第422話 見えざる敵VSアバター
窓から外を見回すが何も見えない。俺(泥棒髭)の隣には河童がどこを見ているのか分からない様子で立っている。ゴーレム10体は建物の壁をぶち破って身を隠させた。
《どこだ?》
俺は泥棒髭の悪い視界で窓から外を覗いて見ていた。通りには地面からせりあがった石壁の残骸が散らばっている。
《ありゃ土魔法だな。》
本隊の俺の方は歩きながら泥棒髭を操っているため、誰ともしゃべらずに黙々と歩いている。しかし歩いているだけでも集中力が途切れてしまうので一旦意識をこちらに戻す。
《まったく…ファントムと違って泥棒髭はホント粗悪品だ。》
ファントムならこんなに集中して動かさなくても、指示の一つ二つ出せば俺が想像する以上の効果をもたらしてくれる。しかし泥棒髭ハイグールはどうもそうはいかないようだった。
意識をもどした俺は森の中を黙々と歩いているのは分かっていたが、進み度合いなどは全てシャーミリアに任せているため位置情報が全く分からなかった。とにかく森の中にいる事は確かだった。
「ちょっと皆!止まってくれ!ここいらでちょっと休憩しよう!」
「ああわかった!」
「わかりました。」
オージェとグレースが言うと皆も頷いて立ち止まる。カトリーヌとマリアも少し疲れているように見えたので丁度いいだろう。森から森へと移動して2日が立っているが、2回目の休憩には丁度良い時間だ。俺は今まで野宿で出したテントは全て投棄して来たので、改めて人数分のテントを召喚し、さらに戦闘糧食を人数分出して配る。
「それじゃあ各自でテントを張って、休憩を取ってくれ!食いもんはとりあえず今配った戦闘糧食でもたせてほしい。俺は少し考えごとがあるためテントに籠る。」
「了解。」
「了解。」
「わかりました。」
「はい。」
オージェやグレース、カトリーヌ、カーライル達がそれぞれに返事をして準備をし始める。
「シャーミリア!ちょっと。」
俺はシャーミリアを呼んだ。
「は!」
俺はシャーミリアと二人で急いでテントを張り、戦闘糧食に手を付けずに二人で中に入った。
《襲われた。》
《伝わっております。》
《とにかく俺一人では厳しそうだ。シャーミリアは河童君の方を頼めるか?》
《もちろんでございます。》
そして俺とシャーミリアは泥棒髭と河童のアバターに共有する。
《まだ動きはないようだ。》
先ほど泥棒髭から抜けた時から場面は変わっていない。俺の意識が抜けても襲われれば自動的に反撃するだろうが、どうやら相手から攻撃された気配は無いようだった。隣の河童がこちらを見ているが、中身はシャーミリアなので安心感が上がる。
《ゴーレムたちはどちらへ?》
《それぞれ建物の中に突入させているが、指示を出していないから現状が分からん。》
《目の前の建物が破損してゴーレムが中にいるのが見えますね。》
《ああ、他も指示して四方に散ったけど、同じように壊れた建物の中で待機していると思う。ゴーレムの気配を探れないか?》
《申し訳ございません。ゴーレムから魂や生体の気配を感じる事が出来ず見えません。》
そうか…ゴーレムはやはり生き物じゃないから、シャーミリアでは気配を探る事が出来ないと。
《しかし、他の気配が多数。》
《多数?》
《ゴースト…もしくはデモンの類ではないかと。》
《やっぱりそうか。人間の気配はあるか?》
《ございません。さらに敵の気配はそう遠くはありません。》
《なるほどな。とにかくこうしていても埒が明かない。》
泥棒髭と河童は頭陀袋を持っており、その中に手榴弾をわんさか入れていた。その頭陀袋に手を突っ込んで手榴弾を一つ取りピンを抜いて握りしめる。
《シャーミリア。爆発と同時に向かいの建物にいるゴーレムまで走る。》
《かしこまりました。》
泥棒髭が振りかぶって反対側の通りの方に手榴弾を投げた。
パリン!
