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第379話 超複合魔導書

結界の二層までの書庫内で情報を探しているが、ファントムに収納してある魔導書の手がかりは見つからなかった。と言うよりも膨大な量過ぎて、1日で終わるようなものではない事が分かった。


「マリア…ちょっと危険じゃないかな?」


「はい、既に一昼夜やっておりますね。」


「先生…大丈夫かね。」


「見た感じ凄い勢いで本を読み続けておりますね。」


俺はこそこそとマリアと話していた。モーリス先生があまりにも集中しすぎているからだ。戦闘糧食でかるーく食事を摂ったものの、ぶっ通しで閲覧し続けるモーリス先生の集中力は尋常ではなく、書籍を手に取っては速読のように目を通し、本棚に戻すだけの単調な作業を数百回も繰り返している。いや軽く千冊は超えているようにも思えるが、既にどのくらいやっているのかは定かではない。


「マリア、ちょっと先生に声をかけてみるよ。」


「はい。」


俺はモーリス先生のそばに行く。


「先生。」


「‥‥‥」


「先生。」


「‥‥‥」


「先生!」


「‥‥‥」


「せんせい!!!!!」


俺は大声を出した。


「ん?なんじゃ!?」


モーリス先生が手を止めた。


「あの一旦お休みになってはいかがです?」


「なんじゃ?まだ1刻もたっていないのじゃないか?」


「いえ1刻どころか、まるまる一昼夜。昨日始めた時間は既に過ぎて今はお昼です。」


「そうかそんなにやっとったか。」


「お体に障ります。一度地上に上がり休憩を取ってはいかがでしょう?」


「いや!何かがつかめそうなのじゃ。もしおぬしたちが休みたいのならわしを置いて行ってもいいぞ。」


「そういうわけにはいきません。結界を解いたら罠が作動しますので先生が死んでしまいます。」


「…そうじゃった。ではあと1刻(3時間)だけ待ってくれぬか!ここで途切れさせるわけにはいかんのじゃ。」


「わかりました。それでは後1刻だけ。」


27時間くらいぶっ続けでやっているがあと3時間やるそうだ。俺はそのままそばについているが、既にマリアが休みを取っている代わりに、シャーミリアとカララが本を戻す作業をしていた。ラーズが暇を持て余しているのか、ひらけたスペースで体を動かしている。ファントムはモーリス先生の後ろにただ突っ立っていた。いざという時に護衛をするつもりだが微動だにしない。


《モーリス先生は何を掴みかけているんだろうなあ?シャーミリア。》


恒例の念話こそこそ話だ。


《ご主人様。私奴には見当がつきません。》


《カララは何か分かる?》


《私にもよくわかりません。》


《ラーズは暇か?》


《我には難しい事は分かりませんので。》


《それ何してんの?》


ラーズは剣を持ったような姿勢でゆっくりと体を動かしているのだった。ヨガや太極拳でもやっているかのようだ。


《あの剣士たちに教わった精神集中とやらで、我も気を扱えるかどうかを試しています。》


《剣士たち?》


《カーライルと将軍や影衆です。》


《人間のようにか?気って魔人でも使える物なのかな?》


《どうでしょう?今一つ掴みかねている感じです。》


《まあ一朝一夕では身につかないだろうな。彼らも気の遠くなるような修練の末に身につけたものだろうし。》


《そのようです。》


俺達は何をしたらいいのか分からず、こうして先生の邪魔をしないように念話でこそこそ話をしている。本当は先生にいったん中断してもらい、結界を解いてマリアとカララとラーズは外に出そうと思っていたが、つい言いそびれて今に至る。


マリアは体育座りをして少しボーっとしているが仕方がない事だった。彼女は戦闘で狙撃となると何時間でも集中する事が出来るが、緊張しながらずっと本の出し入れをしている作業を見ているのは疲れるはずだ。まあ退屈というわけだ。


