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第411話 敵国偵察の初期検証

俺は仲間がいる森の拠点についたと同時に、村で得た情報をみんなに告げる。


最初の村に魔法陣の罠が無かった事、ファートリア国内の治安悪化に伴う盗賊の増長、国民が都市間の移動を禁止されている事、俺達の前線基地の事をバケモノが住み着いたと流布している者がいる事、流通を止められてしまった事による国民の貧困についてを話した。


「魔法陣が設置されていないのは何故だろうな?」


オージェが言う。


「分からん。鏡面薬で調査をしたが反応はなかった。」


「あとは国民の魂にデモンの刻印がなされていたかどうかですよね?」


グレースが言う。


「ああ、アナミスを連れて来ればよかったな。あれをシャーミリアから見てどう判断する?」


「はい、ご主人様。私奴の浅はかな見立てでは、怪しいところはなかったように思われます。ですが巧妙に隠されている場合もございます。私たちが出会った者がたまたま違ったとも考えられるかと。」


「俺達は西部ラインの村で村人の魂核を書き換えたからな。それを察知して無駄な労力を省いたと考えられなくも無いかね?」


「ラウルが言うように、もし俺達の動きに気づいてその労力を省いたとなれば、敵は違う罠なり行動をとっていると想定されるがな…」


「なるほどね‥‥。であれば、すでに南端の村でゴーグが敵兵と接触しているし、その可能性が高いか?」


「そういわれてみればラウルさん、その南端の村を偵察しに来た敵兵達はどうしたんですか?」


「施設を作って幽閉しているよ。」


「ラウル、その状態を聞いた方が良くないか?」


「アナミスが到着したかもしれないし聞いてみるか。」


俺は一旦会議を中断してアナミスに念話を繋げる。


《アナミス。》


《はい!ラウル様。》


《到着したか?》


《遅くなり申し訳ございません。今しがた到着いたしました。》


《ご苦労さん。それで?》


《ゴーグから状況を聞いておりました。》


《わかった。捕らえた者達にデモンの刻印がなされているか調べてくれないか。》


《かしこまりました。しばしお時間を。》


《連絡を待つ。》


《は!》


俺はアナミスとの念話を切る。


「アナミスは、いま着いたって。」


「そうか。と言う事は調査はこれからだな。」


「ああ。」


俺達は、森の中の沢のそばにテント村を作って話をしていた。俺達の話以外は沢の音や風で葉がこすれる音がしている。オージェがここにいるため、魔獣や動物が寄り付く事も無く静かで穏やかだった。


今この場所にいるのは、俺、ファントム、カトリーヌ、ルフラ、マリア、カララ、セイラ、マキーナ、オージェ、トライトン、グレース、シャーミリア、カーライル、オンジだ。


そして俺がいない間にカララが、オージェの威圧の範囲外に出て魔獣狩りにいっていたらしい。そしてカララが獲って来たのがビッグモアと言う魔鳥だった。俺も初めて見る魔獣で、カーライル曰くファートリア神聖国に生息する魔獣らしい。物凄く大きなダチョウと言ったら分かりやすいかもしれない。


