表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

34/951

第34話 レッドベアーふたたび

自分が魔人から生まれた人間だという事を知った。


いままでずっと裕福な貴族の息子だと思っていた。


しかし・・本当は人間とは相まみえない魔人の子だった。


人間のような見た目に生まれついて殺されそうになっていたのを、グラムに託されて命拾いした話を聞いた。魔人や魔獣は人間や他の生き物を殺す事で力を得る種族なのだという・・


「魔人って・・ある意味化物だな・・」


俺は誰にも聞かれないようにつぶやいた。


村を出て山を登り二日が過ぎていた。この山の名前は知らない。しかしサナリアに行く山よりも険しく感じる。


「母さん、このまま馬車で進めますかね?」


「どうでしょう・・でもニクルスさんは商売でグラドラムに行っていたと言っていたから大丈夫なはずよ。」


「そうですね。」


山の周りを回り込むように道が続いていた。左手は崖の上に森が広がっていた。右手には渓谷があり対岸は森になっていた。


道は狭く馬車がすれ違うのがやっとのところや、1台通るのが精いっぱいの道幅のところもあった。すれ違う際には十分に注意しなければならないはずだ。


ここをニクルスが商売で行き来してグラドラムに行っていたのならあの高額な商品の値段もうなずける。


「これは…夜はかなり危険って感じがしますね。」


「ええ、魔獣が出そうだわ。」


「イオナ様、ラウル様大丈夫ですよ。この身に代えてでも守りますから。」


「こ、怖いですね。」


ガタガタガタ


俺、イオナ、マリア、ミーシャ ミゼッタの順番にこの道の感想を述べる・・ミゼッタは感想じゃないけど・・


「それでもニクルスさんが商売でいつも通っている道だから大丈夫ですよ。ポーションを大量に買っていましたけどね・・」


俺は皆を安心させるようにいったのだが・・俺も不安になってきた。


5人とも不安そうな顔をしている。ミーシャとミゼッタは恐怖で使い物にならないかもしれないな。


「それじゃあさらに武器を追加して出しておきます!」


俺は・・この山を安全に乗りきるため馬車の中に、12.7㎜M2重機関銃をもう一門用意して前側にも取り付けた。


これで前後で機関銃を撃つことができる。


本当は俺の趣味でいろんな現代兵器を出して楽しみたいところなのだが・・あまりいろいろな物を出すと覚えるのが煩雑になってしまう。皆が共通して使えなくなってしまうだろう。なるべく同じような機種を出すように気をつけていた


俺は皆に高火力の武器のセミナーを行う事にした。


「えーというわけでみなさんいいですか!この山を登るにあたりまして。母さんがグレートボアを倒したのを覚えていますでしょうか?あ、ミゼッタはいなかったのでわかりませんね。えーあれを出しますのでじゃんじゃん練習いたしたいと思います!」


俺はAT4使い捨て対戦車ロケットランチャーを20本召喚した。いやあまったく魔力を消費している感じがしない。かなりの人間を殺して力をつけてしまったのか?人間の魔力は知力が関係してるみたいだが、魔族はちがうような気がしてきた。


「それではみなさん!良いでしょうか?こちらの筒はロケットランチャーというものです!あちらの対岸に向けて肩に担いで向かってください!いかがでしょうか?できてますか!?」


AT4使い捨て対戦車ロケットランチャーの使い方を説明する。


「それでは僕のマネをしてくださいね。ここについている安全ピンを抜いてください。そしてここにあるコッキングレバーを引きます。みなさん良いですね抜けましたか?ビックリして手を離さないように気を付けてください。念のため!見ているミゼッタは後ろに立っちゃダメです。噴射で怪我をしてしまいますからね!」


全員で安全ピンを抜いてコッキングレバーを抜いた。


「それでは合図をしたらここをずらしてボタンを押してください。いいですか?」


「3,2,1 てー!!」


ドン!ドン!ドン!ドン!


ズガーン、バガン、ガン、ズガガガ!!!!


