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第408話 火葬と優しい粗宴

村人の遺体を大量に火葬した。


しかし火力が足りずに何度か森に行って木を補充し、念入りに焼き続けなければならなかった。しかも誰が誰かが分かるように1体1体分けて焼いた。もちろん盗賊たちはまとめて焼いたが、すべての遺体を焼き終わるころには日も暮れて夜になっていた。前世の火葬場の火葬炉が、いかに効率的に遺体を焼くことができるかを実感する。


《カララ。》


森に待機中のカララに念話を繋ぐ。


《はい。》


《死んだ村人を焼ききるため時間がかかってしまった。》


《では次の行動開始は?》


《夜に村を出るのは怪しまれる。陽が昇るころに村を出れるだろうから、そっちに合流するのは明日の朝だな。》


《かしこまりました。皆に伝えます。》


《皆は十分休めたかな?》


《はい。カーライルとオンジは既に稽古をしています。》


《彼らは本当に熱心だな。》


《オージェ様が手ほどきをしていますよ。》


《そりゃ貴重な体験だ。》


《二人は喜んでいるようです。》


《カトリーヌとマリアは?》


《二人は皆の為に食事の準備をしてくれています。》


《わかった、じゃあ俺が戻るまでは皆自由にしていてくれ。》


《はい。》


俺はカララに念話で現状報告をし、目の前にいる村人たちに意識を向ける。どうやら次にその骨をどうすればいいのかを聞きたいようだった。


「すみません。骨は墓を作って埋めます。各自の家族や知り合いの方は骨を集めてください。」


村人たちは自分の家族や知り合いの骨を拾い集めはじめた。


「あつめました。」


村長の奥さんのペルデレが言う。


「集めた骨を持って墓地に埋葬しますが、それはまた後日で良いかと思います。気のすむまでお祈りを捧げてから墓に埋めてください。」


俺が言う。


「普通の埋葬と同じにして良いのですね?」


「はい、そうしてください。」


「わかりました。みんな聴いた通りよ。」


「これで屍人にはならないです。」


「そうなのですね。」


いつか平和な世界になったら、ケイシー神父を連れてきて祈りを捧げてやろう。それまでは村人の祈りで鎮魂してもらうしかない。


「あの…あなた方を疑ってしまってごめんなさいね。森から抜けてきた事といい盗賊を圧倒する強さといい、もしかしたら噂の西に巣くったバケモノなんじゃないかと思ってしまったの。」


はい…その西に巣くったバケモノです。とは言えない。


「バッバケッ‥」


シャーミリアが何か言いだしそうだ。


《シャーミリア!ここからは俺の言う通りに受けごたえしろ。》


《は!》


シャーミリアを念話で止める。


「いえいえ。疑いが晴れたのなら良かったですわ。」


俺の言っている事をシャーミリアが話した。


「私からもありがとうございました。間一髪のところを救っていただき、村人の火葬まで手伝っていただいて…なんとお礼を言っていいのやら。」


アデルフィアが言う。


「姉さんを助けてくれてありがとうございます!」


ジョーイも頭を下げた。


「ここに来たのも何かの縁ですから。とにかく皆さんが助かったのなら良かったですわ。」


「俺達からもお礼を言うよ。こんな男衆がいるというのに盗賊にいいようにやられてしまって、このような可憐な女性たちに助けられるなど…面目ない。とにかく助かった!とにかく今日はここでゆっくりして言ってくれ。」


