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第398話 人間捕獲作戦 ~ゴーグ視点~

陽が昇り陽光が燦燦と降り注いでいる。大陸は魔人国やグラドラムと違って暑い、夜は涼しいのに日中はムシムシする。でもラウル様に聞いた南の砂漠というところはもっと暑いらしい。


ブーン


俺の目の前には蜂が飛んでいた。スッと羽を掴むと蜂はジタバタともがいている。俺は蜂に傷をつけないようにそっと放してやる。


ブーン


蜂は解放されてどこかに飛んでいく。


「遅いな。」


丘に居た人間のうちの一人が先にこちらに向かっているようだが、おそらくは斥候だろうと思う。その斥候ですらまだこのあたりに来てはいなかった。もうすでに太陽は真上に来ているというのに、あちこち警戒しながら歩いているからか全然進まない。


《あとどのくらい?》


《斥候までの距離は5000メードほどかと。本体はその後方30000メードあたりにいます。》


上空には夜から一緒に居るサキュバスと、応援に来たハルピュイアが飛んで敵の位置を把握していた。敵に見つからないように高度を取って常に太陽を背にして飛んでいる。


スンスン


俺は臭いを嗅ぐ。


既に敵の臭いを捕らえていた。どうやら敵にデモンは居ないらしく、30人全員が人間のようだが他の臭いもする。夜には気が付かなかったものが目視で見えている。


《やっぱりグレートボアだね。》


《はい。人間を乗せて3頭歩いて来ています。》


《わかった。引き続き監視をお願い。》


《はい。》


俺は草むらの同じ場所にじっと身を潜め、上空で監視している二人と念話で連絡を取り合っている。


《グレートボアを引き連れている人間なんているんだ。しかもあのグレートボアは鉄板のような物を巻き付けているけど、鎧のつもりかな?あいつら嫌じゃないのかな?》


ボアは嫌がる事も無く人間を乗せて歩いていた。


そうこうしているうちに斥候は、俺から200メード先辺りを通り過ぎて行く。俺が気配を消しているからか気づく様子もなかった。これじゃ斥候の意味がないじゃないか。


《あいつを頼む。》


《はい。》


サキュバスに斥候の精神支配をするように頼むと、俺は本体に向かって走り出す。


じゃ挨拶するか。


ガサッ


俺は草むらから踊り出て本体のやつらの前に姿を現した。


「おわ!」

「なんだ!」

「どこから!」


鎧を着た兵士たちが俺を見て驚いている。ただ姿を現しただけなのに…


「こんにちは。」


とりあえず挨拶してみる。


「なんだ、小僧!村人か?」


ボアにまたがった一人が大声で聞いて来る。


「別に村人ってわけじゃないけど、おじさん達は誰?」


「なんだ小僧!村人でなければなんだ?」


質問に答えない…、そうか!俺が名乗っていないからだ!


