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第364話 リモートコントロールロボ

次々と運ばれてくる村人に対しアナミスが施術を行う。


俺はアナミスに膨大な魔力を注いでいた。アナミスが言うには本来ただ操るだけの洗脳であれば俺の魔力を必要としないらしいし、一気に大量の人間をコントロールもできるのだとか。これはあくまでアナミスが俺の意向を受けて、村の人々の人間らしい生活を妨げない為の術なのだそうだ。


だけど…


俺の魔力ががばがば減っていく…


かなり疲労が蓄積してきているのが分かる。正直こんな面倒な事やめてしまおうかとも思うが、平和に生きる村人に対し、あのシュラーデンにいた敵国の兵士たちに施したような洗脳を受けさせるわけにはいかない。あの兵士達は自分の意思に反して動いているわけだから、そのうち体のどこかに異常をきたす可能性もある。


デモンの精神干渉も受けていない無実の村人にそんなことは出来ない。


「さながら野戦病院だな。」


エミルが言う。


まったくその通りだった、次々と運び込まれる負傷者に急ピッチで治療する野戦病院のようだ。終わったと思ったらすぐ次の人が担ぎ込まれるため、エミルのつぶやきに返事をする余裕もない。


無言で村人を連れて来ては施術が終わった人を村に連れ帰るオージェとトライトン。村ではサポートをするためにマキタカの配下達が隠密行動をとっている。とにかく村人が寝ている間にすべてを完了させる必要がある。彼らが必死で頑張っているのに俺が弱音を吐くわけにはいかない。


「ラウル様…」


時おりカトリーヌが回復魔法をかけてくれるが、魔力が回復するわけでもない。体力が戻る程度にしかならないがそれでも体を動かすには多少の助けになった。


「ご主人様…」


村人を交換するたびにシャーミリアも物凄く心配そうな顔で俺を見るが、それにすら返事をする余裕がない。


…いま…何人だ…


意識が朦朧としてきた。


異常に眠い。


それでもアナミスは容赦なく俺から魔力をバンバン持っていく。俺が中途半端を許さないと思っているのだろう。


別に…やめましょうか?って言ってくれてもいいよ…


そんなことを思う。


いや!だめだだめだ!彼らが頑張っているのに俺が弱音を吐けない。


「ラウル…。」


エミルも心配そうな顔をする。


エミルまでが深刻な顔をするなんて、いったい俺はどんな風に見えているんだろう。そんなに心配されるような風貌になっているんだろうか?だがここでやめるわけにはいかない。


すると、足元からじわじわと何かが這い上ってくる感覚があった。どうやらルフラが俺を心配しアーマーとして俺を支えてくれるようだ。


正直助かる。


立っているのがやっとになって来たところだったので、ルフラが俺の体を動かしてくれれば、俺は魔力を注ぐ事だけに集中する事が出来た。


しかし…いつまで続くんだ。


どのくらいの時間こうしているのか、すでに分からなくなっていた。


いま目の前のベッドに寝かされた村人が何人目なのか分からない。


やっべ。


意識を保つ限界が来ているような気がする。とにかくどのくらいの分量の魔力を注いでいるか分からなくなってきたが、まさか俺がこんなに疲労するとは思わなかった。それだけに人の魂核に触れる作業と言うのは、並大抵のことではないのだろう。


武器を召喚するのとは明らかに違う。


もしかすると…


武器を召喚するのは自ら望んで楽しんでやっているのに対し、この魂核に触れる作業は俺自身が嫌がっている可能性がある。ようは苦手分野に対しての魔力消費量が膨れ上がっている感覚だった。


「これが最後だ!」


オージェの声がかすかに聞こえて来る。


なにが最後?とにかく魔力を…


プツン


最後の魔力を注ぎ、俺の意識は真っ暗になった。




・・・・・・・・・・・・・・




ガチガチガチ


獣が牙を鳴らす。


もっとくれ。


飢餓の獣がいた。


その獣の毛はさかだち長いたてがみはどこまでも続いている。鬣からのぞくいびつな背中からは、おびただしい数の鋭利な角が生えている。不自然に伸びる手から生えた不ぞろいの指には、鋭すぎる爪がずらりと伸びていた。


