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第368話 戦闘糧食エナジー

俺達は次の作戦に移るため西のバルギウス領内に向かって移動していた。すでに40kmほど進んでいるはずなので、そろそろ国境を越える頃だ。


マキタカとその配下及び荷馬車の速度に合わせ徒歩で移動してきたため、朝に出発して既に夕暮れになっていた。けっして彼らが遅いわけではなく、むしろ普通の人間よりかなり移動速度は速かった。しかし村での過酷な任務の後だったこともあり、軽い休息をとりつつ荷馬車を引いてきたのでそれほど早くは移動できなかったのだ。


「そろそろ日が暮れる。」


「ようやく徒歩での移動から解放されるな。」


「ああ。」


ファートリアの村人は既にこちらで支配しているため、近い場所でヘリを用意してすぐに飛んでも差支えはないはずなのだが、念には念を入れて徒歩で移動する事にしたのだった。国境付近あたりで日が暮れると予想し、そこから航空兵器での移動を試みる事になっていたのである。


「マキタカ様!日が暮れたら私の機動兵器で進みます。一度ここいらで休憩をとりましょう。」


「ふぅ。ラウル殿お気遣いありがとうございます。しかしさすがは魔人様たちですな!疲れた様子もないようです。物凄い体力と胆力ですね。」


汗を拭きながらマキタカが言う。もともと線の細いマキタカにはこういった強行軍は無理があるかもしれない。


「まあ私の直属はこういった事に慣れておりますし、やはり人間とは体のつくりが違いますからね。」


「我々はついて来るだけでいっぱいでした。」


「すみません。少し急ぎだったものですから。」


「いえいえ。足手まといになってしまい申し訳ありません。」


「いえ!マキタカ様!足手まといなどではございません。どうかそのような事はおっしゃらないようにお願いします。」


「事実を述べたまでです。龍神様やトライトン殿の身体能力にも驚かされましたが、配下の方達には空を飛ぶ者までいらっしゃるようで、我々一同度肝を抜かれました。極めつけは神々しい狼に変化する少年ですか…まさに物語に見るような出来事を実際に目の前にして、我々は驚きを通り越して夢うつつでございます。」


