第42話 ヴァンパイア包囲網からの脱出
次話:第43話 ヴァンパイア殲滅作戦
ヴァンパイアの群れはいまだに空を飛び交っていた。
まだ・・うじゃうじゃいる。
ヴァンパイアって群れを作るんだったっけ?前世の御伽噺が思い出せない。
「ガザム!ギレザムとゴーグを呼びよせてください!」
俺はある決心をした。
ガザムが何らかの方法で呼び寄せているようだった・・思念伝達?
「なんだ!?」
ギレザムが近づいてガザムに叫んでいる。それでも飛びかかってくるヴァンパイアを斬っては落としきっては落とし続けているが、ギレザムの傷も間違いなく増えていた。
俺がギレザムに叫ぶ!
「全員で逃げます!」
「ラウル様!この状況では!くっ!」
ヴァンパイアと戦いながらではまともに会話できないな・・
「馬が死んでます!どうやって!?」
マリアが切羽詰まった金切り声が俺に叫び伝える。馬車の馬を見てみるとどちらの馬もすでに死んでいた。ヴァンパイアに引き裂かれてしまったらしいのだ。
・・どうする!?
「馬が・・もうやるしかない!」
ゴーグはまた貴族風の女ヴァンパイアと戦っている最中だった・・おそらく俺一人を連れて逃げるにはさっきの一瞬が千載一遇のチャンスだったと思う。もはやそれは許されまい。このままではオーガも俺たちも全員死ぬ。
俺は意を決した。
一か八かやるしかない。
もしかすると失神、状態によっては死ぬかもしれない・・
「マリア!もしかすると僕は気絶してしまうかもしれない!その時はマリアに何とかしてもらうしかない!魔力欠乏して死んだりするかもしれませんが・・」
確か・・魔力が欠乏しても死ぬことはなかった・・はず!
「なんでしょうか!!」
マリアが不安そうに聞いてくるが声がデカい。LRADが鳴り響いても裏側では余裕で会話ができるんだがな・・この音響兵器はホントすげえな・・
「これから僕が出す物に全員を乗り込ませてください!」
「武器ですか?」
「そんなところです!時間がないので説明もできません!」
これから召喚しようと試みるものはとても大きかった・・もしかしたら魔力がゼロになって失神するかもしれない。自分の魔力がどのくらいあるのかまだわかっていなかったし、デカい兵器を出してみた事もなかった。正直怖い。
「これから出す物は見た事ないと思いますが乗り物です!扉が後ろ・・必ずあります!僕が失神したら、そこを開けて全員で乗り込んでください!行きます!」
俺は武器データベースから検索機能で一発で「それ」を選び触れる。
ドン!!!!
俺達の目の前に出てきたのはデカイ鉄の塊だった。
俺が召喚したそれは、M93 フォックス兵員輸送車だ。ダイムラー・ベンツの6輪兵員輸送車!!
《ベンツだよベンツ!ドイツの有名自動車メーカーだよ!あー俺もベンツもちになったんだなあ・・いや!いまはそんなことはどうでもいい!》
操縦席側に2名、兵員を後部に8人乗せることができる。4ストロークV型8気筒液冷ターボチャージド・ディーゼル登載で370馬力のパワーもある。V8ターボだ。最高速度時速105㎞ 航続距離800キロ。水陸両用で水も行ける凄い機体だ。
M93フォックスはアメリカでの呼び名で、ドイツではフクス装甲兵員輸送車と呼ばれている。
しかし・・ごっそり魔力がもっていかれた。俺はふらついてしりもちをつく・・が失神せずにすんだ。魔力量が格段に増えているようだった。しかし自力で立てない。
「あの・・マリア・・肩を貸してください。」
ギレザムとガザムが俺達にヴァンパイアが近づかないよう、周辺で斬りまくっている。
俺は馬車の中のイオナとミゼッタに向かい叫ぶ!