渓谷の対岸の岩肌に着弾しゴロゴロと岩が谷底に落ちていく。


「ほぇ〜〜」


魂が抜けたようにミゼッタが声をだす。


発射した全員もその威力に呆然とする・・


「これは・・上級火魔法以上の威力だわ。」


イオナがポツリとつぶやいた。


「何より着弾までの速度がすごいですね。ボタンを押したと同時に対岸が爆発したように感じました」


マリアも興奮している・・


「・・・・」


ミーシャはただただ茫然としているだけだ。


「はい!!では皆さんいいですか?今ので感覚はつかめたでしょうか!?」


と俺は大声で仕切ってみる。


「え・・ええ。」

「大丈夫です。」

「・・・・」


「ではこの筒は使い捨てですので谷底に捨てちゃってください!30日が過ぎると消えますので自然にも優しいんです!」


俺は自信をもってみんなに伝える。


「ではもう一度撃ってみましょう!」


同じように全員で対戦車ロケットランチャを構える。


「では同じように操作をしてください!分からない事はないですね!はい!そうです皆さん優秀です!では合図をしますので構えてください!」


みんなが同じ方向を向いてロケットランチャーを構える。


「てーーーっ!!!」


ドンドンドンドン!


ガガガガ、ドドドガーン


とものすごい音を立てて対岸の岩肌を砕いた。


ガラガラガラガラ!


対岸の岩が崩れ落ちていく。あっ!下の沢をせき止めたりしないだろうか?しかし皆で今のものすごい破壊力と音を聞いたため不安が文字通り吹き飛んだようだった。


「なんだか変な話しかたになっているわね?ラウルどうしたの?」


「えっ?いえ僕はいたって普通です!」


「そうかしら・・・」



次に俺は12.7㎜M2重機関銃の打ち方を教えようと場所を移動する。


「はい!次は12.7㎜M2機関銃の発砲訓練を行います!皆さん馬車に乗り込んでください!」


全員で馬車に乗り込んだ。


「それでは、後方に向けて機関銃の発砲訓練を行います。まずは母さんから機銃を構えてください!」


「えっええ。これでいいの?」


「はい!そうです!合図をしますので、ここをこうしてこのトリガーを押してください。」


「わ、分かったわ・・」


「てーーーっ!」


ガガガガガガガガガガ


「撃ち方やめー!」


「これでいいの?」


「はいオッケーです!」


イオナは戸惑っているようだがうまく打てるようだった。


「では次はマリア!一歩前へ!」


「は、はい!」


「合図をした撃ってください!」


「はい。」


「てーーーーっ!!」


ガガガガガガガ


「撃ち方やめー!」


次はミーシャの番だきちんとできるかな?


「それじゃあ!・・・」


「ちょっとちょっと待ってラウル・・」


「はいなんでしょう母さん!」


「その・・てーーーっ!っていうのはなあに?」


「合図です!」


「撃ち方やめー!っていうのは?」


「それも・・合図です。」


「張りきっているのね・・・」


「はい!」


俺はイオナから魔族の子供だったという真実を聞き、武器も出し放題となった今・・なんか吹っ切れた。前世の俺が憧れていた世界を十分に堪能してやろうと思っている。やはり武器を使うのは形から入らないとな。


それから3順ほど射撃訓練を行い訓練を終了した。


「この二つの武器をとにかく覚えてください!巨大な魔獣には効くと思います。小型の魔獣や人間には銃で十分だと思います。使い分けをしてください!」


射撃訓練を一通り終えて、12本の対戦車ロケットランチャーを馬車に積み込んだ。とにかく武器は訓練が大事だ!あとはフォーメーションなどがあるがおいおい教えていこう。


「それではミーシャ!僕に手綱のひきかたを教えてください!」


「わ、わかりました!」


よし!みんな俺の勢いに押されているな・・緊張や恐怖が最大の敵だ!いざというときリラックスしながら動けることが大事だ。強力な武器をつかい大きな音をだし俺の腹からの声でかなりみんなの士気もあがったようだ!


そして俺は馬の手綱のひきかたをミーシャから教えてもらう事となった。


「なるほどミーシャありがとう!ひととおり分かりましたよ。」


ミーシャから手綱のひきかたを教わり、次は一人で平たんな道でひいてみようと思った。俺はミーシャの隣に座りM16を構え不意な魔獣の襲撃に備える事にした。結局夜まで魔獣は出なかった。


「魔獣・・出ませんでしたね。」


「出なかったわね。」


俺たちは少しほっとした。このまま山を越えれることを祈る。


「そろそろ野営の準備をしないといけないわね。」


「そうですね、日が落ちてきました・・。あそこに少し広めの道がありますので崖側で見張り用の焚火をたきましょう。残りは馬車の中で寝る事にしてマリアとミーシャと僕で交代制で見張ります。」


