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第362話 地雷設置調査

修理工はアナミスの誘導で動くようにはなったが、放っておけば人間として普通の営みはできるらしい。ノンコントロール状態の時は一人の人間としてすべて自分で判断して動くのだった。


先に修理工には壊れた荷馬車の車輪をきちんと直させることにした。荷馬車も直さずにほっつき歩けば不審に思われるため、やるべきことはきっちりやってもらおう。修理工は人間にしてはなかなか器用なようで手早く作業をしている。弟子の少年との阿吽の呼吸が出来ているらしく順調に修理を進めていた。


「バルムスのようなドワーフには及ばないが、なかなかの熟練工のようだな。」


「ご主人様。人間にはこういった器用さもあるのですね。」


最近シャーミリアは人間に興味を持つようになった。俺の母であるイオナを慕い、俺の大切な人としてマリアを思い、人間に対しての意識は魔人の中で一番変わったんじゃなかろうか?また嫌ってはいるがカーライルの人並ならぬ修練を見て感心もしていた。彼女の人間に対しての認識は180度変わったと言ってもいいだろう。


「やはり都市の復興には、人間の助けがあった方が良いってことだろうか?」


「現在ユークリットの首都では魔人と人間が混合で復興作業を行っておりますので、グラドラム並の発展も予想できるかと。」


「そうあって欲しいものだ。」


そんな話をしながらも俺達は修理工の様子を確認していた。


俺達は村のそばの雑木林から村の中にいる修理工の視界を盗み見て、その耳で周りの音を聞いていた。更にエミルが侵入させている下級精霊から村の音声も入ってくる。


「お、どうやら修理が終わったようだぞ。」


「すっかり陽が落ちたな。」


「エミルの下級精霊は完全に闇に溶け込んでいるんじゃないか?」


「ほんのり光を放っているから、町の明かりがあるうちは目立たないだろう。完全に光が消えれば恐らく目立ってしまうな。」


「なら移動する時は修理工にくっつけるといい。」


「そうしよう。」


俺達は修理工と弟子の少年の会話を聞いている。


(親方!お疲れ様でした。)


(おう、俺はちっと酒を買って来る。後片付けをたのむ。)


(はい!)


親方がふらりと工場を後にする。


「じゃあたのむアナミス、魔法陣の地雷が無いか調査だ。」


「かしこまりました。」


「いま彼は、お前の思い通りに動いてるのか?」


「今は私が支配しています。」


「本人はどう思ってるんだ?」


「自分の意志で動いていると思ってます。」


‥‥すげえ。


「アナミスの能力がここまでのものだったとはね。」


「進化のおかげです。」


「なるほど。」


「あとはラウル様の魔力の恩恵が強いです。」


「俺のか?」


「物凄い力で精神の核にきちんと書き込みができるようです。」


「弊害はないのか?」


「私が支配するだけなら弊害はないに等しいです。精神にも異常をきたす事はないでしょうが、ラウル様との共有は少し危険が伴うもしれません。」


「それは何でだ?」


「ラウル様の魂核に触れてしまう可能性があります。できれば覗くだけにしていただいた方が良いかと。」


「俺の魂核に触れるとどうなる?」


「死にます。」


「おいおい!ちょっとまて!カトリーヌも繋がってるんだぞ!」


「いえそれは…ルフラ…」


アナミスがルフラに説明をするように目配せした。


「ラウル様。大丈夫ですよ、私が防壁となっていますのでカトリーヌの精神までは絶対に届きません。」


「そう言う事か。とにかくやる前に説明をしてくれると助かるんだがな。」


「そうよアナミス。ご主人様が心配になるような事をしてはいけないわ。」


「すみませんラウル様。次からは気をつけます。」


俺達の会話を聞いていたマキタカ配下の武術の達人二人が、俺達がやっている事にうすうす気が付いたらしい。かなり青い顔をしている。


スッとガザムとゴーグが二人を見てニッコリと微笑む。


「ウッ」


ひとりは若干の声をあげ、一人は目を伏せた。知らなかったことにしたい雰囲気だった。


「ご安心ください!マキタカ様や、ひいてはカゲヨシ将軍様のご配下の方にそのような真似はしませんから。私は彼らを尊敬しております。それだけは知っておいていただけますように。」


俺が慌ててフォローする。


ふたりはコクコクと頷いていた。二人はようやく自分がどういう種族の生き物達の中にいるのか、実感がわいてきたようだった。


俺達は再度意識を修理工に集中させる。


(お邪魔するよ。)


(あいよ!)