「あ、言うの忘れたね。俺はゴーグて言うんだ。」


「な、名前を聞いてるんじゃねえ!何者だと聞いているんだ!」


「ああ、そう言う事?分かりやすく言ってよ。」


「おめえ…馬鹿にしてやがるのか…。」


「してない。」


「死にたくなかったらそこをどけ。」


「うーん。退くわけにいかないんだよね。」


「殺せ!」


グレートボアの上に乗っているやつが、前を歩いているヤツに指示を出す。すると前にいた槍を持っているやつが俺に近づいて来た。そして俺に向けて槍を構えた。


おっそい。


そいつが俺に槍を突き出して来たので、体を横にずらしてその槍をやりすごした。


「なにそれ?」


こいつはきっと俺を殺す気は無さそうだった。こんなにノロノロ槍を突き出したって当たるわけない。脅しのつもりなんだろうな。


「てめえ!」


槍を突き出した兵が怒っている。


「何をやっている!ただの子供じゃないか!早く殺せ!邪魔だ!」


するとあと5人くらいが剣と槍を構えて前に出て来た。全員で俺に剣や槍を差し出すように突き出してくる。仕方がないので全部の武器を掴んで受け取ってやった。


「へっ?」

「あれ?」

「なんで?」

「ちょっと。」

「は?」


手から武器を取られた5人がキョトンとしている。


「いや、俺は武器はいらないんだけど。何で差し出すの?」


俺が全員の武器を握りしめて言う。


「お前!何しやがった!」


兵士の一人が大きい声で怒鳴る。


「うるさい馬鹿!何もしてないよ!お前たちがさし出すから受け取ったんだ!」


俺はそいつに怒鳴ってやった。


「ば、ばかって…。」


兵士は呆けた顔をしている。


「な、何をしている!早く殺せ!小僧ひとりに何を手間取っている!」


「「「「「は!」」」」」


20人の兵士がノロノロと俺のところに来て、さっきと同じようにゆっくりと剣や槍をさし出してくる。するとそれに合わせるように後にいた兵士たちが弓を放って来た。


しゅぱしゅぱしゅぱ!


俺は握っていた武器を放り投げて、全ての弓矢を空中で握りしめる。その間も相変わらず目の前の兵士たちが、俺に剣や槍をさし出してくるので面倒になって来た。走ってグレートボアの間をすり抜けて後ろにまわる。


「き、消えた!」

「消えたぞ!」

「物の怪じゃないのか?」

「どこだ?」


‥‥えっ?消えてないよ。走って抜けたじゃん。後ろだよ後ろ。


「あのー、おじさん達どこ見てんの?」


「なに!」

「うおっ!」

「いつの間に!」


いや、いつの間にって、今だよ今。


グレートボアの上に乗っていた数人が、何やらブツブツ言っていると思ったら、火の玉と氷の槍が俺に降り注いできた。なるほどこれはさっきの動きよりは早いようだ。俺は飛んでくる火と氷を躱しながら前に進む。


「魔法を避けた?」

「こいつは…。」

「お前は何なんだ?」


グレートボアの上に乗っていた一番偉そうなやつが俺に言う。


「えっと、おじさん達を捕まえに来たんだよ。」


「なに!お、お…」


「どうしたの?」


「全員警戒しろ!見た目に惑わされるな!こいつは子供じゃない!恐らくこいつは敵の大将格だ!」


「大将は俺じゃないよ。」


「全員集まれ!」


兵士たちは俺が奪って捨てた武器を拾って一か所に集まった。


「ふみつぶせ!」


グレートボアの背に乗った偉そうなやつが叫ぶと、ボアたちが俺に向かって突進して来た。


「美味そうだ。」


つい呟いてしまう。


最近、俺は狩りにも連れてってもらえない。狩りは全部ダークエルフやライカン達がやってくれるから、俺はいつもお留守番だった。


だからこいつらは俺が狩ってもいいよね?


