第393話 魔導兵器研究
研究所の管理体制を整えるための設備と人的フローのチェックを終えた。
その後、俺はデイジーとバルムスとミーシャに、ユークリット王都の秘密の書庫に保管されていた武器を見せる為、第二保管庫へと訪れていた。ニスラと魔人達がヘリから先に運び込んでくれていたあれだ。
そのニスラは既に研究所設備の改修工事に必要なドワーフや魔人達を呼びに行っている。
「これは…。」
「武器じゃのう。」
「普通の武器とは何が違うのですか?」
バルムスとデイジー、ミーシャでそれぞれに反応が違う。
バルムスが一番強く興味を示したようだ。
「うむ。ユークリット王城の隠し書庫に保管されていた物じゃな。ご丁寧にそれぞれの説明書のような書物も一緒にあったわ。」
モーリス先生が説明をする。
「人間が作った物でしょうか?」
バルムスが聞く。
「そうとも限らんじゃろう。書いてある内容は作った者が書いたというより、この武器の能力を知った者が後から書き記した物のようじゃし。」
「なるほど。」
バルムスが目を爛爛とさせて武器を見ている。
「触れて見てもよろしいでしょうかな?」
「それはかまわんが、魔力は流さんほうがええ。」
「承知しました。」
バルムスはどこからともなく白い手袋を取り出して、慎重に武器を持ち上げてはひとつひとつチェックをしていく。まるで古物商が鑑定でもするようだった。
「モーリスよ。これらは魔剣や魔導防具の類かのう?」
「そう言う事じゃデイジー。じゃがそれに使われている素材などはよくわからん。」
「なるほど、それをわしらに探れと?」
「まあそう言う事になるかの。」
「ふん!面白いじゃないかい!ボロボロになっても知らんぞい。」
「ふむ。もちろん国宝級の名品かもしれぬがの、わしゃそんなものに興味はない。むしろこれを解析する事でラウル達の役に立つことを強くねごうておる。」
「そう言う事なら喜んでやるぞい。」
デイジーが俺に優しく微笑む。言葉遣いはアレだが俺にとってはとても優しいばあちゃんだ。
「ミーシャ。彼らの見解をよく聞いていてくれ。もしかしたら俺達の戦闘の役に立つだけではなく、普段の生活や仕事に生かせる可能性もある。また俺がガルドジンから受け継いだ魔導鎧の謎も解けるかもしれないしな。」
「かしこまりました。ラウル様のお役に立てるよう一生懸命取り組まさせていただきます。」
「ああ。ただし無理はするな。あんな危険な鎧の試験はあまりお勧めできない。」
「はい。」
俺がミーシャに話をしている間も、既にバルムスとデイジーがあれこれと話をしていた。どうやら既に研究者のスイッチが入ってしまっていたらしい。
「モーリス先生。やはり持ってきて良かったですね。」
「そうじゃな。なにか新しい発見があるといいのじゃが。」
「もちろんそのまま武器として使ってもいいのでしょうけどね。」
「あれらは人間の為に作られたものじゃろうから、魔人達が使ってその能力を最大限発揮できるかどうかは分からんぞい。」
「なるほどです。じゃあ研究が終わったら使えそうな人にあげちゃいましょう。」
「カールとかオンジさんとかかの?」
たしかにカーライルとかオンジさんが適任ではありそうだけど…俺はもう一人の名前を言う。
「はい、私としてはルブレスト・キスクをイメージしておりましたが。」
「グラムの師匠か!それもよかろう。」
「ところで先生。あの武器はどういう類のものなんですか?」
「そうか、おぬしではあの文献は読み解けんかったか。」
「はい。」
王家の秘密の書庫にあった武器。これらの武器にどんな能力があるのかを、わざわざ書面にして残してあった。しかしその説明書は俺には読むことができなかったのだ。
「剣士の戦い方を知っておるよな?」
「はい、魔力が無いので気を操り上げて自分の身体能力を強化して戦う。と言う事でしたよね?」
「そうじゃ。しかし唯一剣士が魔法を使えるようになるものがある。」
「これらがそれですか?」
「そうじゃ、これらは古の武器じゃのう。今ではその技術は廃れてしまい見る事は出来んが、剣士が魔法を行使するために使う武器じゃ。」
「何と‥‥。」
どうやら魔剣や魔導武具は魔法が使えない人達用らしい。俺はてっきり魔力を流し込んで使うものだと思っていた。
「じゃから不用意に魔法を流し込んではならんのじゃよ。」
「そう言う事だったんですね。強く納得しました。」
「うむ。下手に必要以上の魔力を流し込んだら暴発するかもしれん。」
「あの状態ですでに魔力を持っているようですしね。」
「それは分かるのじゃな?」
「はい。」
魔石には魔力が込められていた。更に模様のように刻み込まれた紋章のような部分が時折光り輝いているようにも見える。
「何らかの発動条件がそろうと、あの剣や槍に付与された魔法が放たれるようじゃ。」