それから小一時間。


「なるほど!」


ずーっと黙々と本読みを続けていたモーリス先生が叫ぶ。


頭の上に電球がついてピーンと音が鳴っているようだ。


「どうされました!」


「ラウルよ!あの魔導書を見せてくれぬか?」


「はい!ファントム出せ!」


するとファントムの腹の部分からデカイ魔導書が出て来る。


ズズズズズ


「どうぞ!」


「うむ。」


先生はファントムが出した魔導書を開いてじっと眺めている。どうやら何かヒントをつかんだらしかった。しばらく本を見つめ目を離さないまま沈黙の時間が続く。


「ラウルよ。」


「はい。」


「これは恐らく魔法陣の重ね掛けについて書いてあるものじゃ。」


「魔法陣の重ね掛け?」


「うむ。おぬしらはデモンの召喚で生贄が飲まれるのを見たのじゃったな。その時に魔法陣の重ね掛けを見たと言っておったろう。」


「その通りです。」


「恐らくじゃがこの本1冊が、まるまる一つの魔法の作用について書いてあるようじゃ。」


「この一冊が?この中には10種ほどの魔法陣が書いてあるようですが?」


「うむ。この書庫で見つけた数書の魔導書には、いろいろな魔法陣が書いてあった。水の魔法のあれこれ、火の魔法のあれこれ、土の魔法のあれこれじゃな。魔導書自体も珍しい物なのじゃが、ほとんどが単体魔法陣の事を書いてあったのに対し、この魔導書はおそらくは違うのじゃ。」


「どう違うのですか?」


「ふむ。恐らく文法を考えればこの魔導書は全部が連なっておるようじゃ。普通は水魔法の魔導書なら水魔法のあれこれがひとつずつ書いてあり、それぞれに作用するものが違うのじゃ。しかしこの魔導書だけはどうやら1冊がまるまる連なっていて、どれか一つ欠けても動かんように思える。」


「連なっているんですか?」


「超複合魔導書といったところかの。これ一冊で一つの複雑な魔法じゃよ。」


よくわからないが他の魔導書に関しては単体の魔法陣がいくつも乗っているらしい。それに対しこの魔導書はどうやらこの一冊だけで一つの魔法陣になっているらしい。


「良くそこまで紐解いたものですね。」


「時間がかかってしまったが、この結界2層には魔導書が多かったものでな。これだけでも相当なお宝じゃわい、わしの魔法に新しいレパートリーがいくつも加わりそうなほどにな。」