窓を突き破って手榴弾が路地に転がる。
3,2,1
バグゥン
手榴弾が炸裂した。それと同時に俺達は向かいの建物にいるゴーレムに向かって走る。そして建物に飛び込んでゴーレムのそばに着いた。
《シャーミリア。見たか?》
《はい、この建物の両隣と二軒先及び三軒先。そして一つ飛ばして二カ所穴の開いた建物。その道向かいに一つ穴の開いた建物、そしてこちら側に戻り四軒先と、我々が先ほどいた建物の隣に穴がございました。》
あーよかった。シャーミリアに河童を任せたおかげで驚異の戦力アップだ。一瞬の間にゴーレムがどこに行ったのか確認できたようだ。
《場所が確認できればわざわざ大通りに出る必要はないな。》
《はい。》
泥棒髭からゴーレムに向けて指示を出す。
「ゴーレムよ。この建物の壁をぶち抜いて隣の建物に突っ込んでくれ。」
ゴーレムはまず一つの方面の壁を向いて走り出す。
ドゴ!
バゴン!
隣接する建物までの距離は2メートルもなく、俺達はそのゴーレムの背中について隣の建物まで侵入する。すると目の前に身動き一つしないゴーレムが立っていた。
「よし!それじゃあまた一気に戻るぞ!お前たちはこの方角に一気に突進して6軒先まで壁をぶち抜け。」
2体のゴーレムに指示を出した。
ドスドス
ドスドス
ゴーレム2体が俺達が侵入してきた穴に飛び出して走っていき、そのまま泥棒髭と河童はついて行くのだった。
ドゴン!
次の家にいたゴーレムにもついて来るように言う。
バゴン!
そして次の家にいるゴーレムにも。
バギン!
ズガン!
最後の家に到着した時には5体のゴーレムがそろっていた。
《だいぶ見通しが良くなったな。》
《はい。》
「お前達!俺達を護衛するように周りをかためろ!対面の屋敷に飛び込むぞ。」
ゴーレムはもちろん返事をしたりしないが、俺の指示はインプットしたようでゴリゴリと動き出す。泥棒髭と河童の周りに立つゴーレム。
「せーの!」
俺の掛け声と共にゴーレム5体が俺達を守りながら一斉に大通りに出る。
バゴン!
ズバン!
どこからともなくファイヤーボールのような魔法が飛んできた。しかしゴーレムに当たって爆発するだけで俺達に到達する事は無い。
バリバリ
向かいのゴーレムが立っている家にそのままツッコむ。
《よし。》
すると‥‥
バリバリバリバリ!!!
ゴーレムが一気に5体突入したおかげで家が崩れ出した。
「やべ!お前達!一気にこっちに突っ込め!」
さっき確認したゴーレムが潜んでいる家がある方角の壁に、ゴーレムを突っ込ませて俺達もその穴に飛び込んでいく。
バグン!
バリン!
バリバリバリバリ
「うわ!」
また建物が倒れて来た。
「駆け抜けろ!」
そのままゴーレムたちと一気に数軒の家の壁をぶち抜いて走り抜けた。
どんどん崩れていく家々。
《いやあ…派手にぶっ壊しちゃったな。》
《致し方ございません。》
そして俺達が最後のゴーレムが待つ家に飛び込んだ時にも
バキバキバキバキ
家が崩れて来た。咄嗟の事で横に広がりゴーレムを突進させたせいだった。
「あれれ。ちょっと!一体ずつ列になってこっちの壁に突入!」
するとゴーレムたちが一列になって壁に突っ込んでいく。
俺達がその家の抜ける頃には2階建ての家屋は倒壊していた。結局街を壊しまくって一周して戻って来たのは、泥棒髭と河童が最初に潜んだ建物だった。
《さてと…》
と次の行動を考えようと思ったところで、ボグゥーンという音と共に思いっきり火の玉が飛び込んで来た。
メラメラメラメラ
家が燃え始める。どうやら特大のファイヤーボールを打ちこまれたようだった。
ボグーン!
ボグーン!
次々降ってくるファイヤーボール。
《どうするか。》
《こやつらは炎ごときで死にはしませんが、この建物が燃え尽きてしまえば相手の魔法にさらされます。》
《まったく!一体敵はどこから攻撃してるんだ?》
《捉えるのが難しいようです。あちこちから反応が感じ取れますので、おそらくは囲まれているようですが。》
《わかった。》
泥棒髭は燃える建物の中を動いて窓に近づく。窓から外を見回すと広場があり、馬車などが適当に乗り捨てられていて荒れた建物が立ち並ぶ。その奥に見えてきたのがひときわ大きな建物だった。どうやら石造りのようでこのあたりの建物よりも頑丈そうだ。
《あれ、領主の屋敷じゃないかな?》
《そうかもしれません。》
《あそこまで一気に走り抜けよう。》
《かしこまりました。》
「お前達!それじゃあ俺達の後について走ってこい!」
ゴーレムが体をこちらに向ける。
「せーの!」
ドスドスドスドスドス
バッガーン!!!
