第404話 最初の村
俺達3人はファートリア神聖国に潜入して一番最初の村のそばにいた。
その村から200メートルほど離れた深い草むらの中に潜んで監視しているのだった。俺達の前線基地から村までは40キロほどしか離れておらず、ほぼ目と鼻の先と言ってもいい。
「人が動いている気配がないんだが。」
俺は双眼鏡越しに村を見ているが人が動いている気配がなかった。どういう状況になっているのか?
「人いるよな?」
俺はシャーミリアの気配感知で村を探査してもらう。
「人間はおります。」
「程度はどんな?」
「比較をすれば、カーライルやオンジのような人間は一人もおりません。しかし西部の村人達と比べれば気配の大きな物が混ざっているようです。」
「何人くらいいる?」
「およそ30ほどおります。あとの200ほどは恐らく村人です。」
なるほど。どうやら村人に混ざって多少荒事になれた者が混ざっているらしい。
「兵隊かな?」
「あれが兵であれば弱いと言わざるをえません。」
「デモンや魔獣の気配は。」
「ありません。」
「あとは魔法陣の罠の可能性か。」
「はい。」
村人たちを生贄としてデモンを呼び出す罠がはってあるかもしれない。
「確認しに行くか。」
「かしこまりました。」
「は!」
ドレス姿のシャーミリアとメイド姿のマキーナが頭を下げる。
「万が一見つかった時は、設定を忘れてないよな。」
「「はい!」」
俺は二人に商人の娘とそれに従う従者の設定を忘れていないか確認する。もし村人か何かに見つかった場合は、魔物に襲われ逃げて来た商人の娘設定で押し切る予定だ。
草むらの中を慎重に村に向かって歩いて行く。今日は曇り空で天気が悪い、気温もそれほど高くはなく少し強めの風が吹いていた。時折強い風が吹き草原の草を飛ばしながら過ぎ去っていく。
「ここから草原が切れるな。」
村の周りは地ならしがされており、村までは草が刈られて見晴らしがよくなっている。草原の草むらから村までの距離は50メートルほどだった。
「シャーミリア。村の一番大きな建物の屋根に俺を連れて最速で飛べ。マキーナは自分の最高速度でついて来れればいい。」
「「はい!」」
シャーミリアが俺を背中から抱きしめて身をたわめる。俺は一気に魔力で全身を強化した。
くる…
ドン!
次の瞬間建物の屋根の上にいた。俺は瞬時に身体強化をほどいた。魔力に反応して魔法陣罠が作動するのを避けるためだ。
《ふう…しかしシャーミリアのダッシュには慣れない。一気に意識がもっていかれそうになるのを必死に耐えてここまで飛んできた。恐らく普通の人間ならば即死だろう。》
マキーナが遅れてやってくる。マキーナですら人間の目にとらえられるような速度では飛んでいないが、シャーミリアのそれと比べると自家用車とF1くらいの差があった。
俺は周辺を確認するが、家の外に出ている人はいないようだった。
「どういうことかね?」
「わかりません。」
「家の中にはいるんだよな?」
「はい。」
不気味に静まり返った村を見渡しても動くものはない。
「天気が悪いから外に出てこないんだろうか?」
「どうなのでしょう。」
「気配の強い物はどこに?」
「数か所に散らばっているようです。」
「一つに入ってみるか?」
「敵ならいかがなさいましょう?」
「排除だ。」
「かしこまりました。」
二人が頭を下げる。シャーミリアが指をさした先はどうやら教会のようだった。ファートリア神聖国の村だけあって立派な教会が立っている。
「あそこか。」
「はい。」
「あの鐘塔に飛べ。魔力は使いたくないから制限してくれると嬉しい。」
「かしこまりました。」
俺はシャーミリアに抱かれて鐘塔の上に飛ぶ。今度はマキーナもついて来れるスピードだった。鐘塔の上から中を覗き込んでみるが何も見えなかった。
「この下か?」
「はい。」
「一応聞いておくけど、ふたりは聖水と十字架は大丈夫なのか?」
俺はふと前世の記憶からヴァンパイアの弱点が影響無いか聞いてみる。
「陽の下に出れるように進化してからは全く問題にならなくなりました。」
「私も問題ございません。」
「そうか。一応宗教の本場みたいな国だからな。」
「弱体化する事は無いかと。」
「わかった。」