(いつもの一本くれ。)


(おまちください。)


酒屋に入った修理工が酒を頼んだところだった。この店の常連なのだろう。


「ドワーフといい、この筋肉隆々のおっさんといい、職人って酒が好きなのかね。」


「かもしれませんね。」


カトリーヌがニッコリ笑って言う。


かわいい。


「それじゃあアナミス。酒瓶をもったまま街をほっつき歩いて、ファートリアかバルギウスの兵士もしくは間諜がいないか探ってみるか。」


「はい。」


修理工が村中をふらふらと歩き回ったが、それらしい人物に会う事はなかった。この村には兵士や魔法士などは居なさそうだ。


「特に怪しい奴は見当たらないな。」


「はい。」


さらにアナミスが修理工を操りふらりと村の中に彷徨い出る。街には宿屋もあり一応飲食店のような店もあった。明かりがついておりどちらも営業しているようだった。


「飲み屋もあるんだな。」


「いかがしましょう。」


「入れ。」


ふらりと修理工の足が飲み屋に向かっていく。入り口の扉を開けて中に入ると、狭い室内のカウンターに椅子が並べられた7人で満席になってしまうような店だった。


(おう!ウォルター!お前が来るなんて珍しいな。)


客の男が声をかけて来た。


(俺もたまにはな。)


すると店の女主人が言う。


(そこ座んなよ。)


(ああ、悪いな。)


店内にいたのは女主人と声をかけてきた中年の男性客とそのつれ、そして老人だった。


(今日は旅人がまた戻って来たんだってな?)


年配の男が言う。


(ああ、荷馬車の車輪が外れてな、うちで修理したところだよ。)


(あの旅人の集団はいったい何なんだろうねえ。冒険者なんて最近たんと見かけなくなっちまったけど、ファートリアの人間じゃないように思うけどねぇ。)


女主人が言う。


(そうだな。きっとバルギウスから来たんじゃないのか?)


修理工の口からアナミスが話す。


(いつからうちの国はバルギウスと仲良くなったんだろうね。昔はユークリットと親交が深くて、豊富な物資が届いていたんだけど最近はちっともだし。)


どうやらこの人たちは北の大地で戦争をしている事を知らない雰囲気だった。情報が無くて何も知らないと言ったところだろう。ギルドが無くなり冒険者が寄り付かなければ、ほとんど情報など入ってくるはずもなかった。


(なんにする?)


(酒をくれ。)


(なんだい。わざわざ酒を買って来たのに飲もうってのかい?)


(これはうちでゆっくりやるやつよ。)


(あいよ。)


修理工の前に酒が出てきた。


くぴりと一口飲む。


(最近は人がこねえよな。)


アナミスが修理工の口で言う。


(そうだな。あの冒険者たちもしばらくぶりじゃねえか?ものが入らなくなって酒もほとんど村でこさえた物だし、もっとうまい酒にありつきたいもんだぜ。)


座っていた中年の男が言う。


(まずい酒でわるかったねぇ!)


(そ、そういう意味でいったんじゃねえよ。)


(まあまあやめなさいって。)


老人が二人をなだめる。


(だがありがたい塩を持ってきてくれた。)


(ああ聞いたよ。なんでも上等な塩だっていうじゃねえか。)


(そうだな。)


(今や塩は貴重品じゃからのう。)


爺さんが言う。


(人の行き来が無くなってどれくらいたつかな?)


(うーん。1年くらい前まではシン国の商人なんかも通ったんだけどな。)


(そうだったか?)


(ああ、ところがウルシュカ(ファートリア首都)に行ったきり戻ってきてないよな?)


(そう言われればそうだな。)


(冒険者の往来もなくなったし。)


(ああ。)


どうやらここも人の流れが無くなってしまったようだった。そのおかげで物流が滞り物資が不足している様子だ。


(いま冒険者たちは村長宅にいるらしいぞ。)


(そうなんだな。)


(村長も高級岩塩に目がくらんだか?)


(そういうわけでもなさそうだったが。)


(でもあの冒険者たちは、なんか普通じゃねえんだよなあ…)


(どういうふうに?)


(なんというか、礼儀正しくねえか?)


中年の男が何かに気が付いているようだった。


(確かにのう、なんというか礼を重んずる人たちの様じゃったの。)


爺さんが言う。


(礼ねえ。)


女主人が言う。


(とにかくユークリットからも滅多に物資は届かねえし。シン国からの物資もねえんじゃこの村もあとどのくらい持つかってとこじゃねえか?)


