第336話 龍神が残した物
俺達は再び最初の部屋へと向かう。
この神殿を龍神が修練のために使っていたようだが、神殿が作られた目的は別なところにあるような気がする。
「しかしゴーレムにイフリートとはね。」
俺が言う。
「ああ、まさに異世界って感じのやつが出てきたな。」
「すみません。僕がゴーレムを使えるようになれば、もっと役に立ちそうなんですが。」
「グレース。俺だってイフリートやサラマンダーなんて制御出来るかどうか不安だぞ。」
エミルが言う。
「その点ラウルさんのは良いですよね。加減さえおぼえたらかなり使えそうです。」
「まあ鎧はグレースが持ち運んでくれないとダメだけどな。」
「僕とラウルさんは、なるべくセットで動かなきゃいけないみたいですね。」
「だな。」
会話しつつ最初の部屋に着いたのでトライトンが扉をあける。
ズズズ
「スキあり!」
ボッ
扉を開けざまにトライトンが叫んで、いつの間にか三又槍を前方に突き入れている。
扉の前にいたのは龍神を受体したオージェだった。
スッ
首を少しだけ傾けて槍を難なくかわしていた。
「えっとこれはいったい?」
オージェはさほど驚いた様子もなく俺たちに聞いてきた。
「オージェ。とにかく説明は部屋で。」
トライトンを含め俺たちは部屋の中に入ると、トライトンがすぐさまオージェに土下座をした。
「すみません!ワイ数百年も毎日やってましたので、また反射的に攻撃してしまいました。」
「また?」
オージェは特に何事も無かったような顔をしている。
「あのな、オージェ。この人は…」
俺が言おうとしたらオージェが口をひらく。
「知ってるぞ、初対面なのになぜか知ってる。お前トライトンだろ?」
「はい。ワイは付き人のトライトンです。」
「そして俺が次に言うべき言葉も、なんとなくだがわかる。」
みんなが、”まさか…”って顔をしてオージェの次の言葉を待つ。
「未熟者めが。」
「は、はいぃぃ」
《やっぱそうなんだ!》
「なんか知らんが、めちゃくちゃ体に染みついてる感じがするんだけど。」
「あのな、龍神はずーっとこの人とこんな暮らしをしてたんだって。」
俺が教える。
「ああ間違いないだろうな、俺はこの人を良く知っている。そしてさっきの攻撃も。」
「覚えてんだ?」
「いや。記憶は無いはずなんだが、とにかく良く知ってる。」
「ありがとうございます龍神様。」
トライトンが頭を下げる。
「いや礼を言われる覚えもないけど。」
「とにかく落ち着いて話をしようぜ。」
俺がみんなを促し部屋の中央へ座った。すでに食事で使った木は燃え尽きていて炭しか残っていなかった。
「あの。」
「なんだカトリーヌ。」
「いえ私はルフラです。」
どうやらルフラがカトリーヌの声帯を使って話しているらしい。カトリーヌは目をつぶっていた。
「ルフラなのか。」
「はい。カトリーヌが限界だったので眠っています。」
「限界?」
「すでに3日程度は経過したようです。」
「ん?いや。まる一日くらいだろ?」
「いえ、カトリーヌの消耗や排泄などの状況からも3日は経っているかと。」
「そりゃヤバい!カティは俺が1回召喚した水しか飲んでないぞ。」
「ラウル様たちの邪魔をせぬよう黙っているように言われました。」
「それじゃあ衰弱してしまう。」
「いえ、私が地下に生えていた苔や水分を吸収して、カトリーヌの皮膚から栄養や水分を与えてましたから衰弱はしてません。おそらくお腹は空いてるんじゃないかと思います。」
「ルフラはそんな事ができるのか?」
なんとルフラが外部から栄養になる物を吸収して、カトリーヌに与える事ができるらしい。
「はい。今までの旅でカトリーヌとはいろいろ試してきましたから。」
ルフラとカトリーヌのペアは不思議な連携ができるようになっていた。
「それなら俺の戦闘糧食を吸収して栄養補給してやってくれ。」
