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第339話 決戦の心得

ラシュタル国やシュラーデン国とルタン町に向けて追加の兵器と弾薬を補給する事にした。すでに魔力も完全回復しているので大量に召喚する。それを60台の陸自74式トラックに乗せて数百名の魔人と共に送り出したところだった。


今朝がた俺は人間ロケットとして大空に舞い上がったばかりだったが、その騒動も落ち着いて今は配下の魔人達を集めて打ち合わせをしている。


「ギル。グラドラムの守りは現状で大丈夫だろうか?」


「はい。生粋の魔人軍兵士がまだ多数残っておりますし、メリュージュ様がこの地にお残りになるとおっしゃってますので、辺境の地の兵力としては十分すぎるほどかと思われます。」


「だよなぁ。まさかメリュージュさんがこの地を気に入ってくれると思わなかったから、本当にありがたいよ。」


「まさかあのような偉大な黒龍様を連れて来るとは驚きです。」


「まあ友達のお母さんなので、あまり無理はさせられないけどね。」


「はい。ただいてくださるだけでかなりの威圧となるでしょう。」


「ああ、そういえばそんな力もあるんだった。」


俺達は今フォレスト邸の離れの棟にいた。俺が帰ってきたことでいろいろとあわただしくなってしまったが、集中して話をするためにこの部屋を借りたのだった。部屋には俺とギルとゴーグ、シャーミリア達とタピもいる。


「俺も友達たちも受体をしてかなり能力が向上したんだが、まだみんな自分の能力を十分理解していないんだ。これから前線に行くに当たってみんなの更なる協力が必要になる。」


「もちろんでございますわご主人様。」


「ああ、ミリア。お前は俺の親友の為に自分の判断で動いてくれた。あの行動はうれしかったが、それも含めてみんなに注意事項を通達しておく。」


魔人達は俺の次の言葉を待つように息を呑む。


「とにかく戦闘時や危険な状況の時は、常時俺との系譜のつながりを持つ事。」


「かしこまりました。」

「わかりました。」

「そのように。」


それぞれが返事をする。


「さらに緊急時は相手を即断で殺害してしまう場合が多々あるだろう。もちろん各自で判断して動いてくれていいのだが、その行動を俺が止めてしまう事もあると頭の片隅に入れておいてくれ。ただし俺が止めなければ各自の判断で殺していい。最終的な責任は俺がとる。」


魔人は黙って俺の話を聞いていた。


「また、これまでは全員が生き残る道を模索して来た。しかしこれからの戦闘でもそれが続くとは限らない。もしかすると誰かが死んだり被害を被る事もあるかもしれない。その時は状況次第では部分的撤退もありうるのだと肝に銘じてほしい。」


「しかしご主人様。私奴どもは、ご主人様が引かない限り最後までお供する所存です。」

「我もです。」

「俺も。」

「私もです。」

「当然私もです。」


魔人達が一斉に答える。


「…俺は今回の魔人国への帰還で、かなりの能力を向上できる道具を手に入れた。」


「魔道鎧でございますね。」


「ああ、あれは凄いものだ。もちろん過信する事は無いが、今までみんなの力を頼らねば俺が生き残れなかったような局面でも、かなり生存率が上がるはずだ。」


「あの、という事は?」


ゴーグが聞いてくる。


「俺を守るのではなく俺がみんなを守る状況もあり得る。または作戦行動中に誰かが、もしくは誰かの隊が危険にさらされたとき、俺を置いて逃げる判断も出来るようにしておけ。そしてそのことに対して躊躇するな。」


「それでは…。」


「俺を信じろ。」


「はい…」


「護衛の対象として俺を外してもいい時があるという事だ。恐らくオージェも護衛などいらないだろう、しかしエミルとグレースは違う。まだその力は未知数で戦闘でどのように有効なのか、防御力がどれほどの物なのか分からないんだ。」


「彼らを守れという事でしょうか?」


「それだけじゃない。カトリーヌとマリア、モーリス先生、ケイナ、オンジ、サイナス枢機卿一行、カゲヨシ将軍と影衆もだ。」


「人間をという事でございますね。」


「そうだ。彼らは脆い。そしておそらく死ぬときは一瞬だ。だが俺は彼らを誰一人として失いたくない。」


「はい。」

「わかりました。」

「必ず守ります。」

「お任せください。」


「まあ簡単な事だ。今までは俺を守る事に集中していた意識を他にって事だよ。そして彼らには彼らの知恵や能力もある。もちろん戦闘だけで言えば俺達魔人には誰も敵わない。しかし彼らがいなければ分からない事や、人の世界が戻ったらやってもらわなければならない事が山ほどあるんだ。」