カトリーヌ、ルフラ、マリア、カララ、セイラはビッグモアをさばいて料理をしていた。どうやら俺達が戻るまで食べないで待っていてくれたらしかった。


「いい匂いだ。」


俺が言う。


「楽しみだな。」


オージェがニコニコしながら答える。


「さっきの村では料理をふるまってもらったんだが、味も無くお湯にカス野菜が浮いているスープだった。この国の民は本当に貧しい生活を強いられているようだった。」


「そうですか…。本来はファートリアの田舎料理はとても美味しいのですよ。」


カーライルが言う。


「そうなんだ。見る影もなかったよ、早い段階で開放してやらないと苦しいだろうな。」


「悔しいです。」


「そうだな。」


ファートリア地元民のカーライルが苦い顔をして言う。カーライルのように正義感の強い男には、あの村での出来事は耐えがたい光景だろう。


「カーライル。これからもっと見たくない光景を見るかもしれない。」


「ええ。」


「だが作戦の為、我慢を強いる事があるが耐えられるか?」


「もちろん私も兵士の端くれ、作戦行動の邪魔になるような真似はしません。」


「あなた達の国は必ず取り戻す。とにかくその力を貸してくれるとありがたい。」


「もちろんですよ。私のような微力な力でもお役に立てるようであれば、何なりとお申し付けください。」


「ありがとうございます。」


ファートリアの国民が盗賊にいいようにされているなど、カーライルにとっては耐えがたい事だろうと思う。ファートリアの内地を調査する為には、カーライルは必要な人材だったと思うが、そんな地獄を見せるのは忍びなかった。


「都市間の移動を禁じているのは誰なんだろうな?」


俺が言う。


「恐らくは大神官とやらの指示か、その組織の者が情報統制しているとみて間違いないんじゃないか?」


オージェが答える。


「やはりギルドを解体したのと同じ理由かね?」


「うーん、反乱を恐れたのか、もしくは敵に情報が筒抜けになるのを防ぐためじゃないですかね?僕なら後者ですね。」


グレースが言う。


「俺達に情報を漏らさないためか。」


「実際にラウルさんが何をしても情報は取れませんでしたし、結局僕たちはこうして直接赴いて調査しているわけですしね。」


グレースの言う事を聞いていて、俺は少しの不安を覚えた。敵に情報を漏らさないために人の行き来を制限している。それは一番しっくりくる理由だが、そうして得る利益は何だろうか?


「俺達に情報を漏らさないと動きが分からないか…。」


「ラウルよ。」


「なんだ?」


「情報が取れないとなるとどうすると思う?」


「情報が取れないと…今の俺達みたいに敵地に直接侵入して情報を得る?」


「そうなるよな。」


「敵はあえてそうさせていると言う事か?」


「ああ、わざと俺達を引き込む作戦ととらえられない事もない。」


「おびき寄せるための罠か。」


「断定はできないがな。」


オージェが想像する通りなら、俺達はいま敵の罠に飛び込んで来たとも捉えられるが、俺達を監視する者がいる?


「そしてラウルさん。前線基地にバケモノが住み着いたと流布している者がいるという事が一番気になります。」


「そうだなラウル、俺もそれが一番気になるな。いったい誰がそんなことをしているのか?むしろ前線基地の事を確実に知っているからこそ、そんなことを流布しているのかもしれない。」


