う。


「俺ならまだ…。」


「いえ、先ほどふらついておりました。」


確かにそうだった。車酔いしたような感覚になってふらついてしまった。


「申し訳ございませんご主人様。盗賊で作った”にわか”ではかなりの精神力を消耗するようでございます。いかなご主人様とも言えど、アレを操りながらの行軍は疲労してしまうかと思われます。」


「シャーミリアが言うのです。ラウル様は任せてお眠りください。」


カララが言う。


「失礼します。」


テントの外から声が聞こえた。


「入れ。」


入って来たのはマキーナだった。


「周辺に人間は存在しておりませんでした。さらにこの先の森林内には転移罠などの設置もありません。」


「偵察に出てたのか?」


「私奴が指示を出しておりました。」


「そうかそれはありがたい。」


「ご主人様より、指揮を申し付かりましたので。」


シャーミリアが頭を下げる。やっぱりシャーミリアは俺が1言えば10やってくれる頼もしい秘書だ。ブチ切れると手が付けられなくなるのだけが弱点だけど。


「ではマキーナ。私奴はラウル様の命により不明の敵の監視となります。くれぐれもご主人様にお怪我などさせないように。」


「はい。では私は哨戒行動にもどります。」


「おう、大変だけどよろしくな。」


「いえ!ご主人様!そのようなお気遣いをなさらないでください。」


「いやいや、カララもオージェもいるんだし命を賭ける必要はないからな。いざとなったら報告をくれるだけでいいよ。」


「は!お気遣い痛み入ります。」


「マキーナ、ご主人様の命を受けたのです。消滅する事は許しません。」


シャーミリアが言う。


「は!」


「十分注意して行ってこい。」


「かしこまりました。」


スッ


マキーナが再び哨戒行動に出るために消えた。


「ではご主人様。私奴も。」


「頼む。」


「御意。」


シャーミリアは再び半分寝たような表情になって、河童にログインしたようだった。こう考えてみると盗賊ハイグールはやっぱり中途半端かもしれない。シャーミリアでも並列で操る事が少し難しそうだった。


《元がバカだと大変って事か。》


《申し訳ございません。》


《シャーミリアが悪いわけじゃないって。》


《これに、もう少し上質の人間を与えればもしくは。》


《敵の騎士とかいりゃあいいんだがな。》


《まあ、それを与えたとしてもたかが知れておりますが。》


《今の状態を維持できれば上出来だから。》


《かしこまりました。》


そして俺はシャーミリアに河童を任せた。


「じゃあ、みんなもそろそろ眠った方がいいよ。」


「あの…。」


カトリーヌが声をかけて来る。


「ん?なんだいカティ?」


「私はこの天幕で寝るわけにはいきませんか?」


「ここは狭いんじゃないか?」


「そ、そうですか…そうですよね。」


カトリーヌがめっちゃ悲しそうな顔をしている。


「ラウル様。カトリーヌ様とご一緒してはいかがですか?カトリーヌ様はシャーミリアと二人でというのもご不安なのでしょう。」


「マリア!そんなことはないわ!ラウル様は大事な作戦をしているのよ。特に不安な事などはないのよ。ただお体の回復であれば私が適任かと思っての事なの!」


カトリーヌが真っ赤な顔をしてめちゃ焦っている。そんなに慌てる事なんてないだろうに。


「私もマリアの言う事に賛成よ。」


カララが言う。


「私もそう思うわね。」


セイラが言う。


「今日はカトリーヌと私は別ね。」


ルフラが言う。


なぜかみんながカトリーヌに優しい目を向けている。


まあ…その理由は俺にも分かる。きっと魔人達はルゼミア王の事を考えているのだ。ルゼミアがガルドジンの目をカトリーヌから直してもらった事で、カトリーヌをめちゃ可愛がっているのを知っている。そしてルゼミアは、ほぼ強制的にカトリーヌを俺の正妻にと言ってきた。正妻がいるのに常に他の魔人の女と一緒に居る事を良しと思っていないのだろう。


ただ…正式に決まったのかな?実は俺もまったく実感がわかないんだが。


「カトリーヌが居てくれると、俺もぐっすり眠れそうだ。シャーミリアから連絡が来ればすぐに向こうに意識が行くかもしれないが、俺にもしもの事があった時は回復魔法を頼む。」


