第386話 魔王子の肩すかし
俺がファートリア西部戦線で働く魔人達との連絡を終えたころに、マリアが俺の部屋へとやって来た。まるで見計らったような絶妙なタイミングだった。
「ラウル様。失礼いたします。まだお仕事中でございましたか?」
「いやもう大丈夫だけど。」
「大切なお話は終わりましたか?」
「ああ、どうやらあっちも順調に進んでいるようだよ。」
「それは良かったです。」
マリアがなんとなくソワソワしているように感じる。
「どうした?」
「アナミスがそろそろ話が終わるようなので、ラウル様をお誘いしてきてと言われてまいりました。」
あ、やっぱり念話を聞かれていたのね。
「お誘いって?」
「はい、あの…。」
「何?」
「アナミスとルピアがラウル様を癒して差し上げたいと申しております。」
なんとアナミスとルピアがわがままを言っているらしい。恐らく俺が自分の魂核に触れてパワーアップしたことが原因だと思うのだが、女魔人達がやたらと俺と一緒に居たがるのだった。
「アナミスとルピアがか?」
「はい。」
「癒しっていったい何だろう?」
「今宵はナスタリア邸に戻り皆で過ごしませんか?」
「ん?それはアナミスが言っていたの?それともルピア?」
「いえ、これは私の意見です。」
「わかった。マリア今日は久々に一緒に過ごそう。」
マリアの顔がパァーっと明るくなった。
「よろしいのですか?」
「マリアにはいろいろ任せて離れていたからな、たまには一緒に過ごすのも悪くないだろ?」
「はい!」
めっちゃ喜んでる。
そして俺はそのままマリアと一緒に部屋を出る。すると部屋の前にはシャーミリアとカララ、ルピア、アナミスが待っていた。
「あ、あの!このような不敬な真似をお許しください。」
「シャーミリア、気を使う事は無いよ。俺は今日みんなと過ごす事に決めたんだ。」
「ですが、お仕事の邪魔をしてはいませんでしょうか?」
「問題ない。丁度終わったところだよ。」
「はい。」
そして俺はカララとルピアとアナミスを見渡す。どことなく皆が艶々としているようにも見えるが、気のせいだろうか?
いや…
アナミスからは物凄い妖艶な気が駄々洩れしているし、カララからはまるで子羊を狙うクロヒョウのようなまなざしを向けられている。ルピアは屈託のない笑みを浮かべているものの、目に怪しい光を浮かべていた。
「じゃあ行こうか。」
「はい。」
「仰せのままに。」
「かしこまりました。」
「行きましょう!」
「楽しみですわ。」
みんなが返事をする。
俺がみんなを連れて議事堂の外に出ると、すっかり夜になり空には半月が輝いていた。夜になって少し涼しくなり過ごしやすくなったようで、軽いそよ風が気持ち良かった。どこからともなく料理の匂いが漂って来る。
「すっかり街らしい営みがあるんだな。」
「そのようですね。」
マリアが答える。
俺達がナスタリア邸に向かって歩いて行く途中には食事処などがあり、光の射す店内からは賑やかな声が聞こえて来る。路地をふらりと歩いている冒険者などもいて、中には冒険者カップルも見受けられ微笑ましい光景だった。
ただ一つ問題があるとすれば、すれ違う男たちが一様に俺達を振り向いて立ち止まる。その表情を見れば一目瞭然だが、鼻の下を伸ばして今にも声を掛けてきそうな勢いだった。酒が入っているためなのか、俺達が誰なのかも分かっていないのかもしれない。
《ミリア。手を出すなよ。》
《こんな良い夜に無粋な真似はいたしません。》
《分かってくれてうれしいよ。》
それも仕方のない事だった俺の周りには美女が5人もいるのだ。この世のものとは思えないような絶世の美女が4人と、人間のグラマラスボディで愛嬌のある顔をしたメイド。男ならぜひともお話の一つもしてみたくなるだろう。
この人たちは本当に怖い人たちですよー
俺は心の中で叫ぶ。
しかし相手には伝わるわけがない。女連れの男までがふりむいては傍らを歩く女にグイっと首を引っ張られたりしている。
なんとなく俺がそんなことを気にしていると、急に冒険者たちが冷めたような恐怖が滲んだ顔になる。
そりゃそうだ。
