第38話 泥棒貴族
ゾンビを掃討したオーガ3人衆の後ろについて村の中にさらに進む。
どうやらもうゾンビはいないらしかった。
「ギル!生きてる馬が町の中に2頭ぐらいいるみたいだよ。臭いがするけど・・どうする?」
ゴーグ君がギレザムに馬の臭いがすると言っている。馬はゾンビにならなかったようだ。
「そうだな・・じゃあゴーグが連れてきてくれるか?」
「いいけど、馬が俺の言うこと聞くかな?」
「ライカンの血が流れているから馬から怖がられるかもしれんな・・」
ふたりのオーガが話し合っていた。人間がいなくなって放置されてしまった馬を助けようとしてるのかな?
「それでは私を連れて行ってください。」
ミーシャが名乗り出た。
「じゃあ俺についてきてくれよ!馬をひいてくれると助かる!」
「あの?私も行きます。」
ミゼッタも一緒について行くという。臆病なミゼッタが自分から名乗り出るのはめずらしいな・・
ゴーグ君とミーシャとミゼッタが3人で行くというので、俺達はその場で待っている事にした。
「ギレザムさんたちは凄く強いんですね。」
俺はギレザムに話しかけてみる。
「はい!アルガル・・いえ、ラウル様!私たちはガルドジン様の配下でも力のある方だと思います。」
「屍人相手にあんなに戦えるなんてすごいです。」
「ああ、屍人なんて相手になりません。当然です!」
うわあ・・心強いわあ。こんな部下がいっぱいいるんだろうか?俺の本当のとーちゃんは。
「魔人の人がこんなに人間に優しいと思いませんでした。」
「ああ、それはガルドジン様の方針ですので我々はそれに従っています。」
「本来は違うのでしょうか?」
「ガルドジン様と敵対する魔人の勢力は人間とは相容れません。」
「そうなんですね・・」
そりゃ俺は人間みたいに生まれてきちゃったんだから相手勢力に殺されそうになるよね。
「我がラウル様がたを見つけられたのは本当に運がよかったです。」
「どうしてですか?」
「我々はラシュタルに向かっておりました。もしかするとそちらに逃げているのではないかと思いまして、しかし偶然にもこちら迄来てくださっていた。本当によかったです。」
「僕たちがギレザムさんと接触しなかったら、この村で死んでいたでしょうね。」
「そんなことになれば、ガルドジン様に合わせる顔がなかったです。」
《本当によかった。俺たちは今頃この町でゾンビになって徘徊していたところだった・・》
俺達が話しているとゴーグとミーシャ、ミゼッタの3人が馬を連れて帰ってきた。馬は農耕用の逞しい馬だったが少しやせている気がする・・きっとエサが無くなっていたのだろう。
「つれてきたよ!」
ゴーグが無邪気に言う。
「どちらの馬も元気そうです。ただ・・餌と水が足りないようですね。」
とミーシャが話している。
とりあえず全員で市場に向かう事にする。
食べ物の腐ったようなにおいの原因は市場で売っていた魚と肉だった。まだ見た目はそうでもないようだが完全に腐っている。数日は外に置きっぱなしだったのだろう。
「たまねぎやジャガイモ、ニンジンは食べられそうね?」
イオナが冷静に根菜類を手に取って言っている。
《根菜類はそうそう腐るもんじゃないしな、そりゃまだ大丈夫だろうね。》
「馬も弱っているようですし、ここの根菜類を少しあげましょう。」
動物好きのイオナが提案をする。
するとギレザムがイオナをそそのかしはじめる・・
「イオナ様!屍人はもういません。少しと言わずに食べ物は好きなだけ持っていきましょう!」
え?このイケメン何言っちゃてんの??そんな火事場泥棒みたいなことを!?
