第39話 恋する幼女 ~ミゼッタ視点~
わたしたちが村を出てから3日がたった。
村ではしっかり休めたしお風呂も入れた。
ラウル様はお風呂でまた鼻血を出してのぼせちゃったけど疲れているのかな?
男の子がいるとお風呂入るのちょっぴり恥ずかしい・・
でもお姉さんたちは平気みたいで堂々としている。ラウル様は男の子ひとりだからもっと恥ずかしいんだろうな・・と思うと私が恥ずかしがっちゃかわいそうだから私も堂々としてるの。
でも温泉気持ちよかったぁ〜
いつもおじいさんと一緒にお風呂はいったっけ・・おじいさん大丈夫かなあ・・ぐすっ・・
いけない!おじいさんの事を考えるとすぐ泣いちゃう。ここにいるみんなは故郷の家族をみんな失った人たちなんだ・・わたしだけが辛いんじゃない。がんばる!
わたしが、かなしそうな顔をしているとイオナ様がいつもわたしを抱きしめてくれる。
本当に優しいひとだと思う。
イオナ様はまたドレス姿にもどり、マリアさんやミーシャさんもメイド服になった。
でもイオナ奥様がオーガの人たちに言われて、市場の物をたくさん袋に詰め始めた時は・・ちょっとびっくりしちゃった。お金も払ってないのにもっていくなんて。
わたしもおじいさんとよく市場にいって売っていたから抵抗があったけど、イオナ奥様は「ミゼッタちゃんどんどんつめなさーい!」って元気よくいうんだもの。
・・これからまだまだ旅は続くし本当はお金を払いたいんだけど、村は全滅しちゃったからしかたないんだよね?たぶん。
そして馬も2頭増えた。村の中に2頭立て大き目の普通馬車が置いてあったからそれをひいて走ってる。
オーガの人たちはそれも戦利品だって言ってたけど。
そのオーガの人たちは見た目とちがって優しいし安心する。
最初は怖かった・・特にガザムさんと最初に目があったとき、ちょっとだけ漏らしちゃった。
殺されるんじゃないかと思ったから。
でもいろいろ手伝ってくれたり気を使ってくれる。
オーガさん達は野営の時も見張りは1人でやるの。一晩中立っていても疲れないみたい。野営は毎日1人が交代で見張る事になっていて今日はゴーグさんの番。
夜の野営は焚火を炊いてその周りで市場でもらってきた野菜や調味料でスープを作ったり、ラウル様が出す不思議なご飯をたべたりしてすごしたの。ラウル様が不思議なご飯を出すたびに、オーガのみなさんが「おおー!!」と驚いていた。
わかる。
わたしも最初にみたときは何が起こったのかわからなかった。
何もない所からポンッ!って出てくるんだもん。
でも段々慣れてきちゃった、ラウル様はこういう能力なんだと納得したから。オーガの皆さんもうまいうまい言っていたから、ラウル様はよろこんでポンポン、ポンポン出してた。きっとオーガの皆さんのお口にすごく合うんだと思う。
でね、オーガの一人にゴーグさんという人がいるの。
ゴーグさんの肌は少し青みがかってて髪は銀色、髪の毛も少し青っぽくて目も透き通るような青。
すごく綺麗。
魔人さんってこんな感じなんだ・・想像と違ってた。もっと恐ろしい物を想像してた。
子供の私が言うのもなんだけど、ゴーグさんは見た目がすっごく・・かわいい!
ゴーグさんは優しくて放っておかれてた馬を助けようと言ったの。
ミーシャさんがついて行くって言うので、私も一緒について行っちゃった。馬はゴーグさんにちょっとおびえてたからミーシャさんと私で手綱をひいてあげたの。ゴーグさんこんなに優しそうなのに何で馬は怖がるのかな?
ゴーグさんはギレザムさんやガザムさんと違ってよく笑う。誰に気を遣うわけでもなく自由な感じがする。屈託のない笑いを見てると私も自然の笑顔になれるようになった。旅の途中で馬車の中にいるわたしに声をかけて肩車をして歩いてくれた。
そんな彼がいまわたしの隣に座っている。
「ミゼッタはもうお腹一杯?」
ゴーグさんがわたしに話しかけてきてくれた。
「うん!」
「そうかよかった。」
ニコニコして私の頭をなでてくれた。わたしはもっと話したかったけど何を話したらいいのかわからない。するとゴーグさんがまた声をかけてきた。
「おまえは子供なんだから大人に付き合って起きてる事ないぜ。」
といって私の頭を自分の太ももの上にグイっと引っ張ってのせた。
彼の足は・・・硬かった。おじいさんの足とは全然違うし正直寝づらかった・・けどなんだかすごく安心した。わたしはそのままウトウトしてしまった。
「寝たら後で馬車に運んでやるよ。」
といってゴーグさんはわたしの頭をなでてくれた。気持ちよくてそのまま寝てしまった。
わたしは夜に目が覚めた。ぶるっ!おしっこがしたい。とにかく馬車をおりておしっこ・・
すると、ゴーグさんが一人で見張りをしていた。他の2人のオーガさんはラウル様が出した2つのテントで寝ているようだった。
「ん?起きたのか?」
「え・・いえ・・まあ・・」
なんて言ったらいいんだろう。でも言えない恥ずかしい!
「おしっこならその木の陰ですればいい。俺は後ろを向いていても敵の気配もわかる心配いらないよ。」
ばれてたみたいだ。
「ありがとう・・」
私は木の陰でパンツを脱いで用を足した。
「ほっ・・」
ガサッ!と音がした!
