第37話 オーガvsゾンビ
グラドラムから魔人が迎えに来た。
3人ともツノが生えててオーガというらしい。
赤、青、グレーの魔人だった。
《相手のほうから来てくれるとは、ここまで必死に逃げてきてよかったよ・・で、これからどうするかだな?》
グラムの手紙にあったガルドジンという人の手下だという、
「我はギレザム・ダールサムと申します。ガルドジン様の配下で若頭をしております。」
「若頭?参謀的なあれっすかね?」
「参謀というほどの物はしていませんが、まあそんなところです。」
ギレザムが言っている若頭という位置づけがどんなものなのか俺には分からない。
それよりもだ、俺が考えるオーガのイメージからちょっと離れてるというか・・なんか和服?中華?洋風?和洋中折衷っぽい服を着ている。服の中に鎧が見えるようだ。
ギレザムって怖いけど赤髪のイケメンじゃん!
なんか鬼って上半身裸でトラのパンツを着ていると俺は勝手に思っていた。ずいぶん人間に近い感じに見える。
「私はガザム・ゲースラムといいます。影の仕事をこなしております。」
「えっと、影の仕事って暗殺とかですかね?」
「はい、そんなことも致しております。」
「そうですか‥」
「はい!ガザムとお呼びください!」
グレーのオーガはガザム・ゲースラムというらしい。なんだろう印象が薄いというかそこにいるようでいないような、まさに隠密という感じがする。気を抜けばわからなくなってしまいそうだ。黒髪で目つきが・・怖い。
「俺はゴーグ・ドズラグです。」
「はい、君の仕事は?」
「先陣を任されてます。」
「特攻隊長みたいな感じですかね?」
「特攻隊長というのは?」
「ま、まあこっちの話です。」
ゴーグは青鬼でツノは一本だ。
本当に特攻隊長?オーガなのに小さくて、なんていうかかわいらしい男の子だ。なんていうか・・ショタ?っていう感じ・・怖くない。和っぽい服に着物を羽織ったような服装で、薄い青くて銀色の髪をしている
3人にはそれぞれ役割があるようだ。
「私はイオナフォレストといいますグラムの妻です。グラムは・・亡くなりました。」
「そうですか・・それは残念です。あの御仁が・・」
「はい・・」
イオナと赤鬼ギレザムの会話が停まってしまった。
「とりあえず先を急ぎませんか?」
俺が言うとオーガ三人衆が護衛するから全員馬車に乗れという。自分たちで俺たちの護衛をして進むようだった。
「母さん、オーガって怖いですが・・意外に礼儀正しいというかなんというか。」
「ああ、彼らは私たち人間のように学問を学んだりはしないらしいけど、礼儀は知っているようね。私たちのような貴族風の礼儀ではないけど、自分たちの領分をわきまえている人たちみたいね。」
「会った事あるんですか?」
「いいえ、グラムから少しはきいていたわ。」
「このまま護衛してもらっていいんですかね?」
「わからないわ。でも私たちじゃあの3人には勝ち目がないと思うわ。だって相手はオーガですもの。」
だよねぇ、あんなに強そうだしゴーグだけ小さくて優しそうだけど他の2人は怒らせちゃいけない気がする。おれは手綱を握るマリアの座る横に腰かけてとりあえずギレザムに声をかけた。
「まずはどこに行ったらいいんですかね?」
「ええ、グラドラムでガルドジン様がお待ちです。ただ・・急がねばなりませんが。」
「はい、私たちも急いでここまで来ました。」
「あの村へは寄りません。」
麓の村は通過してしまうらしい。でもどうしてだろう?俺たちは物資の補給もしたいんだが、まあいざとなれば戦闘糧食でご飯は賄えるけどね。
「どうして寄らないんですか?」
「グラドラムならオーガはそこまで驚かれることはありませんが・・。あの村であれば我々の姿を見ればおびえると思いますので迷惑が掛かってしまいます。もしどうしても寄る場合は我々は村の外でお待ちします・・・」
「いえ、食料ぐらいしか調達するものはないんですけどね。」
「わかりましたそれでは外でお待ちいたしております。」
いやあ泊まりたいんだけどな。でもなんか言いづらいな・てか怖くて言えない。とりあえず食料を調達してすぐに向かうと伝える。
「ギレザムさんのその腰の物は刀ですよね?」
「ええ、そうです。」
「そのガザムさんのは短いですね・・」
「はい、私は2本の短剣と体術で戦います。」
「体術ですか?」
「はい、まあ蹴ったり折ったり絞め殺したりします。」
ひいいいい、人殺しぃぃぃぃ!まあ暗殺が仕事って言ってたしな。なるべく音をたてないように殺るんだろうなあ・・
「あの、ゴーグ君は?」
「俺はこれです。」
いつの間にかゴーグの手にはカギ爪が生えていた。前世で×男という系の映画にいたな・・そういうの。
「ゴーグはオーガとライカンのハーフです。」
ギルが教えてくれた。
「異種族同士でも子供ができるんですか?」
「ええ。魔人と人間の子供もいますよ。」
「知りませんでした。」
「ユークリットではおそらく魔人はいないでしょうから無理もありません。」