おお!なんというロマンあふれる武器だろう!これはぜひ彼らに使ってもらいたいものだ。それとトライトンは魔人じゃないとか言ってたし、魔槍を使ってみたらどうなるかな。
「彼らはきっと私が召喚した兵器はうまく使えないでしょうから、この魔導の武具は良いかもしれませんね。」
「じゃな。デイジーよ!多少削ったりしても良いが、折ったり使えんようにはせんでくれよ。」
モーリス先生が後ろを振り向いて言う。
「わしもそんなに馬鹿じゃないわ!」
「バルムスもな。」
「はい、むしろこのような素晴らしい武具を壊すなどもったいない、出来れば更に進化をさせられないかと考えております。」
「更に進化か…。」
バルムスはいったいどうやったらこれを進化させることができるんだろう。
《いや…ヴァルキリーもカスタマイズしたこいつなら何かやってくれそうな気がする。》
バルムスとデイジーはしばらくその武具達を見ながら、あーでもねーこーでもねー言っていた。すると二人は何か閃いたように言う。
「外骨格にこの技術を取り入れてみたらいいのじゃ!」
「デイジーさんもそう思うとったか!やはりこれは使えるのう!」
デイジーさんとバルムスが意気投合している。何やら思いついたらしかった。
「でしたらあの噴射機動にも同じことが言えるのでは?」
ミーシャが言う。
俺もモーリス先生も、エミルも、ケイナも、彼らが何のことを言っているのか分からない。とにかく3人は既に研究に没頭してしまい、俺達の事など眼中に無いようだった。それからはしばらく3人の世界に入り込み俺達は放っておかれてしまう。
「あのー、デイジーさん。」
「なんじゃラウル。」
「この武器たちはとりあえずここに置いて行きますので、じっくりやっていただいていいですか?」
「お!すまぬ!ついつい夢中になってしもうた。」
ちょっと3人と止めて俺の話を聞いてもらう。
「これまで何か新しい物は出来ましたか?」
「そうじゃった!す、すまぬ!」
「ああ申し訳ありません!その話がまだでした! 」
デイジーとバルムス二人が俺に謝る。
「いえ、いいんです。俺が施設の安全面の話なんかしちゃったもんだから。」
「そんなことはないぞ!わしらの事を気遣ってくれたのじゃし、むしろ言われてみればそうじゃったと反省する事ばかりよ。」
そう。
いろんなところをチェックしてあちこち歩きまわっているうちに、俺は魔人の動きを指摘し危険個所を指摘した。そうこうしているうちにデイジーとバルムスの二人は俺にペコペコしだして、しまいにはメモでも取りそうな勢いになって小さくなっていた。
「そうですデイジーさんの言う通りですラウル様。我もそのような事を気にもせず研究にばかり没頭をしておりました。」
「いやいや、お二人が気づいてくれてよかったですよ。」
「それで新兵器のことじゃったな。」
「はい。」
俺達はデイジーとバルムスについて彼らの研究所に向かう。最初の部屋にはデイジーが着て転がって来た外骨格がある。入り口のドアは全て壊れて大穴が開いている。
「まずはこれなんじゃが。」
デイジーが外骨格を指さす。
「デイジーさんちょっとまってくれ。」
バルムスが外骨格をいじり始める。
ガシャガシャ
外骨格の中から人の形をした鎧が出てくる。
「これはラウル様の魔導鎧に見立てた物です。」
「なるほど。後ろから着脱するんじゃなくて全体ではがれる感じなんだな。」
「はい。ですので緊急の脱鎧はかなり早く楽かもしれません。着る時に少し手間がかかると思いますが。」
「ありがたい。戦闘中に脱ぐことができるというわけか。」
「その通りです。さらに強度試験も何度も行っております。」
「さっき見たのがそれかな?」
「そうです。しかし今日は更に素晴らしい発見がありました。」
「発見?」
バルムスが興奮気味に言う。
「ラウル様達がもってきていただいた魔導武具に見習う点がありそうです。大きな足掛かりになりそうなのです。」
「そうなんだ!役立ちそうで良かったよ。」
「あれは恐らく人間の為の技術ですが、魔力と武具の融合がなされておりました。基本はラウル様の魔導鎧と原理が似ているのですが、全く非なる物です。」
二カルスがまたも目を輝かせて話はじめる。
「非なる物?俺の魔導鎧は魔石の代わりに、俺の魔力を使っているだけじゃないのか?」
「それが違うのです。あれはガルドジン様の血族であるラウル様にしか使えません。しかしこの魔道具たちは恐らく気を使える剣士にならだれにでも使える代物です。」
いまいち言ってる事の違いが分からないが、確かに違うのは分かる。
「前に装着した外骨格は俺にしか反応しないのか?」
「その通りです外骨格と言うよりあれは外魔導鎧ですが、あの外魔導鎧はかなり頑丈にできております。」
