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第418話 量産型ハイグールの性能とやら

陽動作戦を行うためにグレースのゴーレムを使う事になった。しかしゴーレムは指示された事しか出来ないという弱点がある。陽動作戦を行うにしても、ただ行進させたりするだけなら意味が無い。なのでゴーレムたちを指揮するためにシャーミリアが考えた作戦とは、”死んでも良い”指揮官を作り出すと言う事だった。


名付けて【使い捨て指揮官を作ろう作戦】もちろん俺が命名した作戦名だ。


マスクでもカイロでもない指揮官を使い捨てにするという案。


うん。


考え抜かれた作戦でもなんでもない非人道的な考えに基づいた案だ。ただしシャーミリアが言う事にかなりの合理性が見られた為、俺はそれを受けいれることにした。


野にいる盗賊ならデモンの干渉など一切受けていない可能性が高い事。

この国に蔓延った人的災害である盗賊を多少減らす事が出来る事。

ファントムと同じ仕様にして、魔力を使わず俺の系譜で遠隔で使えるようにする事。


特に2番がこの国の将来にとっては良い事だ。


要は盗賊を使ってハイグールを作り指揮をさせようってこと。言ってみれば量産型ファントムを製作してみよう!といった感じのかるーいノリだ。


そう、シャーミリア的には。


そしてシャーミリア曰くファントムの時は選んだ素体が最高だった事と、最初の養分3000名近くが鍛えられた騎士だったという事で、とても良いものが仕上がったのだそうだ。今回は盗賊という元々の素材が悪い事と、養分の質も悪い事でそれほど期待できないかもしれないらしい。


《あの時シャーミリアは最高傑作とか言ってたしな。今はウスノロ呼ばわりだけど。》


さらに俺がその後ファントムに、ファートリアの兵や十数万のバルギウス騎士を飲み込ませているため、シャーミリアにすら予想もつかないバケモノになってしまったそうだ。俺の魔力だまりがかなり大きくなったことも原因らしい。


そういう理由もあり、盗賊にいい感じのハイグール素体を見つけようと思ったが、最初に見た泥棒髭のお頭がまあまあだったので即決した。シャーミリアも俺が時間を重視しているのを知っているので勧めてくれたらしい。


「なかなか見つからないな。」


そして今度は別の問題にぶつかっていた。


「申し訳ございません。」


「いやシャーミリアに文句言ってるわけじゃないから。」


「しかし。」


「いや、盗賊なんかもっと簡単に見つかるかと思ったんだが、野良犬より数が少ないみたいだな。」


「そのようです。」


最初の盗賊のお頭であった泥棒髭はハイグールとなり、俺の後ろを金魚の糞のようについて来る。しかし最初の盗賊団だけでは数が少なかったため、もっと養分がいるという話になった。それで俺達は他の盗賊団を探しているのだが、そう簡単に見つからなかったのだ。もともと直ぐに見つけられたのは運が良かったのかもしれない。


「なんかさ、いろいろ考えたんだけど。先に攻撃されたらとか言うあれ‥もう無しで。」


「よろしいのですか?」


「いいや、時間も無いし。盗賊だなーって思ったらすぐにやっちゃおう。」


「かしこまりました。」


既に俺達は仲間から離れて1日半もあちこち探しまくっていたのだ。既に次の日の昼すぎとなり、2人と1体で街道沿いの森を歩いていた。専守防衛なんて平和な事言ってたらめっちゃ手間と時間がかかってしまう。だからそのルールは無しにした。


だいぶ仲間達から離れており、どうしようか迷っていた時。


「ご主人様。おります。」


どうやらシャーミリアが見つけてくれたようだった。


「急ごう。」


そして俺達がたどり着いたのは寂れた村だった。なんと、丁度盗賊に襲われている最中らしく、逃げまどう村人と凶悪な盗賊たちの追いかけっこが始まっていた。


「ナイスタイミング!」


「いかがなさいましょう。」


「こいつの試運転したいんだけど。」


「ここででございますか?」


「うん。」


「かしこまりました。ではご主人様‥恐れ多くもご主人様の血を分けていただきたく。」


「ああいいよ。」


スパッ


俺は手のひらを切ってシャーミリアに差し出す。


「はあ…はあ…はあ‥」


村では村人が追われ、後ろにはハイグールがいるというのに、シャーミリアは何故が欲情しているようだ。


「ミリア…飲みたいなら先に飲んでいいよ。」


「そ、そんなことは…。」


「飲め。」


「ありがとうございます。」


ぴちゃ、ぴちゅ、くちゅ


なんとも煽情的に俺の血を舐めとるもんだ。しばらくはシャーミリアが恍惚としたような表情を浮かべる。


「さてそろそろ。」


「は、はい!申し訳ございません。」


「急かしたわけじゃないけどな。」


前に俺の血をシャーミリアが舐めた時にはそれほど気が付かなかったが、シャーミリアの魔力が爆発的に増えているのが分かる。俺の血はシャーミリアにとって魔力の起爆剤になるらしい。