村人の男が言う。


「いいえ、武器も無くあの盗賊と戦ったら皆が殺されていたと思いますわ。」


俺達は武器を使わずに盗賊を殺したけど。


「すまない。」


村人がシャーミリアに頭を下げた。


「では、お言葉に甘えて村で休ませていただこうかしら?」


「ええ!ええ!そうしてください!」


男たちが鼻の下を伸ばしているようにも感じるが、こんな惨劇があった後だそんなことはないだろう。たぶん。


「とにかくお話をお聞かせ願えますか?」


「それならば村長の私の家へどうぞ。」


「ありがとうございます。それではよろしくお願いいたします。」


「はい。」


「では私達は身の回りのお世話を。」


アデルフィアが言う。


「俺も何か手伝う。」


ジョーイも合わせて言う。


「では、あと数人の女性に手伝ってもらえるかしら?」


ペルデレが言うと、数人の女性が名乗り出てくれた。


「では私達からちょっとお願いがございます。」


シャーミリアの口を通じて俺が言う。


「なんでございましょう?」


「今宵から交代制で村の西と東の街道の入り口に、見張りを立てる事をおすすめいたします。」


もちろんこれ以上の被害を出すのを防ぐためだった。盗賊に仲間がいたりすれば、また来るかもしれない。


すると皆が顔を見合わせてどうするのかを話し出す。


「わかった。俺達が交代で見張る事にしよう。盗賊から奪った剣でどれだけできるかは分からんが、この前みたいにいきなり襲われたんじゃまた二の舞だ。」


「お願いします。ただ何らかの危険を察知したら戦わず、私達にお伝えくださるようにお願いしますわ。」


「わかった。凄い腕前だと聞いているしな。」


「大したことはございませんわ。」


《よし!オッケーだ。》


うまい具合に話が進んだ。


《それよりも…ご主人様の軍をバケモノなどと…》


《いいんだ。シャーミリア!あくまでも村人は噂を信じてるんだ気にするな。》


《はい。》


俺達が念話で話している間、少しの沈黙が流れたがペルデレが話し出す。


「それではわが家へどうぞ。」


「ありがとうございます。」


「皆は今宵は家に戻っておやすみなさい。」


「はい。」


村人たちはペルデレの指示に従い、家路へとついて行く。


「こちらです。」


シャーミリアと俺とマキーナが、ペルデレについて行く。


《いいか?シャーミリア。さっきの件だがな、ファートリア神聖国は人間至上主義的な風土があるんだ。獣人やエルフは人間の下、それ以上に魔人なんて見たことのない存在はバケモノと認識する事もあるんだよ。》


《かしこまりました。そのような事を以前聞いておりましたが、ご主人様の軍を馬鹿にされたような気になってしまいまして…至らぬ私奴にどうか罰をお与えください。》


《罰なんて無い。とにかくそういう事だから。》


《は!》


そんな話をしているうちに、村長宅に到着したようだった。その建物は他の建物よりも大きかったが、窓ガラスが割れて庭も荒れていた。どうやら盗賊たちが荒らして行ったらしい。


「すみません、荒れておりますが。」


「いいえ。昨日のような事があったのですから当然ですわ。」


「お嬢様はとても寛容でいらっしゃるのね。」


「困ったときはお互い様です。」


アデルフィアやジョーイ、女たちもシャーミリアに好感を持ってくれているようだ。ストレスがかかると人間を吸ってしまう可能性のある本物のバケモノだというのに。


「あまりまともな食べ物は無いのですが。」


「いえ。食事などいりませんわ。」


「そう言うわけにはいきません。今宵はお泊りになるだろうと思って、火葬の間にお作りしていたのです。」


《ご主人様。いかがなさいましょう。》


《無下に断ったら心象が悪いよな…でもお前たちは食わないか‥じゃあ…》


「申し訳ございません。お気持ちだけいただいておきますわ。私はさすがにあのような後ですので食事が喉を通りそうにありません。」


「私もお嬢様と同じくちょっと食事は…。」


シャーミリアとマキーナが口をそろえていらないと言う。


「それではあなた。あなたはいただきなさい!」


シャーミリアが俺に言う。俺が俺に言っているのだけれども。


「え?お嬢様!私は食べてもよろしいのですか?」


「ええ、せっかく作っていただいたのですから、失礼にあたります。」


「わ、分かりました!俺は腹ペコですので嬉しいです。」


俺とシャーミリアが自作自演の応答をやっていると、ペルデレがアデルフィアと女達に目配せをした。女たちが台所の方に消えて行く。


「ではお嬢様方はどうなさいます?」


ペルデレが聞く。


「よろしければもう休ませていただきたいのですが。」


「失礼いたしました。大変お疲れでしたね、お体もあまり丈夫でないご様子ですし寝所にご案内します。ジョーイは彼を食堂へとご案内して。」


「はい!」


ペルデレが二人を寝所に連れて行く。俺はジョーイに連れられて食堂に行くのだった。


「あの。」


「ん?」


「お兄さん強いんだね!」


「それほどでもないよ。たまたま運が良かっただけさ。」


「運がいいだけであんなこと出来ないよ。俺も強くなりたいんだ!」


「ジョーイ君も練習すれば強くなれるよ。」


「でも何からしたらいいのか分からない。」


「君は魔法は使えたりするのかい?」


「ううん。」


「それなら剣の鍛錬をすると言い。とにかく木刀で木を打ち込むとか、俺は剣士じゃないから教える事が出来ないけど、たぶんそう言う事の繰り返しで強くなるんだと思う。この村に剣士は居ないのか?」


