第04話:異世界ピクニック
昨日、俺は1発で果ててしまった…
弱いにも程がある。
俺が前世で見たことがある、俺つぇぇぇ!な転生じゃなかった。
しかしだ、魔法が使えることがわかった!1発で果てる魔力だけど、それでも大きな収穫だ。魔法がつかえるのだ。マジシャンとして食べていけるかもしれない。
ピクニックにいく日は天気の良い日になった。
グラムとイオナ、マリアに俺の4人で郊外の湖畔までピクニックに出かけるらしい。マリアは身の回りの世話の為について来てくれている。
馬車と馬を用意し手綱はグラムが握った。そこそこ立派な馬だがこれもマリアが面倒みてるのかな?馬車って・・やっぱ異世界だ。身内のグラムが馬を扱えることに感動を覚えつつ、わがままをいってグラムの隣に座らせてもらった。
家を出てしばらくは高級な住宅がつづいた。人はまばらでそれほど多くはなかった。
うーむ。馬車は車と違って座り心地は良くないな。振動がケツに直に伝わってくる。
横に座ったのは当然、いろいろと聞きたいことがあるからである。特に武器について。
「父さん、あの・・武器とは、どんなものがあるんですか?」
「おお!なんだラウル!武器に興味があるのか?まもなく4歳だし、やっぱり男の子だもんなあ。」
俺の成長を喜んでいるようだった。
とにもかくにも武器のことが聞きたかった。初めて見る街並みやピクニックのことよりも、3才がいきなり武器のことを聞くのは不自然だったろうか?でも聞きたいものは聞きたい!衝動が抑えられん。
「まずは俺が使う剣だな。剣と言ってもピンからキリまであるんだ」
「父さんの剣とはどんなものなのですか?」
「今日携えてきた剣は普通の剣だな。どこにでもある。」
「違う剣もあるんですか?」
「戰や強い魔物討伐の時に使う剣があるぞ。名のある鍛冶屋に打ってもらった逸品だ。」
「普通の剣とは違うのですか?」
「そうだな。ものすごい硬さのウロコを持つ魔物も両断できるぞ」
「僕が使ってもですか?」
「それは難しいな。かなりの技量が無ければ簡単に扱えるものではないんだ。」
「そうなんですね…」
がっかりだ、まあもとより剣など使える気はしないが。
「だが技量がなくても凄い力が出せるものもあるぞ」
「え!本当ですか?」
期待してしまう。
「多少魔力が必要だが、魔力が付与されている魔剣というものがある。それならば剣に炎や水、雷を纏わせる事ができるんだ。魔力があれば素人でもそれなりに強くなれる」
やっぱ剣になっちゃうわけだ。
「そうなんですね!では火の弾などを出せる武器などはありますか?」
「うーむ、石に油をかけて火をつけて投石器で飛ばすか、火矢を放つかそんなところだな」
「そうなんですね…」
やっぱ銃火器などはこの世界には無いということか…悲しすぎて涙がでそうだ。
とにかくグラムの話では、この世界の武器には剣や槍、弓矢、モーニングスターなど中世にあるような武器があるらしい。
剣といっても、いろいろで名のある鍛治師が打ったものはワザモノといわれたり、魔力が込められている魔剣などがあるのだという。さらに流派によって使う武器は違ってくるとのことだ。
メモりたい。
「遠くのものを攻撃する武器は投石器や弓矢だけですか?」
「やはり遠くのものを攻撃すると言ったら魔法だろうな。弓矢並みに遠くに飛ぶぞ。」
そうか魔法は攻撃の手段になるのか、やはり剣と魔法の世界だけあって、特に飛び道具に頼る事はなさそうだな。
「だが相手の構えをよく見て魔法が放たれる瞬間に避けることはできるぞ、遠くから飛んでくるならなおさらだ。魔法で気をつけるのは広範囲に被害が出るやつや、光や闇で本来のチカラが出せなくなるやつだな。」
「そうなんですね。父さんは魔法使いと戦ったことはあるんですね?」
「ああ、たくさんあるぞ」
「魔法を防ぐ武器はあるんですか?」
「ある。魔力付与の鎧や盾がある。魔法使いには魔力で魔法を無効化できるものもいるぞ。だけど避けるのが1番確実だな」
魔力付与の防具とかあるのか、やっぱ武器はいいなあ。弾しか出せないような変な魔法しか使えない俺でも、魔力付与の防具があればなんとかなりそうだ。武器屋とかあるのかなあ?行ってみたいなあ。などと妄想してニヤニヤしてしまった。
もう異世界の風景とか特にはどうでもいい。
俺は次に魔法についてももっと聞きたかったが、イオナの方がくわしいから、後で聞いてみるように言われた。
話しながらも、しばらく石畳の通りを馬車は進んだ。
まあせっかくの異世界だし、どうでも良いと言わずに風景とか見とくか。
我が家の周りからしばらくは高級そうな洋館が並んでいて、上品そうな人やメイド服の女性、執事の様な格好の人をちらほら見かける程度だった。
そのうち飾りのない小さな平屋の家や、商店や八百屋などが立ち並ぶエリアに入る。途端に街ゆく人も様変わりしてきた。様々な人がせわしなく行き交い、服装も雑多な印象をうける。おそらく町人といった風情の人々だろう。
しかし間違いなく異世界なんだと実感する。
《すげえわ…ワクワクしてきた。》
後ろを振り向くと、洋風の遠近感がおかしくなるほどでかい城があった。だいぶ距離ががあると思うのだが、その城が巨大であることがわかる
「あれが父さんの働くお城ですか?」
「そうだ。デカいだろう!」
グラムは誇らしげに言った。
うんデカい!東京ドームよりデカそうだ。
グラムはあそこで働いてるんだよな。日本の国家公務員って感じなのかな?王宮騎士ってどのくらいの地位になるんだろう?