「はい。」


「だからここに命ずる。彼らを守れ、だが自己犠牲で守れとはいわない。彼らを守るために魔人か誰かが死にそうになったら早めの判断で撤退しろ。そう言う事だ。」


魔人達は俺が言わんとしている事が分かってきたようだった。俺は結局魔人も人間の仲間も一人として失いたくないのだ。


「そしてもし仲間の誰かが死んだら、かたき討ちなんかはいつでもできる。その時は潔く撤退して、一人でも多く生き残れるようにするんだ。わかるか?」


「ご主人様の言いたいことは全てわかりました。」

「かしこまりました。」

「わかりました。」

「思慮深い御心、尊敬いたします。」

「ラウル様が考える最良を選ぶようにいたします。」


「ありがとう。申し訳ないが俺には優先的に救いたい人がいるという事だ。」


魔人達が俺に頭を下げている。どうやら俺の考えが分かってくれたらしい…俺の拙い説明でやってほしい事を理解してくれるなんて、なんていい奴らなんだろう。


「話は大体以上なんだが、他に少し聞きたいことがある。」


「なんでしょうか?」


ギレザムが聞いてくる。


「ああ、このグラドラムに戻ってくるたびに思っていたんだが、魔人の数が増えてないか?」


するとタピが答える。


「ええ、ラウル様。増えておりますよ。かなりの数が増えたと思います。」


「だよな!なんか魔人国にいた時より増えた気がするんだ。」


「はい、大陸は気候も良く穏やかで栄養のある食べ物も多い、だから魔人の子が産まれてもすぐに死んだりしないんです。」


「という事は子供がたくさん生まれているという事なのか?」


「ラウル様。恐らく交尾で生まれる種が増えているのです。」


ギレザムが言う。


「交尾で生まれる種?」


「ゴブリンにオーク、オーガ、竜人、ライカンがそれに当たります。」


「他は?」


「ああ、もちろんダークエルフもそうですが、彼らは子供が出いにくいのと交尾をあまりしません。」


「そうなんだ。」


「はい、後はここにいる二人のヴァンパイアは血を縛り人間を僕に変えるため子は産みません。サキュバスやスプリガン、セイレーンやハルピュイア、ミノタウロスも交尾はしません。」


「そうなんだ!」


「デモンか神の末裔、もしくは魔力だまりなどから生まれ出るなどとも言われます。」


「魔力だまり?」


「あのラウル様、魔人国に帰って魔人は何人いました?」


「十人以上いたかな?」


「ルゼミア王とガルドジン様以外はオーガとオーク、ハルピュイア3名が残ったそうです。」


「という事は?」


「他は地下洞窟から出てきたのです。」


「えっ?あのサキュバスたちは地下から出てきたの?」


「そうなります。」


《知らんうちに魔人が増えていたみたいだが、もしかしたらいきなり大人で生まれて来る者もいるって事かな?》


「だとグラドラムで魔人が増えているのは?」


「交尾によるものかと思われます。」


「そうなんだ…。それにしても子供のような小さいのはそれほどいないように見える。エキドナの所に人間の子と魔人の子が両方いたけど。」


「魔人の成長がはるかに早いので、人間は数年エキドナの託児所にいますが魔人は直ぐに出ます。」


「そうなんだ。」


「以前ラウル様がゴーグにあったばかりの時、いくつだったか覚えていますか?」


「たしか少年だと思ったら3歳だったんだっけ。」


「そうです。要は3年生きたという事です。」


《なるほど。人間の赤ちゃんはなかなか大きくならないし立つまで1年もかかる。しかし動物の赤ちゃんは生まれてすぐに立つし、数ヵ月でかなり大きくなるもんな。それと似たような事なのかもしれない。》


