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第342話 動き出したゴーレム

フラスリアや森林基地とこの拠点にも動きが無いまま時間だけが過ぎた。


既にファートリアとの国境付近に追加で来る人はいなくなったようだが、エミルの水精霊からの話では火を起こして食事の準備などしているようだった。


「目的が分からないな。」


「相手を牽制する目的で、こちら側も拠点を作った方が良いんじゃないのか?」


エミルが言う。


「うーん。それもいいかもしれないが。」


「いやラウル。こちら側で軍事演習をしたら相手にも動きが出そうな気がするが。」


オージェが言う。


「なら拠点を作って軍事演習したらいいんですよ。」


グレースが合わせて言う。


「そうだな。それなら相手を攻撃しているわけでもないしいいか。」


「軍事演習とはなんです?」


ギレザムが聞いてくる。


「有事に備えた戦闘訓練だよ。」


「では派手にやった方がいいでしょうなあ。」


オンジが言う。


「そうだな。彼らは連行されてきたのかもしれないけど、あそこにいられても困るしなあ。」


「じゃあでっかい音が鳴る武器でやった方が良いんじゃないか?」


エミルが言う。


「よし分かった。それじゃあみんなで軍事訓練をするとしよう、この周辺には村も何も無いし被害が出ることも無い。」


「ラウル様。魔人達が森の向こうに到着したようです。」


ギレザムが言う。


「丁度よかった。じゃあみんなが揃ったらすぐに拠点を作ろう。」


「トラックは?」


「森のそばに置いてきていいよ。」


「伝えます。」


俺達がリュート王国の民が建設している拠点を監視していると、森の中を通ってぞろぞろと魔人達がやってくる。


「お疲れ様。」


「いえ王子!まったく疲労などありません!」


やって来たのは竜人の魔人軍一般兵だった。


「復興作業で忙しかっただろう?」


「ラーズ隊長がおっしゃっていたのですが、ユークリットはモーリス様がいらっしゃったことで、冒険者たちが効率よく動くようになったとの事です。」


「そうか。さすがは先生。」


「それで我々は何を?」


「ああ。到着早々お願いしたいんだが、ここに魔人軍の拠点を作ろうと思うんだ。」


「それはちょうど良かったです。オークやスプリガンなど力持ちが多数おります。」


「そりゃよかった。」


するとオークの兵が前に出て来る。


「王子よ。それでは早速岩をお運びしましょう。」


「じゃあまずは砦を作ってもらおうかな。」


「御意。」


すると奥から更にやって来たスプリガンたちにオークが伝え、魔人達が動き出す。


「じゃ、相手に姿を見せようか?」


「一応警戒したほうがいいだろう。」


オージェが言う。


「ではご主人様、まずは私奴とマキーナが身をさらしましょう。万が一攻撃を受けても死ぬことはありません。」


「わかった。ではこれを。」


シャーミリアとマキーナにSMAW ロケットランチャーにサーモバリック弾を装填したものを召喚して渡す。シャーミリアとマキーナが森から出て相手に身をさらす。


「エミル、敵地の様子はどうかな?」


「えっと、彼女らには気付いてないな。」


「なるほど。結構距離あるからな。じゃあまず派手にやってみるか。」


《シャーミリア、それじゃあ上空から北の荒野に向かって一発撃ってくれ。》


《かしこまりました。》


バシュー


バグ―ン!


