第381話 3体のデモン出現す ~オージェ視点~
西部の村にいた全ての人々を急遽魔人に作らせた防空壕へと避難させた。避難と言っても全員眠っているので全く記憶は無いはずだった。
村以外に発見した転移魔法陣3カ所にもすでに魔人を配備している。
「ギレザム。魔人に時計の設定の仕方は?」
改めてギレザムに聞く。
「もちろん皆が出来ます。」
ラウルは本当に面白い事をする。魔人に時計の使い方を教えたり車両の運転を広めたりした。ゴブリンやオーガが戦闘車両を運転しているのはなかなかにシュールだった。前世で見た事のある異世界ものと呼ばれるアニメにはそんなものはなかった。
「時計合わせ。マルハチマルマル、サン、二―、イチ!」
ピッ
俺の合図とともに、ギレザムの念話で繋がった全ての魔人が時計の設定をしたところだろう。
「ではこれより作戦行動に移る!マルハチイチマルと同時に魔石を村及び転移魔法陣へ投下!異変が起こったらすぐに知らせろ、敵影を確認したらこちらの指示を待て。」
「伝えます!」
ギレザムが全魔人に伝えてくれたようだった。
「予定時刻!ゴー!ヨン!サン!ニー!イチ投下。」
ギレザム配下のオーガが、その強肩で村に魔力が満タンな魔石を投石する。
「全員伏せろ!」
魔人達が伏せる。他の拠点でも同じことが行われているはずだった。
‥‥‥
村を見ているがしばらくは異変が起きなかった。
「まだ動くなよ。」
俺が指示をすると全員が村に集中する。
「龍神様。先に転移魔法陣が作動したようです。」
ギレザムが報告を入れてくれる。
「状況は?」
「光り輝いてはいるが特に変化は無し。」
「わかった。引き続き不測の事態に備えろ。」
「伝えます。」
どうやら転移魔法陣が先に作動したようだった。現状は特に変化は見られないとのことだ。
「龍神様。転移魔法陣が消滅しました。」
「そうか。転移して来たものはあるか?」
「特にないそうです。」
どうやら転移魔法陣は作動して消えてしまったようだった。あらかじめ見つけて処理が出来たおかげで不測の事態が起きても安全に対処できた。
《敵本拠地から何が送られてくるか分からないからな。さすがラウルのやる事に抜かりはないか。》
「オージェさん。どうやら何か始まったみたいですよ。」
グレースが言う。
視界の先にある村から赤の光と白の光がたちこめ始めた。
「いよいよ始まったか。ギレザム他の村は?」
「ここと同じように赤と白の光がたちこめているようです。」
「全員に臨戦態勢を取らせろ。」
「は!」
いよいよ敵の魔法陣が作動し始めたようだった。
「あの国境で見た魔法陣よりだいぶ小さい気がするな。」
「そのようです。」
「どういうことだ?」
「申し訳ありません。分かりかねます。」
村に発生した魔法陣は国境で見た魔法陣より規模が小さい、あの時は天にも届くような高さまで魔法陣が何重にも出てきていた。目の前の魔法陣は村を覆い隠す程度の大きさだ。
「不発?」
「どうなんでしょう。まともに起動しているようには見えます。」
「オージェさん。やっぱり先に生贄を連れ出したのは正解だったんじゃないですかね?」
グレースが言う。
「どうやらその様だ。それなら生贄無くしてデモンとは召喚できるものなのか?もしくはあの魔法陣にはデモン召喚とは違う作用があるのかもしれんな。」
「デモンならすぐに攻撃を仕掛けますか?」
「少し待て。それとギレザム、俺が行ってもいいんだがな。」
「龍神様は切り札にと、ラウル様より言伝をいただいております。最悪の状況にならない限りは指揮に専念されるようお願いします。」
「わかった。」
先ほどよりはっきりと魔法陣が回り始める。それほど大きくはないようだが村を完全に覆い隠してしまった。確かにあの時見た魔法陣と似ているが規模が小さい。
「禍々しい存在感があるな。」
「そのようです。」
何やらただならぬ気配を感じ取った。あの中心に何かが出現したように思える。
「デモンと言うやつか?」
「恐らくは。」
「出現したか…ここまではラウルの読み通りだが、さてどんな奴がお出ましになったのやら。カトリーヌさんとルフラさんは急な怪我人が出た場合の為に、準備をしていてください。」