俺はアメリカ軍のレーションを召喚してルフラに渡した。
「ありがとうございます。」
ルフラが戦闘糧食を開けて吸収し始める。
「ラウル。この神殿の下層は時間が加速してるんじゃないかな?」
エミルが言う。
「恐らくそうだ。修練の間はどれだけ時間進むの早いんだろな。」
「まるで逆竜宮城ですね。」
「まったくだ。て事はだよ、虹蛇や精霊神よりも龍神は長く生きてるんじゃないか?まあ、生きているって概念が正しいか分かんないけど。」
「って事になりそうだな。」
オージェが頷いた。
するとおとなしく座っていた、メリュージュが言う。
「神体となれば定かではないですけど、純粋に生き物としてなら私達龍族が一番長寿じゃないでしょうか?」
「そうなんですね。」
「だからルゼミア王も長寿でいらっしゃるの。」
《なぜにルゼミアが…》
「母さんがですか?」
「伝説では龍と魔人の間に生まれ出たと聞き及んでおります。」
《なんじゃその凄まじいハイブリッドは。》
「長寿の多い魔人の中でも、母が群を抜いているのはそう言う事なんですね。」
「神体でもないのに恐ろしい強さを持っているのを我が身で体感して、伝説が真だと知りましたわ。」
「ミリアは知ってた?」
「いえご主人様、存じ上げませんでした。」
「一番古い付き合いのシャーミリアが知らないんじゃ、誰も知ってる人はいないか。」
魔人達がコクリと頷いた。
「それで、お話をよろしいでしょうか?」
トライトンが言う。
「なんでしょう。」
「受体されるまえに龍神様はこう言っておられました。」
「はい。」
「失礼ながらうまくまとめられないので、龍神様が言った事をそのまま申し上げます。」
「どうぞ。」
「では…いいですか?」
「ええ。」
「虹蛇のやつは自由奔放で本能で判断するだけだ。流れにのるだけだとか言ってな、だからあまりあてにはならない。精霊神はきっと何も話すまい、我でも奴の声を聞いたことがないからな。魔神は何を考えているか分からず不気味だ。アトム神はおそらくただただこう言うだけだ、私の子供達を信じますってな。」
俺たちが微妙な空気で、話しているトライトンを見ているのに気がついたらしい。
「えっとあくまでも受体前の龍神様のお言葉ですから!」
「続けてください。大丈夫です。」
「わかりました。」
トライトンが言っていいのかなあ…って顔をしている。
「では…いきます。あやつらはどうせろくすっぽなんも準備しないで受体するに決まってる!適当を絵に描いたようなやつらだからな!」
トライトンは喋り方も真似しているらしい。
「あの…ワイの言葉じゃないですよ。」
「わかってます。」
「でも言ってる事は間違ってないですね。」
グレースが言う。
「だって僕の時は適当に散歩にでも行くのかと思ったら、いきなり雷に焼かれましたから。」
「それは俺にも言えてる。エネルギー体みたいなものに触れたら、それが消え去っていつのまにか受体してた。声は聞いていない。」
エミルが言う。
「あーなるほど、俺は物心つくまえに受体してたらしいしな。何考えてるかわからんか。」
たしかに龍神が言う通りかもしれない。
「では続けます。」
「はい。」
「だが我も順序だてて話すのは苦手だ。拳で語るしか脳がない。」
「あーなるほど。」
「確かに。」
「そうでしたね。」
《脳筋って事だな。》
みんながオージェをみながら頷く。
「俺じゃないぞ、受体前の龍神の話だからな!」
「わかってるよ。」
「アトム神ならきちんと伝えもするであろうが、あやつはだいぶ弱っているようだ。ならばトライトンよ、お前にお願いしたいのだ。ここにほかの神達がやってきた時に助けになってくれ。」
「なるほど。具体的な助けっていったいなんなんでしょうね?」
「それが…。」
「さっき終わりました。」
「ああ、ゴーレムにイフリートに巨大魔道鎧ですか。」
「はい。あとはトライトンが状況を見て適当にやってくれと。」