「えっ?」
と声を立てた瞬間、ゴーグが大きな蛇を握って近くに立っていた。
「わるい。こいつには毒があるんだ。続けていいよ。」
ゴーグさんはスッっと消えた。
あ、あわわわ・・見られた。はずかしい・・
とにかく急いですませ戻った。ゴーグさんは黙って立っているだけだった。
「あの・・ありがとうございます。」
「俺は見張りをしてるんだから当然だ。」
「はい・・」
「おまえ、だいぶ疲れてるみたいだな。早く寝ろ。」
どうしてそんなことがわかるんだろう?
「そんなに疲れてません。」
「子供は無理をするもんじゃない。俺は疲れているかどうかなんて臭いでわかるんだ。」
「臭い・・あっ・・」
かぁぁぁぁと顔が赤くなるのが分かった。ちょ・・ちょっとなんて・・
「眠れなくなったのか?」
そりゃ眠れないよ!!
「は・はい。」
「蛇にビビっちゃったんだな。」
とゴーグさんは私に向き直って笑いかけた。
「じゃあ俺の膝の上で寝るといい。さっきもすぐ寝た。」
と言ってゴーグさんは私をひょいっと抱き上げて座り膝の上に乗せた。ああ・・やっぱり安心する。ゴーグさんの顔を見上げるとすごく綺麗な瞳で空を眺めてた。
「いい夜だ。」
さらさらと風が吹いてきてちょっと肌寒くもあり、わたしはブルッ!と体を震わせた
「寒いのか?」
「はい。」
ゴーグさんは自分の着物の前をあけて私を包んでくれた。
「あったかい。」
「そいつは良かった。」
私は安心感に包まれて少しずつ眠くなってきた。この人はなんて優しいんだろう・・ゾンビと戦っていた時はすごく怖かったのに、そのあともひょうひょうとしてかわいい顔をしていた。
不思議な人。
そう思いながら私は眠りについた。
朝、目覚めたら馬車の中に眠っていた。ゴーグさんが運んでくれたんだ。
みんなで朝ごはんを食べて出発することになった。なんか今まですごく気持ちがつらかったんだけどちょっと楽になったきがする。強くて優しい人に囲まれているからかな?わたしはあまり笑えなかったけど笑えるようになってきた。
「ミゼッタ、なんかいい事ありましたか?」
ラウルがわたしにきいてきた。
「ううん・・なんでもないよ。」
「なんかニコニコしてたから、でも元気になってくれてよかった。」
「あれ?私笑ってた?」
「そうだね。どことなく元気がよく見えるよ」
「じゃあ疲れがとれたんだと思う。」
「よかった。」
そうか・・私いままでそんなにひどい顔してたんだね。きっとゴーグさんのおかげかもしれない。
ゴーグさんは今日もラウル様が出してくれた食事にビックリしてすっごく食べてる。特にハンバーグというものがすごく好きなようでそればかりずっと食べてる。ハンバーグが好きなんだね!
かわいい。
ゴーグさんを見ていると私が見ているのに気がついたらしく、こっちを向いてニッコリ笑った。
「ほしいのか?」
「えっ!いや大丈夫です、お腹いっぱいです。」
ゴーグさんは私が物欲しそうに食べてるのを見てるんだと思われたようだ。なんか・・すごくかなしい、別にいやしい気持ちで見ていたわけじゃないのに・・
しばらくすると・・ラウルに声をかけられた。
「どうしたの・・なんか悲しそうな顔をしている気がするけど。」
「いや大丈夫だよ。まったく悲しくなんかないよ。」
「ああ、ならいいんだけど。」
そしてみんなご飯を食べ終わって片づけやそれぞれが身支度をしていた時だった。
「ミゼッタ!今日も肩車してやるからな!」
ゴーグさんが私を肩車してくれるという。
準備して馬車に戻るとラウルに声をかけられた。
「今日のミゼッタは不思議だね。悲しそうな顔だったりニコニコしていたり。」
「え?わたし笑ってた?」
「うん。」
そうか・・わたし笑ってたんだ。なんんだか幸せな気分になって笑ったんだ。
馬車が走り出すとゴーグさんがひょいっと私を持ち上げて肩車をしてくれた。なんか元気が出てきた。
「おまえ、笑ってた方がいいぞ。」
ゴーグさんがわたしに笑いかけてくれる。
私が見下ろすとゴーグさんの綺麗な青みがかった銀髪が風にそよいでいた。こんな強い人に肩車をされると何が来ても大丈夫なような気がした。
「あ、あのゴーグさん?なんでわたしに優しくしてくれるんですか?」
つい聞いてみた。
「はぁ?子供に優しくするのはあたりまえだろ?おまえ知らないのか?」
「あ・・ああ。そうですね・・ありがとうございます。」
「変な奴だな」
またあの屈託のない笑いを見せる。
私は不思議な気持ちだった・・ゴーグさんを見ているとうれしいし、なんかドキドキしてるみたい。よくわからないけど一緒にいると幸せだった。こんなのはお父さんといる時かおじいさんといる時しか感じた事なかった。
でもそれともなんか違う。
「変ですか?」
「人間の子供なんか弱っちいんだから、守ってやんのは当然なんだよ!そんなのもわかんないなんて変だよ。」
「フフッ。変かもしれない」
そんな当たり前の事なのに私は言われるまで気が付かなかったんだ。
「それ!」
ゴーグさんはわたしを乗せたまま走り出した。
「すっごおい」
ビューっと音を立てて走り出す。すごい早さだった風になっているようだった。
「はははは!」
ゴーグさんは嬉しそうに笑った。
わたしはいつまでもこうしていたいと思った。
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