二人の弱点になりそうな立派な教会だったが、どうやら取り越し苦労だったようだ。俺はまずポケットから鏡面薬のカプセルを取り出して、パキっと割って地面に投げ捨てる。鏡面薬が地面に落ちても魔法陣が輝く事はなかった。
「罠は無い。」
「は!」
「潜入する。」
「は!」
俺はシャーミリアに抱かれ、スッと鐘塔の吹き抜けに下りて行く。
「下までは降りるな。」
「はい。」
俺達は教会の礼拝堂を吹き抜けになって見渡せるところにあった、石像の後ろに隠れて礼拝堂を覗く。吹き抜けからのぞくと下に人間がいるようだった。
《いるな。》
《はい。》
聞こえないよう念話に切り替える。
《お前たちは警戒態勢を。》
《《は!》》
礼拝堂には人間が数十人いた。厳つい男達と若い女や男の子がいる。女子供は床に這いつくばり、男どもは立って見下ろしており、椅子にふんぞり返っている者もいた。男たちの数は10人ほどいる。
俺は聞き耳を立てる。
「お前達はもうどうしようもねえんだよ。」
大柄のガラの悪い男がひとりの女を罵っている。言われている女たちはただ震えているだけだった。
「しかしお頭。こんな辺境に来て大丈夫なんですかね?」
卑屈そうな男が大柄の男に言う。
「へっ!こんな世の中だ、わざわざこのファートリアに侵入してくる奴なんかいるわきゃねーだろ。」
「そうだ!お前は本当に臆病だな。」
「まったくだ。この世界は全くもって俺達が稼ぎやすい世の中になったもんだぜ。」
男たちが荒々しい気配を隠しもせずに話す。
「でもなんかおっかねえ魔人とやらがいるって噂を聞きますぜ。」
「そんなもんいるわきゃねーんだよ。お上が自分たちの正しさを知らしめるために作った作り話だろ。」
「ちげえねえ。騎士もいねえし、衛兵もいねえ世の中なんて本当に天国だよな。」
「まったくだ!おかげでやり放題の取り放題、村をこんな風に襲ったらちょっと前なら縛り首かギロチンだったがな。今は咎められる事もないんだよ!」
「この国の兵隊はすっかり腑抜けちまったのさ。」
「まったくだ。おかげで本当に面白い国になったな。」
「わははははは。」
「うへへへへへ。」
「がははははは。」
男たちは口々に下品な笑い声をあげる。
「じゃ、じゃあ。あっしにおこぼれはあるんですかね?」
臆病そうな男がオドオドして言う。
「俺達がたーぷり楽しんだ後にな、あとはお前の好きなようにすればいい。」
「あ、ありがとうございます。」
「んじゃ。」
大柄の一番偉そうな男がぎろりと床に座り込んだ女子供たちを睨んだ。
《あーあ…どうやら俺は野放しになった悪党が、村を好き放題やっちゃってる場面に出くわしちゃったようだ。なんともテンプレ的な展開だな…。》
「ひっ人でなし!」
ひとりの気の強そうな若い女が叫ぶ。
「ハッハッハッハッ!」
「ガハハハハハハハ!」
「いくらでも言ってろ!」
男たちは自分達が完全に優位な立場にいる事を知っており、既に女子供になすすべなどないと思っているようだった。
「よろこべ!まずはお前からヤッてやるからよお。」
大柄な男と数人がその女に近づいて行く。
「姉さんに近寄るな!」
すると10歳くらいの男の子が、その女の前に立ちはだかり両手を広げる。
ピタ
その大柄な男が立ち止まると、手下の奴らも立ち止まった。
「おーおー!ガキが随分いきまいてるねえ。」
「お頭。きっとこいつは親父たちの元に行きたいんですぜ。」
「親父たちの元にねえ‥‥おいガキ!おめえも親父んとこ行きてえのか?」
「くっ!」
少年は一歩後ろに下がるが、その場所をどける気配はなかった。
「なるほどねえ。いい度胸だ!だがなお前がいくら頑張っても騎士様は来ねえんだぞ。」
「ウルサッ…」
ドガ
バゴン
男は少年を思いっきり蹴飛ばした。少年は横に飛んでいき礼拝堂の椅子に体をぶつけて動かなくなった。
「ジョーイ!」
その少年の姉と目される女が立ち上がり、吹き飛ばされた少年にかけよろうとするが、おもいっきり突き飛ばされて転ばされる。
「わーはっはっはっはっ」
「がへへへへへへ。」
「ばかじゃねーの。」
「あのガキ死んじゃったんじゃね?」
「馬鹿がたてつくからだろ。」
男どもは好きかって言う。
「殺してやる!」
女が立ち上がろうとするが、足で胸元を踏まれてまた倒される。
「この女もイキが良いねえ。」
「お頭…この女どうします?」