「馬車を捨てます!母さんポーションだけ持ってきてください!」
このさい村から勝手に持ってきた物資はあきらめよう。
LRADが鳴り響いたままだったのでヴァンパイアは容易には近づいてこないようだった。相当効き目があるらしい・・
「ミーシャ!ゴーグが戦っている相手にLRADをあててください!」
ミーシャがゴーグと貴族風の女ヴァンパイアが戦っているあたりを狙ってLRADをむける。貴族風女ヴァンパイアは一瞬耳を塞ぎひるんだようだった。だがゴーグがかぎ爪をふるうとかわして飛びのいた。他のヴァンパイアとは何かが違う・・
「ガザム!ゴーグを呼んで!」
「わかりました・・」
ゴーグが貴族風女ヴァンパイアから逃れてこっちに走ってきた。
「これからこれに乗り込みます!全員ついてきてください!」
全員でM93 フォックス兵員輸送車の後部にまわりこむ。
後部のハッチは観音開きにひらく。
「母さん!マリア!ミーシャ!ミゼッタ!全員入ってください!」
全員でM93フォックスに乗り込んだ。ガザムが後部ハッチを守りヴァンパイアの侵入を防いでいた。
俺はフラフラしながらガザムに言う。
「あの・・ガザム・・ギレザムとゴーグに後方の幌馬車から、武器を持ってくるようにおねがいしたいんですが。」
「わかりました。」
思念伝達でギレザムとゴーグを呼ぶとM93フォックスの後ろに来た。
ガザムは俺達が装甲車に守られているため1方向だけの防衛に限られ、だいぶ守りやすくなったようだった。全方向からの攻撃がなくなったため、会話もある程度できるようになった。
「ギレザム!ゴーグ!後ろの幌馬車に、台に乗った鉄の棒のようなものが前後に2つあります!それを取ってきてもらえませんか?あと床に鉄の筒みたいなのが数本あるので、抱えられるだけ持って戻ってもらえませんか?」
そう、俺は既に魔力がだいぶ枯渇しているため、これ以上の武器の召喚をすれば行動できなくなる可能性があった。残存している12.7mmM2機関銃2門とロケットランチャー数本をとってきてもらうように頼む。
「わかりました!」
「わかった!」
オーガのふたりは数メートル後方にある幌馬車に向かった。
そう・・俺がギレザムとゴーグに頼んだのは12.7mmM2機関銃2門と、AT4ロケットランチャーだ。
しばらくすると二人が戻ってきたのだが大量のヴァンパイアと、あの女貴族ヴァンパイアもいたため苦戦しながら、傷だらけになって帰ってきた・・結果もってきたのはバラバラになった12.7㎜機関銃の部品と2本のロケットランチャーだった。ヴァンパイアに壊されてしまっていたようだった・・
「これですか?」
ギレザムが俺の前にそれを置いて言う。
「は・・はい・・」
だめだ・・この武器は使えない。あいつら…俺の大事な武器を壊しやがった!
後方の幌馬車の馬の死体にはヴァンパイアが群がっていた。
ムカつく!俺の武器をぶっ壊しやがったな、ヴァンパイアだかなんだか知らねえがぶっ殺してやる!
「マリア、ロケットランチャーで幌馬車を撃ってください。」
「はい。かしこまりました。」
マリアは手慣れた感じでロケットランチャーを担いでガザムの隣に立ち、幌馬車に向かい打ち込んだ。
ドガーン!!
幌馬車はロケットランチャーの直撃を受けて飛び散った。中に置いてあった3個のM9火炎放射器にも引火し盛大に爆発し、周りにいたヴァンパイアたちがバラバラに飛び散った。
・・・これぐらいバラバラになるとヴァンパイアはどうなるんだ・・
でも検証などしている暇はなかった。
「それで・・どうします?」
ガザムが俺に聞いてくる。
「あと外に置いてある、白いLRADという鉄の物はどうなっています?」
「ああ、あれはヴァンパイアも近づけないようで立ってます。」
「それも回収します。お願いできますか?」
「ギル!ゴーグ!それをここに持ってきてくれ!」
ガザムが二人に声をかける。
すると二人はそれを後部ハッチまで持ってきてくれた。音は出しっぱなしだが裏側に音が鳴らない事を二人は分かっているようだった。
3本のLRADを後部ハッチの前に立てる。
「これで3人は自由に戦えるはずです!その前にこれを!」
俺はガザムにローポーションを渡す。
「これはポーションです!魔人でも効きますか?」
「助かります!我々には多少効きます!ヴァンパイアには毒になりますが」
「毒?」
「ヴァンパイアはアンデッドの一種ですから・・」
えっ!!ヴァンパイアってアンデッドの一種なの?しかもポーションが毒って!早く言ってよ!!
「とにかく!あとの二人にもこれを!」
ガザムはLRADの向こうで戦っている。スマート耳栓が聞いているため特に支障はないようだった。
「マリア!僕と一緒に来てください!」
俺はマリアと操縦席に移る。そして俺はM93フォックスのエンジンをかけた。
チチッ、ブゥゥウウン!