「薪が・・道にありませんね。」


「ああ、じゃあ僕が森に登って採ってきますよ」


このくらいの崖ならなぜか登れるような気がして、気軽に薪を取ってくると言ってしまった。何でそんな気軽に言ってしまったのか今となっては分からない・・あの後とんでもないことがおきるとは知らずに。


「大丈夫ですか?」


マリアが聞いてくる。


「なんとかなりそうです。」


俺はホルスターにVP9を入れ、崖に生えている枝や飛び出した岩にしがみつきながらボルダリングの選手のように岩肌を登っていく。指や足がしっかりと岩肌をとらえているのが信じられない。左手の指一本で岩にぶら下がる事もできた。


あの極めて難しい任務をこなす某エージェントのようにスイスイと昇っていく。爆発するサングラスはないけど・・


あっというまに崖を上り森に到達する。


「さてと・・薪はどこかな・・あったあった。」


俺は崖の縁に薪を積み上げていく。しばらく森で薪を積み上げていく作業に没頭した。体の動くスピードも速くあっというまに俺の背丈ぐらいの薪が積みあがった。


「おーい!馬車のだいぶ前のほうに薪を降ろしますので!下にいないでくださいねー!」


「わかりましたー!」


マリアの声が聞こえてきた。俺はそれと下に人がいない事を確認して一気に蹴って薪を下におろした。勢いよく崖を薪が転がっていく。


「全部落としましたーどうですかー!?」


「こんなにいっぱい!十分だと思います!早く戻ってください!」


心配したマリアが俺に叫んでくる。


「よし、降りるとするか・・」


と崖から後ろ向きに降りようとして振り向いた時だった!


3メートルくらい後ろにヤツがいた・・。以前であったものより一回り大きい・・8メートルくらいある・・


レッドベアーだ。


慌ててVP9を抜こうとしたが遅かった。


ブッ


一瞬レッドベアーの腕が消えた。俺はものすごい強烈な衝撃を左から受けた。反対方向に風景流れていく。


ドガ!!


と大木に体を叩きつけられた。脳が揺れた・・が意識は途絶える事はなかった。しかし肺に空気が入らない・・


「ゴフッ!」


と血をはきだして少しだけ呼吸ができるようになった。左腕が折れているようだった。・・・一体何メートル飛ばされたんだ・・


「くそ!」


VP9は俺の手から消えていた。


今の一撃でどこかに飛ばしてしまったらしい・・崖の方に行けば仲間たちのほうにコイツを連れて行ってしまう事になる。


俺は考えた・・


考えている間にも俺が弱っていると思ったのかレッドベアーはゆっくり近づいて来た。しかし・・・あのレッドベアーの1撃を食らったメイドや冒険者たちは体をバラバラにして死んでいたが、俺の体はそれに耐えたらしい。


「足は・・」


しびれていた足が回復してきた。何とか走れそうだ・・俺は脱兎のごとく逆方向の森の奥に走るとヤツは俺を追ってきた。よし!できるだけ馬車の位置から遠くへ放さないとみんながやられてしまう。少しだけ俺の方が足が速いようだ・・森の奥へと逃げ込んだ。


「これ以上は危険か・・」


あいつの足音は聞こえるが俺を見失ったらしい。しかし嗅覚や聴覚で俺の位置を確認してすぐやってくるだろう。一度もどって武器を取るしかないな・・あいつは俺からだいぶ左にそれた方向を歩いているようだった。目視で確認できた。気が付かれる前に戻るしかないが・・


パキッパキッ!


・・枯れ木を踏む音が森の奥から聞こえた・・


さっきのやつより小さいが6メートルぐらいありそうなレッドベアーが俺を見つけてこちらに近寄っていた・・つがいか?


「ちっ!」


舌打ちをしてきた道を猛スピードで走りだす。森が終わり崖の端がみえた!と視界の中にきらりと光るものがみえる!


VP9だ!


急いで俺は銃を拾い上げ、先ほど薪を落としたところより100メートルくらい前方に走った。折れた左腕が痛む・・肺もそろそろ限界のようだ・・内臓をどこか損傷したのかもしれない。


2匹のレッドベアーが俺の30メートルくらい後ろに迫っていた。


《早ええな!》


俺は苦し紛れに小さいほうのレッドベアーの顔に向けてVP9を全弾発射した。蜂でも払うようなしぐさをして小さいほうは止まったが、デカい方はいまだ突進してきていた。もちろんこんな豆鉄砲であいつが停まるわけがない。


「しかたない・・」


俺は崖を背中で滑り降りることにした・・下までは40メートルくらいはある。しかし急いでにげなければ・・


「ままよ!」


俺は崖に飛び込んだ!


