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第402話 魔剣の性能

ゼダとリズの兄妹はどこか雰囲気が変わったようだ。救助したばかりの頃は自国の民の惨劇を目の前にしていたので、精神状況がかなりギリギリだったが、アナミスに暗示をかけてもらい何とか乗り切った。ところが今はすっかり元気になって、げっそりしていた体にも精気が漲っているようだ。


「ラウル様!来ていたのですね。」


ゼダが笑顔で挨拶してくる。


「ああ、ゼダとリズも元気になったみたいで良かったよ。」


「ご心配なく。ラウル様と魔人達のおかげで、見ての通りですよ。」


ゼダは物凄い好印象。頬もふっくらして性格の良さがにじみ出ている。


「あの、ラウル様!あの丘の慰霊碑をありがとうございました。」


死んでいったリュート国の民の為に立てた慰霊碑の事だ。どうやらリズもいい感じに回復したようで、にこやかに俺に礼を言っている。


「いや当然のことだよ。無実の民を殺された気持ちは、俺も痛いほど分かる。もう少し戦況が落ち着いたら、立派な聖職者を連れてきて祈りを捧げてもらうつもりだよ。」


「本当に何と言っていいのやら。」


「ゼダ。俺は魔人国の王子としてリュート王国の皇太子への気持ちを示しただけだよ。世界を再建して国交が正常化した暁には、ぜひ仲良くしてくれると嬉しい。」


「仲良くなどと、私のような小国の王子とは身分が…。」


「恐らくうちの国の方が小さいって。王子同士仲よくしようぜ。」


「はい。」


そして俺はドランに目を向ける。スキンヘッドで目つきの鋭いインテリヤ〇ザっぽいが、体つきは筋肉隆々だった。ドランは俺の目線を感じておっかない顔で頷く。


「お二人の成長は著しいものです。」


「そうか。護身術くらいにはなるかな?」


「はい。」


ドランが言うのであればある程度の力をつけたのだろう。しかし戦闘ができるレベルでない事はドランに言われなくても分かる。


「ゼダ。王子同士手合わせを願おうかな。」


「えっ?ラウル様とですか?」


「ドラン。」


「は!」


「ゼダは何が得意なんだい?」


「我が教えたため槍が得意です。」


「ゼダに槍を。」


ドランが自分の持っていた槍をゼダに渡す。


「あ、あの。」


ゼダが焦りながらもドランからの槍を受け取る。しかしその慌てた姿とはうらはらに武道をやっているやつの構えができていた。


「いいね。」


俺はゼダの構えを見て褒める。


「ありがとうございます。」


「じゃやろうか。」


「えっと、ラウル様の得物は?」


「無手だ。」


「素手でございますか?」


「気にするな、本気で攻めこまないと怪我をするかもしれないよ。」


「わかりました。」


俺とゼダは皆から離れた位置に立ち向かい合う。


「ゼダの攻撃が開始の合図だ。」


「はい。」


ゼダが槍を構えて俺に向ける。うん、結構隙が無い。ドラン仕込みの槍術を見せてもらうとしよう。


シュッ


いきなり踏み込んできて俺の胴付近に槍をついて来る。


ピタ


「ん?どうしたゼダ?」


「どうしたとは?」


「寸止めじゃ実力が分からない。」


「それではラウル様がお怪我をなさいます。」


「それはゼダの実力が俺と対等ならな。怪我をさせるつもりでかかってきていいよ。」


「わかりました。」


また一歩引いてスッと槍を構える。


シャッ


短く息を吐いてゼダが槍をつきだしてくる。


シュシュシュ


一瞬の間に3回の突きがきた。顔と胸そして喉にめがけて繰り出された槍を、俺は身のこなしだけでいなす。


俺は常にシャーミリアを相手に戦闘訓練をしている。彼女の攻撃は力をセーブをしていても、恐ろしいほどのスピードと破壊力を持っていた。あの攻撃に比べればゆっくりと差し出されているように感じる。つかみ取って武器を奪い返す事も出来るだろうが、ゼダのプライドを傷つけないように俺はただ避け続けるだけだった。


それから30分ほど俺を攻撃し続けるゼダ。


「凄い物だな。よくこんなに攻撃し続けられるものだ。」


「当たりません!」


汗をかきながら楽しそうに笑ってゼダが言う。楽しめるようなら大したもんだと思う。


「ゼダはどうだ?カーライル!」


俺がカーライルに聞く。


「いい身のこなしです。鍛錬を積めば強い騎士にもなれましょう。」


「そうか。」


俺はゼダの攻撃を避けながらカーライルと話していた。


ピタ


ゼダの突きが止まる。


「ふうふうふうふう、はあはあはあはあ。」


「息が切れたか。」


「ふうふう、はい…。」


「このくらいにしておこう。」


ゼダは槍をドランに返す。


「ゼダとリズはここで見ててくれ。」


「何をです?」


「本物の騎士の修練というものを。さらには魔道具を使った戦いを。」


「はい。」

「わかりました。」


そして俺は傍らに立っているカーライルとオンジに目配せをする。


「選んだ魔剣と武具を試してもらおうと思います。」


「わかりました。」

「はい。」


「カーライルの相手は俺の魔導鎧で良いですか?」


「はい。」


《ヴァルキリー、カーライルとの組手を見せてくれ。俺が指示を出した時に瞬時に動けるようにしておけ。》


《はい我が主。》



カーライルとヴァルキリーがみんなの前に歩いて止まる。


「カーライル。その鎧、滅多に壊れないので本気でやっていいですよ。」


「はは、いつも本気でやってますよ。」


「それならよかった。」


向かい合うカーライルとヴァルキリーに向かって俺が声をかける。


「はじめ!」


シュ


おお!カーライルの踏み込みが凄い!