いきなり荒野にサーモバリック弾の巨大な爆発が起きる。


「気が付いたぞ。驚いてみんなが爆発した方向を見ている。」


エミルが言う。


「そうか。それでどんな様子だ。」


「えっと、何だあれは?とか、いよいよ悪魔の侵攻が始まったとか言ってる。」


「悪魔の侵攻?」


「たぶんそんな事を言っているようだ。」


「あ、俺達の事か?」


「この状況だとそうなるんじゃないのか?」


「普通に人間の国から連れてこられたんだもんな。そりゃ魔人が攻めてきたら悪魔の侵攻って言われる事もあるか。」


「だけど攻撃が派手すぎて、シャーミリアさんにもマキーナさんにも気が付いてないぞ。」


「そりゃそうか…この世界の人がサーモバリック弾の爆発なんか見たら呆然とするわな。」


俺はオンジに派手にと言われた意味をはき違えてしまったようだ。


「なんかこの世界の人に丁度いい軍事演習したらいいんじゃないですか?剣と魔法で戦うとか?」


「いやいや、それじゃ遠すぎて何をしているのか分からないんじゃないのか?」


グレースとオージェがごちゃごちゃ話をしていると、エミルが言う。


「だから拠点を作っていく方が良いって。」


「その方が何をやっているのか分かりやすいかな。」


そんな事を言っていると巨人化したスプリガンやオーク達が、巨大な岩を抱えてやって来た。


ズズゥゥゥン


ドゥゥゥゥン


岩を丁寧に積み始めた。すでにグラドラムや他の拠点でも基地の建設をしてきたため手慣れた様子だった。


「ラウル!どうやら気が付いたようだぞ。」


「何か言ってるか?」


「逃げるかどうか相談しているようだ。しかし逃げたら逃げたで殺されるって言ってる。」


「うわぁ。じゃあやっぱり無理やり送りこまれた人々なんだ。」


「どうするよ?」


「助けるか?」


オージェが言う。


「いや、不用意に近づけないだろう。彼らに転移罠が仕掛けてあったらそれこそ悲惨だぞ。」


「厄介だな。」


「どうしたものか。」


「向こうから攻撃する気配はなさそうだけど。」


「向こうでは逃げるかここで死ぬかみたいな話になってるぞ。」


「えっと軍事演習なんてしても意味ないな。」


「そうだな。」


《みんな!一旦作業を止めて戻ってこい!シャーミリアもマキーナも帰投しろ。》


《かしこまりました。》

《は!》


魔人達が俺達の元に戻ってくる。


「どうされました?」


オークが言う。


「いや、敵にこれといった動きが無いんだ。」


「では拠点作りはいかがなさいましょう?」


「かるく相手の動揺を誘おうと思ったんだけど、想像以上に動揺しまくっちゃってな。」


「ならば効果があるのでは?」


「それがさ慌てふためいてるらしくてな、どうやら一般市民が送られて来たみたいなんだよ。」


「なんのために?」


「わからん。とにかく俺達の行動は無駄になりそうだから一旦中止だ。」


皆が考え込んでしまう。


するとトライトンが言う。


「拠点ではなく罠を仕掛けるというのは?」


「罠を?」


「海底神殿のような罠です。相手を殺したくないのでしょう?そして触れたくもないと。」


「まあそうですね。」


「では檻を作って閉じ込めてしまうというのは?」


「いや、檻を作っても中に入ってくれなければ意味が無いですし、彼らを捕縛する時に触れば転移罠にかかるかもしれないんです。ましてや彼らは川を越えてこちらに来ようとする気はないようだ。」


