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第400話 大切な人たち

ファートリア西部ラインのギレザムから報告が入った。


一番南に位置する二カルス大森林に近い拠点で、魔獣を操っている一個小隊をゴーグが捕らえたらしい。しかも俺の指示通りに生きたまま確保し、投獄用の施設に閉じ込めたようだった。


《よくやってくれた。ゴーグもそんな器用な真似ができるようになったんだな。》


《あいつも成長しているのでしょう。》


《そのようだな。では次の作戦に移るぞ。》


《は!》


ギレザムとの念話を切って、俺はペンタの頭の上で一緒に座るミーシャに言う。


「どうやら敵が動いたようだ。」


「そうなのですね。」


「今度の作戦ではミーシャたちが作った兵器や薬が役に立つと思うよ。」


「そうだといいのですが。」


ミーシャが心配そうに俺を見つめる。


「ペンタ!また来るよ!俺達を戻してくれ。」


クルゥゥゥゥゥゥ・・・


「とにかく早く終わらせて来るから!」


クルゥゥゥゥゥ…


どうやらペンタは俺との別れがつらいようだった。


「ペンタはみんなのために魚いっぱい獲ってやってくれ。ここのみんなはお前がとってくる魚が楽しみなんだよ。俺からの頼みだ!」


キュィキュィキュィ


ペンタはしぶしぶ頭を下ろし俺達を陸地へと届けてくれる。俺はペンタの頭を撫でて頬ずりをした。


「留守番を頼むぞ。」


キュゥゥゥゥゥゥッ


ペンタはくるりと振り向いて海に戻って行った。


「ミーシャ。じゃあちょっと急ぐよ。」


「はい。」


俺はミーシャをお姫様抱っこしてフォレスト邸へと疾走する。皆に挨拶をしてすぐに旅立たなければならないからだ。疾走する俺の腕の中で、頬を赤くしたミーシャが俺を見つめていた。


フォレスト邸につくと魔獣のいる家屋からセルマ熊とシロ、イチローニローサンローシローが覗いている。俺が走って来たのに気が付いたらしかった。


「セルマ!」


ガウゥゥゥゥ


俺はミーシャを下ろしてセルマ熊の所に行く。


「またしばらく会えない。母さんやミーシャたちを守ってくれ。」


ぐるぅ


すると俺がセルマ熊と話している声が聞こえたのか、本邸からイオナとミゼッタとアウロラ、マリアとモーリス先生、エミルとケイナが出て来た。アウロラが俺の元へと小さい体でちょこちょこと走ってきて抱きついた。


「うーんアウロラちゃーん。お兄ちゃんまたお仕事してくるからねー、いい子にしてるんですよー。」


俺が目じりを垂れさせてアウロラを抱っこする。


「お兄ちゃん!がんばってね!」


アウロラは金髪をキラキラと輝かせて、碧眼をくるりん!として可愛く言う。やっぱ俺の妹は世界一可愛いのかもしれない。


「ラウル様。いよいよですか?」


「ああ。マリア悪いがまた助けてくれ。」


「全力でお役に立ってみせましょう。」


マリアはキリリとした目で俺に微笑む。神の加護を受けたメイド姿の天才スナイパーは、俺の軍にはいなくてはならない存在だった。いざという時のスナイプの正確性で右に出る者はいない。


「母さんも元気でいてくださいね。」


「ええ、私はいつも元気よ。」


「ふふっ、セルマやシロたちをお願いします。」


「もちろんよ。」


イオナがセルマ熊たちを見て笑う。その先ではマリアがセルマに別れを告げるように頬ずりをしているのが見えた。


「セルマ、行ってきます。」


マリアが言うとセルマ熊が両方の腕でそっとマリアを包み込んでいた。


「ミゼッタ。先生に魔法の精度を上げてもらったようだね。」


俺はミゼッタに声をかける。しばらく見ないうちに、田舎娘から洗練されつつある可愛い女の子になっている。


「はい。」


「俺の召喚する兵器にはない火力の魔法だから、いつか必ず役に立つと思う。先生に教えてもらった訓練で数発撃てるようになるまで精進してくれ。」


「かしこまりました。」


同い年のミゼッタはもう昔のようには話さなかった。既にフォレスト家の使用人の一人としてわきまえた話し方をするようになっている。


ミゼッタの光子力ガトリング魔法は物凄い物だった。俺の装甲車両などあっというまに破壊してしまう。俺はカースドラゴン用の奥の手として彼女の魔法に期待しているのだった。残念ながら1回使用すると立てなくなってしまうため、今回モーリス先生から教えられた古代魔法の使い方を覚えて、何発も撃てるようになってほしいと願っている。