俺は腰の後ろにぶら下げていた、ラウル様からもらったコンバットナイフを手に取った。自分の牙よりは脆いけど、凄く切れるし何より軽くて使いやすい。


通り過ぎて行ったボアが俺に振り向いてまた突進してくる。その間も俺には魔法と弓矢が降り注いで来た。それをかわしながら少し足をたわめて一匹のボアに向かって走り出す。


「よ!」


頭の下から潜り込んで、ボアの喉にコンバットナイフを突き立てて、一気に尻尾の方まで走り抜ける。


ジュッパァ


喉から尻尾まで一気に切り裂かれたボアは内臓をぶちまけながら走っていく。走り抜けたため俺には一滴の血もついていなかった。


「どこだ!」


ボアの背に乗った一人が叫んでいる。


だから…どこにも行ってないって。


「あそこです!」


兵士たちが振り向く。


「ちょこまかと!」


なんか知らないけど、敵はかなりうろたえているようだった。ただ本気で俺を殺そうとしている事だけは伝わった。


「おじさんたちさあ…。」


とりあえず俺はラウル様から言われたように、兵士たちを生きて投獄しなければならない。でもこいつらにどうやって言い聞かせたらいいのかよくわからない。


「隊長!待ってください!」


「どうした!」


「ぼ、ボアが!」


「どうした?」


さっき腹を掻っ捌いたボアがよろよろとし始めた。内臓が出ているので力がどんどん抜けてしまっているらしい。


「貴様!何をした?」


「いや…食べようと思って。内臓をそうやって出した方が血が回らなくていいんだ。」


「た、食べる?」


「そうだよ。おじさん達知らないの?ボアは美味いんだぞ。」


兵士たちは全員引き攣ったような顔で俺を見る。


「ば、バケモノだ!殺せ!早く殺せ!」


「撃て!」


一斉に魔法と弓矢が俺に向かって飛んでくる。俺はまた一頭のボアに向かって走り、顎の下から潜り込んで喉にコンバットナイフを突き立て、尻尾の方まで一気に駆け抜ける。


「消えたぞ!」


「探せ!」


いや…消えてるんじゃないけど。走り回っているだけだし。


「こっちだよ。」


「う!」


「や、殺れ!殺れぇぇぇぇぇ!」


おじさん達が金切声を上げて突進して来た。しかしノロマすぎてなんかおかしい…これで攻撃しているつもりなんだろうか?


俺はもう一頭のボアめがけて走り、さっきと同じく腹を掻っ捌いた。


「ボ、ボアが!」


「こ、こちらも!」


1頭のボアは既に息絶え這いつくばっている。のこり2頭は腹から臓物をぶら下げてふらふらとしていた。


「お、降りろ!」


全員がボアから飛び降りて、武器を構え始める。


「おじさん達さあ。そのボアの鉄板みたいなのは鎧のつもりなのかもしれないけど、腹までまかないと意味ないと思うんだけど。」


「殺れぇぇぇぇぇ!」


あ…聞いてないや。


ピィィィィィィ


すると、どこからかいきなり笛のような音が聞こえて来た。


なんだ?


「援軍が来たぞ!」


ピィィィィィ


目の前の兵士1人が同じように笛を吹いた。


兵士たちはいっせいに空を見上げる。すると三羽の翼竜に乗った兵士が丘の方から飛んでくるのだった。


《翼竜まで操ってんだな。》


「こっちだ!」


兵士が言うと、その翼竜に乗った兵士たちが俺に向けて魔法を放ってくる。


ゴウッ、バシュ!


その魔法を飛び避けているとハルピュイアから念話が入った。


《ゴーグ様?どういたしましょう?》


《面倒だし撃ち落として。》


《はい。》


太陽からいきなり出て来たハルピュイアに、翼竜に乗った兵士たちが驚いている。


「バケモノ!」


「どこから?」


「う、撃て!」


翼竜に乗った兵士たちがブツブツと何かを唱え始める前に、ハルピュイアはラウル様からもらった、えむ240という銃を翼竜たちに向かって乱射した。


ダダダダダダダダダダダダダダ


銃の乱射を受けた翼竜と兵士がその命を散らして上空から降ってくる。


ドサッ


ドサッ


ドサッ


「う、うわぁぁぁぁぁぁ」


地上にいる兵士たちが恐慌状態に陥って慌てふためいていた。


《人間は殺しちゃだめだよ。》


《申し訳ありません。そこまでの調整はできません。》


《まあ仕方ないけどさ。》


念話でそんなことを言いながら俺も面倒になって来た。こいつらは俺の言う事を聞いてくれそうにもなさそうだ…


《上空待機》


《はい。》


ハルピュイアはまた太陽の中に消えた。


「おじさん達!ちょっとは話を聞けよ!」


俺は叫ぶ。しかしおじさん達は慌てふためいて右往左往していた。やっと俺を見つけて魔法や弓やを撃ちこんでくるが狙いが定まっていない。


「小隊長!」


ひとりが叫ぶ。


「陣形を立て直す!」


偉そうなやつが声を出すと一気に動きがまとまる。


《あれ?今の声で人間たちの気が一気にまとまったぞ。》


「あの速さを捉えられん!方円の陣を取れ!どの方向から攻撃が来ても陣形を崩すな!」


「「「「「は!」」」」」


小隊長と言う事はあいつがこいつらのボスか。人間達が丸くなって固まった。


うーん。いいこと思いついた!


俺は瞬間的に草むらへと身を隠した。


「また…消えた。」


「小僧!出てこい!」


おっさんたちが何やら叫んでいる。


だったら望みどおりに出て行ってやろう。


ガ・ガァァァァァァア!!!