「はは、人間の方達にはよく言われます。まあそのうち慣れると思いますので、ぜひお付き合いください。」


「こちらが足を引っ張らぬよう努力するだけですな。」


「あまり無理をなさらぬように。」


「お気遣いありがとうございます。」


マキタカと配下一同が恐縮したように言う。武術の達人たちと言えども、自分よりはるかに強い存在を前に畏怖の念を抱いているようだった。


「みなさん!このあたりに座って軽く食事をとりましょう!」


俺は雰囲気を変えるように言う。


「いやあありがたい!」

「あんな食べ物は見たことないですからな。」

「なんというか力が湧いてくると言いますか…。」


マキタカの配下達は俺の戦闘糧食Ⅱ型の事を言っていた。やはりシン国の武士っぽい人たちの口には、自衛隊の炊き込みごはんやたくわんが合うようだった。


「ファントムは馬に草を採ってきてやれ!」


ボッ


ファントムが消えた。


俺は両手をかざして皆の前に戦闘糧食Ⅱの赤飯とマグロ缶、ペットボトルの水を召喚した。


「ミリア、アナミス、ルフラ。」


「かしこまりました。」

「はい。」

「わかりました。」


俺の魔人達がマキタカと配下達に、戦闘糧食の缶の蓋を開けて箸を渡していくのだった。


「かたじけない!また配膳をしていただいけるなんて、次からは自分達でやりますゆえ。」


「まあなかなか慣れない食べ物だと思いますので、見ていただいてやり方を覚えてもらえればと思います。」


「ありがたいです。」


「ぜひお手に渡った方から食べてください。」


「はい。」


マキタカと配下達が食べ始める。


「俺達も食うか。」


「そうだな。」


「ラウルの魔力はすっかり大丈夫なのか?」


「ああオージェ。前よりも溢れているような感覚だよ。」


「やっぱりか、なんか雰囲気が変わった気がするよな。」


「だなエミル。ラウルの雰囲気が変わったというのは同感だ。」


「俺の雰囲気?」


「うまく言い表せないけどな。」


「どういう事?」


「俺たちもよくわからんよ。」


「…そうなんだ…まあ!とにかく食ってくれ!」


「いただこう。」


「わるいな。」


オージェとエミル、トライトンとケイナも戦闘糧食を食べ始めた。


「ガザムとゴーグも食え。」


「ありがとうございます。」

「はらへったー!」


二人は俺から缶詰を受け取って食べ始める。


ボッ


ファントムが戻ってくる、草を思いっきり大量に背負っていた。


「ファントム、馬に食べさせてやれ!」


ファントムが馬に草を与え始める


むしゃむしゃ


馬も美味そうに草を頬張っていた。


「カティ!俺達も食うぞ。」


「ありがとうございます。」


俺とカトリーヌの分の食料を召喚して食べ始めた。


残りの魔人の食べ物はこれじゃないので、とりあえず周りで見ててもらう事にする。


食料を食べているうちにだんだんと暗くなってきていた。


「ご主人様。」


「なんだミリア?」


「どうやら気のせいでは無いようなのですが、食べている皆様が薄っすら輝いておられるように見えます。」


「えっ!?」


俺がマキタカと配下達、オージェやエミル、ケイナやトライトン、そしてカトリーヌ…


本当だ…


うっすら光っている。何だろう?オーラをまとっているような感じになった。


「本当だ。エミル!お前光ってんぞ!」


「いやいやオージェもだが?いや…ケイナも光っている。」


「ま、マキタカ様が薄っすら輝いています。」


「お、お前達も光っておるぞ!」


「本当だ。」


どうやら俺が召喚した戦闘糧食を食って薄っすら輝いてしまっているらしい。


「これは…」


トライトンがポツリとつぶやいた。


「どうしたトライトン?」


「はい。龍神様!ワイの力が増しております。」


「なに?…そう言われてみれば…俺もか。」


オージェとトライトンが力が湧いてくると言う。


するとエミルの周りには、激しく下級精霊たちが光り輝いて飛び始めた。


「エミルの周りも凄い事になってるぞ。俺カンテラを出そうと思ったんだけどいらないな。」


俺が言う。


エミルからは明るく輝く下級精霊が次から次へと出てきて、グルグルとあたりを飛び回っていた。そのおかげで俺が照明を出さなくても辺りを明るく照らしてくれる。


「隙あり!」


ビュッ


目にもとまらぬ早業でトライトンが三又の槍を、精霊に見とれているオージェに突き入れた。


「ふむ。確かにこの槍さばきは尋常じゃないな。」


人差し指と中指で、トライトンが繰り出した三又の槍の先端をはさみこんでオージェが言う。


「ええ?いつ槍を突き出したのですか?」


達人の一人が言う。


「ああ気にしないでください。この人たちはこういう人たちです。」


俺が説明をする。


「こういう人たち?」


「こういう鍛錬を常におこなっているんですよ。」


「常に?」


「寝ている時、ご飯を食べている時、お風呂に入っている時、便所にいる時も常に。」


「え!そんな鍛錬があるんですか?」


するとオージェが俺に代わって説明をする。


「すみませんお食事中に。どれだけ隙を突けるかがこの修練の鍵なんです。」


「どれだけ…隙をつけるか?」


「まだ一度も彼から突きを入れられた事はないんですが、彼もだいぶ上達してきているんですよ。」


屈託の笑みを浮かべてオージェが言う。


「お!御見それしました!」

「す、素晴らしい!」

「武の境地でございますね!」

「龍神様は武人の神でいらっしゃるのですね。」


薄っすら輝いているマキタカの配下達が、これ以上ない尊敬のまなざしでオージェを見つめていた。それだけ今の修練方法が彼らにとって衝撃だったのだろう。


「ぜひ皆さんも真似をなさってください。」


「ぷっ!わーはっはっはっはっ!」


マキタカが大笑いした。


「龍神様!そんなことをしたらシン国の兵がドンドン減ってしまいますよ。毎日あのような神速の突きをかわして暮らすなんて、寿命も縮みますし…それにもましてその場で死んでしまいます。」