獣の顎は後頭部付近まで裂けており、その顎にはサメのような牙がぞろりと生えそろっている。舌が蛇のようにのたうち回り、その舌の先にも鋭い牙の生えた顎があった。


人間なら1秒も正視する事ができないだろう。


もしその獣の姿を見たならば


真の死


それしか相応しい言葉が無かった。


「おいおい。」


ザササササ


突然語り掛ける声に獣は黒い羽で目を覆い隠した。


「お前は馬鹿か?からっぽだぞ?」


またあいつだった。


「ウセロ!」


「まあそういうな。」


「キエロ!」


「まったく…まだ目覚めておらぬと言うに。」


ぼたぼたぼたぼた


鋭い牙の生えた顎から粘着性の涎がボトボトと落ちた。


獣はその声の主を無性に食いたくなってきた。


「オマエクウ」


「だから何度も言ってるだろう。ワレを食ってもいいがその前にもっともっと食え。」


「ナニヲダ」


「足りておらぬのよ。」


「ナニガダ!」


獣は腹が減る。とにかくこの飢餓をどうにかしたい。しかし獣にはその方法が見つからなかった。それなのにこいつは喰えというそれが無性に腹が立つ。


ピリピリと体中が痺れて来る。


獣はその衝動を抑える事が出来ない。


しゃぁっぁぁぁぅ


どろり


獣が息を吐くと臓腑から何かが出てきた。


「うむ。まもなくか…。」


「ナニガダ」


「まあいい。このような事もまたお前らしいのかもしれんな。」


「コロス」


「そのうちな。」


「クウ」


「まだまだ資格が足りねえよ。今はまだ半端だが、そのうちわかるだろう。」


ガチン!


獣が大きく歯を合わせるとぞろりと長く出ていた自分の舌を噛み切ってしまった。


バクッ


ガリガリ


その噛み切った舌を獣自身が喰らった。


「ふははは。自分を食っても満たされんぞ!」


しかしちぎれた舌は瞬く間に生えてきて、新たな舌先の顎がガチガチと牙を鳴らした。


「ゴロス!」


「お前は複雑すぎる。もっと単純で良い。」


獣は”それ”に届かないと思った。


「ウセロ!」


「お前とあいつだけが目覚めぬか…。」


「ウルサイ!」


「やはり表裏と言う事なのだろうな。」


「ガァァァァァァア」


訳の分からない事をごちゃごちゃと。


「わかったか?単純にな。」


「グルゥゥァァ」


「まったく気持ちの悪いやつよな。だがそれが良い!それこそが相応しい。」


獣は”それ”に飛びかかってみた。


届く!


しかし…そこには何もなかった。


「仕方ない。特別にお前に分体を与えてやろうじゃないか。」


「ブンタイ?」


「虹色にも言われていたと思うんだが察しの悪いヤツだ。虹色もデカい水蛇も持っているぞ。」


「ニジイロ?ミズヘビ?」


「さっきお前が臓腑から吐き出したろ。」


「ゾウフカラ?」


「ふふ、そろそろ目覚めるようだ。時期が来たらまた会おう。」


「マテ!」


声の主が消え去った。それと共に暗黒が支配する。




・・・・・・・・・・・・・・・・・・・




薄っすらと光が射しこんで来た。


俺の視界にはカトリーヌとシャーミリア、アナミスが飛び込んでくる。


「ラウル様!」

「ご主人様!」

「申し訳ございません!」


「えっと…。」


陽の光がさしてる。


そういえば俺は夜戦病院さながら村人たちにアナミスと一緒に施術をしていた。どうやら魔力を使い果たして気を失ったらしい。魔力を枯渇して気を失うのは久しぶりだった。前回のデモン戦ではそんな事はなかったが、今回はかなりの消費量だったらしい。