「あと母さんとミゼッタにはお願いがある。くれぐれもミーシャが無理をすることの無いように、ミゼッタは時々ミーシャを食べ歩きの息抜きでもさせてくれ。」


「わかったわ。」

「わかりました。」


「そう言えばミゼッタ、今回はゴーグがお手柄のようだよ。」


「そうなんですか!? 」


「俺が指示した難しい作戦を一人でやったらしい。」


「あの子が…。」


ミゼッタが感動したのか目に涙を溜めて喜んでいる。


いやいや、お前はゴーグのお母さんか。


「じゃあエミル。」


「ああ。」


「それじゃあみんな行って来るよ。」


「行ってらっしゃい。」

「お気をつけて。」

「ご無事で。」


「兄ちゃん…今度いつ帰ってくるの?」


アウロラが言う。


「うーん。」


うるうるした目で見られると弱い…。


「とにかく早く終わらせて帰ってくるから、アウロラは母さんの言う事をよく聞いていい子にしてるんだよ。」


「分かった…。」


アウロラは分かったと言いつつ俺の服の裾をぎゅっと握っている。


ううう、振りほどくのがつらい。


「ほらほら、お兄ちゃんが行きたくなくなっちゃうわよ。」


イオナがアウロラを抱き上げてくれた。


「ふぉっふぉっふぉ。ラウルはアウロラに弱いようじゃな。」


「そう言われると‥。」


「良いではないか!二人きりの兄妹なのじゃから仲が良くて何よりじゃ。」


モーリス先生が好々爺とした顔で言う。


「はい。」


さてと、またしばらくは会えないと思うが、戦争さえ終わればいつでも一緒に居れる。こんな戦争はさっさと終わらせて帰って来よう。


「では。」


俺はスッと振り向いてヘリの方に向かって歩く。モーリス先生とマリア、エミルとケイナ、そしてファントムが俺の後ろをついて来る。


チラッと振り向くとアウロラが手を振っていたので、俺は笑顔でアウロラに手を振るのだった。


ヘリに着くとバルムスの一番弟子のドワーフであるファブロが待っていた。外骨格の整備要員としてついて来ることになっている。


「もうお別れはよろしいので?」


「ああ挨拶をしてきた。」


「物資は全てヘリに積みこんであります。」


「ありがとう。外骨格は?」


「すぐにでも使えるようになっております。」


「オッケー。じゃ行こうか。」


「は!」


エミルとケイナが先に操縦席に乗っていた。俺達は後部ハッチから乗り込んでハッチを閉めた。


「エミル!いいぞ!」


「了解。」


ヒュンヒュンヒュンヒュン


CH53Eスーパースタリオンの巨大なローターが回り出す。


「私は飛ぶのは、はじめてなのです!」


ファブロが興奮気味に言う。


「それなら窓から外を眺めるといい。爽快だぞ。」


「ありがとうございます。」


ファブロが窓の方に行く。モーリス先生は既に窓から外を眺めてワクワクしているようだった。


「物資がぎっちり詰まっているから少し窮屈かな。」


「いえ。私は苦になりません。」


マリアが答える。


「ならいいんだ。」


そして俺は座席に座り、すぐに念話を繋ぐことにする。


《アナミス、ルピア聞こえるか?》


ユークリット王都にいる二人に話しかけた。


《聞こえております。》

《はい!はっきり!》


《ゴーグが餌を手に入れた。お前たち二人は西部ラインの最南端に位置する拠点へと飛べ。作戦は伝えていた通りだ。》


《かしこましました。要領は村人たちと同じように?》


《そうだ。》


《ではすぐに飛びます。》


《俺は最前線基地へと向かう。》


《かしこまりました。》

《わかりました。》


アナミスとルピアをゴーグの拠点へと派遣する。


《ギル。》


《は!》


俺はファートリア西部の中ごろにいるギレザムへと念話を繋げた。


《これから前線基地へと飛ぶ。恐らく夕方にはつくだろう。》


《はい。》


《お前がいる拠点とガザムの拠点にも敵が来る可能性がある。もし来た時は同じようにできるか?》


《もちろんです。》


《わかった。ただ俺の予想ではすぐには来ないと思われる。》


《はい。》


《待機だけはしていてくれ。》


《かしこまりました。》


そしてギレザムとの念話を切った。


ヘリはファートリアの最前線基地へと向けて飛ぶ。ファブロが物凄く嬉しそうにあっちこちを見ていた。と言うか外を見ているかと思ったら、ヘリの中をあれこれ見ているようだった。やっぱり機械に興味があるらしい。むしろモーリス先生のほうが外を見てはしゃいでいる。


「マリア。そろそろ昼時間だ。」


「かしこまりました。」


マリアが箱から昼食を取り出してみんなに配り始めた。


「おお!すまんのう!」


「私もですか!ありがとうございます。」


モーリス先生とファブロがサンドウィッチを受け取って頬張る。マリアは前に座っているケイナにもサンドウィッチを持っていった。受け取ったケイナはエミルにアーんして食べさせていた。俺は勝手に自分で取り出してパクつく。


俺はマリアに言っているのだった。出来ればお客さんや配下を優先にしてくれと、それをきちんと実践してくれているらしい。



それから数時間後、俺達はファートリア前線基地へと到着した。前線基地はさらに広がっており、城壁なども堅牢になっているようだった。


「ラウル様!」


着陸したヘリのハッチが開くとすぐに現れたのは、カトリーヌだった。


「お待たせ。」


「お待ちしておりました。」


そしてカトリーヌの後ろからルフラがやって来た。


「ルフラもカトリーヌを守ってくれてありがとう。」


「戦闘をしているわけではありませんから。」


「そうか。それで…。」


俺がある人物を探して周りを見渡す。


「ご主人様。私奴はここに。」


いつの間にかシャーミリアは俺の背後に跪いていた。


「ミリア。彼は?」


「はい。あの者はヴァルキリーと戦闘訓練を行っております。」


俺が彼と言ったのはカーライルの事だった。相変わらず訓練を行っているらしい…あいつは修行以外にすることはないんだろうか?