確かにそうだユークリットには魔人はいなかった。サナリアで獣人をみたくらいでエルフもドワーフも見た事はない。
「そうですね僕は初めて魔人を見ました。」
「アルガルド様も本来は魔人なんですけどね。」
屈託なく笑いながらギレザムが言う。
「アルガルドと言われても僕にはピンとこないですし・・」
とギレザムとの受け答えをしているときだった。
「えっ・・・ラウル様。魔人なんですか?」
マリアが驚いたように言ってきた。
《あ、しまった母さんと二人で話してた内容がばれちゃった。》
「いや・・まあ母さんから最近聞いたばかりで僕も実感がないんですがね。」
「人間にしか見えませんけど・・」
「人間だと思っていますよ。マリアは僕が魔人ならどうします?」
「いえ?ラウル様はラウル様です。今まで通りですよ。というか私はラウル様の成長をそばで見てきましたから、なんとなく普通の人間じゃないなと思っていました。」
マリアはそれほど驚いていない様子で・・というか、いまさらですか?というような感じで話してくる。
「そのうち、ミーシャとミゼッタにも話さないといけませんね。」
「ラウル様が話したければ話してよいと思いますが、特に必要もないと思いますよ。私はそう思いますがいかがでしょうか?」
「まあ・・その時が来たら話します。」
後ろのほうに乗っているミーシャとミゼッタには聞こえていないようだった。
「アルガルド様、いえラウル様がお生まれなった時は人間の赤ん坊そのものでしたから・・ですが、今は間違いなくガルドジン・サラス様の・・サラスの系譜を感じます。我々3人はあなたに敬服しておりますよ。」
ギレザムがそんな俺の気持ちを知ってか知らずか、フォローにもなっていないフォローをしてくる。
「はぁ・・ガルドジンさんは、俺の本当のお父さんなんですよね?」
「ええ、間違いございません。魂の根幹が全く同じでございます。」
「魂の根幹?そんなのがわかるんですか?」
「ええ、本能で。」
そうなんだ・・本能でわかるって言われたらもう、そうなんですかとしか言いようがないわな。
馬車が村に着いたのでオーガ3人衆には外の森の中に隠れていてもらう。
「彼らは行かないのね・・」
「ええ母さん。彼らは恐れられると人に迷惑が掛かるので、村の外の森で待ってるそうです。」
「本来は魔人と人間は相容れぬものですからね。」
「僕には彼らがそれほど危険な感じはしないですがね。」
「そうね。」
村の入り口にあった無人の馬車預り所に馬車を置いて村の中に入っていく。
まもなく日が暮れてしまうので早く食料を補給しなければならない。ただ薄暗くなってしまったので・・食品を買う事ができるかどうかわからなかった。宿場町をすぎ市場の当たりへ行く。
俺達は‥その時異変を感じた。
「母さん・・・」
「ええ・・・人がいないわね。」
どんどん奥に入って市場の中心に来たが誰もいない。
「全くいないわけないですよね?」
「まだ完全に陽が落ちてないもの・・・買い物客くらいいてもいいのにね。」
「・・・。マリアとミーシャ、ミゼッタは僕たちの近くに居てください!母さんも離れないように。」
とりあえず何か変だ・・
薄暗くてよくわからないが屋台にはそのまま食べ物もあるようにみえる、ただ人がいなかった。そして食べ物が腐ったようなにおいがする・・なんだ?
「どういう事でしょうか?」
「おかしいわね・・」
「母さん、引き返しましょう。」
俺達はふりかえって帰ろうとしたときだった。人が周りの建物やその間からぞろぞろと出てきた。薄暗くなってきてよく分からなかったが地面にも人が横たわっていたようだった。人の気配は全くしなかったのに。
「歩き方が変じゃないですか?」
「なにかしら?」
「マリア、火を彼らの足元に投げれますか?」
「はい。」
マリアはソフトボール大の火をだして彼らの前に投げ込んだ。火の光にうっすらと浮かび上がった人をみたとき俺たちは恐怖した。
「イオナ様ラウル様!」
マリアが俺とイオナの前にたちはだかり銃を抜いた。それにつられて俺とイオナ、ミーシャも銃を構えた。
「ウウウウ・・・」
「ウガァ・・・」
「オオォォ・・」
ぞろぞろと人が出てくる。
「母さん奥に逃げましょう!」
と俺たちが後ろを振り返った!
時すでに遅し・・後ろにもぞろぞろとそいつらが出てきていた。そいつらの顔には生気がなかった。顔は乾燥していて土気色をしていて紙のような質感だ・・動いているのに死んでいるようだった。前世の記憶の中にある・・映画でみたことがある・・これは、ゾンビだ!
「かこまれたわ!」
イオナが叫ぶと同時にマリアのP320とベレッタ92が火を噴いた!
パンパンパン!
それにつられて、俺達の銃も一斉に火を噴く。
パンパンパン
パンパンパン
パンパンパン
しかし・・そいつらは全く歩みを止めることは無かった。どうやら本当にゾンビのようだ!全く死なないみたいだ!ゾンビと言えば!!