(やめなよ縁起でもない。そのうちまた普通にやってくるさ。)


(まあそうじゃな。)


この酒場での話からすれば、ユークリットの兵士などは来ていないようだ。二カルス大森林を襲撃したファートリア軍は、また別のルートで南進した可能性が高い。北のユークリットと南のシン国からの物流が無くなり貧困が進んでいるような感じだ。


(じゃあ俺はそろそろいくよ。)


(もう行くのかい?滅多に来ないんだからゆっくりしていけばいいさね。)


(明日はあの旅人に荷馬車を渡さなければならないんだ。またそのうちゆっくりくるよ。)


(ああまたおいで。)


(金を。)


(1杯だけだし、いらないよ。そのうち岩塩なんか手に入れたらうちにも融通しておくれ。)


(わかった。)


そして修理工は席を立ちふらりと酒屋の外に出た。


「次はどこに行かせますか?」


アナミスが聞いて来る。


「村長宅へ誘導できるかな?」


「はい。」


修理工は酔った雰囲気もなく、しっかりとした足取りで来た道を戻っていく。


「この者の記憶では、ここですね。」


ある建物を見てアナミスが言う。


「ここか。」


「オージェ様の気配がありますね。」


シャーミリアが言う。


「と言う事は村長の屋敷に、みんながいるんだろう。」


「そのようです。」


彼らは彼らで上手く潜入できたようだ。あとは手筈通りにこの村に異変などが無いか聞き込みをしてもらう、ファートリアやバルギウスとの接点なども聞いてもらっている頃だろう。


「よし、それじゃあ道具屋を探そうか。」


「道具屋も、この男が知っています。」


「そうか、修理工だもんな。」


「はい。」


「じゃあそこに向かってくれ。」


「はい。」


そして修理工はまた違う方向へと歩いて行くのだった。しばらく歩いて道具屋らしき建物の前に立った。


コンコン


(今日はもう終わったよ。)


修理工が道具屋のドアを叩くと、ドアの向こうからそんな答えが返って来た。


(ウォルターだ)


(おお!いま開けるよ。)


ドアが開くとこれまた中年のおっさんが顔を出す。修理工が中に入るとそこにはいろいろな道具が並んでいた。


(どうやら今日はまた荷馬車が戻って来たんだってな?)


(ああ、車輪が外れたらしくてな。俺が繋いだ。)


(そりゃ難儀な。あの冒険者たちはいったいなにものなんだろうな?)


(なにかあったか?)


(普通冒険者なら、うちに寄ってポーションなり補給品なりを買うだろ?それが何も買わずに行っってしまったたからな、よっぽど急いでいるのか何か理由があるのかと思ってな。)


(特に深い理由はないと思うが。)


(しっかり準備して来ればここで買わなくてもいいか…そう言われてみるとそうかもな。)


村人の意識が変な方向に行かないように適当にくぎを刺しておく。


(で、今日はどうしたんだい?)


(荷馬車の修理で金具を使っちまった。だから買いに来たんだよ。)


(おお、ちょっとまて。)


そして荷馬車の車輪止めのような鉄の部品をテーブルの上に置く。


(いくらだ?)


(銅貨15枚だ。)


(ああわかった。)


修理工はズボンのポッケに入った小銭袋を取り出して支払う。


(そういえば。)


修理工の口でアナミスが言う。


(どうした?)


(魔石はあるか?)


(何言ってんだ?数年前にファートリア兵が来て魔石を持つことを禁じだろ?)


なに?なぜ道具屋で魔石を持つことを禁じた?まあ答えは限られるな。


(そうだったか?)


(ウォルターよ、ボケちまったか?ファートリア兵が村から一斉に魔石を回収していったじゃないか?)


(そうだったな。いやなに…お前なら魔石を隠し持ってるんじゃないかと思ってな。)


(いやいや持ってねえよ。あの時の厳しく調べられたからな。)


(ないならいいんだ。)


(しかしなんで魔石を持ってはいけないんだろうな?)


(俺にも分からん。)


(そうか。)


(ああ。それじゃあまたくる。)


(まいど!)


そして修理工を道具屋の外に出して、自分の工場の方に歩かせた。


ここにきて重要な情報を入手した。この村には魔石が無い。きっと何らかの理由でだ。


修理工を家に帰らせてアナミスに精神のリンクを切らせた。


「魔石が無いか…。」


「ご主人様。可能性はございますね。」


「そうだな。」


これではむやみにガザムを侵入させるわけにいかなくなった。


村長宅のマキタカ達がいま何をしているのかが分からないが、修理工の主人を使って日の出前には情報を伝えようと思うのだった。


この村でしばらくの間、魔法を発動させていないのだとしたら?そしてファートリア兵達が来た理由は何か?複合魔法陣地雷が設置してある可能性は十分にある。村人たちを脱出させねばならないかもしれない。


あるか分からない魔法陣地雷を警戒しながら、俺達は雑木林の暗闇の中でじっと時が過ぎるのを待つのだった。

次話:第363話 市民強制連行作戦


お読みいただきありがとうございます!

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★★★★★の評価がいただけましたらうれしいです!


引き続きこの作品をお楽しみ下さい。

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― 新着の感想 ―
[一言] シャーミリアさんの変化 最近シャーミリアは人間に興味を持つようになった…との事 魔人の中においてもラウル君至上主義…と言っても過言ではないほどの信望ぶり、普通に人間を見下すような言動が多かっ…
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