「カララも一緒だな。」


「はい。ご主人様に言われたとおり、あのバカ者が大けがをしないように、カララが補助をしております。」


「それでいいんだよ。」


そう。俺はカーライルが訓練で万が一、死んでしまわないようにカララを補助としてつけていたのだった。死と隣り合わせの訓練をしがちな人なので大袈裟な話ではない。


「ミリアは彼に少しは慣れたかい?」


「ご主人様!とんでもございません!気色の悪い事でございます。」


あーあ、やっぱシャーミリアはカーライルが嫌いなんだな。出来れば戦闘で連携がきちんととれるように慣れてほしいんだけど。仲良くなれとは言わないから。


「ご主人様。長旅でお疲れではないでしょうか?」


「いや大丈夫だ。」


「カトリーヌ様が首を長くして待っておられたようですが。」


‥‥そうか、シャーミリアは俺じゃなくてカトリーヌに気を使っているのか。俺はその気遣いに気が付かなかった。シャーミリアはいつの間にやら、俺の側近として気遣いまでしてくれるようになったらしい。


「そうだな…。」


「はい。」


シャーミリアの視線の前にはカトリーヌがいた。


「カトリーヌ!俺はちょっと休憩でもしようと思う。一緒にお茶でもどうかな?」


「は、はい!」


カトリーヌは俺のそばにやってきて寄り添うように立つ。


《カティはルゼミア王が認めた正妻候補なんだよな…。ちゃんと気を使ってやらないとだめか。》


「ラウル。」


向こうからオージェが走り寄ってくる。


「オージェ!」


「お疲れ様。」


「オージェには後でいろいろと状況を聞かせてほしい。あとグレースは?」


「聞いて驚くな。グレースは剣の訓練をしているよ。」


「うそ!グレースが?」


「戦闘で足を引っ張らないようにしたいんだそうだ。」


「相手は?」


「オンジさんとトライトンだ。」


「また豪華な先生だな。」


「まったくだ。」


「じゃあオージェまた後で!シャーミリア行くぞ!」


俺が言う。


「いえ、私奴とルフラは所用が御座いますので、どうかカトリーヌ様とご一緒に。」


「あ、ああ。わかった。」


シャーミリアはいつも俺にべったりだったから、こう言われる事は予想していなかった。


「ウスノロ!お前もこっちに来るんだよ。」


シャーミリアはファントムまで連れて行ってしまう。


「めずらしいな。では先生もご一緒に。」


「ふむ。わしゃーちょっと基地内を見回る事にするぞい。」


「そうですか…わかりました。」


「じゃあ俺達はオージェとグレースの訓練を見にいくよ。」


エミルが言う。


「そうか。」


なんかいつも一緒に居るやつらが俺の元から離れるのが新鮮だ。とりあえず俺はカトリーヌとマリアを連れて司令塔へと歩いて行くのだった。


司令塔に着くとマリアが言う。


「それでは私はお茶のご用意をします。お二人はお部屋でおくつろぎになっていてください。」


俺とカトリーヌは応接室で二人きりになった。


「カティ。疲れてないかい?」


「私は少しも!ラウル様のお顔を見て元気になりましたわ。」


「ここは慣れたかい?」


「みな優しくてすごしやすいです。」


「そうか。今度の作戦にもカティは必要不可欠なんだ。危険なところに行くと思うけど、とにかく十分に気を付けてほしい。俺のそばから離れないように。」


「ラウル様のお側ならばどこへでも。」


「よろしくな。」


「はい。」


コンコン


「失礼します。」


俺達が話をしていると、マリアがお茶と菓子を運んできてくれた。


「ありがとう。」


「いえ。それではごゆっくり。」


「ん?」


マリアはお菓子とお茶を置いて早々に出て行ってしまった。俺はカトリーヌと二人きりになってしまう。


《えっと…あと何を話したらいい?わ、話題が無いんだが。》


なぜか皆が俺達を二人にさせて居なくなってしまった。


隣では美しいカトリーヌが静かにお茶を飲んでいる。


俺が何をしていいか分からなくなって黙ってテンパっていると、カトリーヌが俺の手を握って言う。


「ラウル様。ただ…ただ黙ってここに居てくださればいいのです。」


「は、はい!」


カトリーヌが俺の手を握るが…て、手汗が手汗が。


俺は訳の分からない事を気にしているのだった。

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[一言] ギレザムからの報告 《よくやってくれた。ゴーグもそんな器用な真似ができるようになったんだな。》 《あいつも成長しているのでしょう。》 …う~ん…狙ってやったようにも見えるし、偶然そうなっ…
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