「ラウル!気が付いたか?」

「大丈夫なのか?」


「オージェ、エミル。」


「死ぬんじゃないかと思ったぞ。」


「え?そんなに?」


「見た目がゾンビのようになっていたよ。」


「うっそ。」


むくり。


俺は上半身を起こした。俺はゴーグのふかふかの毛皮に包まれて眠っていたようだ。


「ゴーグ。」


「ラウル様。大丈夫ですか?」


「お前が包んでいてくれたのか?」


「はい。そしてルフラも。」


俺の体からズズズズと抜けていくものがある。ルフラだった。


たちまち人の形になりいつものルフラがそこにいた。


「よかったです。かなり衰弱していましたので。」


「お前も守ってくれたんだな。」


「はい。」


「村は?村人はどうなった?」


「全ての村人の魂核に刻印を、お望みの時に一斉に村の外に出す事が出来るでしょう。」


「そうか!よかった。終わったんだ!」


「はい。」


グゥゥゥゥゥゥ


アナミスの言葉を聞いて安心した、俺の腹の虫が高らかに鳴った。


「すっっげぇ腹減った。」


「ボアを獲ってきてあるぞ。」


オージェが言う。


「ホント!」


「焼くから待ってろ。」


どうやら俺が眠っている間にオージェがグレートボアを獲ってきてくれたようだ。俺達の近くでは焚火が燃えていた。俺の体を温めるようにしていたらしい。


ジュゥゥゥゥ


「うーいい匂い。」


「まってろ。」


オージェが丁寧に焼いてくれている。肉の焼ける煙が漂ってきてまた腹が鳴った。


「どのくらい寝ていた?」


「二日かな。」


「ふっ!二日も!」


「ああ。」


「マキタカ様達は今どこに?」


「二日前に次の村に向けて出発したよ。俺達と一緒に移動しても足手まといになるから先に行くと言っていた。」


エミルが言う。


「申し訳なかったな。」


「申し訳ないって事もないだろう。この作戦はお前の魔力が頼りだからな。次の村まで何とか魔力を全開させるようにしたいが、そうなると魔導鎧をどうするかだな。」


「グレースを連れて来るんだったよ。」


「だが前線基地の武器補給の件があるからね。」


「だよなあ。」


俺があたりを見ると少し先には魔導鎧が立っていた。


「この作戦は少々無理があったみたいだな。」


俺に肉の串を渡しながらオージェが言う。


「ありがとう。」


肉を一口頬張る。


「うめえ!」


「まだまだあるぞ。」


「おう!」


俺はしばらく肉にかぶりついて咀嚼していた。皆は食べないらしい、ただ俺が食うのを見ているようだった。


「みんなは?」


「お前が寝てる間に食ったよ。」


「そうか。」


相当腹が減っていたらしく相当な量の肉が腹に収まっていく。


「ゲプッ」


「しかし食ったな。」


「ああエミル、なんか腹が減ってな。でも魔力はまだ何割も戻ってないと思う。」


「いずれにせよ、かなりやつれてるから次の作戦までは少し時間を空けた方がいいんじゃないか?」


「うーん。とにかく満タンになったらすぐに取り掛かりたいが。」


既にマキタカ達は次の村に向かったというし、とにかく急いだほうが良さそうだ。


「とにかく急いで行こう。」


俺が言う。


「魔導鎧はどうするんだ?」


俺が魔力を流して運ばないとこれは動かせない。オージェでもファントムでも動かす事が出来なかった。不思議な重量が加わっているようなのだ。


「まあ確かにここに丸出しで置いて行くのはまずいか。」


「お前以外にこれを動かせる人は居なそうだからな。」


「じゃあ…埋めて行こうかな?」


「なるほど!後で回収するって感じか。」


「そうそう。」


俺は魔導鎧をとりあえずここに埋めて後で回収する事にした。


「ファントム。穴を掘れ!」


ファントムが物凄い勢いで地面を掘りだした。重機も顔負けのスピードで地面に大穴が開いて行く、手の一振りでごっそりと土が飛ばされる。


「とりあえず一旦着ないと埋めれないか。」


俺が立ち上がると皆が心配そうに見ている。


「心配しなくていい、魔力は多少回復したから大丈夫だよ。」


「ラウル様無理はなさらずに。」


カトリーヌが俺の手を取ってくれる。