いて!いてっ!イテテテ!


背中は間違いなくボロボロだ・・血だらけになりながらも滑り落ちていく。地面に激突したらやばいかな・・俺のからだ・・もってくれ!


ドガ!っと地面に着地した。数バウンドして転がったが、ん?意外に大丈夫だった。


上を見上げると2匹のレッドベアーが後ろ脚から崖を滑り降りてくるところだった。爪を崖にひっかけながら器用に下に落ちてくるがスピードはなさそうだった。


俺は急いで馬車に向かって100メートルくらい走った。呼吸が苦しかったほとんど無呼吸で動いている状態にちかい・・・しかし振り絞って叫んだ!


「みなさん!!!レッドベアーです!対戦車ロケットランチャーを構えてください!練習通りにお願いします!」


「ラウル!」

「ラウル様!!」


みな俺のボロボロの姿を見て口に手を当て青い顔をしている。


「僕は大丈夫です。いそいで!母さんは12.7㎜機関銃を構えて!すぐレッドベアーがきます!」


それを聞いた全員が馬車から対戦車ロケットランチャーを2本ずつ持ってきた。俺は片手しか使えなかったため一本のランチャーを構えた。馬車の御者台に乗っていたミゼッタに指示をする。


「すいません。ここの安全ピンを抜いてください!このレバーを引いてください!あわてないで!」


ミゼッタから操作をしてもらいランチャーの発射体勢をとる。折れた左腕何とか上にあげたが支え程度にはなった。


「来ました!」


ミーシャが叫ぶ。


「ひきつけます!合図をしたらマリアから順に撃ってください」


大きい方のレッドベアーがどんどん近づいてきていた。


「まだです!」


あと30メートル!


「てーーーっ!」


マリアとミーシャ、俺の放ったロケットランチャーがすべてレッドベアーに直撃した。


バシュゥ!バシュゥ!バシュゥ!


レッドベアーに着弾した。


ボグゥ ビチャ、バグァン!!!


レッドベアーの上半身が爆発で吹き飛んだ。


「もう一匹来ます!構えてください!」


「は・・はい!」


全員が慌てていた。。上手く操作できずミーシャは震えていた。俺は腕が一本の為すでに間に合わない!マリアだけがセットできたようだ!レッドベアーはあと20メートルもうそこまで来ていた!


「てーーーっ!」


バシュゥ!


外した!!!


ヤバイ!!


「みんな!逃げて!」


マリア、ミーシャを逃げさせて、俺は腰だめにM16ライフルを召喚した!


パラララララ


しかし!レッドベアーの勢いは止まらない俺の手前10メートルに近づいて来た。おそらく仲間がやられてそうとう怒っているのだろう。攻撃本能だけでこちらに向かってきた!ヤバイ!!!


レッドベアーは俺に向かっていたので横に飛んだその時!



ガガガガダダダダダダダダ!!!


馬車から砲火が放たれた!イオナが放った12.7㎜M2重機関銃だった。



ババババババババ。


レッドベアーに被弾し動きを止めたが・・まだ立っていた。


「嘘だろ。。」


しかしレッドベアーはもう動けなくなったようだった。その時!


バシュゥ


ズガーン!


ミーシャが準備を終えて対戦車ミサイルランチャーを撃ったのだった。首の下あたりに直撃をし頭をちぎり飛ばしてレッドベアーを倒したのだった。。


ズゥウウン


という音とともにレッドベアーは倒れた・・


「ふぅふぅふぅ・・」


俺は既に呼吸がくるしく・・目の前が暗くなってきた。


バタリ


前のめりに倒れた。



「ラウル!」

「ラウル様!」

「坊ちゃま!」

「ラウル―!」


・・・薄れゆく意識の中で彼女らの叫び声を聞き・・意識を手放した。

次話:第35話 ラウル大怪我 ~イオナ視点~

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[良い点] 最初読んだとき 「いや…いくら負傷しているとはいえ、ラウル君ならもうちょっと戦えるでしょう」 …と、思ってもう一度見返すと、なかなか面白い話だと思いました。 『このくらいの崖ならなぜか登…
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