第365話 有機AIヴァルキリー
荒野を走る一団にもう一人追加された。
魔人の皆には分体の言葉は聞こえない。ただ魔導鎧が自動で動いているように見えてるようだ。俺には元々ファントムという護衛専用怪獣がついていたが、今度仲間になったのは意志をもつ魔導鎧だった。その鎧が俺を中に入れて走ってくれている。鎧に魔力を注いでいないのに俺を受けいれて、俺が体を動かさなくても勝手に動いてくれた。
全員が黙々と走り続けている。
その時、先行していたガザムから念話が入った。
《ラウル様この先も何も怪しい物はございません。そのままお進みください。》
《了解だガザム。引き続き斥候を頼む。》
《は!》
ガザムには先行して危険が無いか確認してもらっていた。そうすれば危険を察知してから武器を準備すればよいため武器を持って走らずにすむ。
召喚した武器は全てファントムに飲み込ませていたが、M61バルカンだけは飲み込めずにそのままファントムが背負っている。カトリーヌとルフラはファントムから降りて、エミル ケイナと一緒にゴーグにまたがっていた。シャーミリアとアナミス率いるサキュバス部隊は監視のため上空にいる。オージェもトライトンも黙って走っていた。
そうする事でかなり巡航速度が上がった。
正直…俺だけ 超 楽をしている…
《おい分体。》
《なんでしょう我が主。》
《お前をなんと呼んだらいいかな?》
《何とでも呼んでください。特に名はございません。》
《え、それじゃあ、アルフォ…いやいや。どうしよう…》
ついうっかりちょっと付けちゃいけない名前をつけそうになってしまった。
《お前に性別とかあるの?》
《いえございません。どちらがよろしいですか?》
《どちらがいいとか言われてもどっちでもないんだろ?》
《はい、どちらでもありません。》
《うーん。ならカッコいい名前が良い?可愛い名前が良い?》
《そういう感覚は特にございません。》
《じゃあカッコいい名前にしよう!》
《なんでございましょう?》
《ヴァルキリーっなんて言うのはどうだ?》
《うれしいです。ヴァルキリーでございますね。》
《おう。ヴァルキリーだ、カッコイイだろ?》
《はい。》
やっぱヴァルキリーがしっくりくるわ。これ以外にない。
《でさヴァルキリー。》
《なんでございましょう?》
《お前を俺が操作する事も引き続きできるのかな?》
《もちろんですとも我が主。》
《使いたい時はどうすればいい?》
《魔力を注いで動かせばいつでも自由に。》
《逆に俺が中にいなくても動くんだよね?》
《もちろんでございます。》
《戦ったりはできるのかな?》
《それは動きを教えていただかねばならないかもしれません。》
《動きを教える?》
《我が主の戦闘時の行動様式を把握させていただければあとは勝手に。》
《なるほど、俺がお前を着て戦えば勝手に覚えてくれるのか?》
《その通りでございます。》
《俺が動いた通りにしか動かない?》
《いえいえ。もちろん勝手に創意工夫はさせていただく所存です。》
《なーるほどね。》
《はい。》
と言う事は俺がヴァルキリーを着て戦闘すればするだけ、戦闘パターンを読んで学習してくれるというわけか。物凄いAIが搭載されたロボって感じだな。次からの戦闘では俺が率先して戦わせてもらうとしよう。
《疲れたり、動力切れみたいなものは?》
《ございません。強いて言えば我が主が死んでしまった時でしょうか?》
《俺が死ぬとどうなる。》
《分体として我が主と魂幹で連動していますので、それが終われば我も永遠に起動する事はありません。そして主が生きている間は永遠に止まる事はございません。》
《そうなんだね。》
《はい。》
《他の誰にも操られないと?》
《そうなります。我は主専用です。》
ラウル専用機って事か。AI搭載の俺の専用機…いい響きだわ。通常の3倍のスピードで戦ったりしないかな。いやあ…俺の専用機かあ…
《我が主。ちょっとお伺いしたいことが。》
《なんだヴァルキリー。》
《その先を走っているデカ物ですが。》
《ああファントムって言うんだ。》
《あれも我が主と繋がっているようです。》
《そういうの分かるのか?》
《もちろんです。我が主とあれも魂幹でつながっていますのでわかります。》
《ファントムをどう思う?》
《言ってもよろしいですか?》
《かまわんよ。》
《膨大な怨念を感じます。》
《お、怨念?》
《その怨念ですら、全てが我が主のしもべのようですが。大量の怨念が物凄い力を与えているようです。》
《なるほど…すると逆にヴァルキリーはいったい何なんだ?》
《我が主の分体です。》
分体とかその意味がよく分からないが、とにかくそれ以上それ以下でもないんだろう。
《お前に自分の意志は?》
《ありません。私はただ我が主を守りそして服従するだけ。》
《そうなのか?》
《我は我が主の一部ですから当然です。》
《俺の事はどこまで知ってる?》
《全てです。》
《前世の記憶も?》
《もちろんです。》
《そうなんだ。》
《はい。》
《だと言葉も?》
《はい。前世で話されていた言葉も理解できます。》
《凄いな。》
《分体ですので。》
