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第373話 真夜中の王都

ブッシュマスター装甲車の上に設置したサーチライトで市壁を照らし出している。俺達がユークリット王都に到着したのはすでに深夜だった。ライトの光の中にはラーズ以下魔人達50名ほどがずらりと並び俺達を出迎える。


ユークリット王都の外側はすでに城壁が完成していたようだ。俺が増援部隊の魔人1000人を送りこんでいたおかげで復興がだいぶ早まったのだろう。冒険者たち人間だけだったなら、まだほとんど崩壊したままの状態だったはずだ。


「ラウル様!ようこそお戻りくださいました!」


「ああラーズ。よくここまで復活させたね。」


「ラウル様が大型の魔人を大量投入してくださったおかげです。」


「門も凄く立派な作りだけどドワーフとかもいるの?」


「はいラウル様の事を考えたバルムスがドワーフ達を送り込んできました。やはりラウル様の第二の故郷であるこの王都は立派にすべきだとの考えのようです。」


「気遣いありがたいな。バルムスには礼を言っておくよ。」


「はは、あやつもきっと喜びましょう。」


「先にエミルに連れられてシン国の人たちが来てると思うんだけど。」


「はい、既に彼らは我々の復興作業に興味を持たれており、あちこちで手伝いをしてくれておるようです。今は既に寝所にいるかと思われますが。」


「到着早々か…マキタカさんらしいな。」


「それでは都市の中へ。」


「ああ。それで俺の大切な客人が一緒に来ているんだ。荷馬車を誰かに任せたいんだが。」


「は!お前達!」


「はい!」


ダークエルフ2人と竜人そしてゴブリン数名が、荷馬車に行ってサナリアから来た人から馬の手綱を受け取る。


「じゃあハリスさん達は私について来てくださいますか?」


「は、はい。わかりました。」


ハリスやマーカスと町人たちは、この立派な城壁の迫力とラーズ以下魔人達の迫力にかなり萎縮してしまっている。そりゃそうだラーズはみため普通のおっさんだが、その後ろに控えるのは大型の魔人達だ。サナリアにもいたとは思うがあそこはウルド率いるダークエルフが主だ、この暗闇に浮かび上がるライカンやオーガそしてオーク達は恐怖以外の何者でもないだろう。門にも門番としてオーガやオークが数名待機しているようだった。その中には人間の冒険者もいるようで、剣士や魔法使いがちらほら見える。