俺の後ろには俺のマスコットであるファントム君が歩いているのだから。彼を正気を保ったまま見て居られる人間がそうそういるわけなかった。おかげで俺の周りにいる美女たちは誰一人として声を掛けられることなく、町を歩くことができるのだった。
《キャバ嬢のボディガードって感じかなあ…》
とにかくファントムがいるおかげで人々が痛い思いをすることが無くて良かった。一応ここのみんなは仲間だし。
ナスタリア邸の門前に到着すると、スッスッとシャーミリアとカララとアナミスが消えた。玄関が自動で開き屋敷内に明かりがともる。先に入って俺がくつろげるようにしているのだろう。
「さ!ラウル様!入りましょう!ファントムはここで番をしなさい!」
ファントムはルピアの言う事など聞くはずがないので俺が言う。
「ファントム!それじゃあこの屋敷に誰も入らないように見張れ。」
するとファントムが玄関の前に立って門の方を向いた。
ルピアが俺の腕を抱いて屋敷の中に引っ張っていく。マリアは楚々として俺の後ろをついて来ていた。玄関を入ると相変わらずのふっかふかな絨毯が出迎えてくれる。豪華絢爛な屋敷内の装飾とシャンデリアがとても美しかった。
「こっちです!」
俺はルピアに引っ張られるままに奥へと進んでいく。
「どこに行くんだい?」
「行けば分かります。」
俺はルピアに腕を引かれるままに奥に行く。マリアは相変わらず楚々とした感じで後ろをついて来ていた。
「ほんと豪華だよな。」
「はい。数あるナスタリア邸の中でも美しい屋敷とされております。」
マリアが説明してくれる。
屋敷の奥について角を曲がると、灯りが漏れている部屋があった。
「あそこがリビング?なんとなくエントランスから行くものだと思ってたけど。」
「いえ、あの…。」
マリアが何かを言いかけた時、俺はその灯りの漏れている部屋へと入った。
「あ‥‥。」
「はい‥‥。」
そこはどこをどう見ても風呂場だった。みんなで過ごそうとは言っていたけど、しばらくぶりだったので忘れていた。ルゼミアが言っている王子の務め。
「そういう事…だよねー!」
「ラウル様こちらです。」
カララが手招きをしている。
「あ、はい。行きます。」
俺がなぜか敬語になりカララの所に行くと、カララが糸であっというまに俺を裸にひん剥いてくれた。
カラカラカラカラ
浴場の方のドアが開くと湯気が出て来る。
「ラウル様。こちらへ。」
今度はアナミスがドアの向こうから頭だけを出して、おいでおいでをして手招きをしている。
「あ、はい。」
俺は誘われるがままアナミスの元へと向かう。
浴場に入るとめっちゃビビってしまった。めちゃくちゃ豪華な装飾がされている、それはそれは大きな浴場だった。個人の風呂と言うよりどう考えても大衆浴場並みの広さがある。シルバーウルフの石像のような口からお湯が出ていた。というか二階まで吹き抜けになっていて、上にはベランダらしきものが見える。
もしかして丸見えじゃね?
そして前をよく見るとアナミスは裸だった。
わ、わわ!
久しぶりに見るアナミスの裸体はそれこそ彫刻のような均整の取れた体だった。俺は思わず目をそらして後ろを振り向く。
後ろにはカララとマリア、ルピアが裸で立っていた。
お、おふっ!
カラカラカラ
別の部屋からはシャーミリアが裸で入ってくる。どうやらこの浴場のお湯を準備したのは彼女らしかった。不敬を働いてすみませんとか言いながら、一緒に風呂に入る気満々じゃん。
「ではお体をお洗いして差し上げます。」
マリアが俺の手を引っ張って洗い場に行く。すると女魔人達もそろりそろりと俺の後ろをついて来る。これからが本当につらいんだよなあ…もう恥ずかしさはだいぶ薄れたんだけど。
俺は差し出された椅子に座った。もちろん自分で洗う事はない、みんながみんなの体を使って俺を洗うのだから。
「お!この石鹸は!?」
俺は石鹸に気が付く。
「ミーシャの石鹸ですね。」
「やっぱいい匂いだよね。」
「はい。」
そしてマリアと魔人達はそれぞれが手に石鹸を持ってブクブクと泡立てている。
いやあ…よく泡立つ石鹸だこと。
「では失礼します。」
マリアの掛け声と共に魔人達も一斉に俺の体に手を伸ばして来た。
はぅ!