「全員他の女どもを押さえておけ。」
すると男たちは剣を抜いて、座っている女たちの周りに行って剣先をむけた。
「動いたら殺す。」
「ヒッ」
ガタガタガタガタ
女子供は剣を突き付けられて震え出す。男たちは下卑た笑いを浮かべながら見ていた。
「この村の男どもはあらかた殺した。おめえたちは自分達であの男どもの死体を建物に運ばされて、どういう気持ちだった?屈辱?恐怖?」
「そりゃあ親方、俺達の怖さに怖気づいて何もできなかったでしょうよ。」
「はははは!そりゃそうか!」
「この、くっ」
ドボ
女が身を起こして叫ぼうとしたが、胸のあたりをまたおもいきり踏みつけられて床に押し付けられる。
「ゴ、ゴホ、ゴホ」
苦しさに咳き込むが、足を胸に乗せられているため空気がうまく取り入れられずもがく。
男が足を上げる。
「ゴホ!はあはあはあはあ。」
空気を思いっきり吸い込んで男を睨みつける。
「いいねえ!その表情!でも恨むならこの国を怨め。既に騎士様もお偉い神父様もいねえ、いるのは腐った目をした神官様達だ!あいつらは俺達が何をしても何も言わねえ!この世界は俺達のような力の強い物が自由にできるようになったのよ!」
大柄な男が残虐な笑いを浮かべて女たちに喚き散らしている。
「親方!おりゃあもう我慢できねえぜ!」
「俺もだ!」
「もうヤっちゃいましょうよ。」
男たちは狂暴な目をギラギラさせて女子供達を睨んでいる。
「そうだな。せっかくこんな辺境まできたんだ。他の奴らも思う存分に楽しんでいる頃だろうよ!お前ら!好きにしていいぞ!」
男たちが一斉に女子供たちに襲い掛かり始めるのだった。
《シャーミリア。この男たちの気配、後何か所あるっつったっけ?》
俺はシャーミリアに念話で聞く。
《2ヵ所です。》
《シャーミリアはその一つに、マキーナはもう一つに行って、この野獣たちを殲滅して来い。》
《《は!》》
スッ
シャーミリアとマキーナは俺のそばから消えた。俺はおもむろに礼拝堂を降りて普通にドアから入っていく。
ギイ
「うへへへへへへ!」
「きゃぁぁぁぁぁ」
ビリビリビリ
「おいおい!どこ行くんだ!」
「やめてぇぇぇぇ」
バシ!
「痛い目見たくなかったらおとなしくしろ!」
「だめぇぇ!」
「おい!お前!自分で服脱いでみろよ。」
ガタガタ
震えながら服を脱ぎ始める女。
あれ?こいつら俺が入ってきたことに気が付いていないのか?自分たちの世界に入って楽しんじゃってるようだ。
「あのー!」
俺は大きな声で叫ぶ。
「おわぁぁ!」
「なんだ!」
「どこから来た!」
「なんだ!おめえ!」
男たちが女たちを犯しかけていた手を止めて俺に振り向いた。
「お取込み中すみませんが、俺はこの村にやって来た商人様の従者でして。皆さんはいったい何をされているのですか?」
何事も無いように冷静な口調で聞く。
「はぁ?」
「ふざけてんのか?」
「見りゃわかんだろ?」
男たちはズボンを下げたり、女の下着を持ったりしたまま間抜けに俺に言って来る。
「いやあ。なんかその女の人たち嫌がってません?」
「た、たすけ!」
ドゴッ
気の強そうな女が叫ぼうとするが男に蹴られる。
「女を足蹴にしますか…」
ちょっとイラっとすんだけど…まあいい。
「ああ、だからどうした小僧。見たところおめえ一人しかいねえようだが、それでどうするつもりなんだよ。」
「どう?さあてね。オジサンたちはどうしてほしいですか?」
「ふははなんだそりゃ!俺がおすすめするのは見て見ぬふりして出て行く事だな。」
そうか…どうせ追いかけて殺すくせにな…
「ああ、なるほど!じゃあ見逃してあげますから出て行ってください。」
俺はものすごくこ馬鹿にしたような声で言う。
「はあ?お前はアホか?出て行くのはお前だろうが!」
男はギラリとした凶悪な表情で俺を恫喝する。
「いや、俺はちょっと困っててね。それでこの村に寄ったんだけど面白い場面に出くわしたなと思ってさ。」
俺はもっと小馬鹿にしたような声で言う。
「くそ!小僧こ馬鹿にしてんのか!」
「小馬鹿じゃなくて、バカにしてんだよ。」
「死んだぞてめえ!お前ら!やっちまえ!」
あーやっぱやっちまえ!って言うんだ。テンプレなセリフだねぇ。
悪そうなやつらが手に得物を持っておれに飛びかかってくるのだった。