「では自動で塞がる牢の罠を作り、ここを一時引き上げるというのはいかがでしょう?」


「そんな動物の罠みたいな?」


「食料を置いて行くのです。」


「本当に動物の罠だな。」


「あの人たちが進むことも下がる事も出来ないのであれば、いずれ食料が尽きるでしょう。」


「うーん。動物のように知恵が無ければひっかかるだろうけど、人間はそう言うのには引っかからないと思うな。」


「そうだトライトン!お前は人間に会うのが初めてなのだろう?」


オージェが言う。


「はい龍神様。」


「人間は魚の様には行かんのだ。」


「そうなのですか、では私の案は無かったことに。」


するとグレースが言う。


「あの僕のゴーレムを置いて行ったらどうでしょう?あそこから人間がこっちを見て魔人がいるように見えるんじゃないでしょうか?」


「なるほど。でも動かないと石像だってばれそうだし、命を吹き込むことは出来ないのか?」


「それはわかりません。」


「それが動けばいいんだがな。」


「とにかく出してみます。」


グレースの目の前に一体の巨大な石像が現れた。精巧に出来た大男の石像だがまったく動く気配はない。


「グレース様。」


オンジが言う。


「なんだオンジ。」


「当家にまじないのような物が言い伝わっておりますが、それがこの場合適していそうです。」


「え?まじない?どんなの?」


「それは…」


オンジがグレースに何やら教え始める。どうやらバナース家に代々伝わって来た言い伝えの様だ。しばらく二人で話し込んでいたがようやくグレースが理解したようだ。


「えっとちょっとやってみます。」


グレースが石像に手を触れて言う。


「命無き者に命ずる。我が名は虹蛇、その鎖をすべて解き放て。我の命に従い動き続け、我が良いと言うまでその命を全うし続けろ。そのためにお前に命を授ける。」


そういってグレースが石像から手を離す。


「・・・・・。」


動かないな。


石像はピクリとも言わずそこにただ置いてある感じだった。何か魔力が動いたような感じもしない。命がふきこまれたような感じもなかった。


「なんだよ、オンジ!全然動かないじゃないか?」


「いえ、それで動くとは申し上げておりません。ただ我が家に伝わる言葉をお伝えしたまで。まさにその言葉通りだと思いまして…。」


いやあ…期待したんだけどな。


「指示してないからじゃないですか?」


カトリーヌがポツリと言う。


そう言われてみるとそうだ。命じるままに動いていいと言うまでやめるなと言っただけだ。具体的に何かやれとは言っていない。


「なるほど…そう言われてみればそうですね。」


「あの、ご主人様。」


「なんだい、ミリア。」


「ファントムと同じ状態かもしれません。」


俺達がファントムを見ると何もなかったように、どこか遠くを見つめたままピクリとも動かずに立っている。俺かシャーミリアの指示なくこいつは動かない。


「グレース。拠点構築のために石壁を張り巡らせて、積み上げるように言ってくれるか?」


「わかった。」


「ご主人様。ファントムとは違い魂が籠っていないと思われますので、指示はもっと細かくされた方が良いかと。」


シャーミリアが言う。


「えっと、じゃあ500メード四方の石壁を作り、それを作り終わったら川沿いを行ったり来たりし続けてほしい。そして攻撃されたらそのものに拳を叩きこめ。って言ってくれるか?」


「わかった。じゃあ言ったとおりに言う。」


グレースがゴーレムに手を当てて言う。


「川の手前に、500メード四方の石壁を作るために岩を掘り出してきて組み上げろ。そしてそれが出来上がったら川を右に岩壁の端まで歩いて、歩き切ったら反転して反対側の岩壁の端まで歩け。それをずっと繰り返して、誰かに攻撃されたらお前のその拳を思いっきり叩きこめ。」


グオオオオオオオ


いきなり操縦ロボットのような唸り声をあげてゴーレムが動き出した。


「うお!動いた!」


グレース本人が驚いている。


「本当だ。」


「リモコンで操作するロボみたいだ。」


「なんか羨ましい。」


ドシーンドシーンドシーン


地響きを上げてゴーレムが歩いて行ってしまった。


「凄いぞ!グレース!」


「え、ええ!まさか本当に動くとは思いませんでした。」


「てかあれ、グレースがストップするまで永久に動くって事だよな?」


オージェが言う。


「そうです。龍神様の神殿のゴーレムも龍神様が来たら総攻撃をしてました。それを数千年繰り返してきたと聞いてます。」


その問いにトライトンが答えた。


「うわあ‥‥。」


俺が思わず唖然としてしまった。


「とにかくこれであっちから攻撃されても安全ですね。」


「ああ、人が渡ってくる事も無いだろう。」


「あの人たちが飢え死にしてしまう前に、何とかファートリアを攻略しなくてはいけないようだ。」


「そのようだな。」


いや…本当に、マジで最悪ないやらしい敵だ。これは俺達が行動を起こさなければならなくなるように仕向けた時限装置のようなものだった。もし彼らに転移罠が仕掛けてなければ助けられるのだが、それがはっきりしない以上何も手が出せない。


対岸の市民たちは、どうやら岩を積み上げてるゴーレムを呆然と見ているようだ。


悪魔の使者とでも思っているのだろう。


「だがこれをあちこちでやられれば戦力が分散するな。」


「確かにそうだな。」


俺達は改めて敵の厄介さに気が付くのだった。

次話:第343話 ファートリア包囲網を築け


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― 新着の感想 ―
[一言] 悪魔の侵攻 ある程度は姿は見せておいた方がいいと、シャーミリアさんとマキーナさんが出て行ったが、気づく様子はなくサーモバリック弾を荒野に撃ち込んでみた… エミル君の調査 「えっと、何だあれ…
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