俺の隣では…


「消えた?」

「どこに?」


ゼダとリズは、既にカーライルの動きが追えていないようだった。


ガン!


ヴァルキリーがカーライルの居合のような袈裟斬りを、右の籠手で払いのけたようだ。しかしこともあろうに、カーライルはそのままその場で前方宙返りをするようにくるりと回り、また同じ角度から同じ刃が降ってくる。


ガギ!


ヴァルキリーは右の籠手は払いのけられて下がっているので、左の手のひらでカーライルの神速の斬りを押してさける。しかしカーライルの攻撃はそれに終わらず、地面ギリギリにヴァルキリーの股を潜り抜け尻の部分に突きを入れる。


ブォ


ヴァルキリーは凄いスピードで前方に走りその突きを避ける。しかしその足にカーライルが自分の足をひっかけ、そのままヴァルキリーの走る方向に引きずられるように出る。カーライルの剣は尻ではなくヴァルキリーの腰のあたりに斜めに入り上にそれて行く。


恐らく今の攻撃で人間なら致命傷を受けている。


カーライルは足を振りほどき地面に手を付けて体を跳ねるように起こし、ヴァルキリーの後方から右腕の肩のあたりに剣を振り下ろす。カーライルが一瞬、剣に集中したように見えた。


バキン


パリパリパリパリ


何とカーライルが斬ったヴァルキリーの肩から腕の先にかけて一瞬で凍り付いた。


「おお!」

「なんと!」


俺とオンジが同時に声を上げる。カーライルが魔剣の力を使ったのだった。そのおかげでヴァルキリーの腕が完全に胴体に固定されてしまった。


《動かせるか?》


《どこかにぶつければ可能かと。》


《逃げてはずせ。》


《はい。》


バッとヴァルキリーがカーライルから距離をとり、地面に自分の右腕をたたきつける。


バリバリ


氷にひびが入る。


バグン


ヴァルキリーの腕が広げられ自由になった。と思ったその時だった、いつの間にか差し迫っていたカーライルがヴァルキリーの足めがけて剣を振り下ろしていた。立ち上がろうとするヴァルキリーの足が、氷で地面に固定された。


ググッ


動けなくなってしまったところに、もう一太刀カーライルの剣が振り下ろされた。


パリパリパリ


ヴァルキリーの頭部が地面に固定されてしまう。


「そこまで!」


俺が組手を止めた。


カーライルが剣を収めて礼をする。


「凄い!」


「そのようですね。相手が人間であれば即死でしょう。」


「だな。」


俺は魔導研究所特製の炎手榴弾をポケットから取り出して、ヴァルキリーのほど近い場所で、直接は被害が及ばない場所へと放り投げた。


ボゥッ


「え!」

「なんと!」

「魔法?」


ゼダとオンジとリズが驚いている。


「ラウル様は魔法が使えたのですかな?」


オンジが言う。


「いや違うよ。これはうちのメイドと婆さんが作った武器さ。」


「武器…。」


「そう。武器。」


トロトロトロ


バキン


炎の熱で氷が解けてきたヴァルキリーは、氷を破壊して自力で立ち上がった。


《面白い物ですね。》


《氷魔法だよ。そうかヴァルキリーは魔法をくらうのは初めてなんだね?》


《はい。あのような攻撃があるのであれば気をつけねばなりません。》


《油断大敵だ。》


《覚えておきます。》


そして俺はカーライルの所に行く。


「魔剣はどうかな?」


「実に面白い。」


「そう言うと思ったよ。」


「ふふっ。」


「その剣はあげるから自分の物にしてみてほしい。」


「ありがとうございます。」


皆がその魔剣の力に驚いている所、俺は次の組み合わせを指示する。


「ではオンジさん。やってみますか?」


「私の相手は?」


「ファントムです。」


「はい。」


「お前は寸止めだ!絶対に当てるなよ。」


「‥‥‥。」


ファントムはどこか遠くを見ながら佇んでいる。聞いてるんだか聞いていないんだか分からないが、俺の命令に背いた事は一度もないので大丈夫だ。もしファントムが本気なんか出したら、ここにいる全員でかかっても数秒で死ぬ。


「オンジさん、本当に殺す気でかかって大丈夫ですよ。」


「わ、わかりました。」


オンジとファントムが向かい合う。


「はじめ!」


カーライルとは違いオンジは相手の動きを見極めるようにじっと見つめる。ファントムはそれに対して動く事はない、オンジが行ったら寸止め攻撃をするはずだ。


「はぁっ!」


オンジはスッと詰め寄り、上段から一直線に剣を振り下ろした。人間の一般兵ならあっというまに両断されてしまうだろう。しかしバルギウスの大隊長クラスなら…恐らくは返り討ちだ。オンジの今の攻撃で力量は大体わかった。