「いやいやいや母さん。そんなことは盗賊のする事ですよね?」
とりあえず俺にもモラルくらいはある!ダメなことはダメと言おう。
「いえ!なにをおっしゃってるのですか?ラウル様!これは我々が屍人を倒して手に入れた戦利品ですよ?」
するとギレザムが俺に力説し始めた。
俺は納得がいかない。
「戦利品って・・彼らはもと人間ではないですか?」
「それが?どうかしましたか?屍人ですよ?」
「それはそうですが、呪いをかけられた屍人だといいましたよね?」
「ラウル様!呪われた死体でも屍人は屍人ですモンスターです。自然に魔力を吸った屍人と変わりませんよ。」
「いやーこうなったのも、なにか不幸な事故かもしれませんし、屍人になりたくてなったんじゃないかもしれませんよ。」
「ラウル様、我にはラウル様が何を言っているのかよくわかりません。あの屍人どもはラウル様達に手を下そうとしたのですよ!そして我々はあの化け物に勝った。当然の戦利品かと思います。」
「戦利品って・・でも相手は元人間ですし・・」
「はい、でも今はモンスターでその後みじん切りにしました。」
「モンスターですか?」
「そうモンスターです。というよりこのままここに食べ物を放置したら腐るだけです。放っておけば森から魔獣を呼び寄せます。食べられる物は持ち帰って食べてやらねばなりませんぞ!」
「ということは・・?食べれるものを取った後で焼き払った方がいいってことでしょうか?」
「腐ったものはほとんどそうしたほうがよろしいかと・・」
ギレザムの正論っぽい意見に、俺が言い返す事ができなくなってしまった。
その時だった。イオナお母様から正義のひとこと!!
「そうね、誰も生きてる人いないんだし。ラウル、マリア、ミーシャ、ミゼッタ!袋を探して詰められるだけ詰めましょう!」
イオナもそっち側か〜い!!イオナがはっきりと元気よく俺たちに指示をだした!
うーむ、納得がいかない。とにかく止めなくては・・そうだ食べられないかもしれない!
「毒は・・毒とかないですかね?」
俺はあまりに短絡的に食べ物を持っていこうとするイオナにクギをさした。するとゴーグがあっさりそれを打ち消した。
「毒はないです。まったく臭いがしません。」
クンカクンカと鼻をならして臭いをかいでいる。
「そんなことまで分かるんですか?」
「それはそうですだって彼はライカンの・・」
ギルサムがいうところだったので、俺は彼の言う事を遮る。
「ハーフでしたね。」
俺は納得した。ライカンである狼男の鼻であればそれくらいかぎ分けられるだろうと。
「ラウル様それでは馬車をひいてきましょう。私が村の入り口まで護衛いたします。」
黒のガザムが進言してくる。
なんだよなんだよ!みんなモラルねーのかよ!なんか抵抗あんだろ!
結局・・
俺とミーシャがガザムに連れられて村の入り口に行って馬車をとって戻る事になった。戻ってくるとイオナとマリア、ミゼッタだけでなく、ギレザムとゴーグも一緒になってパンパンになった頭陀袋を並べて待っていた。
「じゃあ積み込みましょう!」
「ええ?こんなにいっぱいですか?市場でも開くんですか?」
「食べ物はあればあっただけ困りませんよ!ラウル様!」
ギレザムがさわやかな声でいう。オーガ達は袋をひょいひょいと馬車に積んでいく。仕方がないので、おれも一緒になって手伝った、なるほどそんなに重くはないか・・とマリアとミーシャを見てみると、「よいしょ!」と言いながら重そうに担いでいた。
「我が運びますゆえおいておいてください!」
イケメンなギレザムがふたりに声をかけていた。積み込み終わってギレザムが言う。
「では魔獣を呼び寄せる臭いを発するものや、魔獣が食べるようなものを1ヵ所に集めますゆえそこでお待ちください。」
オーガ3人衆は屋台の台ごと!バキバキバキバキ!と持ち上げて一か所に集めだす。
ええっ?なにこのオーガ達の力!重機・・ユンボみたい。すっげええ。
あっというまに、広場に集められた。
「それでは私が火を放ちます。」
マリアが木の中心に火を放った。めらめらと燃えだしどんどん炎が大きくなっていく。急にキャンプファイアーのようになりあたりを照らした。
「火魔法ですか?」
ガザムがマリアに聞く。
「ええ、小さい物しか使えませんが・・」
「魔人には魔法は使えませんので。魔獣や龍人には火をはくものはいますが、火魔法はあまりみないため珍しいのです。マリアさんは、この散らばってしまった屍人の残骸も焼けますか?」
「それほどは魔力が持ちません」
「そうですか。」
マリアとガザムの会話が終わってしまった。
「あの?焼いた方がいいんですか?」
と俺がガザムに聞いてみた。
「はい、この屍人は呪いでなったもの達でございます。これらを普通の動物が食べてしまえば疫病などが広がるかもしれません。一つ一つ潰した方がいいのです。」
「わかりました。」
俺は馬車にM9火炎放射器を取りに行く。
「では一つ一つ焼いて行きます!」
ボワァァァアア、ボシュゥワァァァ!