「マキタカ様の言う通りです。毎日いつどこで来るか分からない、味方が繰り出す殺すつもりの不意打ちをかわす?そのような訓練はさすがに我々にはできません。」


配下も苦笑しながら言う。


「ワイもそう思うんです。」


トライトンが言う。


「やっているトライトン殿もそう思いますか?」


「はい、殺すつもりでやれと言われても普通はつい力が抜けますよね?」


「それはそうでしょう。」


「ところが毎回毎回、生涯最高の突きを入れる事を要求するんですよ。」


「生涯最高の…。」


「ワイもそんな無茶な!と思うんですがね、ここで力を抜くと後で物凄くしごかれるんです。」


「うわぁ…。」


マキタカと配下達がドン引きしていた。


そんなオージェとマキタカの配下のやりとりをしり目にシャーミリアが続ける。


「ご主人様。恐らく皆様のお力が強くなっているように思えます。生命力がかなり上がったと申しますか…。」


「ラウル。村人を救うための作戦で何かレベルアップしたんじゃないか?」


「うーん。よくわからんけど。」


「恐らくこの戦闘糧食に何らかの力が込められているように感じるが。 」


「なんもしてないんだけどね?でも原因は間違いなくこれだよね。」


「だと思う。」


俺達は戦闘糧食の赤飯をじっと見つめる。


《我が主。》


ヴァルキリーが念話を伝えて来る。


《どうしたヴァルキリー。》


《おそらく主は魂核に触れたのではありませんか?》


《あれ魂核なのかな?》


《ひとそれぞれの形をしておりますゆえ断定はできません。》


《なんとなくそんな気はするよ。》


《ですがまだ目覚めてはおらないようです。》


《覚醒って事か?力は上がった気がするけどな。》


《これはまだ序の口です。》


《俺はてっきり覚醒したのかと思ったぞ。》


《いえ、覚醒はしておりません。ですがそれに近い状態まで近づいた可能性はあります。》


《どうしてそう分かる?》


《我が主が覚醒されれば、我が格段にパワーアップします故。》


《え!ヴァルキリーにパワーアップとかあるの?》


《もちろんです。我が主の力が上がれば我も上がります。》


《そうなのか!そりゃ是が非でも覚醒したいもんだが、その方法を知っているか?》


《我には分かりません。》


《…そうか…》


ヴァルキリーが何か覚醒のヒントを持っているかと思ったが、残念ながらその方法を知らないようだった。それはそうとしても、今のこの状態で十分以上に効果がありそうだ。


「じゃあ皆さんお疲れでしょうから、これを食べたら少し体を休めていてください。」


「いやラウル殿。我々には休みなどいらぬようです。」


「ええ、これを食べてから力がみなぎるというか、冴えわたってきておるようです。」

「我も何と言っていいか、まったく疲労を感じておりません。」

「そうですな。いますぐにでも動けます故お気になさなぬように。」


マキタカと配下達が血色のいい顔で言って来る。


「大丈夫なのですか?」


「何というか…これを食べてから急にみなぎったという感じですかな。」


マキタカが言う。


「ラウル。恐らくマキタカさんの言うとおりだぞ。なんかこれ食ったら力が湧いて来るみたいだ。」


エミルも血色のいい顔で言う。神様なのになんでこんなに血色が良いんだろう。


「わかった。なら食べ終わり次第、早速出発しよう。」


「おう。」


明らかに彼らに力がみなぎっている。ヴァルキリーが言うように俺に何らかの力が備わったのかもしれない。


全員が食べ終わっておもむろに立ち上がり俺の元に集まって来た。どうやらすぐにでも出発できるという事らしい。


「わかりました。では早速ヘリを召喚します。」


俺が手をかざして目の前にCH-47 チヌーク大型ヘリを召喚した。


ドン!