「ではお繋げいたします。」


シャーミリアは俺の血を手から指で救い上げて、泥棒髭のお頭ハイグールの口に指を入れた。すると泥棒髭はおいしそうにチューチューやっている。シャーミリアが指を引き抜きハイグールに手をかざして何かを唱えている。


なるほど、俺とこいつが繋がるのが分かる。感覚的に操る事が出来そうなのが伝わって来た。ファントムとの感覚をしっているからすぐに理解できそうだ。


「あの…ご主人様。」


シャーミリアが術を行いながら話す。


「どうした?」


「やはりかなり伝達が悪く、性能が良く無いようです。」


「仕方ないんじゃないか?」


「ファントムをご主人様のヘリだとすれば、こやつは馬車かと。」


「十分だよ。」


「かしこまりました。使い捨てでございましたね。」


「そうだ。」


「あとはご主人様からご要望の、話せるようにする能力でございますが…。」


「どうだ?」


「自分で考える知能はありませんので、ご主人様がこいつの口を借りて話す事なら出来そうです。」


「なるほど、言ってみれば操り人形って感じ?」


「完全独立で自分動きますが、多少は操る事が出来るはずです。ファントムほどの出来栄えなら操る事は不可能かと思いますが、これは中途半端な仕上がりですので容易です。」


「それでいいよ。」


するとシャーミリアが泥棒髭のハイグールから手を離す。


「終了です。あとはどれだけ養分が取れるかで強さが決まりますが、ファントムのように底なしと言うわけにはいきません。恐らく頭打ちが来ると思われます。」


すんごい事をさらりと言っている。


「シャーミリアはやっぱり凄いよ。」


「あうぅ…そんな‥いやぁ…わたくしめは…。」


あ、褒めちゃった。


ペタン


シャーミリアはハアハア言いながら座り込む。俺がシャーミリアの性癖にとやかく言う事はない、ただ目の前の村ではそろそろ村人が殺されそうだ。俺は急いで泥棒髭のポケットにエリクサーの瓶を2本突っこんだ。


「シャーミリア!動かすぞ。」


シャキ


「は!」


シャーミリアはすぐさま直立に立って返事をする。


俺は泥棒髭のハイグールに直接つながっている感触を味わう。手をにぎにぎさせてみたら普通ににぎにぎした。もう一本の腕に担いでいたトマホークをぶん回してみる。


ブンブン!


「よし!見せてもらおうか、新型のハイグールの性能とやらを!」


俺とシャーミリアが見張る前を高速で村に侵入していく泥棒髭。


「あいつの視界は見れる?」


「はい、ハイグール化と眷属化を施しております。私奴の時と違い不鮮明かもしれませんが、見えるかと思われます。」


俺がシャーミリアと視界共有を図った時のようにしてみる。


あらら‥


視界共有は図れた。図れたのだが…まずはカラーじゃない。セピア色でノイズが混ざったように見えるし、あんまりはっきり見えなかった。それでも十分物を認識する事は出来るようだ。


「要は慣れだな。」


「左様でございます。」


俺とシャーミリアは目の前を走っていく泥棒髭を見ながら言う。言ってみればファントムが量子コンピュータAIを詰んだロボだとすれば、こいつは性能の悪いハイグールドローンと言ったところだった。


村に入り中を見渡すと、すでに村人二人が倒れてしまっていた。


《あんれま、もたもたしてたら殺されちゃったよ。》


《申し訳ございません。》


《シャーミリアのせいじゃないって。》


そして俺が操る泥棒髭が、あっという間に倒れている死体2体に近づいてエリクサーを振りかけた。村人の死体は淡く光り輝き直ぐに目覚めた。今しがた死んだばかりらしく蘇生したのだ。


「ひっ!」

「こ、殺さないで!」


村人AとBが叫ぶ。


いやいや、今死んでたのを助けたところだけど。


「俺は助けに来たんだ。盗賊じゃないぞ!」


うっわ、声がしわがれて滑舌が悪い。とにかく慣れるまでは仕方がないだろう。


「そ、そうなんですか?」


「とにかく安全な場所に逃げろ。」


「は、はい!」


そして泥棒髭の俺は村の叫び声のとびかう方へと向かう。


村の大通りでは逃げまどう村人や追いかける盗賊たちが四方八方に動いていた。娘が目の前を通り過ぎた後に盗賊の男が通り過ぎようとしたので、ガシ!っと首根っこを押さえて止める。