俺は大きく吠えて一気に狼形態へと変化し、草むらから兵士たちの前へ踊り出た。


「ぎゃぁぁぁぁぁぁ!」

「ば、バケモノぉぉぉ!」

「た、隊長!!」


「うろたえるな!構えろ!」


「はい!」


「どこに居た?あんなバカでかい狼!」


「隊長あれは、シルバーウルフなどではありません!」


「ではなんだというのだ!」


「お、恐れながら!古代の文献にあるフェンリルではないかと!」


魔法を使う兵隊が叫んでいる。


えー、俺はライカンとオーガの子なんだけどな。


「そ、そんな。御伽噺じゃあるまいし!」


「し、しかし!あのような巨大な狼がいるわけがありません!」


「まさか…。」


なんか知らないけどあいつらの攻撃が止まった。これで俺の言う事聞いてくれるかな?


「ま、的が大きい分だけさっきの小僧とは違うぞ!魔法と弓を構えろ!」


えーっ!まだやんの?


バシュバシュバシュ


シャシャシャ


魔法と弓矢が飛んでくるが、俺は避ける事をしなかった。魔法や槍は毛皮に当たって飛び散る。さっきまでの攻撃を見ていて、俺の毛皮を通さないのは分かっている。


「き、効きません!」


「ば、バケモノぉぉぉぉ!」


半狂乱になった小隊長とか呼ばれたヤツが突進して来た。目の前に来て剣を突き出してくる。さっきまでの奴らと違って、ある程度の速さはあるようだった。繰り出される剣を避けずに口でくわえてかみ砕いた。


バリン!


「け、剣が‥‥。」


プッ


バリバリと噛んだ剣を吐き出して、俺は目の前の小隊長をはぐっと噛んで持ち上げる。


「放せ!はなせぇぇぇぇぇ!」


ブン


と顔を振って小隊長を仲間の元に放り投げてやる。


あーめんどくさい!


ガァオァァァァッァァァァァ!!!!!


思いっきり叫んでしまった。


「ヒッ!」

「うわぁ!」

「わあああああああ」

「に、にげろおおおおお!」


小隊長と兵隊は脱兎のごとく逃げ出した。どうやらやっと諦めたのかも。でも逃げられるとちょっと困るんだよな。


そして俺は人間達が逃げる方向を誘導するように追い立てる。


まるで放牧された羊を追う牧羊犬ように。ゴーグにはそんなこと知る由もなかったが。


あっちに行ったりこっちに行ったりする人間を追っているうちに、投獄用の建物が見えて来た。


「隊長!あ、あそこに建物があります!」


「に、逃げろ!」


建物を見つけた兵達は、自分達から牢屋へと向かって走り出す。そして建物にたどり着くと自分で扉を開いて中に入っていくのだった。


《手間が省けちゃった。》


《では。》


ハルピュイアが建物のそばに下りてきてドアの外側から鍵をかける。なんと30人全員を無傷で捕える事が出来たのだった。


「ゴーグ様。お手柄です!」


兵士を全員うまく捕らえる事ができたので直ぐに人間形態に戻る。


「きゃっ!」


ハルピュイアが顔を赤くしてそむけた。狼形態から人間に戻って全裸になってしまったからだ。別にみられたってどうってことはないんだけど。


「ゴーグ様!」


オークの長がやって来た。どうやら人間の斥候を追いかけて行ったサキュバスが報告したらしい。


「ああ、人間を全部捕えたよ。」


「お見事です!とりあえずこれを!」


ラーズは俺の服を持ってきてくれていた。


「ありがとう。この先にグレートボア3頭と翼竜が3羽落ちてるから回収してきてくれ。人間も3人死んでると思うから、屍人になっても困るし燃やしちゃって。」


「わかりました。」


オークの長は俺の指示を受けて仲間を呼びに行った。


「じゃあ報告しなくちゃ。」


俺は念話をギルに繋ぐのだった。

次話:第399話 ミーシャとデート


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[一言] 冒頭 ファングラビットを捕まえた時と同じような事をして…人間達が来るまでの暇つぶしをしているゴーグ君…緊張感が無いな…(余裕かよw) 大胆なゴーグ君 斥候をサキュバスに任せて、本体であろ…
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