「それはよかった!先生!是非魔法を増やしてみてはいかがですか?」


「時間があるときにでもさせてもらうよ。それよりも今はこの魔導書じゃろう。」


「そうでした。」


「とにかく大まかな構成は分かりそうなのじゃがな…。」


「はい。」


「この魔導書に記された複合魔法陣が、どのような作用になるのかがまだわからん。」


「そうなのですね…。」


俺が少し残念そうにつぶやいてしまう。


「ラウルよ、そう落胆したものではないぞ。言葉の意味が分からぬだけでこれを構築する事は可能じゃ。じゃがやはりきちんと中身を掌握してからじゃないと危険じゃがな。」


「なるほど、稼働させるのは出来ると言う事ですね。」


「そうじゃな。それからのう、これ一冊が複合魔法陣なので魔導書に魔力を流したところで作動せぬわ。おぬしの武器で言うところの安全装置と言うやつじゃな。」


「そうですか、それは安心しました。」


「うむ。」


どうやらこの魔導書には魔力を流したところで作用しないようだった。10ほどの魔法陣の重ね掛けをした時のみその効果を発揮するらしい。


「しかしこの書庫の魔導書だけでも、モーリス先生の知らない魔法があるなんて拾いものでしたね。」


「そうじゃな。」


「この書物庫には先生と私と、配下の魔人以外は誰も入れないようにしましょう。」


「うむ。よそ者を入れるのは危険じゃな。」


「はい。」


そして俺はファントムに超複合魔導書を返す。ファントムはモーリス先生に背を向けて上から飲み込んだ。キモいのでそうするように教育している。


「ふう。」


ゆらり。


いきなりモーリス先生がふらついたので俺が支える。


「先生!大丈夫ですか?」


「ちょっと疲れたようじゃな。」


「とにかく地上に出て休みましょう。結界は解けますか?」


「ラウルの魔力があるのでわしは解析するだけじゃ。」


「それはよかった。ラーズ!」


「は!」


俺達の元へラーズが来る。


「先生は歩けない。地上へお連れするから頼む。」


「は!」


ラーズがモーリス先生をお姫様抱っこした。


「おお…なんじゃ!恥ずかしいわい。わしゃ歩けるぞい!」


「いえ!先生大事なお体です。このまま地上へ。」


「なら!せめておんぶにしておくれ!頼む!冒険者になぞ見られたら!」


以外にそういうところは気にするらしい。


「ラーズ!」


「は!」


ラーズがモーリス先生をおんぶする。


「とりあえず結界の所へ、マリア!先生の杖をお持ちしてくれ。」


「ここに。」


マリアが既に先生の杖を持ってそばに立っていた。


「行こう。」


俺が先生に魔力を注ぎこみ、先生が杖で結界を解除する。全員が出たらまた結界を発動させて入口へ。


そして俺達は地上に出てきた。


「まぶしいですね。」


「そうじゃな。今はどのくらいの時間じゃ?」


「すでに日にちは過ぎております。まる1日と数刻といったところですね。」


「途中で皆を外に出してやればよかったのう。精神力が途切れてしまうと見失いそうじゃったので、つい集中してしまった。」


「いえ、そのおかげでこの魔導書のからくりがわかりましたから。」


「あとはその内容と言ったところじゃな。」


「ええ、ただし数日はお休みしましょう。先生の体力がかなり低下しているようです。」


「そんなでもないぞい。」


俺はカララを見る。


「御師様。かなり心拍も弱りお疲れの様ですわ、一度ゆっくり休まれてはいかがでしょう。」


カララが言う。


「わ、わかった。そなたのように美しい女性から言われてしまうと従ってしまうわい。」


「よかったですわ。」


カララがニッコリと微笑み返す。


「とりあえずナスタリア邸にでも行きますか?」


「いや、わしは王城で良いぞ。」


「半壊しておりますし危険では?」


「不思議と考え事をするのにいい場所を見つけたのじゃ。」


「そうなのですか?」


「礼拝堂じゃ。」


「そんな場所が残っていたのですね。」


「あそこなら考え事をするにいいのじゃよ。何と言ってもラウルの車のように涼しいのじゃ。」


「なるほど。それではみんなでそこにまいりましょう。」


「すまぬな。あともう一つわがままを言ってもいいかの?」


「もちろんです。」


「礼拝堂に…ベッドを持ってきてくれんかの?」


「わかりました。ラーズ!戻ったら他の部屋からベッドを持ってきてくれ。」


「は!」


俺達が半壊した城に入り奥に進んで礼拝堂に来た。


「本当だ。ひんやりしていて気持ちいいですね。」


「そうじゃろ!本来ここを自分の部屋代わりにするなど罰当たりじゃが、どうせ誰も住んでおらんのだし、わしゃここで寝泊まりをしとる。」


「わかりました。それでは私の我儘も聞いてもらいます。」


「なんじゃラウル。」


「先生には10人の護衛をつけさせていただきます。もちろん先生の集中の邪魔になるような事は致しません。しかし先生は人類の為に無くてはならない人なのです、何かがあってからでは遅い。私の系譜に入った配下でなければ護衛は任せられません。」


「ふむ。それじゃあお願いするとしようかのう。」


「よかった。じゃあラーズ!お前が責任をもって先生の護衛に付くように。」


「は!命に代えても。」


「なにかヤバい事があったら先生ごと連れて逃げてくれ。」


「わかりました。」


よし!これで先生を失うことなない。


この書庫での1日の出来事でよくわかった。この人は大天才というやつだ、人々が大賢者と言う理由がよくわかる。いろいろな謎を解くうえでも居てもらわなければ困る人だ。


「それではこちらに食事をお運びいたしますね。」


マリアが言う。


「頼むマリア。シャーミリアとカララも手伝ってくれ。」


「かしこまりました。」

「はい。」


マリアとシャーミリア、カララが礼拝堂を出ていく。


「ラーズ!先生のベッドを運んだ後にもう一仕事だ。お前の見立てで護衛能力が高い部下を10人連れてこい。」


「御意。」


ラーズも礼拝堂を出て行った。


俺とファントムがその場に残る。ヴァルキリーは王城には入れていない、ここに入って来た時の入り口の外に立っているはずだった。


しかしこの魔導書に書かれた超複合魔法を発動させるとどうなるのか?


そこに何らかの謎が隠されている事は間違いなさそうだった。


《ラウル様!》


作戦行動中のギレザムから連絡が入る。


《どうしたギル!》


《作戦は次の段階へと進みます。》


《おお!成功したか!》


《はい。あとは村人たちをどうするかですが。》


《何があった?》


《3つの村の村人は全て生きていますが、村が消滅してしまいました。》


《そうか…。ならばあらかじめ決めていた作戦に移れ。》


《かしこまりました。龍神様にお伝えします。》


《よろしくたのむ。》


作戦はおおむね想定通りに進んだらしかったが、しかしやはり村は消滅してしまった。


部隊には次の指示をし新たなフェーズへと進むのだった。

次話:第380話 精神操作誘導 ーオージェ視点ー


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