なるほどそうか。俺から別れた何かがこいつを形どっているというわけか。それなら俺の考えがそのまま反映されると言う事なのかもしれない。こいつを成長せるのが楽しみになって来た。
《で、今は俺の魔力は完全にカットされているって事か?》
《はい。完全カットです。》
《物凄い速度で体が動いているみたいだけど、このまま俺が眠ってしまっても動くんだよな?》
《もちろんです。》
《じゃあ寝るから。現地に着いたら起こしてくれ。》
《はい。》
ガシューンガシューンガシューンガシューン
《ダメだ…寝れない。こんなに激しく体が動いていたら寝れるわけがない。》
《申し訳ございません我が主。止まりますか?》
《いやだめだ。このまま走ってくれ、なんというか自動で運動してくれているみたいでいいよ。》
《それは良かったです。》
分体の謎はまだまだあるから聞きたいことはたくさんあるが、本来は魔力回復のために眠らなければならない。しかし体を勝手に動かされているのでどうも寝つけないようだ。
《そう言えば俺が脱ぐと滅茶苦茶重くなるつーか、龍神でも動かなくなるのってなんでかな?》
《盗難防止です。》
《えっ?》
《我が主以外に盗まれたらいけませんから。》
《盗難防止のために重くなるの?》
《重くなるのではありません。その地面に固定されているだけです。》
《それは分体が入る前からだったけど》
《そうです。この鎧のそう言う機能です。》
《地面ごと動かせば動いちゃうんじゃない?》
《いえ、どこまで掘っても無理です。》
《無限に?》
《そうです。》
《そういう機能?》
《そうです。今は我が分体となりましたので、そうでなくても誰にも操れません。》
《なるほど…これは物理的でも魔力的でもない何らかの技術なのかもな。》
《祖の技術です。》
《祖って?元始の魔人?》
《そう呼ばれているのでしょうか?》
《たぶん。》
《そうですか。》
と言う事は、この鎧は相当昔からあるんだな。ガルドジンは着た事あるみたいだけど、ルゼミアは大きさが合わなくて着たこと無さそうだった。本来は魔王であるルゼミアのものなんだろうが、俺がもらっちゃって良かったんだろうか?
《ご主人様。》
シャーミリアから念話が入った。
《どうしたミリア。》
《そろそろ次の村に到着するようです。》
俺が鎧越しに周りを見るとガザムがすでに合流していたようだった。ヴァルキリーとの話に夢中になっているうちにだいぶ進んだらしい。
「止まれ。」
全員が止まった。
「マキタカ達が街道脇にいるようです。」
ガザムが言う。
「ガザム。呼んできてもらえる?」
「は!」
シュ
ガザムが消える。
「オージェとトライトンさんは大丈夫か?」
「まったく。」
「ワイも同じく。」
ふたりの無尽蔵の体力に度肝を抜かれる。
「ゴーグは?」
「大丈夫です。」
「カトリーヌとケイナさんは?」
「私はルフラがつかまってくれてましたからまったく。」
「私は少し疲れました。でもゴーグ君が振動を伝えないように気を使ってくれたおかげで大丈夫ですよ。」
「エミル。」
「問題ない。」
全員をチェックしていると上空から航空部隊が降りて来る。
「シャーミリア!アナミス!みんなもお疲れ様。」
「お気遣いなど必要ございません。」
「そうです。私達からすれば大した距離ではございません。」
サキュバス5人もうんうんと頷いている。
「ファントム!お前はみんなのために魔獣を狩ってこい!グレートボアかレッドベアーでもいい。」
ザッ
ファントムが消えた。
入れ違いにガザムがマキタカと10人の武士を連れて来た。
「ラウル殿!早くも追いつかれたのですね。」
「すみません。私の回復でかなり時間がかかりまして。」
鎧を着たまま答える。
「ここから半刻(1時間半)ほど先に村があります。」
マキタカ達も既に一度通過している村なので、どのくらい先にあるのかを掌握していた。
「はい。」
「またあの作戦を行うわけですね?」
「そのつもりですが…。」
「はい?」
「まだ魔力が回復しきっていません。もう1日くらいは必要かと思います。」
「わかりました。それではこのあたりで野宿ですか?」
「申し訳ないのですがそうなります。天幕を用意しますので皆で使ってください。」
「かたじけない。」
テントを出すために、俺はヴァルキリーを脱ぐ。
ガシャン
「ふう。」
「その中は窮屈ではないですかな?」
「それがそうでもないんです。なんというか寸分の狂いも無く私の体にぴったりで。熱くも寒くも無く快適です。」
「どういう技術なのでしょうなあ。」
「私もよくわからないんです。」
「不思議なものです。」
そして俺は皆の前にテントを数個召喚した。
「これを使ってください。」
やはり…魂幹をいじる作業とは違って武器召喚は楽だった。魔力をほとんど消費している感覚が無い。
「魔力を使っても?」
「それがこれは魔力をほとんど使ってないような感じです。」
「ではやはりあの作業はラウル殿にとってかなりの重圧なのですね?」
「そのようです。」
全員がそれぞれのテントを張り始める。
するとファントムがでっかいグレートボアを背負ってきた。
「おお!よくやった!あとは薪を集めてこい!」
ザッ!