「だな。敵が情報攪乱の為にやっているのか?流布したヤツがいったい誰なのかが気になる。」


「この場合、もう一つの可能性としては。」


「なんかあるのか?グレース?」


「ええ、定かではないですが、情報から考えてもう一つの可能性です。」


「なんだ?」


グレースが頭の中で何かを整理しているようだ。俺とオージェが急かさないようにグレースが口を開くのを待つ。


「国民を一歩も動かさないため。」


「国民を一歩も動かさないため?」


「ええ、国民をその場所に縛り付けるための罠ですね。」


「国民を縛り付ける理由は何だろう?」


「それが、全く分かりません。」


確かに状況から言うと国民を逃がさないため?でもそれが何のためかは分からなかった。


「なるほどな。それにプラスして貧困化を進ませ、悪党を跋扈させることで国民の身動きはできなくなるか。」


「状況からするとそう言う可能性が高いかもな…。」


「さすがに情報が足りなすぎますよね。」


腕を組みながらグレースが言う。


「とにかくグレースが言うような事なら何らかの理由はあるはずだ。俺達が攻めにくくするようにだったら一番分かりやすいんだけどな。」


「どうもそれだけではなさそうな気がするんですよね。」


「ああ。」

「そうだな。」


グレースの言葉にオージェと俺が頷いた。


「ラウル様。」


マリアがやってくる。


「マリア!お疲れ様。」


「いえ。それは私の台詞です。それよりも皆さんお待ちかねのビッグモアの香草焼きが出来上がりました。あとはビッグモアのスープがもうすぐ煮えます。」


「うほ!食べたい!」


「準備いたしましょう。」


「やった!」


「これは楽しみだな。」


俺とグレースとオージェがキラキラ目で言う。さっきからうまそうな匂いがプンプンしていたからだ。


テーブル代わりの大木の板をカララが地面に置いて、その上に焼いたばかりの鶏肉が置かれていた。


「これは美味そうだな!」


「ふふ。ファートリアでもビッグモアは、めったにお目にかかれなかったですよ。それをマリアさんが上手く調理したようですね。」


カーライルが言う。


「さあ、皆さんどうぞどうぞ。」


セイラが皆に勧める。


「カトリーヌとマリアも一緒にいただこうぜ。オージェ、トライトン、グレース、カーライル、オンジさんも食べてくれ。」


「私は後ほど。」


メイドのマリアが言う。


「いいのよマリア。私たちに給仕をさせて。」


「だけど。」


「いいからいいから。」


マリアがセイラとルフラに言われてテーブルにつく。


俺は目の前に置かれたビッグモアの香草焼きを手にする。するとみんなも同じように串を手にした。


「カトリーヌはかぶりつくスタイルでもいいのかい?」


「皆さんと同じ食べ方がいいです。」


「じゃあいただこう!」


皆が香草焼きにかぶりついた。しばらく無心に食べ続ける。


「えっ!これうますぎるんだけど。」


「本当だ。」


「ずいぶん手の込んだ料理のようだな。」


「わいも初めて食べましたぞ!」


「我もですな。」


俺、グレース、オージェ、トライトン、オンジの順に感想を言う。


「本当ですね。美味しいです。」


カトリーヌも言う。


「本当だ。岩塩と香草しか使ってないのですが、こんな味になるなんて。」


マリアも自分たちで作ったのに、その味は想像を超えていたらしい。


「そうか。皆さんはビッグモアは初めてですもんね。」


カーライルが言う。


「もしかして、この鳥本来の味ですか?」


「正確には鳥から出る肉汁と脂ですかね?それがこの風味を醸し出すのですよ。しかしグレース様の出す岩塩と合わさると、更に風味が引き立つようです。」


カーライルが説明してくれた。


何というのだろう。極上の甘味と俺達がもってきた岩塩の塩気が合わさると、手の込んだ料理のような味わいになる。噛めば噛むほど風味が広がって、いくらでも食べられそうだった。


「スープが出来上がりました。」


魔人達が運んでくる。


どうやらスープが煮えたようだった。それをグレースが道具袋から出した皿に盛りつけていく。こんな森の中でも上品な食べ方ができるのは、グレースの道具袋にしまってある食器のおかげだった。


スプーンをもってスープを一口飲みこむ。


「うわあ‥‥。」


「しあわせです‥‥。」


「うまぁ‥‥。」


「これは‥‥。」


「これもまた‥‥。」


皆が呆けたような顔でうっとりしていた。極上の鶏がらスープという感じだが、最高級の料理と言っても過言ではない味わいが口の中に広がる。何とも言えない美味さだった。


「おいしいです。」


「ほんとうに。」


カトリーヌとマリアもつぶやく。


「ふふ。なんだか郷土料理が褒められているようでうれしいですね。しかし、ビッグモアのスープと岩塩がこれほどの味わいを出すとは驚きです。」


「最高だよ。」


「はい。」


カーライルが滅茶苦茶うれしそうだった。久しぶりに帰って来れた自国の素材を使った料理に感動しているようにも見える。


「これをサイナス様とリシェル様にも食べていただきたいですね。」


「絶対に食べてもらおう。そのためにも国を取り戻さなければね。」


「ええ。」


こんなに素晴らしい料理がある国を、ボロボロの状態にしてまで敵は何をしたいのだろう?もとより自国の経済を破綻させてまで一体何をやっているんだ?


敵のやりたいことが全く読めない。


そんな事を考えている時。


《ラウル様。》


アナミスから念話が入ったのだった。

次話:第412話 カトリーヌの策略


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[一言] ファートリア国民について ファートリア国民の魂に刻印が刻まれているとしたら、ラウル君達の動きが分かってしまう…というのが難点 アナミスさん…でなくてもサキュバスは調査メンバーには必要なのかも…
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