つい声を出しそうになるが俺は我慢する。ここで声を出してしまったら魔王の息子がすたる。
あふぅ!
いかんいかん!もう少しで声を出すところだった。それにしても…みんなテクあげてねえか?
もちろんこんなことをされてしまうと、俺のデザートイーグルが世紀末覇者のように拳を天に突き上げていた。
「まあ。」
「あら。」
「すばらしい。」
「立派です。」
「美味しそ…いえ逞しいですわ。」
それぞれが勝手な感想を述べているようだ。俺は既にそれを見られることに慣れているが、あまりにも久しぶりすぎてちょっと恥ずかしさの方が勝っていた。
みんなの手が俺の体を縦横無尽にはい回りピッカピカに磨き上げてくれる。癒されているのか興奮しすぎてるのかよくわからない。
しかもこの洗いの時間が長いんじゃ。
しばらく身を任せていると、パシャっと軽くお湯をかけて俺の体の泡を流してくれた。
「それでは湯船に。」
みんなで俺を湯船に連れて行く。お湯は熱くもぬるくも無く丁度いい加減だった。シャーミリアは風呂を焚くのも上手いらしい。
湯船につかると皆が軽ーく俺の全身を揉んでくれる。
「あー、癒されるわぁー。」
とうとう俺の心の声が出てしまった。
「それは良かったです。」
「みんなも疲れているだろうにありがとうな。」
「ご主人様。私どもが癒されているのでございます。お礼など不要にございます。」
「そうです。私は専属のメイドだったのです。これは当然のお仕事です。」
「あら?マリアお仕事なの?」
「えっ。」
カララのツッコミにマリアが一瞬言葉を詰まらせる。
「いえ、その…。」
「今宵はラウル様を癒す時間よ。そしてゆっくりお話をしましょう。」
アナミスが言う。
「そうですよ!本当に久しぶりにラウル様とこうしていられるのです。この時間を楽しみましょう。」
ルピアが明るく言う。
「ええ。」
マリアが頷く。
そして俺達は風呂につかりながら、思い出やこれからの事を話したりした。
「のぼせて来たな。」
俺が言う。
「それでは上がりましょう。」
マリアが言う。
俺はまた魔人達に連れられて浴場から出るのだった。俺が脱衣所の方に行こうとするとカララが言う。
「この館内には私達しかおりません。」
何を言っているのか分からなかった。
「ラウル様、このままお過ごししましょう。」
アナミスがカララを補足するように言う。
「え、このまま?裸で?」
「はい。」
ファサ
後ろからシャーミリアが俺に何も言わず薄ーいローブを着せてくれる。
「いくら何でもご主人様にそのまま歩けと言うのはいささか不敬よ。」
「ありがとう。ミリアちょっと恥ずかしかったから。」
「お礼など!よろしいのです。」
そして俺はみんなに手を引かれるままに歩いて行く。たどり着いた先はこれまた豪華な寝室だった。これ以上ないくらいバカでかいベッドが二つも並んでいる。
「凄い。」
「はい。」
そして俺達はそのベッドにみんなで腰かけた。
えっと…
座ると同時にマリアが聞いて来る。
「時にラウル様。」
「なんだ?」
「カトリーヌ様とは二人きりで一夜を共にされましたか?」
「いいや、二人で一緒に寝た事なんかないぞ。」
「えっ!」
マリアの言葉と女の魔人達が一斉に息を呑む。
「そ、そうなのですか?」
「ああ、一度も。」
なんとなくみんなのテンションが一段階下がったような気がするが、気のせいだろうか?しかもだいぶ驚いているようにも見える。
「アナミス。」
カララが言う。
「ええ。」
フーッ
アナミスが手のひらをかざして俺の顔に甘ーい吐息を吹きかけて来る。
次の瞬間俺の意識は闇の中へと落ちるのだった。
次話:第387話 魔道具の使い道
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