「かしこまりました。」
目の前のカトリーヌさんはルフラと言うスライムをまとっているらしい。そのおかげで超人的な動きが出来るのだとか。
《未来のラウルの嫁さん候補だからな。怪我とかさせるわけにはいかんな。》
「龍神様。上空のルピアより報告です。」
「なんだ。」
「どうやら村の中心部に何かが出て来たようです。」
「やっと来たか。他の村はどうだ?」
「同様に何かが出て来たとの事です。」
「どれほどの数か分かるか?」
「はい。それが1体だそうです。」
「一人?」
「はい。」
「逆に危険な香りがする。ここでは感じないが物凄い強さを持ったデモンの可能性があるぞ、全隊に警戒を促してくれ。」
「は!」
俺の周りの魔人達もピリピリしてくる。あの国境で感じた狂暴なデモンの感じはしないが、禍々しい雰囲気は伝わってくる。1体という数が不気味な恐ろしさを感じさせる。
「敵は?」
「あたりをウロウロしているようです。」
「なにをしてくるか分からん。上空監視を怠らないように伝えてくれ。」
「はい!」
村を覆い隠していた多重魔法陣が消え去ると…村は跡形もなく消え去っていた。
「村が消えた…」
「まるでグラドラムの様です。」
「グラドラムでは、こんなことがあったんだ。」
「はい。あの時はインフェルノでしたが、おそらくはインフェルノと何らかの複合魔法なのだと思います。」
「そうか…。」
ラウルに聞いてはいたが、目の前の村人の生活圏が消えてしまったのは痛い。
「各隊120人の魔人がいるが、果たしてそれで抑える事が出来るのか?」
「龍神様。お任せください、私達魔人が必ずデモンを封じ込めて見せましょう。」
ギレザムがイケメンの顔を更にイケメンにしてフッと笑った。
「ふふ。頼りにしている。」
「は!」
ラウルの魔人達は本当に頼もしかった。
《ギレザムなんてこんな綺麗な男なのに魔人達の中でも群を抜いて強いらしいし、フラスリア領ではラウルを見失ったシャーミリアを抑えるのに、結構な怪我をさせられたしな。そしてあのファントム…あれはいったいなんだ。あの時カララが来てくれなかったら結構ヤバかったぞ。》
「いますね。」
グレースが言う。
村の建造物が消え去ってしまった事で、デモンをはっきりと見る事が出来た。
グレースが俺に双眼鏡を渡してくる。双眼鏡を覗いて見ると村の中央辺りで何かがきょろきょろとしているのだが…
「子供?いや…老人か?」
ものすごくひょろひょろして華奢な赤いキャップをかぶった老人が立っていた。
「えっと。村人の逃げ遅れとかじゃないよな。」
「反応は間違いなくデモンです。」
「ああ、確かにそれは俺にも分かるが…。あれが俺達に害をなすかどうかわからん。」
「相手はデモンです。侮れません。」
「そ、そうだな!」
デモンのあまりにもの弱弱しい風貌に俺は驚いていた。痩せて腹がぽっこり出たシミだらけの老人、下半身は毛むくじゃらで赤いキャップからはフワフワながらもまばらな毛が見える。震えているので寒いのかもしれない。
「南の村に出現したデモンはどんな感じか分かるか?」
「小太りで初老の農民の様だと言っております。しかし上半身は裸でシミだらけだとか。」
「北の村のデモンは?」
「小鹿のようなものらしいですが、顔が人間の老人のようでシミだらけだそうです。立ち上がるまでに時間がかかったようですが。」
「そうか。」
どういうことだ?もしかすると攻撃をすれば大ボスに化けると言う事なのか?とにかくこちらから先制攻撃を仕掛けてみるしかなさそうだった。
「ギレザム。」
「は!」
「各隊のダークエルフに狙撃の準備をさせろ。」
「かしこまりました。」
ギレザムに念話で各隊のダークエルフ達に指示を出してもらう。
「準備出来ました。」
「同じ時に撃つ。ギレザムの指示で時間を合わせて攻撃してくれ。」
「かしこまりました。」
俺の少し前にほふく前進で現われたダークエルフが、PGM ヘカートIIスナイパーライフルを構えてデモンに照準を合わせた。ダークエルフはただならぬ雰囲気を醸し出してスコープを覗いている。
ズドン!