「覚えてる。そうか人間の感覚とは違うという事か。」


「そういう事です。ですからラウル様が魔人国に着た後で、生まれ出たものがたくさんいるのですよ。」


「大昔は大陸にも魔人がいっぱいいたそうだしな。」


「そう言う事ですね。」


どうりでグラドラムの街がどんどん巨大化するわけだ。とりわけゴブリンとオークが極端に増えたように見える。


「なるほど大体わかった。」


「はい。」


第二次世界大戦の時のように産めよ増やせよが、急ピッチで勝手に行われているようだ。だけど生まれて数年の子を戦場に駆り出すのは気がひける。


《けどゴーグは3歳から現場に出てたんだっけな。人間の感覚で物を考えちゃいけないらしいな。》


「それであともう一つ伝えたい事がある。」


俺が言う。


「なんでしょうか?」


「ああ、ギル。このファントムについてだ。」


「ファントムが何か?」


俺達のそばに何も無いように棒立ちになったファントムがいる。いつもながらどこを見ているのか分からない。


「ファントム!ガバメントを10丁!」


にゅっ


俺が言うとファントムの胴体からコルトガバメントのハンドガンが10丁出てきた。


ゴトッゴトン

ガタン

ガン


そして体から離れて床に落ちた。


「これは?」


「どうやら虹蛇のような力があるらしいんだ。これを食わせてから30日以上は経過したはずなんだけど消えていないんだよ。」


「え?」


「どうやらコイツの体ん中、時間が止まっているみたいなんだ。」


「そうなんですね!?」


「そうだ。その銃をそれぞれとってみてくれ。」


「おお本当だ!ラウル様が召喚されたばかりの状態のまま綺麗だ。」


「だろ?だから俺は暇を見つけては、こいつにいろんなものを食わせ続けてきたんだよ。さすがに大型の大砲とかは飲めないみたいだったけど、喉を開いて飲めるものなら何でも保管できるんだ。」


「こんな能力が…。」


ギレザムが唖然としている。


「俺もびっくりだよ。」


「これならラウル様の近くに寄らなくても弾丸の補給が出来ますね。」


「ピンポーン!あたりだ。」


「ぴんぽおん?」


「いやなんでもない。とにかく正解だよ。」


「それは素晴らしい!」


「ただね、残念ながら俺の指示が無いと出さないんだ。だから俺と系譜を繋いでおく必要があるだろ?」


「そういうわけでしたか。納得です。」


他の魔人もうんうんと頷いている。


「だから俺経由でコイツから弾薬を補給できる事も覚えていてくれ。コイツと一緒にいる時にかなりの武器弾薬を吸わせてるからな…そして俺はそれで毎日魔力を大量に使っているんだが、もう一つ気が付いたことがあるんだ。」


「気づいた事?」


「魔力を空にするまで使って眠るをくりかえすと、魔力量が少しずつ増えていってるみたいなんだよ。」


「そんなこと…。」


ギレザムが何か言いかけて黙った。


「俺も最近気が付いたんだ。人を大量に殺害したり、デモンを倒したりすると極端な上昇があったんだが、魔力を使う事で地道に魔力だまりを鍛えられる事を見つけた。」


「素晴らしいですわ!」

「ラウル様。それは凄いですね。」

「ええ本当に。」

「やはり魔人なのですね。」


ん?最後にカララが言った言葉が気になった。


「やはり?」


「人間と違い、魔人は魔力を消費すればするほど強化されていくのです。」


「えっ!?みんな知ってたの?」


全員がコクリと頷いた。


《いや、言ってよ!得意げに言っちゃったじゃん!》


俺は少し恥ずかしさを隠しながらポーカーフェイスを決めていた。


耳が赤くなるのが分かる。


「と、ともかく!ラウル様が新たな成長をされたというのはめでたいです。」


「そうですわご主人様!そう言った事をご自身で気づかれるなんて偉大です。」


「私も気が利かずにすみませんでした。でも本当に向上心の塊ですね。」


魔人達がめっちゃ褒めて来る。


ちょっとうれしくなってきた。


そう言えば魔人達に教えを乞う事が無かった気がする。俺はこれからいろいろ聞いてみようと思うのだった。

次話:第340話 緊急通信


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― 新着の感想 ―
[一言] サキュバスは交尾しないのか……そっかぁ……
[一言] 守りは万全 ラウル君曰く 「だよなぁ。まさかメリュージュさんがこの地を気に入ってくれると思わなかったから、本当にありがたいよ。」 まぁ…デモン級でも攻めてこない限りは大丈夫でしょうね… …
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