しらみつぶしに焼き始めると、ギレザムが近づいてきて聞かれる。
「ラウル様その炎は魔法ですか!?」
驚いているようだった。
「いいえ、こういう武器です。」
「武器ですか・・すごいものですな。」
「あ、これならギレザムさんも使えますよ。」
「やってみてもよろしいですか?」
ボシュゥワァァァ!
「おお!」
するとガザムとゴーグが近づいてくる。
「ギル!それは・・いったいなんだい?」
「ラウル様が渡してくださった武器だ。」
「私もやってみてよろしいですか?」
ガザムが言うとゴーグもやって見たそうに見ている。
「あっではちょっと待ってください。」
俺は3人の前にM9火炎放射器を2つ召喚した。
「「!!!!!」」
「これを使ってみてください。」
「いや、ラウル様これ・・いまどうやって出したんだい?」
ゴーグがビックリしたように聞いてくる。
「実はこれが僕の魔法なんです。これしか使えないんですがこういう”武器”が出せます。」
「すごい!」
「私もやってみていいですか?」
「どうぞどうぞ。」
ふたりは背中にタンクを担ぎ、俺からやり方を教えてもらうとボワァァァァとやり始めた。
「すげぇや!」
「これは・・・なんという・・」
ゴーグとガザムも感動している。しばらくしらみつぶしに屍人の残骸をもやした。
すべて焼き終わるとゴーグが話し出した。
「ギル!この町にはもう生きてるものは誰もいないよ、屍人もいなくなったしね。だったら人間には休みが必要だろう?どっかで休んだらいいんじゃないか?」
「それもそうだな。」
ギレザムが話しだすとイオナがまざった。
「お風呂がある所ならうれしいわね。」
するとゴーグが鼻をくんかくんか鳴らして言う。
「ここは・・温泉が出ているんだけどね。あっちから臭いがするよ。」
「じゃあそこにしましょ!」
イオナさん貴族のプライドとか矜持とかそういう感じのものなくなっちゃった!?
結局俺は負けた。世間に・・いや泥棒貴族に。生きる強さってこういう事かな?
てか急ぐんじゃなかったのかよ。
みんなで馬車に乗り、あとの2頭の馬をつれてゴーグの示すところまで行って見ると、そこには大きな屋敷があった。
「町長さんか誰かの家かしらね?だいぶ大きいわ。」
するとギレザムがイオナに答える。
「この町は温泉がある為、人間があつまるんですよ。我々も初めて入りましたゆえ良くはわからないのですが、さきほどの市場もこんな小さい村にしては食材が豊富でした。」
「そうだったわね。」
鍵は開いているのでとにかく中に入ってみることにした。
「私が一晩中、馬車を見張ります。」
ガザムが馬車の外に立っていう。
「まかせた。」
ギレザムがガザムに馬車の見張りを任せるという。
「あの?ガザムさんは寝なくていいんですか?」
「ああ、我々は数日寝なくても大丈夫ですよ。」
「そうなんですか?」
「ええ人間とは違うのですよ。魔人は人間のように毎日は寝ません。」
やぱり・・魔人と人間はいろいろと違うようだ。
「じゃあ桶に水をはって馬たちに水をやりましょう!」
イオナは馬が気になっていたようだ。するとゴーグが走り去ってすぐに戻ってきた。
担いできたのはデカイ酒樽だった・・・
「それでは・・」
イオナが手をかざして手が光り始める。
ザバァッ
と桶に水が注がれ馬が水を飲み始めた。それを見たイオナは満足げに建物に向かって歩き出した。
建物の中に入ってみるとそれほど豪華とは言えないが、綺麗な室内には簡単な調度品なども飾られ休憩所のようになっていた。
「ここは・・共同浴場かしらね?」
「そのようですな。」
イオナとギレザムはすっかり知り合いみたいに会話をしていた。さっき大量のゾンビと戦ったばかりなのに、イオナさんすっかり逞しくなっちゃって。
「あ、あの?奥様。お金も払わずに・・勝手に入っていいのでしょうか?」
ミゼッタが恐る恐るといった感じで聞いてくる。
「うーん、私もきちんとお支払いしたいのだけれど払う相手がいませんわ。仕方ないわミゼッタちゃん。」
「はい。」
