第399話 ミーシャとデート
俺がグラドラムに来てから7日が過ぎた。
バルムス達はユークリットで回収して来た魔道具の原理を掴みかけていた。その技術をヴァルキリー用の補助兵装にふんだんに取り入れて、魔力の伝達効率上昇と防御力向上を実現させたらしい。俺はその仮魔導鎧を着て紋章が刻まれた外殻を取り付けていた。
「ラウル様。その肩の部分に20mmバルカンを召喚して武装する事が可能です。」
バルムスに言われて俺は早速M61バルカンを召喚する。
「取り付けはファントムに手伝わせてください。」
バルムスの部下ドワーフに言われ、そのままファントムに指示をする。
ガパン
ガシャ
肩にバルカンを取り付けてドワーフ達が固定部分のナットを絞めて行く。背中には電源と弾倉バックパックが取り付けられた。
「結構重量があるな。」
ヴァルキリーでは感じない重量を感じる。ある程度は仮の魔導鎧と補助兵装が重量を支えてくれているらしいが、この鎧ではM61バルカンは重いようだ。
「その状態でも魔力補助されているのですが、本物の魔導鎧とは違いますので、本物で試していただければ軽くなるはずです。」
バルムスが言う。
「なるほどね。手には普通に武器を持てるんだな。」
「はい。ですがその手の部分も本物の魔導鎧とは違い、あまり細かい作業ができないはずです。」
バルムスの部下が言うのであれこれ動かしてみるが、確かにヴァルキリーより動きがぎこちない。
「調整のため本来は我が同行したいのですが、この兵装は施設の充実したこの研究所でしか作れません。2号機を作るために我は残ります。」
バルムスが言う。
「現地での調整はどうしたらいいんだ?」
「このファブロを連れて行ってください。」
バルムスと一緒に説明をしていたドワーフが礼をする。やはりずんぐりむっくりしていて髭が生えているが、バルムスよりも若いようだ。
「わかった。ファブロよろしくな。」
「身に余る光栄です。」
「あてにしているよ。」
「現地で使用感などをファブロに伝えてください。実戦で使用した情報を、こちらに戻していただければ我が二号機に反映させます。」
「わかった。」
なんか俺専用のメカニックがつくらしい。めっちゃ胸が躍る。
「あとその左腕の上には盾か兵装が付けられます。」
ファブロが言う。
「こっちか。」
左腕を上げてみる。
「本物の魔導鎧であれば盾はいらないかと思います。ですので別の兵装をおすすめしますが。」
「なら、火炎放射器かミサイルだろうな。」
「分かりました。現地で本物の魔導鎧と合わせながら調整いたしましょう。」
「前に例の膨張剤を利用した噴射でかなり高い所まで上がったけど、温度が低くても問題ないかな?」
「もちろん問題はございません。ラウル様の召喚する兵器のように、ガソリンや軽油と呼ばれる燃料を動力にしておりません。基本はラウル様の魔力と魔石、そしてデイジーたちが作ったこの膨張薬剤による噴射ですから。」
「そうか。なら爆発する恐れもないって事かな?」
「ありません。」
「しかし本物の魔導鎧はヘリでも浮かなかったのに、なんでこの膨張薬剤だと飛ぶんだろうな?」
俺は素朴な疑問をデイジーに尋ねる。
「あたしもよくわからないんだがね。あの膨張薬剤はエリクサーと工程が似ておるのじゃ。要は召喚魔法の原理を用いて副産物のように出来上がった物なのじゃよ。なにかそのあたりが関係しているようにも思えるがの。」
デイジーが言う。
「そうなんですね。よくそんなものを見つけましたね。」
「あたしとミーシャがいたずらをしとったら、たまたま発見したのがきっかけじゃった。」
「いたずらを。」
「まあ、研究なぞそんなもんじゃよ。」
「そうなんですね…。」
「すみません。ラウル様、私も遊んでいるわけではないのですが、いろんな物に興味があるといいますか‥。」
「良いんだミーシャ。まったくもって問題ない。とにかく自由にやってくれていいんだ。」
「はい。」
俺達が話をしているところに、ニスラがやってきた。
「ラウル様!薬品と弾薬をヘリに積み終わりました。」
「ありがとうニスラ。あと研究所もだいぶ仕上がって来たみたいだね。」
「はい。ラウル様のお師様が施してくださった防御結界のおかげで、かなり堅牢になっております。」
「鍵を持っているのは、バルムスとデイジーさんとミーシャだけと言う事だね?」
「はい。」
「3人の護衛も完璧かな? 」
「はい、精鋭を取り揃えて、それぞれに10名ほど専任護衛がおります。」
「ならいい。」
俺が言う。
「いや、ラウル様!我に護衛など。」
「ダメだ。バルムスもある程度の強さがあるとはいえ、対デモン戦も経験した事ないんだし、万が一があったら俺が困るんだよ。」
「わ、わかりました。謹んでお受けいたします。」
「頼む。」
「では魔導鎧もヘリに運びましょう。」
ニスラが言う。
「では。」