《ファントム。当てないように攻撃のラッシュだ。》


シュッ


ブン

ブン

ブン


シュッシュッ


オンジがその攻撃を避けると、ファントムの空振りした拳が地面に落ちる。


ドゴォ

ドゴォ


地面に巨大なクレーターができる。


既にゼダもリズも言葉が無い。


あんな攻撃を受けたら骨も残りそうにないからだ。二人は青い顔をしてその組手を見ていた。おそらくカーライルの組手の時は何が起きたのか分からかったはずだ。しかしこの組手は二人にも目で追えているようだ。


もちろん、ファントムの本気なんて絶対目で追えないけど。


「はっ!」


カツン


オンジさんが刀を地面に突き立てると、そこに岩でできた壁が作られたのだった。


ファントムはお構いなしにその壁に拳を叩きこむ。


ドゴォ


パラパラパラ


岩の壁は跡形もなく飛び散るが、既にオンジさんの姿はそこには無かった。どうやら岩の防護壁を作って逃げる時間を作ったようだ。


「ほっ!」


ボッ

ボッ

ボッ


オンジさんが距離をとって刀を振ると、刀の先から石のつぶてがファントムに向かって飛んでいく。


ファントムが手のひらを前に出して、その石つぶてを受け止めた。


その瞬間にオンジさんが一気に距離を詰める。次に攻撃したのはファントムではなくファントムの足元だった。


カツン


ボッ


ファントムの足元から石壁が出現して、ファントムの足を持ち上げた。もちろんファントムはこのくらいじゃ体幹は揺らがない。足を後ろにずらしてその岩壁を蹴っ飛ばした。


バゴーン


パラパラパラ


岩壁は砕け散って跡形もなくなる。


しかしオンジさんは既に距離をとって石のつぶてを放っていた。ファントムが本気を出していないとはいえ、ある程度翻弄する事くらいはできているようだ。さすが虹蛇の守護を生業としてきた一族の末裔だ。これならバルギウス大隊長クラス相手でも逃げる時間くらいは稼げるだろう。


「そこまで!」


オンジさんは俺に一礼をした。


「ラウル様!これは素晴らしい物ですな。」


「オンジさんに差し上げますので、ぜひ自分の物にしてみてください。」


「やってみましょう。」


そして魔剣の試し切りを終えた二人は剣を収め、俺のところに集まる。


「じゃあ、ゼダ、リズ。今夜、俺達は作戦のためにファートリアに潜入する。君たちは引き続きドランに師事し、民を守る力を身に着けるよう精進してほしい。」


俺が二人に告げる。


「あの!ラウル様!」


「なんだいゼダ。」


「我々も連れて行ってはもらえませんか?」


ゼダが言う。その場にいるみんなが微妙な視線をゼダに向けた。もちろんゼダには今回の作戦に参加して生き延びる力がないからだ。


「それは出来ない。」


「私は少しでも早くリュートに、リュート王国へと帰りたいのです。」


「そもそも今回の作戦は敵地調査だ。リュートにはいかない。」


「途中まででもいいのです!連れて行ってください!」


うーむ。困ったな気持ちは痛いほど分かるけど、恐らく死ぬ可能性が高い。そんなところへ連れていく訳にはいかなかった。


「あの、お兄様の願いをかなえてはもらえないでしょうか?」


「リズ…。」


「国民がひとりでも生きているのか、祖国がどうなっているのか知りたいのです!」


熱い。熱い兄弟だ…


でも。


「リズ。それはダメだ。俺は二人を失いたくない。そもそも俺はカーライルとオンジさんですら連れて行くのを迷ったんだ。」


「えっ…。」


「彼らが魔剣を使いこなせなければ連れて行かないつもりだった。しかし彼らは俺の想像以上に魔剣を使いこなして見せた。自分たちの体を自分で守れることを証明してみせた。」


「‥‥。」

「‥‥。」


二人は黙ってしまった。


「彼ら並になれとは言わないが、彼らでも死ぬ可能性がある所に行くんだ。だから今回は我慢をしてくれ。」


「は‥‥はい…。」


ゼダが歯切れ悪く言う。


「俺は必ず敵を倒して、ファートリアもリュートも取り戻すつもりだ。だからそれまではしばらくここで力を蓄えてほしい。」


「わ、わかりました!絶対に!約束してください!」


「約束だ。」


「そして僕がもし力をつけたら、その時は連れて行ってください!」


「わかった。彼ら並の力を持った時考えよう。」


俺はゼダに手を差し伸べる。


「はい!」


ゼダは俺の手を取って、かたく握手をする。


俺は王子同士の約束を結ぶのだった。

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[一言] 新年あけましておめでとうございます、今年も楽しく読ませていただきます ラウル君とゼダさんの手合わせ 戦闘ができるレベルではない…とは言いつつも、それでもどの程度の腕か確認したかったという…
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