やっぱ龍神は脳筋だった。
「わかりました。話はだいたいそんなところですか?」
「あ…最後に。アトム神を救ってやってほしいと。」
「アトム神を?」
「アトム神は弱っている。もしかしたら均衡が崩れたのはあ奴に原因があるかもしれないと。」
「助けるとはどうすれば?」
「わかりません。」
「そうですか‥‥。ではトライトンさん。是非私達の仲間になって助けて下さい。」
「もちろんです。ワイは龍神様の付き人ですから。」
どうやら龍神は長い時間を使って、俺達のサポート役を作ってくれていたらしい。龍神と長い間戦ってきたトライトンなら、的確な状況判断が出来るかもしれない。
「この神殿内を全て見るにはどのくらいかかりますかね?」
「ワイもよくわかりませんが、50階層以下は階段を降りた分岐の部屋にもいろいろ仕掛けがあって、それをすべて攻略しなくてはいけませんよ。何も危険が無く階段を降りれるのは50階層までです。」
「そうなんですね。」
「50階まである部屋を攻略して力をつけねば、それ以上はいけないようです。」
「龍神様はどのくらいかかったんですかね?」
「膨大な年月をかけたようです。」
「わかりました。」
という事はこの神殿の最下層にたどり着くのは、気の遠くなるような年月がかかりそうだ。俺達にはやる事がある、まずはそれらがすべて終わってからだろう。
「一旦ここで出来る事はなさそうですかね?」
「はい。龍神様より言われていたことは。」
「では大陸に戻りますが、トライトンさんの準備は大丈夫ですか?」
「すぐにでも行けます。」
「では。」
「ママはどうします?」
オージェがメリュージュに向かって言う。
「ママなんて!子供じゃあるまいし、もう龍神様を受体されたのでしょう!」
「は、はい?」
えっ?いきなり怒られてるんですけど。ていうか龍神を受体するしないが境目なのだろうか。ちょっとよくわからない。
「すでに龍神様となったのです。私はもうママなどと呼ばれる者ではありません。」
「でも…。」
「これからは名前でお呼び下さい。」
「わ、わかりました。それでメリュージュはどうします?」
「私が人間の大陸へ入ればいろいろと問題が起きます。」
「まあ、確かに人間は恐れるでしょうが。」
「もちろんそれもありますが、龍が森林に入れば魔獣が氾濫する可能性があります。山脈に潜む事も出来ますが、山脈に潜む魔獣が人間界に流れ出る危険性も。大陸で魔人やエルフなどが一緒に生きていた時代ならばそれも止めれるでしょうが、人間には災厄となってしまうでしょう。」
「生態系が崩れるということ?」
「そうなります。」
確かにこんな恐ろしい龍が森林や山岳地帯にいたら、魔獣が怯えて逃げ出す可能性があるな。
「わかりました。それではグラドラムまでなら船をひいてもらえますか?」
俺が言う。
「もちろんです。」
「グラドラムなら恐らくメリュージュさんを受け入れると思いますよ。」
俺が言う。
「そうなのですか?」
「はい。巨大な魔獣もおりますし、シーサーペントとも共存してますから。」
「シーサーペントと!?」
「ええ。」
「にわかには信じられないのですが、ご一緒させていただきます。」
「じゃあ龍神の受体も終えて神殿での目的は達成したし、早速潜水艦に乗って水上に出よう。」
「了解。」
「わかりました。」
「行くか。」
海底神殿に来てトライトンを仲間に引き入れる事が出来た。さらにオージェだけではなくグレースとエミルそして俺もパワーアップした。予想外の収穫となったのは間違いない。
大陸を出てそれほど日数を必要としなかったのはラッキーだったかもしれない。
俺達は神殿を出て潜水艦に向かうのだった。
次話:第337話 巨大龍が人の世界を歩く
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