ミゼッタが困ったような顔で言う。
「ミゼッタ。母さんはもう・・変わってしまったんだ。君の言う事は正しいけどこの際・・母さんの言うとおりにしましょう。」
「はい・・」
イオナは既に俺たちの会話なんか聞いていないようだった。いろいろと室内を見渡している。
「では奥に行って見ましょう。」
さらに屋敷の奥に入っていく事にした。
「ここね。」
イオナが立ち止まるとそこは共同浴場だった。
「イオナ様それでは我とゴーグで見張りますゆえごゆるりと。」
「ギルじゃあ、俺は外を見張るよ!」と言ってゴーグが消えるようにいなくなった。
「それではみなさんお風呂にはいりますわよ。」イオナが言う。
「あ・・それとイオナ様。皆様はどうして冒険者の格好などしておられるのです?」
ギレザムがイオナに尋ねてみた。
「ええ、ドレスとメイド服は証拠になるといけませんので、捨てずに馬車の中に積み込んできましたが、追手に正体がばれてないように変装していますのよ。」
「なるほど!そう言う事でございましたか。なればもう気になさることは無い。これより先は元の服装に着替えていただいてよろしいですよ。我々が守りますゆえ。」
「え、私たちはそのままで結構ですが??」
イオナは今までの格好でいいという。
「そうですか・・冒険者の怨恨がこもった服ゆえ嫌かと思われましたもので・・」
「えっ?そういうものが見えるんですの??」
「はい、服に憑いたものが漂っておりますゆえ。」
「「「・・・・・・」」」
イオナ、マリア、ミーシャが黙り込む。そして、
「すぐに着るのを止めますわ!」
「私もメイド服に戻します!」
「私も!嫌ですぅ!メイド服に戻ります!」
イオナとマリア、ミーシャも怨念のようなものは怖いようだ。というか気持ち悪いのかな?そりゃそうだな俺だったら嫌だもん。
というわけで風呂からあがったら、イオナはドレス、マリアとミーシャはメイド服に戻るようだ。
それから俺たち一行は風呂に入っていく。
風呂には貸し出し用のタオルが置いてあった。本当はお金を払わなければいけないのだが、払う相手がいないのでそのまま使わせてもらう事にする。
そして俺たちは脱衣所に行って服を脱ぎ始めた。脱ぐとやはり妊婦のイオナのお腹は出てきているな。ちゃんと食べさせないとダメだなと思う。
「あら?お腹が気になるの?ラウル。」
「僕の兄弟元気かなとおもいまして・・」
「まだ動いてないみたいね。」
「そうなんですね。」
「触ってごらんなさい。」
イオナに言われお腹に手を当ててみる。少し・・はっているみたいだ。この村で休めて良かったかもしれない。しかし俺の弟か妹は必死にしがみついている!えらいぞ!!
「ラウル様も待ち遠しいですね。」
服を脱いだマリアが声をかけてくる。
というか・・俺が8才の小さい子供だと思って全く隠すそぶりがない。ドカン!とデカイおっぱいが目に飛び込んで来た!そのまま目線を下におろすとさらに刺激的なスタイルが目に飛び込んでくる。
俺は慌てて目をそらした!そらした先にはミーシャが全裸で立っていた。
もうミーシャも15才だ体つきも大人になりつつある。出るところは出ているし、フワフワとした何かが俺の目に飛び込んでくる!!うわああと思い、更に目をそらして後ろを振り向くと
・・ツルペタがいた。やっと見ても動揺しないのがいた。子供には興味が無い。
「僕は先に入ってますよ!」
とあわてて浴場に入っていく。広い浴場はかけ流しになっているようで、あったかそうなお湯が湯船にはってあった。
体を洗ってお湯に浸かってみる。
「うはぁああぁぁ」
気ン持ちいいいい。やっぱ風呂はいいなあ。
すると皆が入ってくる。それぞれに体を洗い湯船につかる。
《えっと・・・なんで隠さない??》
・・・しまった、リラックスしたら俺のスーパーマグナムが拳を空にあげた。
我が人生に一片の悔いなし
俺はまた・・鼻血を出しながらクラクラしてしまうのだった。
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