「本当に大丈夫だ。」


そして俺が魔導鎧に近づいて魔力を流そうとした時だった。


《わがあるじよ!お待ちください。》


《ん?いま念話で話したのは誰だ?》


聞き覚えの無い念話の声に俺は周りの魔人を見渡した。


全員がキョトンとした顔で俺を見ている。


「気のせいか?」


「どうしたラウル?」


「ああオージェなんか声をかけら気がしたんだ。」


「例の念話でか?」


「そうだ。魔人達の誰でもない声だった気がする。」


俺を見て魔人達が言う。


「ご主人様。まだ回復されていないのかもしれません。」

「ええそうです。無理はなさらないようにしてください。」

「すみません。私が遠慮なくラウル様の魔力を使ってしまったばかりに。」


シャーミリアもガザムもアナミスも心配そうに俺を見る。


「まあ大丈夫だ。疲れてるのかもしれないな。」


《疲れてなどおりませんぞ、わがあるじ


「やっぱり!間違いない!みんなも聞こえるか?」


「いえご主人様私奴には。」

「我も聞こえません。」

「私も聞こえませんでした。」

「俺もです。」

「すみません…私が魔力を使い果たしてしまったばかりに。」


魔人全員が聞こえないという。


どういうこと?


《こっちです。》


《こっちってどっちだよ!お前は誰なんだ?》


《あなたの目の前に。》


俺の目の前には誰もいない、あるのは魔導鎧だけだった。


《うーん。まさかとは思うけど。》


《はい!わが主よ!そのまさかです。》


《って鎧?》


《ええ、ええ!その通りです。主の刻印がなされた鎧ですとも。》


《えっ!おまえ意思あんの?》


《もちろんでございます。先ほど何らかの導きによりようやく解放されました。》


《導き?なんの?》


《お気づきではありませんか?》


《わからん。》


《我は主の分体にございます。》


《うっそ!》


俺の目の前に立つ魔導鎧がゆっくりと俺の方を振り向いた。


「ご主人様!」

「ラウル様!」

「あぶない!」


シャーミリアとガザムとゴーグが一気に魔導鎧に飛びかかろうとした。


「まて!」


全員の攻撃が魔導鎧の寸前で止まる。


「危険では!」


シャーミリアが言う。


「大丈夫だ。”それ”俺の分体だから。」


「分体でございますか?」


「ああ、さっきそうなったらしい。」


「何という…素晴らしいです。ご主人様!いよいよお目覚めになられるのでは?」


「よくわからない。でもこいつと念話がつながるんだよ。」


「我々には聞こえません。」


ガザムが言う。


「俺にだけ聞こえているようだな。」


「そうなのですね。」


よくわからないが虹蛇や龍神のような分体が、俺にもできたことだけは確かなようだった。


《おまえ動けんの?》


《もちろんにございます。》


《頭の上に丸を作ってみて。》


すると俺の目の前の魔導鎧が、い〇とも!の形をとってくれた。


《親指立てて。》


魔導鎧はサムズアップして見せる。


俺がリモートコントロールで動かせるロボを入手した瞬間だった。


《マジでうれしいんだけど!》


《それはよかったです!わがあるじ


俺と魔導鎧がハイタッチをかますのだった。


《やべえ、これ緊急ドッキングとか出来るやつだ。》


俺の目には恐らくハートマークが浮かんでいる事だろう。


わかってくれるよね。こんなに嬉しい事はない。

次話:第365話 高機能AIヴァルキリー


お読みいただきありがとうございます。


期待できる!と思っていただけたらブックマークを!★★★★★の評価もお願いします!


引き続きお楽しみ下さい。

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― 新着の感想 ―
[一言] ものすごい勢いで減っていく魔力 ここ最近のラウル君の魔力は底なし…と思わんばかりでしたが、今回の作戦においてはそんな魔力がすごい勢いで減っていく感じ 少々先の文面まで言うなら、弱気な発言が見…
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