ガラガラガラガラ
燃え盛る建物から一気に泥棒髭と河童、そして10体のゴーレムが飛び出して走り出す。すると今まで潜んでいた建物が脆くも崩れ去ってしまった。
大きな建物まで距離的には200メートル。
ドスドスドスドス
バズーン
バシュウ
ボグーン
さながら戦場のように魔法が雨あられと降り注ぐ。
《一体どこから…》
《気配は上空からですが敵影が見えません。》
《不可視の敵か。でも!》
上空にいると言う事が分かっただけでも十分だ。
《シャーミリア!頭陀袋に手榴弾が入っている!ピンを抜いて空に投げるぞ!》
《かしこまりました。》
そして泥棒髭と河童が頭陀袋に手を突っ込んで手榴弾を取り、ピンを抜いて上空に思いっきり放り投げる。さすがにハイグールの腕力は凄い物で、かなりの高度まで放り投げる事が出来た。
ズガン!
ズガン!
「ギャ!」
「グア!」
「ゲゲ!」
手ごたえあり。
《投げ続けろ!》
ズガン!
ズガン!
「グッ!」
「ウア!」
「グゥ!」
すると俺達の正面には領主の建物と思しき大きな屋敷の門が迫っていた。
「ぶち破れ!」
ゴーレムに言うと閉まっていた門に3体が体当たりして一発でぶち抜いた。
バグン!!
「よし!あの玄関もぶち抜け!」
バリン!
「1体ずつ中に入ってこい!」
玄関の倍もある体のゴーレムが壁を壊しながらも建物の中に入って来た。先に泥棒髭と河童が入り窓に張り付いて外の様子を見る。しかし最後のゴーレムが入る時まで敵の魔法による攻撃は無かった。
ゴーレムが密集するようにエントランスに立っている。まるでここの家主が趣味で作った石像のようだった。
《攻撃が止んだようだな。》
《はい、我々の先ほどの手榴弾の攻撃に敵の気が揺らぎました。》
《少しは効いたようだ。》
《そのようでございます。》
辺りが静かになりゴーレムも静かにたたずんでいる。
《だが姿が見えないのが厄介だな。》
《はい。ですが敵は恐らく何らかの被害を被ったようです。気配が変わり少し遠ざかりました。》
《そうか。って事はゴーストじゃないって事だな。》
《左様でございますね。ご主人様の兵器が効いたと言う事はデモンの類かと。》
《まったく…やっかいだな。デモンってやつは、いろんな形態があって前回の戦闘の経験があまり役にたたない。》
《こちらのゴーレムには腕が取れたものがおるようです。あとは頭が半欠けしているものと、胴体に大きな傷が入ったものがおります。他は無傷のようです。》
確かにゴーレムは丈夫だった。あれだけの魔法の攻撃にさらされても破損は少ない。一般兵の魔人なら怪我をしたり死んだりしていてもおかしくはない攻撃だった。
《もう少し建物の奥に入ろう。》
《は!》
「お前達!中に入れ!」
ドスンドスンドスン
ゴーレムたちがあちこちに体をぶつけながら建物に入っていく。領主か貴族だったものの建物らしく、天井が高いため3メートルあるゴーレムでも容易に中に入る事が出来た。
「よし!お前達!俺達を守るように半球状に守れ!」
するとゴーレムたちは体を寄せ合って、泥棒髭と河童のアバターの周りに集まり、覆いかぶさるようにして止まった。
《シャーミリアはここに意識を残しておいて、何かあったらすぐに念話で教えてくれ。》
《は!》
俺は泥棒髭から意識を放して一旦自分に集中する。まるでゲーム感覚だが、少し酔ったような雰囲気になる。
「ふう!」
テントの中で意識をはっきりさせる。隣にはシャーミリアがいるがうつむいて少し眠ったような表情になっていた。しかし俺を認識して頷いて合図をした。こちらにもきちんと意識がある証拠だ。
ファントムならこんな手間いらないのに、やっぱり盗賊で作った粗悪品は大変だ。シャーミリアですら少々手こずっているように思う。
出来の悪いアバターに頭を抱える。
俺はシャーミリアが言っていた、「ファントムがヘリなら泥棒髭たちは荷馬車」くらいの違いがあるという言葉を理解したのだった。
次話:第423話 都市からの脱出
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