エンジンがかかり車体が震える。防弾ガラスのフロントには俺たちに気が付いたヴァンパイアが飛んでよってきた。あっという間に防弾ガラスがヴァンパイアで埋め尽くされる。
「マリア!いいですか?これは乗り物です。鉄の馬車です!」
「馬が・・馬がいませんが・・」
「大丈夫です、馬370頭ぶんくらいの力があります。」
「馬370頭・・」
「しかも休まなくてもずっと動き続けられるんです。」
「すごい・・」
とりあえず、車の操縦の仕方を説明せねば・・
「マリア、僕はまだ子供なので足が届きません。これを動かしてほしいのです。」
「これを?」
「そんなに難しくはありません。」
とにかくマリアに操縦席に座ってもらう事にした。
「まずはこの手元のレバーを入れて・・足元を見ると、足で踏むところがあるんですが、ここを踏むと進みます。そしてこっちを踏むと止まります・・」
マリアに簡単に説明を始める。
「そしてこの手元にあるこれで右に行ったり左に行ったりします。」
「は、はい!」
訳も分からずに聞いているようだった。
「動かす時は僕が隣に座りますので大丈夫です。ちょっと待っていてください。」
俺が後部座席に行くと、あわただしく動きがあるようだった!
「どうしました!?」
「ゴーグが!ゴーグが!」
床にゴーグが四つん這いになって倒れ込んでいた。
「ラウル様すまない・・あの、女ヴァンパイアにやられて怪我しちまった。」
ゴーグの腹の部分から大量の出血がみられた。
「ゴーグ!」
俺がふらふらになりながらゴーグに近づくと、腹を裂かれてしまったようだった。
「大丈夫。このくらいならなんとか・・まだ戦える」
ゴーグは立ち上がり出ようとした。すると・・LRAD前からギレザムとガザムがこちらのほうに声をかけてくる。
「すみません!もうもちません!逃げてください!」
「私達が食い止めますゆえ」
ギレザムとガザムもすでに満身創痍のようだった。
「ギレザム!ガザム!LRADを車内に入れて二人も乗ってださい!」
ふたりが俺の指示にしたがいLRADを抱えて乗り込んでくる。
「マリア!進むほうの足を乗せて思いっきり踏んでください!」
「はい!」
ギャギャギャギャ ズオオオオオ
砂煙を上げてフォックスが走り出した!
「足を離さず手もとをまっすぐに保っていてください!」
「わかりました!」
後部座席から外に向けてLRADを発射しているためヴァンパイアは近づいてこないようだったが、車体がぐらぐらと揺れる。おそらくこの車に無数のヴァンパイアが憑りついているのだろう。
俺はふらふらになりながらもイオナに話しかける。
「母さん!僕にもローポーションを!あと何本ありますか?」
「まだ10本以上あるわ!」
「ゴーグ!ポーションを!」
ゴーグに飲ませると腹の傷が軽くふさがって出血は止まった。しかしまた動けばすぐに傷口はひらいてしまうだろう。俺もローポーションの瓶をあけ1本飲み干す。多少傷は回復するようだが、魔力はしないようだ。疲労感が全くぬけない。
「魔力はだめか・・」
後部ハッチは空いたままだが、全力で走るM93フォクスにはヴァンパイアは飛びつけないでいるようだった。
「ゴーグ!まだヴァンパイアは来ているか?」
「まだ沢山の気配がある。この乗り物のまえにも数匹くっついてるよ」
「そうか…」
どうするか決まった。
「あの?全員これの何処かにしっかりとしがみついていてください!」
全員がしがみつくのを確認して俺は運転席のマリアにつたえる。
「いま踏んでる足の隣のペダルを一気に踏んで下さい!マリアも踏ん張って!」
マリアはMAXスピードからフルブレーキングをかました。
ギャン!ズササアァァ!!
フロントにへばりついたヴァンパイアが吹っ飛んだ!
「マリア!そのまままた進んで下さい!」
ギャッギャッギャッ、メキョメキョメキ!
落ちたヴァンパイアどもを踏みつけ、M93フォックスはまた全力で走り出す!
ざまあみさらせ!
やっとライトで照らされる道がみえた!
「マリア!このまま道を走ってください!」
「はい!」
おれはマリアの操縦のサポートをするため助手席にすわる。
異世界の夜の草原をひた走る6輪の装甲車。まだ多くのヴァンパイアがうねる蛇のようにつらなり、追ってくるのだった。
夜の空を駆ける暗黒の龍のように。