ファブロが外殻の胸の下あたりから手を突っ込んで着脱レバーを引く。
ガシャ
プシュー
なにかが抜けたような音がして外骨格が周りに落ちるように広がる。緊急時は出やすくて助かるだろう。そして更に俺は仮の鎧を脱いだ。
「ふうっ。」
「重かったですか?」
「ああ、本物の魔導鎧とは違うようだ。」
「はい、根本的にあれとは違います。我々が作った物ですので…。」
「いつかあれと同等の物が作れるように期待しているよ。」
「は!」
ガシャガシャ
ファブロが肩に着いていたM61バルカンを外して、バラバラになった骨格をニスラ達が運び出していく。
「じゃあもらっていくよ。」
「存分に使ってください。破損させても問題ありません。」
「わかった。出来るだけ大事に使う。」
「はい。」
バルムスに笑顔で答えると嬉しそうに笑っている。
「じゃあ俺は一旦家に戻るよ。ミーシャも行こう。」
「えっと。」
「いいよミーシャ行っておいで。またしばらく会えなくなるんだ。」
「はい…デイジーさん。ありがとうございます。」
ミーシャはデイジーにぺこりと頭を下げる。
「じゃあデイジーさん、バルムス。またしばらくあけることになるけど、よろしく頼むよ。」
「気を付けてのう。」
「御武運を。」
「ああ。」
俺はデイジーとバルムスに挨拶をして研究所を出る。研究所の入り口までは何重にもゲートができており、侵入者を許さない構造となっていた。ミーシャが魔石を加工して作られたペンダントの鍵をかざしてゲートを開けて行く。
研究所に続く通気管の外側には、ダークエルフたちが小屋を建てており、変なものが侵入できないように徹底管理されているらしい。
ミーシャと二人で家に向かって街を歩いて行くと、出店からいい匂いがしてきた。
「ミーシャ家に行く前につまみ食いだ。」
俺はミーシャに声をかける。
「え!よろしいのですか?」
「まだお昼前だしいいって。」
「はい。」
俺はミーシャを連れて屋台に行く。魔人が営む屋台にはいろいろな食べ物があった。その中でも俺が気になったのは七輪のような物で海産物を焼いている店だった。
「あれがいい!」
「あ、はい。」
俺はミーシャを連れてその屋台へと行く。店には昼前なのでまだお客は来ていなかった。
「こ、これは!ラウル様!このような所へおいでくださいましてありがとうございます!」
店のゴブリンが出てきて俺に挨拶をしてきた。
「ああ、忙しい所悪いね。」
「いえいえ!是非食べて行ってください。」
「美味そうだ。」
七輪のような物で焼かれていたのは、カニやエビだった。熱々のカニやエビをテーブルに乗せてくれる。そしてそこに俺達が運び込んだ岩塩がふられ、香草のような物が振りかけられた。
「ミーシャも食べよう。」
「はい!」
ミーシャがその大きな目をキラキラさせてニコニコしている。
「あっつ!うま!」
「おいしいです!」
「ラウル様。この甲羅のみそにつけてお食べ下さい。」
「お!そうやって食うんだ。」
俺はゴブリンに言われたとおりに、蟹の肉を蟹味みそにつけて食ってみる。
「うんま!!!ミーシャも!」
「はい。」
ミーシャが蟹の肉をみそにつけて食べた。
「おいしい!」
「な!美味いよな。」
二人で顔を見合わせて笑う。
そしてゴブリンはエビを串に刺してくれた。
「どうぞ!」
「うほ!ぷりっぷり!」
軽く食べて勘定を払うためゴブリンを呼ぶ。
「これいくら?」
「は!ラウル様からお代金などいただけません!」
「いいっていいって。」
「いえ!ダメです!ここは私達の立場を考慮していただいて!何卒!」
「わ、わかった。じゃあごちそうさま!」
「ありがとうございました。」
ゴブリンが深々と礼をする。
いやいや…お礼を言うのは俺達の方だけど。
「美味かったな。」
「はい!」
「次は甘い物食いに行くぞ。」
「えっ?いいのですか?」
「ミーシャは甘いものは?」
「大好きです。」
「なら行こう。」
そして俺はミーシャを連れて、ミゼッタから聞いていた甘味処に行く。
「いい匂いする。」
「本当ですね。」
俺とミーシャはその甘い匂いのする方向へと歩いて行く。この店も屋台のような作りになっていた。
「ラウル様!」
店番の子供のダークエルフが言う。
「ああ、まだ準備中かな?」
「いえ!もう食べられます!」
スイーツの店をやっていたのは女のダークエルフ達だった。前掛けをしたり頭巾をかぶったりして、どことなくおしゃれな感じがする。
「おすすめは?」
「はい!ただいま!」
すると串にささった団子のような形の物が出て来た。揚げパンのような物が3個ほど串にささっているお菓子だった。
「はい!ミーシャ。」
「あ、ありがとうございます。」
俺は受け取った串を一本ミーシャに渡す。
パク
「うま!」
「おいしい。」
これは前世で言うところの、沖縄のサーターアンタギーのようなお菓子だ。表面には蜜のような物がかかっていて、どこかシナモンのような香りもする。