「そうなんだ。」
「しかしこれはうまく魔力が伝達しなかったようで落下の衝撃で多少破損しておりました。」
「それが強化できると?」
「はい。先ほど見た魔導武具はどれも魔力伝導率の高い物でした。それはあの魔石に連結された紋章のような物が鍵になっているようです。」
「そうなのか?」
「恐らくは。」
「ならそれをこの外骨格に施すということか?」
「その通りでございます。見ただけではそれを実現する事は出来ませんが、必ず解析したいと思います。」
「なるほど。」
バルムスの頭の中では何かが繋がっているようだが、俺には全く分からなかった。
「ラウルよ。しかもあの金属はただの鉄ではないぞ。」
今度はデイジーさんが言う。
「なんなのですか?」
「それは分からんがの。」
「そうですか。」
「じゃがその素材も魔力の伝導率を上げているようじゃ。」
「なるほどです。」
どんな素材がどう魔力伝導率を向上させるように働くのかは分からないが、デイジーの見立てではそうらしかった。
「わしらにはよくわからんが、それらの技術を集めると更に良い物ができる、という事で良いのかの?」
たまらずモーリス先生が口をはさむ。どうやら俺と同じような気持ちになっていたようだった。
「まったく、この爺は物分かりが悪い。」
「おぬしらの頭の中がさっぱりわからんのに、どうやって理解しろと言うのじゃ?」
「話せば長くなるからのう。」
「その昔、おぬしの話を延々と聞いて凄い物ができるかと思うたら、出来上がった薬は媚薬だったではないか!」
「そうじゃったか?確かそんなものもあったかのう。なにせ大昔過ぎて何を言うとるのか分からんわい。」
「わしはあれを回復薬と思うて冒険に出て、えらい目にあったのじゃぞ!」
「ふーん。そんなことあったかのう?」
「どうせ忘れとるじゃろうと思ったわ。」
物凄く微妙な空気が流れて来た。この二人はいったいどういう間柄だったのだろう?冒険に行くというのに回復薬を渡す代わりに媚薬を渡す人…。そしてまんまと騙されて媚薬を回復薬だと思って冒険に行っちゃう人…。
「と!とにかく!先生。彼らの研究の成果を見ましょう!バルムス!他のやつを見せてくれ!」
「は、はい!そうですね。そのほうが良さそうですね。では奥に!」
ドワーフのバルムスも空気を察したのか、俺達を奥の部屋へと連れて行く。
棚には所狭しといろんなものが置いてあった。
「前に見たものもあるようだが。」
「はい。しかし全て改良型となっております。」
以前見た小型ナパーム手榴弾や氷手榴弾が更に小型化して置いている。そして俺はひとつ見覚えのあるものを見つけた。
「あ、これ。」
「はい。噴射機動です。」
噴射機動って言うんだ。これはカーライルが空中で軌道を変えるのに使っていたやつだ。
「もしかして外骨格につけるあれ?」
「そうですそうです!あれは後方に大きい物を一つ着けておりましたが、空中で制御するために全体につけねばならない事が分かりました。それの一つがこれになります。」
なるほど。カーライルが手にしていたのは、俺の外骨格に取り付ける部品の一つだったのか。言ってみればスラスターのようなものだな。
「すごいな。こんなに小さくなったんだ。」
「はい。これは部品の一つですが、外骨格の全身20ヵ所に取り付けており一か所で制御できるようになります。」
「これを使っている人間を見たよ。」
「なんですとっ?なぜ人間が?ラウル様に見ていただこうとフラスリアに送ったはずですが。」
「え?そうなの?」
「はい。」
どうやら何かの手違いでカーライルの手に渡ったらしい。
《俺はそのカーライルが使用しているのをみて、バーニアが完成していると睨んで帰って来たんだ。》
「人間が生身でこれを使えばバラバラになってしまうのでは?」
「ああ、バルムス。そいつはバラバラになりながら使いこなしていたよ。」
「何と恐ろしい。というよりバカものですな。」
「尊敬すべきバカって感じかな。」
「左様ですか。」
「で、その外骨格は既に使えるように?」
「前回の大型魔導鎧にはめ込む形ではなく、改良型を作りましたのでそれに取り付けてありますが、後は使っていただいて微調整が必要かと。ただし大型魔導鎧の方が頑丈ではあります。改良型外骨格は高機動型と言った方が良いかもしれません。」
「さすがはバルムスだ。」
「ありがとうございます。」
どうやらヴァルキリーを空輸できることができるようになったらしい。それだけでも俺にとってはかなりの収穫だ。
そして更にバルムスとデイジーは研究室の奥へと俺達を導くのだった。
次話:第394話 神話級の性能
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