前世では俺のいとこが国家公務員で、霞ヶ関のお役人だったけど、しょっちゅう飲み会がありぶくぶく太っていったっけな。女だったけど若いからとにかく偉い人に誘われるんだとか…それに比べたらグラムは引き締まってんなあ。
「父さんは凄いですね!」
「いまは父さんはあそこの警備の隊長をまかされているんだ。」
グラムは誇らしげに言った。
あら警備隊長?出世コースなのだろうか?制度が分からずいまいちどう凄いのか分からない。
気がつくと街並みはさらに雑然としてきた。宿屋や酒場などがあるそうだ。皮の鎧を着てる者やぼろぼろのローブを纏った者、貧しそうな服装の者など様々だ。この街の住人ではない旅人もいそうだ。
「このあたりはいろんな人がいますね。」
「そうだな。冒険者や着いたばかりの商人などだな。」
「冒険者ですか…」
やっぱり異世界と言えば冒険者だよな。しかし町に活気があふれているな。
《冒険者か…ギルドとかあるんだろうか?》
馬車でさらに30分ほど走ると王都の外れには壁がそびえたっていた。これで魔物の侵入を塞いでいるようだ。
《魔物とかいるのか?外に出て大丈夫なのか?》
城壁には王都の外に出る大きな門があった。門は開け放たれていて、通行人や馬車がせわしなく行き来しており、門番がいて検問しているようだった。
「グラム様おはようございます。」
門番が声をかけてきた。
「手を抜かずに職務をを全うをしているようだな。」
「はっ!滞りなく。」
「引き続きよろしく頼む。」
「はっ!」
我が家の馬車が近づくと門番はグラムの顔を見て、背筋を正して挨拶をしていた。グラムは門番よりはかなり偉いのだろう。顔パスと言うやつだった。
それにしても自動車と違い馬車は乗り心地は悪いな…ケツが痛くなってきた。
門から外に出ると草原が広がっていた。そこに街道が一本伸びている。道端には背の低い草や白や紫色の花が咲いていた。風になびいて爽やかな春の花の香りを運んでくる。
王都の近くだからだろうか?のどかで平和な感じがする。
草原の街道に沿ってそのまま馬車を走らせていく。城壁から離れるほど人とすれ違うことがなくなってきた。
時より馬車数台が連なって向かい側からやってくる。剣をさげた人や、斧をかついだ人、杖を持ったローブのいかにも魔法使いな人が一緒に歩いている。
「父さんあれは冒険者ですか?」
「あれは商人の馬車だ。王都に商売に行くんだろう。周りにいるのが冒険者だな雇われた護衛さ。」
剣に斧に槍。そして魔法使いかな?…4人中2人が前衛で1人が中衛、魔法使いが後衛だとちょうどいいのかな?いまは剣に槍が先頭馬車の左右、魔法使いが真ん中で斧が殿か、護衛するならそうだろうな。
遠距離からライフルで商隊の先頭の馬を一発でしとめて足を止め、攻撃された方向がバレないうちに魔法使いを仕留めて、最後尾の馬車の馬を始末したら動けなくなるよな。持久戦に持ち込めば、こっちが一人でも手の打ちようがなくなるんじゃないか?連絡手段も無いわけだし。
援軍や別働隊がいなければだけど。冒険者パーティーに勝つならどうするか考えてみた。
いや…考えても仕方ないな。ついつい。そんな強盗みたいなことするつもりはないけどね。
「静かですね。」
「このあたりは魔物がいないからな。平和なものさ。」
このあたりは王都からそう離れていないので魔物も出ないらしい。それでもグラムは念のため剣を持ってきていた。
それから30分ほどゆっくり馬車を走らせていくと川が見えてきた。お尻の痛みの限界が近づいてきたと思っていたらようやく馬車を降りるようだ。
とにかく馬車はケツが痛かった。サスペンションもダンパーもないもんな日本人の俺にはつらいわ。
ひとまず川で馬に水を飲ませてから、橋の手前にある太めの木に馬をくくりつけ湖畔の手前に移動した。振り向くと馬は着くなり道端の雑草を食べ始めている。
湖畔手前には雑木林がありパラパラと木が生えていたが見晴らしがよかった。岸に敷物をしきマリアが手際良く料理の準備をしてくれた。
湖畔に近づいて覗いてみると浅く驚くほど水がきれいだった。たまにキラキラ光るのは小魚だ。
「足をつけてみろ」
優しい顔でグラムは言った。
靴と靴下を脱ぎ、そーっと足をつけてみた。冷たい!そりゃまだ春だもんな冷たいよな。というかこの国には四季はあるんだろうか?数ヶ月前の記憶では冬だったのでたぶんありそうだ。
水もきれいだしゴミひとつない湖は凄く気持ちが良かった。ただ冷たすぎてもう限界だ。湖を上がるとマリアが俺の足を拭いてくれた。テキパキしてる。
そのあとは料理を食べながら話しをすることになった。
この世界の武器は前世でいうところの中世頃の武器しかないらしい…それだけが残念でならない。
馬車で傷んだケツや中世のような街並み、ものすごい透き通った川を見て、異世界に来たことを改めて認識したのであった。
こりゃ…完全に銃はないな。
それしか考えていなかった。
次話:第05話 達人にもほどがある