「これいくら?」
俺がダークエルフに聞く。
「い、いただけません!!そんな!私たちはラウル様の物です。ラウル様からお代金などいただくわけにはいかないのです!」
めっちゃ切実な感じに言われた。
「わ、分かった…。じゃあいただいて行くよ。」
「ありがとうございます。」
だから…お礼を言うのは俺達なんだけど。
「ミーシャ歩きながら食べよう。」
「はい。」
俺は串にささったサーターアンタギーのようなお菓子を食べながら、海岸方面へと向かう。
「喉乾いたな。」
「そうですね。」
「なにか飲み物。」
すると漁師の酒場のような店が見えて来た。
「あそこで何か飲みものをもらうとしよう。」
俺達が店に近づいて行くと、竜人の女が俺に気が付く。
「ら、ラウル様!!」
俺を見て驚いている。
「ああ、すまないね。酒を飲みに来たわけじゃないんだ。」
「で、では何か果実水を。」
「悪いね。」
「いえいえいえいえ!」
そして竜人の女たちは奥からいろんなコップに入った飲み物を運んでくる。
「え!こんなに?」
「はい!ぜひ試し飲みをしていただければと!」
「ありがとう。じゃあミーシャ!飲もう。」
「は、はい。すみません!ではいただきます。」
俺とミーシャは少しずつ飲みものを飲んでいく。ミックスジュースのような物や、りんごのような味のジュースなどがあった。
「美味い!」
「さわやかですね。」
俺達が感想を述べる。
「漁師のやつらが飲んだくれるでしょう。その後でさっぱりしたのくれ!って言うんですよ。それでいろんな果実水を作ってみたんです。」
「美味いな。これ屋台にしてもいけるよ。」
「や、屋台でございますか?」
「ああ。」
「すぐにそのように致します!」
「あそこのお菓子屋と組んで荷車で運んだら売れるぞこれ。」
「それではそのように!」
竜人の女たちはペコペコとしている。
「で、これはいくらかな? 」
「なにを!ラウル様からお代などいただけますか!」
同じ反応だった。ただ飯食ってるみたいで申し訳ない。
「わ、わかった。とにかくいろいろと試してみてくれ。」
「ありがとうございます。」
またお礼を言われた。
俺達はその店を後にして港へと向かった。漁師たちが俺に気が付いてお辞儀をしている。
港に着いたので俺は海にむかって叫んだ。
「ペンタ―!」
しばらくしてザッパアアアアアと水面からペンタが出て来た。出て来たけど…だいぶデカくなっている。いつの間にこんなに成長してしまったんだろう。
クォォォォォォォン
鳴き声もデカい。体の芯から震える。
「ペンタ!寂しい思いをさせたね。」
クルゥゥゥゥゥ
するとペンタが俺達の所に頭を下げてくる。顔もだいぶ厳つくなったみたいだ。
「ミーシャ!」
俺はミーシャの手を掴んでペンタの頭に乗る。するとペンタは鎌首を上げるように頭を持ち上げる。ドンドン持ち上がっていき相当な高さまでになった。
「たっか!」
前に乗った時よりずっと高い。どうやらペンタが成長したおかげで、ものすごく展望がよくなった。
「凄いです!綺麗!」
高い所から、グラドラムのカラフルな街並みの全容を見てミーシャが感動している。
「ミーシャはずっと洞窟の中で研究ばかりしてるって聞いたからさ。」
「はい…その通りです。」
「たまには外でのんびりなんていうのもいいだろ?」
「はい!」
俺がミーシャを連れ出したのには訳がある。
ミーシャはずっと洞窟の中で仕事をしているから、血色も悪くて顔も真っ白だった。若くて可愛い女の子が洞窟に閉じこもって、兵器や薬品の研究だけに没頭しているだけなんて良くない。俺が前線に戻ってしまう前に外に連れ出してあげたのだった。
《俺はミーシャには何もしてあげられてないからな。》
海風が俺達ふたりの髪を撫でて行く。
「早くこんな戦争終わらせるからね。」
「はい。皆で平和に暮らせる日々を待ち望んでおります。」
「ああ。とっとと終わらせる。」
「ラウル様。戦争が終わっても、ずっとラウル様に仕えられたらと思います。」
「もちろんだ。よろしくたのむ。」
「はい!」
ミーシャが今日一番の笑顔を見せてくれた。
「じゃあ俺からのお願いだ。」
「はい。」
「俺は前線に戻るけど、たまにはこうして息抜きをするように。イオナ母さんにも言ってあるから俺との約束を守ってくれ。」
「わ、わかりました。」
「約束な。」
「はい。」
ミーシャが頷く。
「そして自分の体を使って危険な実験をしない事。これも約束してくれるか?」
「わかりました。」
ミーシャが俺の目を見て言う。
「あとついでにデイジーさんとバルムスな。彼らが無茶しないように見張れるのはミーシャだけだからな、ちゃんと規定通りにするように厳しく頼むよ。」
「はい。見張ります!」
「頼む。」
ペンタの頭の上で俺達が話をしている時だった。
《ラウル様。》
ギレザムから念話連絡が入ったのだった。
いよいよ獲物が釣れたようだ。