バシュ
ダークエルフがヘカートⅡスナイパーライフルから放った弾丸は、見事にデモンのこめかみを撃ち抜いて、その場にひょろひょろのデモンが倒れ込んだ。
「待機!」
俺が言う。
恐らくはここからだろう。デモンの恐ろしさはラウルから嫌と言うほど聞いている。これからどんな恐ろしい反撃をしてくるか分からない。
「‥‥‥」
「‥‥‥」
「‥‥‥」
「‥‥‥」
どれくらい待ったのだろう。俺は時計を見る。
時刻は8:50をさしていた。作戦を開始してからたった40分しか経過していなかった。
「オージェさん。動きませんよ。」
「いやまてグレース。ここからがデモンの恐ろしい所なんだろ?」
「うーん。僕が遭遇したデモンやカオスドラゴンとは全く違う気がしますけど。」
「とにかくこちらの軍に被害を出すわけにいかない警戒を怠らんことだ。」
「それは僕も同感です。」
それからそのままばらく待つが、何も動きはなかった。
「ギレザム。上空から見た感じはどうかな?」
「ルピアに聞いてみます。」
ギレザムがルピアに念話で聞いているようだった。
「龍神様。消えたようです。」
「消えた?デモンが?」
「はい。各部隊からもそのように連絡が。」
「じゃあ俺が直接行って確認をしてくる。」
「いえ、龍神様はここにいてください。我が確認をしてまいります。万が一の場合はよろしくお願いします。」
「わかった。」
ギレザムがシュッと消えてデモンが倒れた場所に現れる。そしてその周辺をウロウロと歩き回りしゃがんで何かを確認しているようだった。
するとギレザムがこちらに向かって、頭の上で丸を作った。
「来ても大丈夫といってます。」
カトリーヌが教えてくれた。
「わかった。全隊!ギレザムの元へ集合。」
みんなが立ち上がってギレザムの元へと行く。建物が一つも無くなった村の中心あたりの地面に、人型の影が一つシミのように焼き付いていた。
「これがデモンの跡?」
「そのようです。」
「気配は完全に無くなったようだけど。」
「はい。」
「他の気配もないね。」
「そのようです。」
「わかった。それではヒトフタマルマルまで周辺を警戒するよう各隊に伝えてくれ。」
「は!」
ギレザムがこの部隊と他の部隊に、近隣の哨戒行動へ移るように指示を出した。
それから3時間。
「変化はありません!」
「そうか。」
どうやらデモンの脅威は消え去ったようだった。
「グレース。どう思う?」
「恐らくですが、生贄が全くいなかったので、ろくな奴が呼べなかったとかじゃないでしょうかね?」
「やっぱそう思う?」
「はい。」
ひとりも生贄が無いとどうやらそう言う事になるらしい。
「それにしても村が消えちゃったな。」
「ですね。」
「想定していた作戦に移るしかないだろうな。」
「そうですよね。」
「だとエミルが大変だ。」
「まあ頑張ってもらいましょう。」
「だな。」
あまりにもあっけなく終わってしまった作戦に、拍子抜けして俺もグレースも思わず吹き出してしまいそうになる。が魔人達の手前笑うのはこらえた。
そしてギレザムが俺の元へ来る。
「それでは他の部隊もすぐに村人を連れだすようにさせますか?」
「そうしてくれ。ラウルは?」
「念話を通じてシャーミリアが言うには、今は御師様の集中を乱さないようにしたいとの事でお待ちください。とのことです。」
「わかった。」
デモンが驚くほど弱かった以外、ほぼほぼラウルが言っていたようになった。制圧するのにかかった武器弾薬はヘカートIIから射出された12.7x99mm 3発だけ。
今回想定外だったのはデモンの非力さだが、これでひとつ分かった事もある。生贄の数によってデモンの強さが変わると言う事だった。ファートリア国内で何体のデモンが召喚されているかは分からないが、強いデモンが生み出された数だけ人の命が失われたという事になる。これ以上犠牲を増やさないためには同様の作戦が必要だろう。
ラウルのこれまでの経験が今回の作戦を成功に導いた。今後ファートリア侵攻をするにあたり更なる情報収集が必須であることも分かった。
俺はラウルの凄さを再確認したのだった。
次話:第382話 魔導鎧訓練の提案
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