「ぐえっ!」


「やめろ!」


捕まえた男が泥棒髭を見てパクパクと口を動かすが声が出ない。俺が気道を押さえてしまっているらしく声が発せないのだ。


ドサ


とりあえず俺は手を離し、その盗賊を道端に投げる。


「て、てめえは!口髭のガスじゃねえか!」


あーコイツ、二つ名が口髭でガスって言う名前なんだ。だっさっ。


「んーしらんなぁ。」


「なにしらばっくれてやがるんだ!俺達のシマを荒らしに来たのか?」


「ここは俺のシマだ。」


「な、何言ってやがるんだ!お前…お前みたいな弱小の盗賊団なんかいつでも潰せるんだぞ!」


男は少しビビりながらキーキー叫んでいる。


「うるせえよ。とにかくお前らの頭はどこだ?」


「はあ?なんていった?おまえ如きが偉そうな態度だな!」


うーんめんどくさいな。


ブン


ばぐぅ


泥棒髭のトマホークが目の前の男の頭を勝ち割った。


ドサ


脳漿を炸裂させて、あっというまに崩れ落ちてしまう。


すると数人の盗賊がその光景に気が付き、女を追いかける足を止めた。


「な‥‥おい!ガス!おめえ人の仲間になにしやがる!」


「仲間?お前のか?」


「こ、こいつ!殺しやがったぞ!」


地面に倒れている仲間を見て男が叫ぶ。


「弱い盗賊団のくせになにしてけつかる!」


二人の盗賊が泥棒髭に剣を抜いて飛びかかって来た。


ブン


一人の盗賊が泥棒髭のトマホークを剣でいなそうとする。


バギンッ!


剣が粉々に折れ、頬っぺたのあたりにトマホークがぶち当たり顔面がカチ割られる。そうこうしているうちに、もう一人の剣が届きそうだったので左の手でガシっと掴む。


「お、お前‥なんだ!いったいなんだってんだ!」


ブン


剣ごと男を持ち上げて地面にたたきつける。


バグゥ


「ぎゃっ!」


泥棒髭が豪快に立ち回っているうちに周りの盗賊たちも気がついたらしい、一斉に周りに集まって来た。


「て、てめえ!ガス!いい度胸だ!」

「一人で来たのか?手下はどうした!」

「どっかに手下が隠れてるんじゃねえのか?」


手下か‥‥手下はみんなコイツが喰ったけど。


「今すぐ村人を襲うのをやめろ!」


やっぱ滑舌が悪い。


「へっ!自分らのシマでなにやったってお前に文句言われる筋合いはねえ!」


ドシュ


泥棒髭をあやつり叫んだ男に5メートルほど踏み込んで肉薄する。


「うぉ!」


いきなり目の前に現れた泥棒髭に男が驚いた。


ブン


ドゴォ


男は体をくの字に曲げて地面を転がる。


「この!」


もう一人の男が上段に斧を振りかざしてかかってくるが…胴ががら空きだ。


巨大トマホークの柄の部分で腹を突く。


ズボッ


男の胴体に突き刺さってしまった。やっぱりハイグールの加減は難しい。


「くけっ」


胴を貫かれた男が、軽く叫んでくの字に体を折り倒れる。


「み、みんなあ!!!集まれ!!!!」

「でいりだ!!でいりだ!!!」

「シマ荒らしだ!」


あっというまに40人からの盗賊が集まり、後ろの方からこれまた大きくて強そうな男が現れる。


「おかしら!ガスの野郎がこいつらを殺しちまいやがった!」


「なんだと!」


おかしらが周りに転がっている死体を見渡してこっちを睨む。


「てめえ、弱小のくせに俺達にたてつこうってのか?良い度胸だ!」


「うるせえ。お前たちはこんなことやめろ!」


「はあ!なんだぁ?お前の声が聞き取りづらいんだよ!ちゃんとしゃべれ!」


「うるせえ。っていったんだ!」


「うるせえだと!それにしてもずいぶん顔色が悪いじゃねえか?ビビってんじゃねえぞ!みんなやっちまえ!」


盗賊団がいろんな得物を持って、ガスと呼ばれる俺があやつる泥棒髭にかかってくるのだった。


《一斉にかかってきちゃったな。コイツで対応できるんだろうか?使った感じは力が強そうだったけど。》


《ご主人様。いかに馬車程度の能力しかないとはいえ、相手は虫けら以下の存在です。どうとでもなるはずですが。》


《確かにファントムがヘリで、こいつが馬車ならそうか…。》


《かと思われます。》


ブゥン


げきょ!ごぐぁ!ばばぅ!


メキョメキョメキョメキョ


3人まとめてトマホークをふるってみると、一気に薙ぎ払う事が出来た。


「な、なんだぁ?おまえ!本当にガスか!?」


敵のお頭が叫ぶ。


「そうだ。」


「と、お前ら!!!一斉にかかれ!!!!」


盗賊たちは泥棒髭が振り回すトマホークの暴風圏へと突入していくのだった。


「ぐああああああ。」

「げぇえええええ。」

「ごぎゃぁぁぁっぁ」


あっという間に血祭りにあげられていく盗賊たち。


最後に残ったのは盗賊のおかしら一人だった。


「ま、まってくれぇ!ガス!いえガスさまぁ!」


いきなり無様に土下座をしてきた。


「なんだ?」


「お、俺達の負けだ!おめえの子分に、子分にしてくれえ!」


敵のでっかいおかしらが膝をついて懇願してくるのだった。


「うーん!どうしよっかな。」


泥棒髭のハイグールはどや顔で言うのだった。

次話:第419話 泥棒髭の神子


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[一言] 使い捨て指揮官を作ろう作戦 なるほど…『遠隔操作』するわけなんですね 総大将がハイグールの目を通して状況を確認しつつ、何が起きたかをリアルタイムで確認できる…という事も考えるとかなり合理的な…
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