「お疲れ様。」


俺が門番の人たちに手を振る。


「ラウル様!ようこそおいでくださいました!」


門番のオーガの一人が礼をする。すると魔人が次々深々と礼をしてくれた。


「モーリス司令!」


剣士のおっさんたちと魔法使いがモーリスの所へと寄ってくる。


「遅くにすまんのう。ちょっとばかしファートリア神聖国国境の基地に行ってきたのじゃよ。」


「ええ、聞いておりますが、もう帰っていらっしゃったのですか?」


「そうじゃよ。ラウルの力でひとっ飛びじゃった。帰りも快適でのう、楽な旅じゃったわ。」


「本当にファートリアに行って戻って来たのですね。こんなにも早く…凄いな…。」


馬車や早馬のスピードではこんなに早く戻っては来れないだろうから、冒険者たちが驚くのも無理はない。


「それで、サナリアからのお客さんがおる。彼らを通してやってくれるかの?」


「もちろんでございます。モーリス司令のお知り合いとあれば通さぬわけにまいりますまい。」


「ふぉっふぉっふぉ。と言う事じゃからみなさん遠慮なく入るのじゃ。」


「はい!失礼します。」

「ありがとうございます。」


ハリスとマーカスはペコペコしながら入っていく。偉大なモーリス先生の知り合いと言う事で、冒険者にも委縮してしまっているのかもしれない。


「いやいや、ハリスさん。私の最上級の来賓なのですから堂々としてくださって良いのですよ。」


俺が言う。


「ふむ。そうじゃなハリスさんや、魔王子がそう言うのじゃから気を使う事もありますまい。」


「私などただの一般人ですから。」


「いえハリスさんはもはや一般人などではありませんよ。ハリスさんはエミルのお父上なのですから。」


「それはそうですが…」


「ラーズ!」


「は!」


俺がラーズに声をかけると、どこからともなくドレスアップしたサキュバスやハルピュイア達が近づいて来る。俺が指示をしていた、彼らをおもてなしをしてくれる部隊だ。


「お前達!最も大切な俺のお客様だ。丁重に頼むぞ。」


「はいラウル様。承りました。」


サキュバスの一人がしなやかに俺に頭を下げて、ハリスやマーカスと町人に向かって手招きをする。


「それではお客様こちらへどうぞ。」


「くれぐれも良い部屋を頼むぞ。」


俺が念を押す。


「はいラウル様。」


「それではハリスさん、マーカスさん。町人の皆さんもひとまずお休みになってください。配下達が皆様をご案内いたします。」


「ありがとうございます。」


飛び切り妖艶なサキュバスの美女に誘われるがままに、ハリスとマーカスと町人たちが都市内に入っていく。俺達はハリスとマーカスと町人たちを見送った。


「ラウル様。」


「どうしたラーズ。」


「あちらのお車はどうされますか?」


俺達が乗って来たブッシュマスター装甲車を指さす。


「ああ、あれね。もう燃料が無くなったから、しばらくは固定砲台として使っていいよ。」


「かしこまりました。それではそのように致します。」


「27日で消えるからそのつもりで管理してくれ。」


「は!心得ております。」


「よろ。」


「じゃあお前達、ラウル様の乗ってこられた車を門の側面に寄せろ!」


ラーズが部下達に向かって言う。


「は!」


若いオーガとオークがラーズの指示で車の方に駆け足で向かって行く。いつの間にか凄く組織化されているようだった。ラーズはものすごく真面目だし、ちょっと体育会系だから軍曹的な役割がとても似合う。


門をくぐってみるとその城壁はだいぶ分厚い事がわかった。あのネビロスとか言うデモンや、呼び出された屍人軍団とカースドラゴン2頭に、跡形もなく粉砕されたのが嘘のようだ。かなり立派な城壁が出来上がっていた。


「凄く分厚い壁じゃろ?」


「ええ、先生。まるで洞窟のように声が響きますね。」


「わしも驚いたんじゃよ。ちょっとひんやりして気持ちがええし。」


「風通しも良いようです。」


「ラウル様。この城壁はドワーフの設計の元に風通しが良くなるようになっております。更に以前あった城壁とは比べ物にならないほどの強度となっております。グラドラムの研究部隊が作った薬品が練り込まれているのだとか。」