「盗賊にやられて死んじゃった。」


「そうか…。」


「父さんは自警団の隊長だったんだけどね。」


「そうか…。申し訳ない事を聞いたな。」


「いいんだ。でも俺が強ければあんなやつらなんかに、父さんも母さんも殺される事なんてなかった。とにかく俺は強くなりたいんだ。」


ジョーイは涙を溜めながら言う。


うーむ。その気持ちが痛いほど分かる。何とかしてやりたいのは山々だけど…今はどうする事も出来ない。西の基地で魔人と鍛錬すれば数ヵ月でかなりの強さになるかもしれないが、この国の人たちからすればあいつらはバケモノだからなあ…


そうこうしているうちに食堂につく。


「ここだよ。座って!」


「ああ、ありがとう。」


俺を一人席に座らせるとジョーイが台所の方に行く。しばらくすると寝所からペルデレが戻って来た。


「すみませんお一人で座らせてしまって。」


「俺は商人の従僕ですから。お気になさらずに。」


するとジョーイがアデルフィアと女たちを連れて来た。女性陣が料理を運んできてくれたようだ。


「すみません…こんなものしかないのですが。」


ペルデレが申し訳なさそうに言う。


「いえ。」


俺の目の前に並んだのは、透明なスープに浮いた野菜と小さい魚一匹と芋だった。


うわあ…滅茶滅茶質素だし、俺の分しかないし。


「どうぞお食べ下さい。」


「皆さんはよろしいのですか?」


「ええ、皆は家に戻ってから食べると思います。」


「ペルデレさんは?」


「私はこんな時間ですからね。寝るだけですよ。」


「す、すみません。」


「何もお謝りになる事はございません。」


そして俺はスプーンを手に取りスープを口に入れる。


‥‥味無い。


ズズズ


‥‥お湯野菜だ。


そして俺は小さい焼き魚にフォークを刺す。


‥‥ちっさ!


パク


‥‥泥くさっ!


いかんいかん…何て罰当たりな。貧しい村で無理して食事を出してくれているんだ、何かいわなきゃ!


「お、美味しいです!素材が引き立ちますね!」


「ふふっ…ご無理をしなくてもいいのですよ。」


「いやいや!本当です。お腹が空いていましたので本当に美味しい。」


「お優しいのね。」


‥‥なんだろう?味がしないのはそうだけど、みんなに見つめられて食べた気がしない。


「えっと…ペルデレさん。」


「なんでしょう?」


俺はごそごそとバックからある物を取り出す。


そう…村人などと優位に話を進める時に重宝するあのアイテムだった。


岩塩あのあいてむ


ゴトッ


俺は1キロくらいの岩塩をペルデレの目の前に置いた。


「こっ!これは!!」


「最高級の岩塩です。差し上げます。」


「そ、そんな!いただけません!村をお救い頂いた上に、このようなおもてなししかできない私達に、このような高額なものを!いただけません!」


ペルデレが本当に申し訳なさそうに言う。


「いえ、お嬢様にお渡しするように言われていました。これを受け取ってもらわねばお嬢に叱られます。返さないでくださいね。」


「あ、ありがとうございます!ありがとうございます!村の皆で分けます。」


ペルデレは机に頭がつくほどにお辞儀をした。


「それで、この国はいったいどうなっているのです?」


俺は料理を見ながらペルデレに尋ねる。


「はい。南の国から来たばかりではご存知ないと思いますが。」


「はい。」


ペルデレはファートリア神聖国の知っている限りの事を話し出すのであった。

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― 新着の感想 ―
[一言] まずは書籍発売おめでとうございます イラストも以前に描いてくれた方とは別の方でしょうか? ラウル君が可愛らしく描かれていると思います カーライルとオンジの稽古 まずはこれを聞いて不穏に思…
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