「みんな、あいつらの頭を狙ってください!母さんとマリアは魔法イメージを!」
パンパンパン
パンパンパン
ゾンビは映画と同じように頭にあたると倒れた。しかし他の場所にあたっても倒れることはなかった。とにかく俺たちは打ち込みまくった。
パンパンカチッ!
パン!カチャ!
拳銃の弾が切れ始めた。
「皆さん弾を装填し直してください。」
弾きれしたものから装填していくがその間に弾幕が薄れてしまい、ゾンビの群れがじりじりと近づいてくる。マリアの装填が間に合ったので打ち始める。
パンパンパンパン
2丁の拳銃が火を噴く。
「だめだ!脱出しましょう!僕らが来た方を集中してみんなで打ちながら突破を!ミゼッタは僕について離れないで!」
パンパンパン!
パンパンパン!
パンパンパン!
ゾンビは倒れはするが数が多かった。きりがないこのままでは囲まれてしまう!
「走りましょう!」
と全員で走る事にした。しかしイオナは身重だあまり早く走る事はできない。
「マリア!僕と一緒にあいつらの足止めを!」
「はい!」
バンバンバン
パンパンパン!
そのすきにイオナとミーシャはミゼッタを連れて、ゾンビが倒れた合間を縫って進む。しかしその先にもゾンビが複数いた。その時だった!
ズサッ
ミゼッタが死体につまづいて転んでしまった。
ヤバイ!
俺とマリアが彼女らのそばにより銃を打ち込む。
パンカチャ!
パンパンパンカチャ!
俺とマリアの銃が弾ぎれを起こす。
「ミーシャ僕に銃を!」
ミーシャから受け取った銃で周りのゾンビを撃つが・・
パンパンパンパンパンパンカチャ!
みなすべての弾丸を撃ち尽くしてしまった。前も後ろもゾンビだらけだった・・ぶ・・武器を!俺もあまりの恐怖に身がすくみ慌てふためいていた。手・・手が震える。
つ・・・詰んだ!!
「きゃーーーー!」
ミゼッタが叫ぶ
「いやぁぁぁ来ないで!」
ミーシャも理性がとんだ。
俺とイオナ、マリアも恐怖に顔が引きつる。ゾンビって・・・食うんだっけ?
うわ!うわ!うわ!
万事休す!!
と思った時だった。目の前のゾンビ集団10体ぐらいの首が無くなった。ぽんっ!っていうみたいに。音はズビシュァという感じだったけど!
「えっ?」
後ろを振りむきゾンビの集団を見ると細切れになって地面に落ちるところだった。
ドチャドチ!
ベチャ!
グチャ!
ドサドサドサドサ!
次々と崩れ落ちてゆくゾンビたち。そして残ったゾンビたちも縦割りに裂けて倒れていく。
俺達の周りのゾンビがいなくなった。
「大丈夫ですか?」
聞いた声だが暗闇にとけて見えない。たぶんガザムだ。
オーガのギレザムとガザム、ゴーグの3人だった。
「不思議な音がしたので急ぎ村に入ってきたらこの屍人の群れ。いったいなにが?」
「僕たちも良く分かりません。ここに来たら囲まれていました。」
赤鬼のキレザムと俺が話をしているとゴーグ少年が話に割って入る。
「こいつら呪詛がかけられてる無理やり屍人になったんだ。たぶん殺された後で呪いをかけたやつがいる。」
「何でそんなことわかるの?」
俺が聞いてみるとギレザムが代わりに教えてくれた。
「こいつはライカンの血がはいっていますから、宿敵ヴァンパイアのしもべであるグールの中が見えるんです。」
「そういうものですか・・」
「とにかくここでお待ちください!我々で屍人を一掃します。ガザム!お前はここでラウル様たちを守れ!」
「わかりました。」
「ゴーグ!」
「はい。」
ギレザムとゴーグがすっかり日が落ちた中でゾンビの群れに飛び込んでいった。
10分後・・彼らが帰ってきた。
「あらかた片づけました!」
「ギレザムさん。この人たちはこの町の人達なのでしょうか?」
イオナが聞いた。
「ええ、たぶんそうだと思います。この町のそばを通った時はたくさんの人間の魂を感じましたが、今は全く感じませんから。」
ギレザムがこの地に来た時はみんな生きてたようだった。
「いったい誰が?」
俺が聞いてみるが誰も答えを持ち合わせていないようだった。
「それで・・イオナ様。この村で物資の調達をするんでしたね。いきましょうか。」
ん??ギレザムさん??何事もなかったようにどうしたの?
「い・・いえ。こんなことがあった後ですから、もう村を出たほうがいいのかと・・」
「こんなこと?屍人が大量にいただけですが?」
「・・・・・・・」
ゾンビが大量にいただけ!?そんな・・「たかがそんなことくらいで?」みたいな言いかたして・・
ギレザム、ガザム、ゴーグの顔をみたが、3人とも早く行きましょう!みたいな顔してる。
「は、はい・・」
イオナも気圧されていく事にしたようだ。
オーガ・・とにかく怒らせちゃいけないな。
次話:第38話 泥棒貴族