「はい!」


カトリーヌの顔がパァっと明るくなる。


「と、いう事よ。魔人のみんなは私の天幕で休みましょう。」


マリアが言う。


マリアを先頭にぞろぞろと魔人達が出て行った。


「カティ。気遣いありがとう。」


「い、いえ!私の使命ですから。」


「そんな堅苦しい事はないんだけどね。とりあえず俺のそばは気が休まらないかもしれないから、適当にしてくれてていいよ。」


「あの!お眠りになるのでしたら。横になってください。」


「ん?こうかい?」


俺は上を向いて仰向けに眠った。


「で、出来れば腹ばいに。」


「ああ、こうかな?」


するとカトリーヌが俺の肩に手を当てて揉みほぐし始めた。


「ふぅ…気持ちいいな。」


「良かったです。」


「凄く暖かいんだけどなんかやってる?」


「癒しの回復魔法をかけております。」


どうやらマッサージしながら癒し魔法をかけているようだった。


「いつも誰かにやってあげてるの?」


とても上手なので聞いてみた。


「いえ!初めてです!ラウル様にだけです。」


「そりゃうれしいな。カトリーヌみたいな美人に、マッサージしてもらえるなんてうれしいよ。」


カトリーヌはイオナ似の貴族系のオーラを放つ気品のある美人だった。美しく輝く金髪が軽くウェーブしており、ぬけるような碧眼がその美に更に花を添えている。ユークリットの女神とうたわれたイオナ母さんの姪だけあって、その顔はまるで本物の女神が降り立ったように美しい。


「び、美人とか。そ、そんな大それたものではございません。」


「はは、あと二人の時くらい敬語やめてもいいんじゃない?」


「そんな!ラウル様は魔人国の王子であり、私の命の恩人でもあります。馴れ馴れしい口をきいては良くありません。」


「いいんだって。じゃあむしろ二人の時だけ敬語やめてくれる?その方がなんとなく落ち着くんだよ。」


「あ、ラウル様がそうおっしゃるのであればそのように致します。」


「堅いなあ…。」


「あ…。」


「敬語が無理ならさ、二人の時だけで良いから”様”はやめてくれ。」


「は、はいラウルさ、ラウル。」


「上出来。」


「はい!」


「俺はね、カティが生きてくれていた事が凄く嬉しいんだよ。」


「そんな、私はラウルさ…ラウルに生かされたのです。」


やはり簡単に敬語は抜けないようだった。高貴な生まれで言葉使いもきれいだし、本当に俺にはもったいない娘だ。


「俺の第二の故郷サナリアの仲間は皆死んだ。父さんもね…それは俺達を守るためにだったと思っている。そのおかげでイオナ母さんも、マリアもミーシャも生き残ってくれた。モーリス先生も逃げる事が出来てカトリーヌを生き延びさせてくれた。だから今度は俺が命がけで守る番なんだよ。」


「そのようにお考えだったのですね。」


「ああ、ずっとね。」


スッとカトリーヌが俺の背中に頬を着けて来た。


「‥‥‥。」


どうやら泣いているらしかった。しかし俺に気を使わせないように声を出さないでいる。


「あの、私がマッサージをしていますので、そのままお眠りください。」


ちょっと鼻にかかった声でカトリーヌが言う。


「ああ。そうさせてもらうよ。」


俺はカトリーヌの放つぬくもりの中で眠りに落ちるのだった。暖かい…まるで子供の頃にイオナに抱かれて眠ったころを思い出す。もしかしたらイオナに魔獣が懐くのもこの力があるからじゃないのかな…


シャーミリアには俺達の会話が聞こえているが、聞こえない素振りをしてくれているようだ。恐らく向こう側で特に動きも無いのだろう。


敵が餌にかかった以上、明日からはだいぶ忙しくなるだろう。


西部ラインの確認事項などを考えながらも俺は眠りについた。

次話:第426話 大規模侵略作戦の始まり


お読みいただきありがとうございます


続きが楽しみ!と言う方はブックマークを、楽しかったというかたは★★★★★評価をおねがいします。


これからも楽しんでもらえるよう頑張ります。

引き続きお楽しみ下さい。


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― 新着の感想 ―
[一言] 洞窟に入れない理由 …えっ!?…洞窟に逃げ込んだから煙攻めして窒息死させようって考えたんじゃないんですか? (しばらく思考) …考えてみれば、洞窟の構造が分かっていなかったらやらなかったかも…
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