グレートボアを置いてファントムが薪を集めに行く。
「ご主人様。では私奴が捌きます。」
シャーミリアが言う。ユークリットの西を俺と旅をしている時に、膨大な量のボアをさばいたミリアは、本当に魔獣の解体が上手なのだ。めっちゃ丁寧にさばいてくれる。
シュッ
シュッ
シャッ
「なんと…手際が良いですな。」
マキタカがシャーミリアの解体ショーを見て惚れ惚れしたように言う。
「すばらしい。」
「余すところなく…。」
「美しいですな。」
達人たちがそのシャーミリアの御業に感動している。
「私との旅で数えきれないほどの魔獣を解体してきましたからね。」
「なんと!もう終わったようだ。」
シャーミリアが既に解体を終えて、俺達の前に綺麗に肉や皮、骨、魔石などの素材が並べられている。
ドサドサドサドサ
ファントムが大量の薪を持ってきてくれた。薪と言うより大木もあるように見えるが気にしない。
「では。」
シュシュ
シャーミリアが得意の高速摩擦で火をつけた。
ボゥ
薪が思いっきり燃え出す。
「それでは肉を焼かせていただきます。」
流石シャーミリアは俺との冒険で魔獣の肉を焼きまくっただけあって手際が良い。
「いま秘書が用意しますので少々おまちを。」
「このような配下をお持ちのラウル様は本当に羨ましいですな。」
「いやあ、うちの子は本当に努力家でして。」
俺がシャーミリアを褒めていたら、カトリーヌとアナミスがいそいそと俺のそばに近づいて来た。
「それでは私が肉を食べやすく切り分けましょう!」
カトリーヌがシャーミリアから焼けた肉を受け取って、肉を切るのに使った板をつかってサイコロ状に切り分け始めた。
「それでは私は皆様に配膳を。」
アナミスが細串を用意して切り分けた肉を刺し、マキタカと配下の皆に渡していく。極上の微笑みでアナミスに肉を渡されるマキタカの配下達は、心なしか鼻の下が伸びているように思う。
達人にあるまじき表情だ。
ん?うっすらモヤがかかってないか?気のせいか?
「では遠慮なく!」
マキタカと配下達が肉を食べ始める。
「うまい!何という焼き加減!」
マキタカが絶賛する。
「食べやすく切っていただいてありがとうございます。」
「本当に至れり尽くせりで。」
配下達も喜んでいる。
その姿を見てカトリーヌとアナミスが俺の方をじっと見つめていた。
「カトリーヌもアナミスもありがとうな。皆さんに喜んで頂けたようだよ。細かい気づかいがありがたいな。」
「はい!」
「ありがとうございます!」
ふたりは満面の笑みを浮かべていた。
どうやら俺に褒められたかったらしい。シャーミリアはその間もせっせと肉を焼いていた。俺に褒められて上機嫌のようだ。
するとルフラが何やら動き出した。
「やはり後始末が大事ですから。」
辺りに散らばっていた血の跡や、いらない臓物などの前に行って手を添えてあるく。すると散らかっていた臓物や不要なものが綺麗にされていく。スライムの能力で溶解しているらしかった。
チラッ
ルフラが俺を見て来る。
「ありがとうな!綺麗な場所で食べる肉はまた格別だよ。」
「それは良かったです!」
ルフラは満面の笑みを浮かべて喜んで掃除していた。
彼女も俺に褒められたかったらしい。
そんな彼女たちをマキタカと配下達がほほえましく見ていた。
「まったくうらやましい。」
マキタカがまたポツリと言うのだった。
配下が強くて美しい女子っていうのがうらやましいのかな?
まあ普通に考えたら羨ましいか。
いぶし銀のマキタカの配下のおっさんたちを見て勝手に納得するのだった。
次話:第366話 仲間たちの支え
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