「デイジーさん達も頑張ってんだな。」


「なーに。あの婆さんのことだ頑張ってなどおらぬよ。きっと面白半分にいろいろ実験したらたまたま出来たに違いないわい。」


モーリス先生が言う。


今頃グラドラムでデイジーさんがくしゃみをしている頃だろう。


「してラウル様。先ほどからついてこられているこちらの方ですが。ガルドジン様でしょうか?にしては気配がないので違うかとは思うのですが。」


ラーズが魔導鎧ヴァルキリーを見て聞いて来る。


「ああこれは俺の鎧だよ。中身は入ってないし自動で俺について来るようになってる。」


「自動?えっとこれは魔人国洞窟の最下層にあった物ではないですか?」


「あ、知ってるの?」


「ガルドジン様のものと認識しておりましたが。」


「これ受け継いだんだよ。」


「なんと…おめでとうございます。と言う事はルゼミア王への約束を?」


「約束?」


「次期王としての誓いなどは?」


「ないよ。ただ貰ったんだ。」


「ははは、ガルドジン様らしい。まあそんなところでしょうな。」


「父さんが大事に使えってさ。」


「それはよかったです。ただ、なぜ自動で歩くのです?これにはそのような機能はついておらなかったように思います。」


「ちょっといろいろあってな、これは俺の分体となった。」


「分体?でございますか?」


「ああ、ラーズは知らないかもしれないけど、実は俺も良く知らない。」


「なんじゃそれは!」


モーリス先生がツッコみを入れる。


「左様でございますか。まあラウル様の盾になるのであれば喜ばしい事です。」


「こいつは本当に凄いんだ。」


「ラウル様の魔力量と相まって使うとなれば察しはつきます。」


「知ってるんだ?」


「昔ガルドジン様から少し聞いただけですが。」


「そうだったんだ。」


「ささ、とにかくお疲れでしょうから中へ。」


「ラーズ。俺はそんなに疲れてはいないんだ。それよりカゲヨシ将軍とサイナス枢機卿たちに会いたいな。」


「恐らく今の時間はすでに眠られていらっしゃるかもしれません。」


「それもそうか。」


俺の腕時計の時間は午前2:00を示していた。こんな深夜に起こしたら申し訳ない。


「しかしながら、カーライルはまだ起きている可能性があります。」


ラーズが言う。


「カーライルが?」


「夜戦の訓練をしておる頃でしょう。」


「夜戦の訓練?」


「王都の城壁外に魔人軍訓練場を作ったのですが、そこで魔人相手に夜戦訓練をしております。あやつはなかなかに面白いですよ。」


ラーズが物凄く人懐っこくて図太い笑みを浮かべた。いぶし銀の軍人のように見えるおっさんだがどこか迫力がある。本当はオークだなんて誰も分からないだろう。


「見たい。」


「ラウル様。お休みにならなくてもいいのですか?」


「別に疲れてない。」


「ラウルよ!わしも見たいのう。奴が何かやっとったのは知っとるが見たことが無いのじゃ。」


「お疲れではないですか?」


「なーに先ほどまで車の中でぐーすか眠っとったからのう。まったく眠くないわ。」


「えっとマリアは休んでいいぞ。俺と交代しながらと言ってもかなり運転で疲れたろ。」


「いえ、私も興味がございます。魔人との夜戦訓練だなんて参考になりそうです。」


マリアの目がきらりと光る。


「そっか。じゃあラーズ!その訓練場へと俺達を連れて行ってくれるか?」


「わかりました。」


「どこにあるんだ?」


「町を突っ切りまして西門を出た先5キロほどの所です。」


「えっと、町だけでも10キロくらいあるよね…そして5キロ、15キロか。」


俺はモーリス先生とマリアを見る。さすがにここまでの旅路で全く疲れていないわけがない。そこで再度車両を用意して車で移動する事にした。


よ!


ドン


俺は両手を突き出してまたブッシュマスター装甲車を召喚した。


「じゃ乗っていきましょう。」


俺が運転席に座り助手席にラーズが座りこむ。後部座席にモーリス先生、シャーミリアとファントム、カララとマリアが搭乗した。


「ユークリット王都は広いですからね。さすがにここからまた3時間も歩くのは辛いでしょうから。」


「ふぉっふぉっふぉ。ラウルは分かっておるのう、一瞬明日でもいいかなと思っとったところじゃ。」


「ですよね。」


俺はブッシュマスター装甲車を走らせ始めた。


「ラーズ、なるべく冒険者の人たちが住んでいない通路を案内してくれ。」


「かしこまりました。」


俺の車の音で起こしたら申し訳ない。


ヴァルキリーもブッシュマスターの後ろを走ってついて来ていた。もちろん彼は一切疲労などしていない。


暗くてよくわからないが、あれだけ破壊の限りを尽くされた街並みがかなり復興してきたようだった。普通に建物がたくさん建っている、魔人の建設チートには本当に驚かされる。


「以前の王都の街並みとは少し違うのかな?」


助手席のラーズに聞く。


「はい。なんというか装飾は少なく合理的な作りになっているようです。」


なんとなく想像はつく。恐らくはグラドラムのあの雰囲気になっているのだろう。


街中を抜けて反対側の城壁に近づいて来た。さきほど街に到着した時、東門は俺が到着するためにたくさんの護衛が立って待ち構えていたが、西門には魔人が二人いるだけだった。


ラーズが車を降りて魔人達に言うと、二人の魔人はとてつもなく大きな二つの扉を観音開きに開けてくれた。


「あの扉を一人で動かすのじゃからな。」


「オークですね。オークって力あるんですよね。」


「人外のな。」


「はい。」


ラーズが助手席に戻って来たので、俺は再び車を走らせる。門番の二人は俺に深々と礼をしていた。俺達が門をくぐって都市を出ると後ろで門が閉まっていく。


それから5分もしないうちにラーズが言う。


「訓練場です。」


辺りには光も無く真っ暗だった。ブッシュマスターのヘッドライトで前方が照らされているが、灯りを消せばほとんど何も見えない闇になるだろう。


「せっかく夜戦訓練してるんだしライト消して歩いて行きましょう。」


「そうじゃのう。じゃが全く見えなくなりそうじゃが。」


「大丈夫です。」


俺は暗視双眼ゴーグルENVG-Bとヘルメットセットを3つ召喚した。モーリス先生にかぶせてやり電源をつけてやる。


「おお!こりゃ凄いわい。」


暗視ゴーグルで見えるようになったらしい。


「マリアはつけ方わかるな。」


「はい。」


俺は手渡しでマリアにセットを渡すとさっさと取り付けてしまった。


「じゃあ行くぞ。」


俺達はブッシュマスターを降りて演習場へと向かう。


キン


シュバ


演習場の外にも金属がぶつかるような音が聞こえて来た。魔人達が戦闘訓練をしているようだった。


「ミリア。わかるか?」


「魔人10人と、忘れもしないあのバカの気配です。」


シャーミリアは言い寄ってくるカーライルが苦手だった。おかげでカーライルの呼び名がバカになってしまっている。


「実は観戦席があるのです。」


ラーズが言う。


「そこに行こう。」


俺達は真っ暗闇の中をラーズについて観戦席へと歩いて行くのだった。

次話:第374話 鬼神の如きカーライル


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引き続きお楽しみ下さい。

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― 新着の感想 ―
[一言] 魔神1000人と人間数百人で数十万収容してた都市を再建するのは大変でしょうね。 横断10kmの広さだと城壁上の歩哨もたりないのでは。魔人ならではの哨戒方法でカバーできてるんでしょうけど
[一言] 丁重なおもてなし? ラウル君曰く 「いえハリスさんはもはや一般人などではありませんよ。ハリスさんはエミルのお父上なのですから。」 この間も言いましたが、重役のお父さん…その肩書だけでもすご…
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