「おおおおおお!」

「これがうわさに聞く兵器ですかな?」

「マキタカ様の言う通りでございましたな。」


「我は嘘はつかん。」


「してこれはどういうものなのですかな?」


マキタカと配下達のテンションが物凄く高くなる。


「空を飛んで移動する乗り物です。」


「これが…乗り物?」


「ええ、これで空を飛びます。」


「空を?」


皆が信じられないようだった。


「エミル!搭乗して後部ハッチを開けてくれ。」


「了解。」


エミルとケイナが先にヘリに乗り込んでエンジンをかける。


ヒュルヒュルヒュルヒュル


辺りに風をまき散らしてチヌークのタンデムローターが回り出した。


「おお!」

「凄い!」


後部ハッチが開いた。


「さあ皆さん!後ろから乗り込んでください!馬も連れて行きます!」


「馬も!」


オージェに促されてマキタカと達人たちがチヌークに乗り込んでいく。馬は乗るのを怖がっていたが、マキタカの配下に引かれてゆっくりとチヌークに入って行った。


「エミル!ユークリット王都に向けて飛んでくれ!」


「了解。」


ローターの音が高くなっていく。離陸するためにエンジンをふかしているらしい。


「ラウル!」


「どうしたエミル!」


「上がらない!」


「えっ?故障か?」


「いや!正常に動いているんだが…重量オーバーだ。」


「重量オーバー?」


「ああ、持ち上がらない。」


「それはどういう…。」


あっ


俺が気が付いたと同時に魔導鎧をみた。


ヴァルキリーが言う。


《我が主!我だと思います。》


《そうだった…》


《我が降りますか?》


《いやいやお前をおいてはいけない。》


《しかしそれでは。》


《ちょっとまて!》


「えっと!皆さん!実は私のこの魔導鎧なのですが、これはものすごく重い物でヘリが飛びません。」


「鎧が?どういう事でしょうか?」


マキタカが聞いて来る。


「そのまんまの意味です。ですので私は数名の配下を連れて、ここから北の前線基地まで陸路で戻ります。」


「それなら俺達も同行したほうがいいだろう?」


「いやオージェ、マキタカ様達はカゲヨシ将軍に合流するべきだ。ここからそのままユークリット王都に飛んでほしい。彼らをユークリットにお連れしたらエミルと共に前線基地に戻ってくれ。」


「なるほど了解だ。」


「俺は魔導鎧を着てシャーミリアとファントムと3人で行く。あとは皆ヘリで一緒に動いてくれるか?」


俺はカトリーヌと他の魔人達を見渡して言う。


「いえ、ラウル様私は離れません。」


カトリーヌが言う。


「カティ…。」


「私もお供させてください。」


アナミスも言う。


「カトリーヌが行くなら私は彼女を守らねばなりません。」


ルフラが言う。


あの回復術の一件から彼女らは俺から離れなくなった気がする。恐らくあの行為にも何らかの効果があったのだろう。


「わかった。じゃあガザム!お前が責任をもってマキタカ様達をお連れしてくれ。」


「は!」


「ゴーグはカトリーヌを運ぶため俺と来い!」


「はい!」


「オージェとトライトンも引き続き彼らの警護を頼めるかな?」


「了解。」


俺はそのまま操縦席に行ってエミルにもその旨を伝える。


「了解だ。」


「すみません!マキタカ様!我々はここで別行動となります!配下には既に伝えておりますのでご安心ください!カゲヨシ将軍の元へと送り届けさせていただきます!」


「わかりました!それではラウル殿の旅のご無事をお祈り申し上げます!」


「マキタカ様も!」


マキタカとあいさつを交わし、そのままヴァルキリーとシャーミリア、ファントム、アナミス、カトリーヌ、ルフラ、ゴーグ、とサキュバス5人でヘリを降りた。


ヒュンヒュンヒュンヒュン


ヴァルキリーと俺達を下ろしたチヌークヘリは順調に上空へと飛び去って行った。夜の空に飛び立って遠ざかればチヌークヘリは直ぐに見えなくなった。


《我が主!我の為に申し訳ありません。》


《何言ってんだよ。お前は貴重な戦力だ、絶対に置いていけない。》


《わかりました。》


「ご主人様。それではまいりましょうか?」


「そうだな。念のためファートリアを迂回して前線基地の西側から入るぞ。」


「かしこまりました。」


カトリーヌはルフラをまといゴーグにまたがる。


シャーミリアとアナミスは上空で警戒行動に当たり、ファントムは俺の後ろをついて来ることになった。


ガシャン!


ヴァルキリーが背中を開けてくれる。俺がそのまま中に入ると背中が閉まった。


ようやくヘリでの移動が出来ると思ったが、ヴァルキリーはヘリに乗れないという弱点があった。ミーシャ、デイジー、バルムスに早くヴァルキリーの飛行形態用オプションを完成させてもらう必要がある。


そんなことを考えながら、北へと走り出すのだった。

次話:第369話 秘密部屋の情報


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[一言] 雰囲気の変わったラウル君 ラウル君曰く 「ああオージェ。前よりも溢れているような感覚だよ。」 『第81話 王の頼み 〜ミーシャ視点〜』で、ルゼミア母さんが…『普段からパンパン』…とか、『その…
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